80ばあちゃんの戯言

聞いてほしくて

保育科(23)

2010-04-21 08:47:42 | 学校
 1960年の安保闘争が終わってから学生運動もだんだん下火には

なっていたのだが、それでもあちこちでくすぶっていたらしい。

私の学校でも、夜学の人たちから学校への要求をしたいという動きが

出始めてきたようだという話を家で夫に話たら、

 ”お前はもうすぐ卒業だから、今そんなものに加わったら、せっか

 く頑張ってきたのに、卒業出来なくなるから、絶対加わるな。”

と言ってくれたのだが、其の翌日の午後、法学の先生から

 ”皆さんにお話したいことがあります。椅子を持って私の周りに

  輪になって坐ってください。”と、言われた。

 なんとなく厭な予感がしたのだが、私は結局、先生のすぐ右隣に

坐らされてしまった。

 夜間部は学生運動に立ちあがったので、あなたたちも一緒に加わ

ってくださいという話であった。

若い人たちは結局全部加わるということになってしまったのだが、

私は最後まで黙ったままであったのだが、こうなっては、仕方が

ないと考えていると、先生が、

 ”私は命がけで皆さんをお守りします。”と、何度も言われた

のである。

 ”荒武さん。あなたに入ってもらわないと困る。大丈夫ですよ。
 
  私がちゃんとお守りしますから。”

 それではと承諾して帰路に着いたのだったが、翌日例によって

 白楽の駅から学校までふーふー言いながら駆け上がって行ったら、

上から坂を駆け下りて来た友達が、

 ”荒武さん。大変よ。夕べ法学の先生が主事先生と大喧嘩して

  学校を辞められたそうよ。学校では、学生の話を聞いて善処

  すると言っているわ。”と言った。

 ”えっ! 昨日の午後、法学の先生は、命を掛けて皆さんを

  お守りすると仰っていたでしょう。それでお辞めになったの?

  ちょっと信じられない。”

 私は彼女に、

 ”では、二階の大きい部屋に一年生と二年生に全員集まってもら

 って。すぐ行くから。”と、頼んだ。

 私は、全員の前で

 ”夕べ、法学の先生が辞められたことと、学校側は、学生たちと

  ちゃんと向き合って話をしてくれると言ってくれているので、

  今はストライキをする時ではないと思います。まづ話し合って、

  それで納得がいかないときには、ストでも何でもやりましょう。

  今、ストをやればきっと怪我人が出るでしょう。せっかくみんな

  頑張ってきたのに、もったいないと思います。”

  其れでみんなの賛同を得られたので、解散した。

  それでも、先生の行動には腹が立って腹が立っておさまらないの

  で、家に帰ってから、法学の先生のお宅に電話した。

  先生がすぐ電話に出られたので、

  ”先生、昨日はあれだけ命を掛けて私が皆さんをお守りしますと

  強く仰っておられたのに、どうしてお辞めになられたのですか?”

  と、聞くと、

  ”もし辞めなければ、私の名誉が傷つきます。”

  ”お辞めになってどうやって私たちを守れるとお思いですか?”

  私は腹が立っていたので、強い口調で詰問した。

 ”それでは、中央大学のオルグを派遣しましょう。きっとあなた

  方の力になってくれますよ。”と仰ったが私はきっぱりと

  お断りした。

 ”結構でございます。私どもは私どもでしっかりと考えて行動い

  たしますので、オルグの派遣は要りません。”

  がちゃんと受話器を切ってしまった。

 その後聞こえてきたのは、其の先生はどこの学校へ行っても、

 そのようなことをしていたと言う事であった。