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Luz Casal/ルス・カサル/At Blue Note Tokyo. 2017.5.14

2017-05-21 17:24:51 | Diary
ちょうど先週の日曜日14日に青山のブルーノート東京へ、ルス・カサルの初来日公演を観に行ってきた。当日の昼過ぎまで彼女の来日をまったく知らずにいたのだが、チケットはあっさりと買えた。

彼女はスペインの国民的歌手といわれていて、もともとはロックやポップのジャンルで活躍していたが、1991年の映画「ハイヒール」で彼女の歌った「Piensa En Mi」が注目されてから徐々に伝統的な歌曲を歌うようになり、また大きな病気と手術を経て、さらにその傾向は強く表れ、2009年にラテンアメリカの各代表曲をカバーした「La Pasion」の日本版が去年に発売されたことで、今回初来日を果たした。というところか。正直なところ、あまりよくは知らない。日本で例えたら、渡辺美里がジャズアルバムを出したというニュアンスに近いだろうか。ぜんぜん違うかもしれない。

彼女の情報はそれほど多くないし、あってもスペイン語かフランス語だから、なかなか詳しくはなれない。フランス語での説明が多いというのは、これもよく経緯を知らないが、彼女はフランスでも大人気であるらしいのだ。確かに動画をあちこち観ているとフランス語の歌も歌っているし、フランス語を話していることもある。だから彼女の歌うシャンソンも悪くない。

それでライブ当日だが、私はあまり期待はしていなかった。だいたい日本になんか絶対に来ないと思っていたし、病後により体力もそんなにないだろうし、長旅の疲れと、一日2回のステージの私が観たのは2回目であったから、喉も消耗して声も弱いのではないかと、過剰な期待を持たず、私は地下鉄に乗ったのだった。

ところがぜんぜん、悪い予想は覆されて、声も強弱ともよく出ていたし、元気そうで、楽しそうで、とにかくよかった。ああこの感じならまだまだいけるな。これからが楽しみだなと私はすっかり安堵した。彼女を日本に呼んだリスペクトレコードという会社の人にお礼を言いたい。本当に日本にくるなんて思っていなかったのだから。

真っ赤なドレスのルス・カサルはなんといってもエレガントで、しかもチャーミング、そしてキュート。なんというか、ステージで歌っている時にはちょっと怖い顔をしていたりするのだが、そうでない時の仕草や表情がとてもかわいい時があり、元来、明るい人なんだろうなと思った。

ルス・カサルは日本ではあまり知られていないだろう。私も知らなかった。私はラテン好きなので、ラテンヴォーカルものを検索していた時、たしか1年ほど前にYoutubeで偶然に彼女を知ったのだ。だから、彼女の若い時のロック調の曲を聴いても申し訳ないがピンと来ない。もしロックやポップの動画だけが彼女の情報のすべてであったなら、私の記憶には残らなかっただろう。しかし私がロックやポップを嫌いなわけではない。好きだ。

もちろん、ロックを歌うルス・カサルが好きだという人を否定はしない。人は人。私は私。私の環境や経験、感覚、感受性、思想などから生まれる音楽を聴く角度が、ルスの声と歌唱とラテンの曲調という点と点を結び一直線に貫いたということなのだ。これがロックであった場合、私には少しズレてしまい、それほどの衝撃にはならなかったということだと思う。

このようにあるアーティストの曲を聴いて衝撃を受けることはたまにあっても、その場合、それ一曲だけがよくて、同じアーティストの他の同じ曲調の曲を聴いてもあまり衝撃がないということがよくある。

しかしルス・カサルは違って、ラテン調の曲はどれも良い。全部聴ける。何度も聴ける。声も若い時よりもむしろ深みがあり私は好きだ。最初の方に書いたように、生で聴いてあれだけの声が出せるなら、円熟という意味でまだまだこれからがもっともっと楽しみである。例えば、長年において喝采を浴びてきたバリトンが出せなくなった老齢ジョニー・キャッシュが死の間際にバスの声で出した数曲が私にとって彼の最高パフォーマンスであるように、ルスにおいても今後、大事に声を育ててもらい、円熟を超えた発酵過程を経て、ラテンの最高傑作を残してもらいたい。

ライブ当日に残念に思ったことが二つ。一つは私がスペイン語を理解しないこと。まったくわからない。「オラー」とか「ムーチョ、グラシアス」くらいしかわからなかった。歌詞の意味を辿りながら生歌を聴くのとそうでないのとではおそらく感じるものが6倍くらい違うだろう。アルバム「La Pasion」の選曲もルスのインタビューによれば歌詞に重きをおいて選んだということであるのに。そして彼女もステージ上でほとんどスペイン語で話したし、ラテン系の外国人客がたくさんいたが、彼らの笑いについていけなかった。そして、

なんといってもフルバンドではなかったことが残念だった。ホーンセクションとパーカッションがいなかった。ピアノとベースとドラムというミニマムのバンド編成で、ドラムのひとが「Piensa En Mi」ではギターを弾いていた。

バンドは皆レベルの高い演奏を聴かせたし、それはそれでひとつの完全を成してはいたが、やっぱりね、弾けるホーンと跳ね飛ぶパーカッションが私としては欲しかったし、またルス・カサルはピアノだけでしんみりと歌うのも似合うが、フルバンドの音の煌めきになにしろ最高に合う人で、バンドの厚みにけっして負けない声を持っているのだから。

日本でラテンというジャンルは今はどうなんだろう。まあ今はジャンルが細分化されて、ブームとか国民的という概念も消えたようだし、各々それぞれが聴きたいものを聴きたい時に聴くということなんだろう。私にしてもそうだし。

今、窓から「ケケケケケケケケケケケケケ」とかいう鳥かサルかの声がしたのだが、今まで動物園以外では聞いたことのないような声で、なんだ? いくらなんでもサルじゃないだろうから、鳥か。いやもうすでに幻聴かもしれない。よし、ちょっと見てこよう。それでは。
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