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Diary 20181020 見る

2018-10-20 21:12:07 | Diary
昨日の夕方、まだ暗くはない道を歩いていたら、先で何かの作業をやっているのが見えた。
そのまま進むと、それは寺の塀から大きく飛び出した枝を伐採していたのだった。
それもけっこうな量で、警備員を2人、道の上手下手につけての作業だった。

道は寺の長い塀に沿った一通の裏道なので広くはない。
そこにバサバサと枝をエンジンカッターで切り落としているのだ。
近づきながら視線を枝から道に移すと、
小学校2年生くらいの女の子が警備員に話しかけているのが目に入った。
「何をしているんですかぁ」
まだ私は少し離れていたから聞こえなかったが、そんなことを言ったに違いない。

「伸びすぎた枝を切り落としているんですよ」
と警備員が答えたのはさらに近づいた私にも聞こえた。
「ふーん」と女の子。
そして数秒、黙ったまま感心したように切られる枝を見てから、そしてひと言。
「がんばってくださいね。」と小さな手を小さく目の前の警備員に振った。

ちょうどその時、私は女の子と警備員の間を通っていたから、
女の子の声も聞こえたし、顔もちらっと見えた。
のんびりとした顔である。
間延びした声である。

まるで時間の感覚が他の人の3倍も遅いかのような目の光。
「いえ、あ、はい。どうもありがとうございます」
恐縮というか、変に狼狽している警備員。

昨今の、なんでも速いことが有用で、遅いことは価値がない、というような風潮の中、
ああ、こんな子まだいるんだなあ、と私は思った。
きっとなんの警戒心も持っていないのだろう。
帰り道を急ぐということを知らないのだろう。
その佇まいがどうにも無垢すぎるのだ。
二人を少し過ぎてから軽く振り返って見ると、まだ彼女は立ち止まったまま話かけていた。

ああいった子は遺伝じゃなく、突然この世に現れるのではないか。
私の知識というか、経験というか、感覚というか、勘というか、適当というか、
まあそんな思いがある。
「誰にでも陽気に多弁に話しかける」性質が顕著にみられるウイリアムズ症候群という
先天性の特性が知られているが、それを思い出した。

その特性は、まるで人懐こい犬のようだとも称されるというが、
人との壁をまるで作らない、とも、現代の妖精である、とも知られているらしい。

あの彼女がそうだとは言っていないが、しかし、あの小さい女の子の目を一瞬だけ見た時、
と同時に、「がんばってくださいね」という警備員への声を聞いた時、
私まで優しさに包まれたような気がした。
なにか浄化されてしまった気がした。
幸い私を見てはいなかったが、目の光には一切の屈折がなかった。
その光は「人の心を見通す」というような意識の高さも全くなかった。
ただ純粋に「見る」だった。

「見る」以外には何もなく、そして彼女はきっと無力だった。
しかし区別なく、目をそらさず「見る」。
ただ「見る」だけ。見続けるだけ。
直接的には誰をも助けない。救わない。そんな意識もない。
しかしあの時、第三者の私でさえ少し心が軽くなった気がした。
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