つづき。
出口までの急なスロープをようやく上りきった挙げ句に行き止まりとは……。
ああ、もう早く帰りたい。
何かがおかしいから、一旦眠ってリセットしたい。
私はすでに熱を放ち始めたコンクリートのスロープをトボトボ戻りながら、
自分のベッドに倒れ込み、好きなだけ微睡むことだけを夢想していた。
今日も暑くなりそうだ。
昨晩から続く良くも悪くも針の振り切れない不明瞭な出来事と、
この酷暑を閉じ込めたような無機質なスロープとで心は停止したようだった。
感受性も閉ざされ、想像力も絶えたようだった。
好奇心の影すらなく、動機の欠片も見つけられず、そして意欲は死んだ。
もうタクシーに手を挙げることさえ、そんな意思表示さえ私には出来ない気がしてきた。
なら歩いて帰るか。
家は右だったか、左だったか。
だいたいここはどこなのか。
こんな温泉のあるような所にオレは住んでいたのだったか。
いろいろわからなくなってきた。
高い壁に左右を囲まれたスロープの終わりは少しカーブしていて、
そこを過ぎると視界が開け、駐車場が見えてきた。
あ、人がいる。
10人くらいが並んで私を見ている。
ああ、あの白人の家族ではないか。どうやら皆、私に微笑んでいるらしかった。
子供カールもちゃんといた。まあ、それならよかったか。
おいおい、ドイツ軍もいるじゃないか。
やけにデカい軍服姿の3人が親しみを込めた感じで私を見ている。
しかし、どうやら、私を優しく見守る、という感じではなく、
「頼りにしてまっせ」という感じである。
10人ほどの団体が「あ、添乗員さん、来た来た」といった雰囲気である。
どうしようかな。走って逃げようかな。だいたい関係ないしな。
でも、みんな笑いながら追いかけてきそうだな。
走って逃げる……か。
ちょっと面白そうだな。
逃げて、追いかけて、ハアハアいって、
そしたらみんなで、そば屋でも入って、ビールでも飲むか。
子供はジュースだ。もちろんバヤリース。
それからカツ丼と盛りそばでも食って、
店の前でなんかテキトーに別れを言って、オレは帰る。
ゾロゾロついてこないように時々、後ろを振り返りながら歩いて帰って、
エアコンのスイッチを入れてからシャワーを浴びる。
そして冷えた部屋でブルースをデカい音で聴きながら眠る。
目が覚めたらコーヒーだな。
何がいいか。
ケニアか。ケニアのフレンチがいいかもしれない。
でもマンデリンしかなかった気がする。
マンデリンのミディアムローストか。
それならジャズだな。
それも熱いのじゃなくて、軽いやつがいい。
「なんちゃって感」のある似非っぽいのが目覚めにはちょうどイイ。
おわり。
出口までの急なスロープをようやく上りきった挙げ句に行き止まりとは……。
ああ、もう早く帰りたい。
何かがおかしいから、一旦眠ってリセットしたい。
私はすでに熱を放ち始めたコンクリートのスロープをトボトボ戻りながら、
自分のベッドに倒れ込み、好きなだけ微睡むことだけを夢想していた。
今日も暑くなりそうだ。
昨晩から続く良くも悪くも針の振り切れない不明瞭な出来事と、
この酷暑を閉じ込めたような無機質なスロープとで心は停止したようだった。
感受性も閉ざされ、想像力も絶えたようだった。
好奇心の影すらなく、動機の欠片も見つけられず、そして意欲は死んだ。
もうタクシーに手を挙げることさえ、そんな意思表示さえ私には出来ない気がしてきた。
なら歩いて帰るか。
家は右だったか、左だったか。
だいたいここはどこなのか。
こんな温泉のあるような所にオレは住んでいたのだったか。
いろいろわからなくなってきた。
高い壁に左右を囲まれたスロープの終わりは少しカーブしていて、
そこを過ぎると視界が開け、駐車場が見えてきた。
あ、人がいる。
10人くらいが並んで私を見ている。
ああ、あの白人の家族ではないか。どうやら皆、私に微笑んでいるらしかった。
子供カールもちゃんといた。まあ、それならよかったか。
おいおい、ドイツ軍もいるじゃないか。
やけにデカい軍服姿の3人が親しみを込めた感じで私を見ている。
しかし、どうやら、私を優しく見守る、という感じではなく、
「頼りにしてまっせ」という感じである。
10人ほどの団体が「あ、添乗員さん、来た来た」といった雰囲気である。
どうしようかな。走って逃げようかな。だいたい関係ないしな。
でも、みんな笑いながら追いかけてきそうだな。
走って逃げる……か。
ちょっと面白そうだな。
逃げて、追いかけて、ハアハアいって、
そしたらみんなで、そば屋でも入って、ビールでも飲むか。
子供はジュースだ。もちろんバヤリース。
それからカツ丼と盛りそばでも食って、
店の前でなんかテキトーに別れを言って、オレは帰る。
ゾロゾロついてこないように時々、後ろを振り返りながら歩いて帰って、
エアコンのスイッチを入れてからシャワーを浴びる。
そして冷えた部屋でブルースをデカい音で聴きながら眠る。
目が覚めたらコーヒーだな。
何がいいか。
ケニアか。ケニアのフレンチがいいかもしれない。
でもマンデリンしかなかった気がする。
マンデリンのミディアムローストか。
それならジャズだな。
それも熱いのじゃなくて、軽いやつがいい。
「なんちゃって感」のある似非っぽいのが目覚めにはちょうどイイ。
おわり。