従兄弟のSさんから叔母のMさんが亡くなったと云う知らせが入る。享年88才。この数年は闘病生活をしていたし、年齢も年齢だし近い内にこんな日が来ることは覚悟していたけど、俺が脚本家時代はオンエァ作品がある度に電話してきて誉めてくれた電話の向こうの叔母の顔が脳裏に浮かぶ。そんな落ち込んだ気持とは裏腹に、親戚が亡くなったりすると、雑事に追われる。他の親戚への連絡や、葬儀に出られない人の代理に香典の用意、それもまた香典の額がいくらなのかそれぞれの立場で違っていたりして、煩わしい。おまけに先日参列した葬式の時に礼装様のワイシャツとネクタイがなかったことに気づいて慌てたので、今日の内に買っておこうと洋品店に入ると、礼装様のワイシャツは三枚買うと一枚分をおまけしますと云う。そんなにいらないけどと思いつつ汚れたら困るので二枚は買おうと思っていたので三枚買ってしまって何か騙された気になったのだけどいいのだろうか?そして気づいてみたら髪の毛がボーボーに伸びていることに気づいて、年配の真面目なクリッシャンが集う告別式にこの頭では不味いだろうと思って広尾にある行きつけの美容院Pに電話したら今日六時ならOKだったのでホッとしたけど、後三時間どうやって過ごすか悩んだ末に広尾にいたのに五反田の部屋に戻って、録画してあった「緊急取調室」(井上由美子脚本)を見て時間を潰してまた広尾に戻る。これもまた何だか矛盾した行動だ。叔母の死は俺を矛盾した行動に誘うのか?髪を切って貰っている間に食事を誘ってきた女友達のHさんと銀座の蕎麦屋で待ち合わせ。日本酒を飲みながら今日も女子トークするつもりだったのだけど、いつもよりさすがに弾んでいなかった気がする。
凄い舞台を見た。登場人物は夫婦二人(+少しだけ青年)だけ。舞台には二人が座るDKのテーブルの椅子、そしてテレビだけ。小道具は二人の携帯とコンビニで買ってきた玄関の電球だけ。照明もフラットだし、効果音や音楽も殆どない。そして、これが一番凄いのだけど、ストーリーは夫婦喧嘩だけ。それなのにオーフニングで夫が携帯で妻に電話するシーンからひきつけられ、一時間四十分を飽きることなく見てしまった三浦大輔作演出の「失望のむこうがわ」(出演・平田満、井上加奈子、平原テツ)。正直に告白すると、この演出家の舞台はこれまで世間が凄い凄いと云うけど、肌に合わなかった。でも、今回の舞台は俺の肌と密着しすぎる位合ってしまって、終わって席を立つのが勿体なく、出来たらもう一度見たくなってしまった程だった。でも、このアル★カンパニーの公演は日曜日までの席が全席完売で、今日も追加公演なのに平田さんの事務所にごり押しして取って貰った位だからそれが無理だと云うことは分かっている。こうなったら再演を切に望むしかない。そんな演劇的興奮を抱えたまま一緒に見た俳優の浜田晃さんと近くの居酒屋Mで飲む。浜田さんには去年の11月、コレドラストステージの「パラソル」に出ていただいて、その後打ち上げでランチして以来だ。今日の芝居に刺激を受けた二人は当然次の舞台の話になる。「デンティスト~ネズミの歯ととっかえろ~」の構想を浜田さんに話す。芝居をしたい、いい芝居を作りたいと云う思いはお互いいくつになっても尽きない。いや、尽きてはいけない。でも、問題はコレドと云う劇場を失った今、小さい劇場を借りるにしても一人芝居とか二人芝居では動員が難しいことだ。だからって動員の為だけに大勢キャストを集めるのは邪道だし、芝居に対する冒涜だと思ってしまう。だったらどうするか?頭が痛い。浜田さんと別れてこれまた劇場で会った俳優事務所Lの女社長Nさんの待つバーへ。デスクのAちゃんと三人で久し振りにお喋り。みんなこの日記で俺の身の上を心配してくれている。感謝。
先日、××共済の入院保険を解約したのに続いて、今日は毎月2500円弱を掛け捨てしてきた傷害保険を解約した。これで毎月二万円の節約になる。後残るはがん保険だけ。毎月二万円弱。どうしよう?解約してもいいんだけど、交通事故よりガンになる可能性の方が大きい気がするし、なったら保険金が二百万円おりるとなると、解約するのを躊躇う。大体この保険に入ったのは、ガンと診断されたら200万円を手にして治療なんかせずにポルトガルへ行って死んでしまおうと云う企みがあったからだし、ここまでかけ続けたのだし、もう少し粘ってがんにならないと損だ、なんて馬鹿なことを考えつつ、だったらポルトガル語をもっと習得しなくては駄目だと耳からテキストのテープを聞きながら50分歩いて母の処へ。今日の老老ランチはルーを使わずに作った野菜カレーを冷たいままサラダ菜に乗っけて一口サイズにしたものと牛スジとじゃがいもの煮込みに畳鰯ととろろ昆布のすまし汁。今日も母は元気。俺と同じ量の食事を取る。これじゃどっちが先に死ぬかわからない。帰宅してから録画してあった「ペタルダンス」(石川寛監督)を見る。オーフニングかなり引きつけられる。そのまま集中して見ていればどうだったか分からないけと、途中で電話が入ったりして集中力が途切れる。これだから部屋で見る映画は映画を見た内に入らないし、それでつまらないと断定しては駄目だと思う。この映画、もう一度携帯の電源を伐ってから見直すつもり。、その後新しい店の案内状の宛て名書き。オリンピック中継みながら今日は五十人分。またまだ先は長い。「マツコ&有吉の怒り新党」見ながらボウモアのロック。当人には何の罪もないと思うけど、Mちゃん、Mちゃんとマスコミが騒ぎすぎて鬱陶しいので女子フィギャーは見ない。
都内と大阪で何軒ものイタリアンバールを展開しているFの経営者のY子さんが、俺の新しい店のことを心配してくれているので、六本木の店Dで会う。どうしてそんな大きな飲食店チェーンの経営者が俺のことを心配してくれているかと云うと、二人のひいお祖父さんが従兄弟同士、つまりひいひいお祖父さんは兄弟だったと云う、遠い親戚だからだ。古い戸籍がないので断定は出来ないけど、二人のひいひいお祖父さんが長野県佐久市で生れたのは今から200年近くも昔の江戸時代の天保年間か文久年間。それなのに現在、その子孫である二人が東京のど真ん中の六本木で会っているロマン。二人は店の経営の話をそっちのけで三時間弱の間、血の糸をたぐり続けた。春になったら二人の先祖が眠る佐久に一緒に行こうと約束して彼女と別れて、8時に女性デザイナーのSさんのマンションで催されているワインパーティに出向く。と云っても俺を含めて男女七人のホームパーティで、俺は今度の店に置く白ワインの候補を二本持参して参加者の反応を確かめようとしたのだけど、初めて出会った人たちのお喋りに夢中になった末に他の方々が持ち寄った美味いワインを飲みすぎて、体調に変化が起きたので11時前にお暇する。彼女のマンションから俺のマンションに帰る途中、ふとこんなホームパーティに参加したのは何十年ぶりだなと思う。更には独り暮らしの女性の部屋に入ったのも(他に人がいたけど)何十年ぶりだったろうと思ったりする。天保年間からの時の流れには比べようがないけど、この何十年間かの歳月が俺を何時の間にかホームパーティや独り暮らしの女性の部屋とは無縁の存在にしていったと思い知る寒風荒む夜。
ようやく、ついに 、やっと、始まった。いろいろ紆余曲折があったけど新しい店の工事が今日から始まったのだ。工事代金の初回金×百万円も振り込んだし、もう後戻りできない。当初の計画では二月中に工事は終わる筈だったが、新しい問題が浮上した為、工事完成は三月中旬にずれ込んだけど、とにかく新しい店がオープンに向けてスタートしたのだ。施工主とてし工事関係者に挨拶。後はこれまで辛抱強く俺に付き合ってきてくれた建築事務所のFさんが現場の責任者も引き受けてくれるというし、後は彼に頼るしかない。しばらく工事の段取りを打ち合わせてから母と老老ランチ。今日の老老ランチは自家製チーズハンバーグとポテトサラダに紫蘇のコンソメスープ。俺の作るチーズハンバーグは表面にチーズをとろかせるのではなく挽き肉と一緒にとろけるチーズを細切れにして混ぜていれてある。その代わり海苔弁当みたい炊きたてのご飯の上にとろけるチーズをひいてチーズ弁当にしてある。ついでに云うとハンバーグにいれるタマネギは炒めず生のみじん切りだ。多分炒めた方がタマネギの味が出るとは思うけと、生の方が食感が好きだ。五反田駅のレミイで「日米秘密情報期間『影の軍隊』ムサシ機関長の告白」(平沢弘通著)と「『黄金のバンタム』を破った男」(百田尚樹著)と云う二本のノンフィクションを買って帰宅。30分ほど昼寝した後、録画してあった某有名俳優が作演出のした自分の劇団の芝居を見るが、テレビのバラエティ以下の出来と云うとテレビのバラエティに失礼な程ひどい。もっともどんな凄い芝居だってテレビ桟敷で見て面白かった験しはない。芝居はやはり劇場で見なくては駄目だ。と云うことで「途中退席」して案内状の宛て名書きに励む。途中気晴らしにと、明日デザイナーのSさん宅でやる料理持ち寄りワインパーティに招かれているので、レバーの赤ワイン煮を作る。そのついでに新しい店でメニューに載っける予定の野菜カレーをルーを使わないで作ってみる。ニンニク、しょうが、唐辛子、タマネギ、おくら、山芋、人参、インゲン、きのこ、なすなどなどにチーズを入れて二時間は煮込んだろうか?普通のカレーではないけと、山芋やオクラから出たとろみもついてて美味しい。カレーが出来るまでに、イカの沖漬けと目刺しを肴に傍にあった八海山をコップで三杯。こうして飲むと一人でも盗み酒しているみたいで楽しい。でも、そうなると宛て名書きは無理。そのままベッドへ。枕元のラジオをつけてオリンヒック放送を聞きながらいつのまにか就寝。枕元でラジオを聞いていると何だか入院生活をしているみたいだ。
変な夢をみた。いつも妖しい魅力をふりまく歯科医のSちゃんと焼き肉を食べていたら店の入り口に今はもう25になっている息子が子供の時の顔で覗いていて、歯が痛いと訴えるのだ。だったらちょうどいいからSちゃんに見て貰いなよと云うと、私は歯科医じゃなくて司会(しかい)だと言い張って見てくれないのだ。息子はべそをかいているし、困り果てた処で目が覚めた。フロイトさん、出てきて解釈して下さいとベッドから出たら寒い。いつもの様に朝風呂に入った後、この日記を書いて、そのまま老老ランチ(今日のメニューは牡蠣とナスのニンニクバターソティ、ロースハムとワサビ菜のサラダ、納豆、しめじと春菊の味噌汁)の用意をして表に出てみたら、風が冷たくてとてもそのまま歩く意欲は衰えたので、部屋に戻るとヒートテックで武装して母の処へ向かう。そして今日も老老ランチの後日曜日で犬の散歩をしてくれる人が休みだから代わりに俺がやる。母にやらせる訳にはいかない。帰宅して新しい店への案内状の宛て名書き。年賀状も芝居の案内状も去年パソコンがこわれてしまった為に手書きにせざるえなくて、でも何百枚ともなると途中で嫌気がさしてしまって、結局はあ行からせいぜいか行の方々止まりになってしまうのが常だったけど、さすがに今度は時間がなくてと云う言い訳がきかないし、何とかわ行の方々まで書き終わらなくては。夜、あるドラマを何気なく見ていたらかなりひどい(いや、俺好みではない)出来だったので、どんな人が脚本を書いているんだ?と逆の興味で最後まで我慢してクレジットを見たら、この間とても感激感心したドラマと同じ脚本家で、且つ制作会社のプロデューサーが同じだと知ってびっくりする。テレビ局が違うから俺好みでなくなったのか?どちらかと云うと今日の方が玄人受けするドラマを作る局だし、こんなに一杯説明ゼリフやナレーションを入れて一般視聴者におもねる必要はない筈なのに、一体何があったんだろと元テレビ脚本家は余計なお世話ながら考えてしまう。アルコールを一滴も飲んでないのに眠い。それに寒い。こんなときはベッドが恋人。
今日もまた雪が溶けてぬかるんだ道に足を取られながら、そして滑らないように注意しながら犬を散歩させる為に母の処へ。一旦部屋に入って温まろうとしたけど、辿り着くまでに靴下がびちょびちょになってしまっていたので、そのまま犬を連れ出して三十分ほど雪の中を散歩させる。自分の部屋から母の処へ、そして犬の散歩、合わせて一時間程度雪の中を滑らないように注意しながら歩くと、普段とは歩き方がちがうせいか、帰ってきたら腰が痛くなる。なんてたって六十六才です。老老ランチ(今日は母のリクエストで特製ラーメン)を終えた後、今度は来週から始まる予定の内装工事に備えて乃木坂から運びこんた段ボール六箱を工事の邪魔にならないように移動させる作業にかかる。まぁ、これも六十六才には腰に負担のかかる作業で、終わった後はしばらく動けなかった。肉体労働をすると分かる。確実に、着実に、老化が進んでいる。勿論こんな日は暖かくなっても歩いて部屋まで帰ることは出来ない。バスで恵比寿へ、そして今日は大崎で降りてファクス用紙やラベル用紙を買って帰る。それから七時近くまで挨拶文の校正。それをデザイナーのKさんにファクスしてから電話で打ち合わせ。何とか印刷上がりを今月末までにして貰う段取りをして、夕飯に何を作ろうか考えている時にタイミングよく女友達のHさんから食事の誘い。おまけに五反田まで来て奢ってくれると云う。いい女にそんな提案されて断る馬鹿ばいない。五反田はホルモン焼きの店が一杯ある。まず西口のTで特製ホルモンを食べた後、今度は彼女には似合わない五反田有楽街のど真ん中にあるモツ焼き屋に移る。隣近所はラブホテルと風俗店。そこで若いいい女連れでサワーを飲みながらホルモン焼きを二人合わせて十数本とニンニク丸焼き煮込みなどなどを頬張る66才は、多分周りから羨望の目で見られていたに違いない(←自意識過剰)