元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

懲戒でなく業務命令による出勤停止・自宅待機・休業(≠休職)はありうる!!

2016-05-13 18:28:20 | 社会保険労務士
  就業規則上記載がなくても「出勤停止・自宅待機・休業」ができる場合があります!!
ただし、使用者に実質的な理由がない限り、賃金の支払いは免れない!!

 休職とか自宅謹慎といえば、休職処分であるが、同じような措置であっても、単なる業務命令による出勤停止・自宅待機・休業の措置があります。

 これを説明する前に、「懲戒」について、概要をおさらいします。会社の中の懲戒処分は、その企業における秩序をみだした(企業秩序違反行為)者に対する特別の制裁措置であるから、国家の法秩序としての刑法と同じように、罪刑法定主義に類する原則が妥当します。そこで、就業規則上、どんな場合に懲戒できるかといった懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が明示されていなければなりません。

 就業規則に記載される懲戒処分は、一般的には、けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇などがあり、大体において、懲戒の程度としては、けん責・戒告が軽く、懲戒解雇は職がなくなることからもっとも重いものとされています。このうち、出勤停止については、いわゆる「自宅謹慎」とか「懲戒休職」と呼ばれるものです。この出勤停止・自宅謹慎・懲戒休職については、再度繰り返しますが、これは懲戒処分ですので、就業規則の上に記載されて、どの程度の行為等を行えば、この処分を受けるかが記載されていなければなりません。

 ところが、全く就業規則に記載されてなくても、出勤停止・自宅待機等ができる場合があります。これは、どういう場合かというと、解雇や懲戒解雇をするかどうかという時に、その調査や審議決定するまでの期間について、就業を禁止する出勤停止や、また企業が従業員を出社させるのは不適当というときに行われる出勤停止・自宅待機・休業の措置があります。これは、懲戒処分の範疇ではなく、単なる業務命令によって行うものです。

 どういうことかというと、労働契約が締結されていますので、労働者は労務の提供を行い、使用者は賃金を支払うのが原則です。しかし、使用者は、賃金を支払っていれば、提供された労働力を実際に使用するかは自由であって、その労働力の受領の義務はないとされております。すなわち、労働者に労働の義務はあるものの、必ずしも使用者は、その労働を受領する義務はなく、逆に労働者からいえば、労働者に労働の義務はあるが、労働する権利まではないというのが一般的な考え方です。(これを労働者には「就労請求権」はないと言います。)

 整理すると、使用者は、賃金を払っている限りにおいて、使用者の責任を果たしているといってよく、就業規則にこの出勤停止・自宅待機・休業の措置の規定の根拠はなくても、業務命令によって、その労働を受領しない自由があるということができます。ただし、業務命令の濫用とされないためには、それ相応の事由が存在することが必要です。
 
 それでは、もうひとつ疑問がでてきます。労働していないから、ノーワークノーペイの原則によって、賃金を支払わなくてもいいのではないかということです。これについては、「使用者の責めに帰すべき事由によって、労働することができなくなったときは、労働者は、賃金を受ける権利をうける権利を失わない」(民536→債権者=使用者、債務者=労働者、反対給付=賃金として、読み替えをしています。)とされていますので、使用者が労働を拒絶した限りは、使用者の責任が問われることになり、賃金支払いは免れません。
 (ただし、その労働者の就労を受け入れないことについて、使用者に、事故発生、不正行為の再発の恐れなどの実質的な理由が認められる場合は、この限りではないと考えられます。)

 したがって、使用者は、労働契約の履行を前提に、賃金支払いをしながら、一方で労働の受け取りを拒絶するという、すなわち業務命令による出勤停止・自宅待機・休業の措置が可能というわけです。

 *ことばとしては、懲戒は、自宅謹慎、休職という用語であって、業務命令は、自宅待機、休業という用語を使用しているのに、留意。

 参考:労働法 菅野和夫著 
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