元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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出張の移動時間は労働時間なの?(その4、短時間の移動=居宅介護サービスの例)

2012-01-26 06:24:06 | 社会保険労務士
 移動時間が通常の移動時間に要する時間である場合は、労働時間!!

 居宅介護サービスについては、利用者宅を訪問し、一定時間お年寄り等の介護サービスを行い、また次の利用者宅に移動することになりますが、この移動はどう考えるべきでしょうか。

 厚生労働省は次のように述べています。「介護サービスの利用者宅間の移動を使用者が命じ、当該時間の利用時間が労働者に保障されていない場合は、労働時間に該当する。」(平成16.8.27基発0827001号)としています。これを見たときは、私は、実務で賃金計算を行ってきた者としては、衝撃を受けました。というのも、前回、前々回紹介したように、移動時間は、一般的には、時間外等として考慮すべき「労働時間」として計算に入れていなかったからです。

 前々回紹介した、交通機関を利用して入る場合には、目的地まで確かに乗物の中に拘束はされており不自由な時間であるが、何も労働はしておらず、しかも乗物に拘束されているとはいえ、その他は何をしようと自由な時間として、労働時間とはならないとしました。
 また、前回、車の運転での移動を取り上げ、車を足代わりとして利用している場合は、車の運転を命じられているので、労働時間にはなるが、自由裁量が認められているので、一般には、みなし労働時間が適用になり、所定労働時間の労働とみなすことができるとしました。
 ⇒下記通達の反対解釈として、このいずれの場合も、ある程度の「長時間」の移動ということにはなりますが・・・

 しかし、この通達では、はっきり「労働時間」とするとされています。この通達が出たのは、それなりの事情があるようです。パートタイマー登録型のホームヘルパーなどについては、介護保険法では自宅の訪問から退去までの実質サービスを介護保険サービス時間とみなすこことして介護保険の報酬の対象となっていますが、移動時間については対象とはなっておらず、そのため、これに応じて介護保険から報酬の出ない移動時間を労働時間として取り扱う介護事業者は少ないということなのだそうである。

 通達ではまだ続くのです。「具体的には、使用者の指揮監督の実態により判断するものであり、訪問介護の業務に従事するため、事業所から利用者宅に要した時間や一つの利用者から次の利用者への移動時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には労働時間に該当するものと考えられること」(平成16.8.27基発0827001号)となっており、移動時間が「通常の移動に要する時間程度」であるとしています。利用者宅を介護作業が終了したのちに、次々に移動していくイメージでしょうか。でもそもそも、「通常の移動に要する時間程度」って何。

 労働時間と求められるかどうかは、原則に戻って考えると、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかによって決まります。今まで紹介してきた事例では、拘束はされているが、または、指揮命令下と考えられるが、自由な時間がある程度確保されている場合でした。
 この例では、どうでしょうか。安西愈氏は次のように述べています。

 訪問居宅が事業所内の区域内で比較的短時間で訪問し、自転車や徒歩でも訪問できる程度の短距離、短時間の場合には、具体的指示命令に拘束された直接的指揮命令下にあることになるから、「みなし労働時間」ではなく、通常の事業所内の労働時間と同じように算定すべきケースとなろう。この場合、移動時間が仮に労働時間として取り扱われる場合にも、その時間の賃金については居宅での介護サービス時間と同じ金額でなくても、別の賃金(ただし、最低賃金以上)としても、労働に従事していない単なる交通移動時間であるから差し支えない。(労働時間・休日・休暇の法律実務=中央経済社P542 ※)

 私としては、これは、「介護事業者である」というイメージが強い通知文ではあったが、これをよく見ると介護事業者だからというわけでなく、事業所区域でその日のスケジュールが決まっていて、作業自体も自由裁量の余地もないということで、指揮命令下にあると捉えられる業務であり、その移動が短距離・短時間である場合は、労働の間の単なる手休め時間とも考えられる時間であり、これまた指揮命令下にあるということであり、全部が労働時間であるといいたかったのであろう。しかも、その労働時間が把握され管理されていると認められる場合であって、「みなし労働時間」にもならないということであろう。これって、他の業種でも同様の例があれば、適用になるということですね。ただし、その場合でも、同氏がいう下線部分のように、この移動時間には別の料金設定が出来ます。

 ここまでくると、移動時間もいろいろ取り扱いがあり、単に機械的に労働時間との認識はしていなくて良いとはならず、もう一度原点に帰って、移動時間を労働時間なのかどうか、違反にならないか考えてみることも必要かもしれません。

※なお、同氏は、労働基準法のポイント(厚友出版)でも、同趣旨の解説をされておられるが、ここでは、介護業務は訪問先居住内の各種介護サービスという家庭労働的なものであるから、「事業外のみなし労働時間」の適用が妥当と解されるとして、厚生省の通達とは別の立場をとっておられる。



   #####<いつも読んでいただきありがとうございます。>####

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