コタツ評論

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1954年、短歌の歴史が変わった

2009-01-01 01:46:36 | ブックオフ本
とは、『現代短歌 そのこころみ』(関川 夏央 集英社文庫)の帯のキャッチコピーである。裏表紙カバーの要約は以下のとおり。

引用はじめ

1953年、斉藤茂吉と釈迢空という日本短歌界の二大巨星が墜ちた。翌年、一人の短歌雑誌研究者が発想した企画によって新しい才能が発見される。編集者の名は中井英夫。見いだされた新人は中城ふみ子と寺山修司。その時から現代短歌のこころみの歴史がはじまった--。戦後の日本語表現中で異彩を放つ短歌という文芸ジャンル、その半世紀にわたる挑戦と歌人群像を斬新な視点から描く。

引用終わり

入院している短歌好きな母に差し入れるつもりなので、何か尋ねられたときの用意ともう読めなくなるのを少し残念に思い、読み直してみた。関川の丁寧な解説によって、引用された短歌の数々はどれも優れて人の心を打つものと、初読のときには思えたのに、今回短歌だけを拾い読みしてみると、そのほとんどに感興を覚えないのに驚いた。関川が引いているのだから、短歌史上、重要であったり画期的な作品ばかりだろうに、「巨星」を含めて俺にはムリだった。

いや、いくつかは胸にグッと来た。恥ずかしながら俵万智的な歌というのだろうか。たとえば、以下のような作品である。

極東のスペイン坂のかたすみに
われ泣きぬれず雨に濡れゐつ 

父逝きて二十数年、
母逝きて一年余犬逝きて二カ月余(近いほど悲しい)

夕照はしづかに展くこの谷の
PARCO三基を墓碑となすまで (以上、仙波 龍英)

するだろう ぼくをすてたるものがたり
マシュマロくちにほおばりながら

ましろにはあらぬ繃帯 ひのくれを
小指のかたちのままにころがる (以上、村木 道彦)

終バスにふたりは眠る紫の
<降りますランプ>に取り囲まれて (穂村 弘)

この本の凄いところは、プロだけでなくアマチュア作品を俎上にのせているところだ。とくに政治的な愚作が多い新聞短歌(もちろん朝日新聞だ)作品を手厳しく批判する一方、市井の歌会や座など短歌コミュニティから生まれた傑作を紹介している。

動物屋えらばれぬ子の
あし・て・はな・みみ・お・目を見てはならぬ (肉球)

脱衣所の狭さも嬉し草津の湯
脱いで開ければ広い脱衣所

「ずいぶんね!」ひれ伏して泣き気がつけば
はだがづばっでぐるしい (以上、木下いづみ)

急行を待つ列の後ろでは
「オランウータン食べられますか」(大滝 和子)

さて、今年の宮中歌会始にはどんな歌が寄せられるのだろう。
新年あけましておめでとうございます。

(敬称略)
コメント
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