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彼女

2023-12-28 22:01:04 | ノンジャンル

昨日のことだけど、小田急線の電車で異様な若い女性を見た。

いまどきの娘らしく、厚底のブーツにツイード風のミニスカート、フェイクファーの真っ白なジャケットという、いわゆるお嬢様ファッションだった。私が同乗した20分ほど、手鏡を顔前に、揃えた前髪をいじったりしながら、きれいにメイクした白い顔を見入っていた。

電車のなかや街頭で手鏡をのぞき込む若い娘の姿はよくある風景だが、異様なのはその鼻だった。伊東美咲という美人女優がいたのを覚えているだろうか。ツンと上を向いた細く美しい鼻がチャームポイントだった。というか、それ以外に印象が残らない人だった、わるいけど。

その伊東美咲の鼻をもっと細く直線的にした鼻なのだ。エンピツのように細く長く、鼻筋が通っているという表現が後ずさりするほど。つまり、マンガや2次元でしか見かけない、現実ではありえない鼻なのだ。もはや呼吸器である鼻梁の諸機能が想像できないほどに。

自らの現実離れした美鼻を確認して満足するためか、彼女の視線は一瞬たりとも手鏡から逸れることはない。同乗していた間、私もまた、前席に座った、脚を組んだ彼女から目を離せなかった。まだ20歳そこそこに見えるが、学生やOLには見えず、いわゆる「家事手伝い」にはまったく思えず、水商売の人がともなう仕事の疲れのような雰囲気もない。

大きな白マスクを顎にずらしていたから、自慢の鼻を守るためにもふだんはマスクで隠しているはずだ。ときおり、化粧直しや飲食、会話のためにマスクを下す。彼女は周囲の反応をうかがう。しかし、その鼻を、彼女のように讃嘆し満足げに眺め笑みを浮かべる人は出てこないだろう、絶対に。元に戻すこともとうていできないはずだと思う。

もちろん、芥川龍之介の短編『鼻』が脳裏をよぎった。あれはとても人間臭い話だったが、彼女の人間離れした鼻は、彼女をもまた、人間以外のきわめて空虚な存在に従属させていた。

 

鼻といえば、この人を忘れるわけにはいかない。

 

(止め)

 


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