コタツ評論

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Amy を聴け

2017-08-18 22:48:00 | 音楽
Amy Winehouse は聴いたことがなかった。若くして亡くなった彼女のドキュメンタリ映画がビデオレンタルに出ていたので、何とはなしに検索していくつか聴いてみた。そのなかのコメント欄に、こんな言葉があった。

People will be listening to Amy Winehouse in 50 years, not Adele. Promise.

歌謡界の女王然としてきた Adele と、比肩しうるのが Amy Winehouse だったようだ。Adele が中島みゆきとすれば、 Amy Winehouse は安田南、とはまるで違うか。こんな風にクロい歌手がいたとは知らなかった。耳障りのよいボーカルではなく、ときにノイジーで投げやりでとてもブルーです。その破天荒な歌いかたをオリジナルと聴き比べてください

Will You Still Love Me Tomorrow - Amy Winehouse


The Shirelles
https://www.youtube.com/watch?v=9AucXslg6HU

Amy Winehouse - Someone to watch over me (Ella Fitzgerald cover)


Ella Fitzgerald
https://www.youtube.com/watch?v=OoufBasyRWc

It's my party - Amy Winehouse


Lesley Gore
https://www.youtube.com/watch?v=XsYJyVEUaC4

Amy Winehouse - All my lovin' (The Beatles's cover)


Beatles
https://www.youtube.com/watch?v=nV34Rp8iTV0

最後は、彼女のオリジナル曲のLIVEです。堂々たるビヤ樽のような Adele とは対称的に、細身というより痩せっぽちです。力強い声を持ち、cover 曲では大胆なアレンジをものともしないのに、ステージではどこか怯えにも似た瞳の色を見せています。

優れた能力を持ちながら、不安定な心を持て余して、ちょっと狂気を感じさせる。そんなステージングです。前記のようなコメント発せられるのがわかる気がしました。Amy Winehouse はファンにとって一種のカリスマだったようです。

Amy Winehouse - BEST LIVE - Back To Black

Back To Black には、こんなコメントも寄せられていました。

This is the saddest perfomance Live seen, you can see the pain through her eyes.

Back To Black の訳詞はこちらで読めます。ほとんど何言っているかわかりませんからね。こんな一節があります。

And I'm a tiny penny rolling up the walls inside

私はまるで、壁の間に転がり込んだ、小銭みたいになった

この歌の彼女の様子そのものです。

しかし、横で踊る黒人ダンサーが容姿、スタイル、ファッション、振り付けも含め、すべてひどいですね。

(敬称略)

イソコファン

2017-08-14 14:38:00 | 政治
「家貧しゅうして孝子出ず」ですな。役割としてもビジネスとしても「貧寒」なマスコミ家に、気立てがよく働き者の山本周五郎の小説に描かれる孝行娘が出たような。

私が菅官房長官に「大きな声」で質問する理由 東京新聞・望月衣塑子記者インタビュー
#1 http://bunshun.jp/articles/-/3766
#1 http://bunshun.jp/articles/-/3767

お盆だというのに、墓参りにも行かず、何やってんだアメリカ人は

2017-08-13 23:12:00 | 政治
米バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者のデモと反対派が衝突し、1人が死亡、負傷者多数という内戦状態に。バージニア州知事が非常事態宣言を出した。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/08/12/charlottesville_n_17741748.html

マコーリフ州知事の発言がキマっている。「~したいと思います」式の空疎な言い回しにがんじがらめの日本語と比べ、なんと簡潔にして平易な言葉であることか。

なんだかんだいっても、アメリカに「自由」を感じるのはこういうところだ。制度や権利などではなく精神の自由をこそ、言葉の端々から響いてくる。



"Go home... Shame on you. You pretend you are patriots, but you are anything but a patriot"

pretend =ふりをする

日本で県知事が、デモの一方に対して、「クソして寝ろよ、バ~カ」(@谷岡ヤスジ)と公的に発言したり、それが肯定的に扱われることなどあり得ない。

アメリカ合州国の州政府知事と日本の都道府県知事はまるで違う立場にしろ、その場所、その時間に国民や市民が生成される民主政治のリアリズムが、政治家の言葉に臨場感を与えている。

ネットを中心に跋扈して、言葉の暴力を振るう「日本人至上主義者」に対して、マコーリフ州知事のような発言をする政治家が日本では皆無だ。

国民や市民に主権者や納税者としての意識が希薄なせいで、政治家を自らの主権を代表代行する者という認識にも欠け、選挙で選ばれた公務員の一種くらいにしか思っていない。

したがって、公共サービスの提供者に、「クソして寝ろよ、バ~カ」と言われることなど想像したこともなく、もしそう言われたとしたら、「バカとはなんだ!」とコンビニの店員に激高するクレーマー客に似た有様となる。

主権者というより公共サービスの消費者としての意識が強ければ、政治家の方も役人と変わらぬ公共サービスの提供者にとどまざるを得ず、なかには立場を利用して消費者の側に回ろうとする不心得者も出てくる。

いかなる時いかなる場所でも国民や市民が生成されることはなく、いつでもどこでも公共サービスの提供者とその消費者としての関係性に固着している。

そうした政治の停滞による閉塞感は政治家の劣化を招き、他方で、政治主導や政治改革といったガス抜きを必要とし、それによって政策が吟味される機会は失われ、さらに混迷の度合いを深めていくという悪循環に陥っているわけだ。

いったい何の話かって? だから、いまもって安倍が支持されるのだ、という話なのだよ、明智君。

(止め)

ドライブ

2017-08-12 01:33:00 | ダイアローグ
盆休みの11日、山梨県の大菩薩峠に山歩きに行った。行きは圏央道を青梅で下りて下道(したみち)に出て、奥多摩・小河内ダムを抜けて柳沢峠に至る一本道だ。柳沢峠を下って大菩薩峠の駐車場に。

小雨模様のおかげで連日の猛暑が嘘のような、半袖だと少し寒いくらいの気温で、前日の雨に洗われた深緑が匂いを増して山歩きは快適だった。

帰りは同じ道を辿るのは芸がないと、大菩薩峠を勝沼側に下りて、勝沼ICから中央高速で圏央道に抜けようと思った。お盆とはいえ渋滞しているのは下りで、上りは空いているはずと踏んだ。

高速に乗ってしばらくは順調だったが、やがて混みだした。後楽帰りなのか、地方から東京へ遊びに行くのか、渋滞というほどではないが、50km/hくらいになり、ときどき詰まって止まるようになった。

時間は午後5時30分。これでは八王子ジャンクションまでかなりかかりそうだと思って、我慢できずに上野原で中央高速を下りた。上野原なら、奥多摩の奥みたいなものだから山越えすればショートカットできるだろうとそう思った。

案の定、高速の出口を出たらすぐに「あきる野」方向の標識が出た。左折するときに、「大型車は通行不能です」という小さな表示があったのが気になったが、あきる野なら青梅まですぐだ、してやったり、とばかり山道を走り出した。



霧が深くなってライトを点けたころから、道幅がかなり狭くなってきた。道路際の草木が鬱蒼と生い茂っていたのもあって、目測では車が一台通れるくらい。対向車が来たらどうやって交わそうかと心配になった。私の車はクラウン並みの車幅のフォードアセダンだった。

山越えの道だからカーブの連続は覚悟していたが、想定外の霧のおかげで視界はわるく、おまけに道路幅が狭すぎる。思った以上にスピードは出せない。渋滞にはまっても、高速に乗っていたほうが、結局は楽で早かったかなと少し後悔した。

しかし、心配した対向車は2台しかなく、どちらも軽自動車だったのにくわえ、地元のドライバーらしく、こちらに気づくとカーブの入り口とか道幅が少し広くなっているところで待っていてくれたりして、立ち往生にはならなかった。

かれこれ1時間近く走って出遭ったのはその2台だけ。後続車はなく人家はもちろんない。霧深い夕暮れの林道に近い道路を一台だけで走っていると、ちょっと気が滅入ってきた。

3つほど山を越えて和田峠というところを越えたあたりから、少しスピードを上げた。路地に近い道幅に変わりはなかったが、なんとなくこのまま迷いそうな、この白黒の道から出られなくなりそうな嫌な想像が頭をもたげてきたからだ。

カーナビは役に立たない。中古の車についていた圏央道を認識しない中古ナビなので画面はオフにしたままだ。もちろん、スマホのグーグルなどのアプリでナビはできるのだが、画面が小さすぎて覗き込むことになりかえって危ない。

正直、かなり焦っていた。車を止めて、一服して落ち着こうにもそんな開けた場所がない。行けども行けども黒々とした樹々の間を走り続けるしかない。

そんなとき、前方のライトに後姿の人影が浮かび上がった。霧と薄暮で視界はわるかったが山歩きの黒か濃紺のヤッケを着込み、フードをかぶったリュック姿のたぶん男性だとわかった。久しぶりに人の姿を見てほっとした。徐行して相手が気づくのを待ったが、変わらぬ足どりで歩いていく。

こんな淋しい山道を一人歩いているなんて不思議だなと思いつつ車を止め、クラクションを鳴らそうかと手を動かしたときに、それに気づいたように歩いていた姿が立ち止まり、こちらを振り返った。

やはり男性だった。そしてこちらに向かって歩き出し、やがて小走りに駆け寄ってくるまで、息をのむように見ているしかなかった。運転席側に立ったはずの男の方に無理やり顔を向けると、コンコンとサイドガラスを叩く白い拳が見えた。

このまま素知らぬ顔で発進してしまうおうかなど混乱した頭であれこれ考えながら、しかし、渋々ウインドウボタンを押した。少し下げるつもりが、オートパワーウインドウの窓は一気に下まで降りてしまった。と同時に男がぬっと顔を下げてきた。

その顔を見て、ひっと小さな悲鳴を上げてしまった。顔というより、眼だ。黒々と光る大きく虚ろな眼が、男の異常をこれ以上なく物語っていた。

眼の次は歯だった。やはり大きな白い歯の列がいきなり現われた。男がにっこり微笑んだのだとわかるのに少し時間がかかった。そして不快に高い声がその歯の間から漏れてきた。

「道に、道に迷ったので、あなたの車に、車のあなたに、下の、下の、ずっーと下の町まで、乗せてもらおうかと思ったのですが、ですが」

耳元で奇怪にリフレインする妙なアクセントを呆けたように聴いていた。ようやく、「ずっーと」のところで気がつき、「ですが」を聴きながら、アクセルをめいっぱい踏み込もうとブレーキから足を放した。が、男の白く大きな手が窓枠を強く掴んでいるのが気になった。

明らかに異常者に間違いはないが、このまま急発進させれば、振り落として怪我をさせるかもしれないと心配したのではない。男が手を離さず、引きずったまま走ることになるのではという恐怖に掴まれたのだ。

男の右手が窓枠から消えたのを見た。男の顔と私の顔の間に風が流れるのを感じた。そして、たぶん唇に笑みをたたえた男の声が上からきた。

「すでに満席でしたね、いや失敬」

普通の声だった。男は踵を返すと森の中に分け入って去った。私はずーっと下の陣馬の町まで、前方を照らすライトの光だけを見て走った。

(止め)