ワニを拾った
測ってみると鼻先から尾っぽまで2.2m
バスルームをねぐらに与えることにしたので
銭湯代わりにスポーツジムに入会した
シャワーのみで浴槽がないのが難点だが
水道代やガス料金を気にせず盛大に使えるし
シャンプーやリンスも使い放題なのは快適だった
ナイト料金月額4,500円を捻出するために
新聞をやめたおかげで
ワニの消息を探す記事が載ったかどうかはわからない
浴槽につねに湯を張っていても寒いらしく
ベランダに出して日光浴させるのが日課になった
ペタシペタシと移動の途中
キッチンを過ぎるあたりで
私を振り向くようになったら食事の頃合いだ
餌は鶏肉である
これは安いので助かった
1週間に1度10kgほどをやればよい
やはりブランドの鶏肉が旨いらしく
安い冷凍鶏肉とは食いっぷりが違う
名古屋コーチンは食わしたことはない
牛肉並みに高価ということもあるが
美食させると後戻りができないことを
以前に飼っていた猫で知っていたからだ
半開きにしている寝室の襖から覗くことがある
気づいたときは起きていって
バスルームで背中に付いたコケをタワシで擦ってやる
スニーカーを洗うよりは骨が折れるが
換気扇の油汚れを落とすよりかは楽なものだ
糞はそこいらで見境なくする
後始末にうんざりして
お前の飼い主はさぞや心配しているだろうなあ
と聞こえよがしにいうと
涙ぐんでいるように眼が濡れる
あまり冗談は通じないようだ
たまに痛めつけるときもある
狭い2DKに2.2mがいつも横たわっているのだから
ときどきはイライラするものだ
まずはつま先に鉄板の入った頑丈なワークブーツを履く
以前に便所前にいた背中を寝ぼけて踏んづけてしまい
足の裏が血だらけになったことがあるからだ
次に掌部分にゴムが張ってある園芸用の軍手をはめる
そしてボロ布を巻いて松明のようにしたホーキをくわえさせる
それから折檻だ
意外に白く柔らかい腹を
サッカーのゴールキックのように蹴り上げる
もちろん暴れて抵抗するが
狭い室内では武器である長い尾を振りようがない
怒りに眼を充血させながらホーキを噛みしめている
哀れな捨てワニである
それもほんのたまのことだ
わざわざ身支度するのは面倒くさいし
私は好んで動物を虐めるような人間ではない
買い物から帰ってくるとたいてい玄関で待っている
スーパーのビニール袋を下げていれば
キッチンまで従いてくるあたり
尾っぽを振らないだけで犬とあまり変わりない
何のつもりか居間のTVに向かって
口を大きく開け続けているときがある
ゴミ箱代わりに紙くずを丸めては
いくつも放りこんでやった
ちょっとしたバスケットゲームである
一度人気がないのを確かめてから
深夜の公園に連れて行ったことがある
大型犬用の鎖を幾重にも胴体に巻いた姿は
一見凶悪なプロレスラーのようだったが
野犬の声を聞いたとたん
公園のベンチの下に隠れて出てこず
体重50kgをひきずって帰る羽目になり往生した
それ以来散歩はあきらめた
故郷のアフリカではどうかしらないが
練馬ではからきしである
名前はつけていない
他に生き物はいないから
おいとか、おまえで事足りる
ほとんど動かないから呼ぶ必要もないのだが
半年ほどそんな日々が続いたが
あまり面倒を見ることができなくなった
鶏肉をやるのは2週間に1度になったし
日光浴をさせることも減った
背中をタワシで擦ってやるのも怠けたので
バスルームには悪臭がこもってきた
私に彼女ができて忙しくなったからだ
贅沢をいう女ではないが
まさかワニ付きの男と暮らしてくれるわけはない
悪いけど出て行ってくれないか
とワニにいってもしかたないので
深夜に公園に連れていってベンチに繋ぎ
早朝警察に電話した
ゴミ収集所で見つかったそうで
近所は大騒ぎになり保健所が呼ばれたらしい
どこかの動物園かワニ園にでも引き取られたのだろう
変な臭いがする部屋と
彼女は顔をしかめていたが
一緒に暮らしはじめた
しばらくはそれなりに楽しかったが
1年も経つと
あまり動かないところや
白目を剥いている寝顔
まったく役立たずなことは
さほどワニと変わらないことに気づいた
ある日玄関のドアを開けたら捨てたワニがいた
なぜか背中一面に黄色のペンキがかかっていた
とりあえずバスルームに隠して
寝ている彼女を叩き起こし
喚き罵る彼女の身の回り品をバッグに詰めて
部屋から追い出した
2匹もワニを飼うわけにはいかない
無口なだけ彼女よりマシというものだ
ワニが雄か雌かは知らない
年齢がいくつなのかも知らないのだが
(02/06/26)
測ってみると鼻先から尾っぽまで2.2m
バスルームをねぐらに与えることにしたので
銭湯代わりにスポーツジムに入会した
シャワーのみで浴槽がないのが難点だが
水道代やガス料金を気にせず盛大に使えるし
シャンプーやリンスも使い放題なのは快適だった
ナイト料金月額4,500円を捻出するために
新聞をやめたおかげで
ワニの消息を探す記事が載ったかどうかはわからない
浴槽につねに湯を張っていても寒いらしく
ベランダに出して日光浴させるのが日課になった
ペタシペタシと移動の途中
キッチンを過ぎるあたりで
私を振り向くようになったら食事の頃合いだ
餌は鶏肉である
これは安いので助かった
1週間に1度10kgほどをやればよい
やはりブランドの鶏肉が旨いらしく
安い冷凍鶏肉とは食いっぷりが違う
名古屋コーチンは食わしたことはない
牛肉並みに高価ということもあるが
美食させると後戻りができないことを
以前に飼っていた猫で知っていたからだ
半開きにしている寝室の襖から覗くことがある
気づいたときは起きていって
バスルームで背中に付いたコケをタワシで擦ってやる
スニーカーを洗うよりは骨が折れるが
換気扇の油汚れを落とすよりかは楽なものだ
糞はそこいらで見境なくする
後始末にうんざりして
お前の飼い主はさぞや心配しているだろうなあ
と聞こえよがしにいうと
涙ぐんでいるように眼が濡れる
あまり冗談は通じないようだ
たまに痛めつけるときもある
狭い2DKに2.2mがいつも横たわっているのだから
ときどきはイライラするものだ
まずはつま先に鉄板の入った頑丈なワークブーツを履く
以前に便所前にいた背中を寝ぼけて踏んづけてしまい
足の裏が血だらけになったことがあるからだ
次に掌部分にゴムが張ってある園芸用の軍手をはめる
そしてボロ布を巻いて松明のようにしたホーキをくわえさせる
それから折檻だ
意外に白く柔らかい腹を
サッカーのゴールキックのように蹴り上げる
もちろん暴れて抵抗するが
狭い室内では武器である長い尾を振りようがない
怒りに眼を充血させながらホーキを噛みしめている
哀れな捨てワニである
それもほんのたまのことだ
わざわざ身支度するのは面倒くさいし
私は好んで動物を虐めるような人間ではない
買い物から帰ってくるとたいてい玄関で待っている
スーパーのビニール袋を下げていれば
キッチンまで従いてくるあたり
尾っぽを振らないだけで犬とあまり変わりない
何のつもりか居間のTVに向かって
口を大きく開け続けているときがある
ゴミ箱代わりに紙くずを丸めては
いくつも放りこんでやった
ちょっとしたバスケットゲームである
一度人気がないのを確かめてから
深夜の公園に連れて行ったことがある
大型犬用の鎖を幾重にも胴体に巻いた姿は
一見凶悪なプロレスラーのようだったが
野犬の声を聞いたとたん
公園のベンチの下に隠れて出てこず
体重50kgをひきずって帰る羽目になり往生した
それ以来散歩はあきらめた
故郷のアフリカではどうかしらないが
練馬ではからきしである
名前はつけていない
他に生き物はいないから
おいとか、おまえで事足りる
ほとんど動かないから呼ぶ必要もないのだが
半年ほどそんな日々が続いたが
あまり面倒を見ることができなくなった
鶏肉をやるのは2週間に1度になったし
日光浴をさせることも減った
背中をタワシで擦ってやるのも怠けたので
バスルームには悪臭がこもってきた
私に彼女ができて忙しくなったからだ
贅沢をいう女ではないが
まさかワニ付きの男と暮らしてくれるわけはない
悪いけど出て行ってくれないか
とワニにいってもしかたないので
深夜に公園に連れていってベンチに繋ぎ
早朝警察に電話した
ゴミ収集所で見つかったそうで
近所は大騒ぎになり保健所が呼ばれたらしい
どこかの動物園かワニ園にでも引き取られたのだろう
変な臭いがする部屋と
彼女は顔をしかめていたが
一緒に暮らしはじめた
しばらくはそれなりに楽しかったが
1年も経つと
あまり動かないところや
白目を剥いている寝顔
まったく役立たずなことは
さほどワニと変わらないことに気づいた
ある日玄関のドアを開けたら捨てたワニがいた
なぜか背中一面に黄色のペンキがかかっていた
とりあえずバスルームに隠して
寝ている彼女を叩き起こし
喚き罵る彼女の身の回り品をバッグに詰めて
部屋から追い出した
2匹もワニを飼うわけにはいかない
無口なだけ彼女よりマシというものだ
ワニが雄か雌かは知らない
年齢がいくつなのかも知らないのだが
(02/06/26)