ハリウッドをなめちゃいけない。元CIAが書いたノンフィクションを原作に、謀略渦巻く中東の石油利権をめぐる敵味方不明のグチャグチャ。アメリカの「麻薬戦争」を重層的に描いた「トラフィック」と連作ともいえる「石油戦争」映画だ。主演のジョージ・クルーニーにとっては、イラク派遣の米兵が宝探しをする「スリー・キングス」の続編になる。いずれの作品もハリウッドを牙城とする民主党リベラル派が、中東についてどのような認識を共有しているかがわかって興味深い。
「スリー・キングス」は半端な「キャッチ22」のような駄作だったが、イラク兵に捕まった米将校クルーニーが拷問として石油を呑まされそうになるシビアな場面があった。「お前らアメリカ人はこれが欲しいんだろ」と。「シリアナ」でもベテランCIAのクルーニーは、アラブ人から爪を剥がされる拷問を受ける。「これは戦争だ!お前は捕虜だ」と。つまり、世界に平和と民主をもたらすというアメリカのグローバリズムへの批評を込めたシーンである。批判や告発ではなく。したがって、いまレバノンでイスラエルが実行し、アメリカがそれを支援しているような、アラブの人たちを殺し傷つける場面は決して描かれない。誰が誰への批評か。民主党リベラル派から共和党ブッシュ政権への、批評だ。
冒頭に敵味方不明といい、戦争映画だとしたが、実はそうではない。いまや地上最強最大の帝国であるアメリカに正面敵はいない。アメリカの敵は必ずアメリカ自身なのである。「トラフィック」でも、この「シリアナ」でも、ぬけぬけとそう描いている。「ドキュメンタリータッチ」を駆使して、きわめてリアルな描写を重ねながら、結局は帝国の宮廷内の権力闘争を観せられているに過ぎない。観客は観終わった後、アメリカ帝国をあるがままの事実と受け入れ、その強大さを強く印象づけられる。そうした重大な虚偽とプロパガンダに奉仕する映画だ。この映画に本当のリアリティがあるとすれば、アメリカ帝国の自壊への恐怖だけである。自爆テロに赴くワシームも、改革派のナシール王子の暗殺も、周縁の些末なエピソードに過ぎない。やはり、いい気なハリウッド映画なのだ。そのように眉をひそめて観なくてはいけない。そんな映画なら観たくない、というなら、あなたは私の友だちである。