コタツ評論

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ハーブ

2002-07-14 22:51:00 | ダイアローグ
最初は好きだと
思わなかった
一度だけ
くちづけを
かわしてみたけど
なんとなく
二度が三度に
度重なって
好きになったぜ
お前のことが
って何 これ?
だから お前に捧げる俺の詩だよ
わるくないだろ
だって これ「♪恋の奴隷」じゃない
うん たしかにヒントはもらった
ていうか ただのパクリじゃん

それにこれが花?
鉢植えだけど咲いてないよ
それはハーブだよ
レモングラスとかいうらしい
お前 詩とか花とか好きだろ
全然違うし
あんたにそんなこと頼んだ?
もう少し喜ぶかと思ったけど
まあいい
ところでな
俺たちけっこう似合いだと思うんだ
ええっ どこが?
最初にコンビニで会ったときから
なんていうか価値観が近いな
そう思ったんだ
お互いパジャマ姿だったから?
あんたも知っての通り
あの店はあたしの部屋から近いし
あの夜はたまたまなのっ
それだけじゃない
お前は俺にパピコをくれた
優しい女だと思った
それはあんたが物欲しそうな顔してたからさ
夜中の3時にパジャマのままチャリでやってきて
カップ焼きそばを買うようなビンボウ人を
ちょっと哀れだと思ってさ
それでお返しに煙草を差しだしたら
珍しそうに吸って
むせたところが可愛いかった
ハイライトなんてキツイだけの安物を
吸ったのは高校以来だからっ
コンビニの前で2人しゃがんで
夜空を眺めたよな
台風の後だから星がよく見えてな
はいはい、眼の前の産業道路には
ダンプがビュンビュン走っていたね
でもキスしたよな
会って一時間もたっていないのに
お前は許してくれた
あれは失敗だったね
女にはそういう気まぐれもあんだよ
あんたが
わるいけどキスさせてくんないか
って道聞くみたいにいうからさ
つい
頼まれると断れない
女だから
あたしは
な、そこだよ
俺がいいたいのは
お前は女で俺は男だ
わかるか
だから何が?
誰もあたしが男で
あんたが女だとは
思わないよ
そういう理屈っぽいところが
俺は気に入っている
こうみえて俺は頭のいい女が好きなんだ
お前は高卒ってしょっちゅう俺をバカにするが
俺だって駿台の私大文系コースにいたこともある
頭はわるいけどそれほどバカじゃない
処置ないね
あんたそんなこと気にしてたの?
あたしのは面接だけで誰でも入れる短大なの
ほんとは美容学校に行きたかったけど
親が反対するから
そうか ならいまからでも行けよ
俺が学費くらい出すから
あんたみたいにコンドー嫌いで
生でやりたがってちゃ
すぐにガキでもできて
学校どころじゃないだろ
それそれその話なんだ
話が戻ってこないんじゃないかと
心配したよ
俺がいいたいのは
どうせなら
この際一緒に住まないかと
何が と だよ
あんたの汚いアパートでってか
お前の部屋だってきれいとは
いえないよ
もう少し広いところに
引っ越してもいいよ
それでな
一緒に暮らすうちに
いずれ俺と結婚してもいいかなとか
思ったりとかしてな
思わないよ
短気なやつだな
少しは考えるもんだ
あたしにだって選ぶ権利があるもん
それはそうだ
お前はなかなかいい女だしな
けどな俺もチラベルトに似ているって
いわれるくらいだしな
それから気が合うってことも大事だよ
俺はこんなに長く女と話したことないんだ
お前だってそうポンポンいえる男は
いまのところいないだろ
チラベルトに似ているって女に自慢する男も
めったにいないだろうね
じゃあ、あんたに聞くよ
あんたはあたしの話を聞いてくれるの
両親のことや妹たちのことや
友だちのことや仕事のことや
あたしの悩みや困っていることや
おもしろかった話や楽しい思い出を
ちゃんと聞いてくれるの
あたしが毎日どんなことを
どんな風に感じているのか
ちゃんと最後まで
泣くかもしれないけど
聞いてくれるの
どうして黙ってるの
お前怒るときれいだな
と思ってな
まあ待てよ
俺はな
お前がどんなことを
聞いてほしいのか
話したいのか
実のところ
よくわからない
でもな
お前が聞いてほしいなら
俺は聞いてやるよ
いつまでだって
お前が何をいいたいのか
わからないかもしれない
でも
俺は聞いてやるよ
黙っていつまでだって
お前がいいというまで
約束するよ
だからともかく
二人で暮らさないか
ナベさんの奥さんが
一緒になるなら
ハーブを分けてくれるって
たくさんあるんだ
そしたらお前の好きな
何とかスパゲッティとか
何とかティとか
作れるだろ

(7/14/02)



いつか王子様が

2002-07-11 23:29:00 | ダイアローグ
子どものように手放しで泣く顔を見下ろしながら
俺は女の身体をさらにせり上げた

Someday My Prince Will Come

チャイムを押して
室内から見られないように
ドア横の壁に身を寄せた
公団住宅の金属ドアが
重くきしんだ音をたてて
少し開いた
俺は素早く靴先を
その隙間に差し入れた
ドアチェーンはかかっていない
もしかかっていれば
そのまま引き返すつもりだった

女は口をOの字に開けたまま
呆けたように俺を見た
夫や子ども以外をこの玄関で見ることはない
そう信じ切っていたのだろう
あらかじめ女の会社に偽電話をかけ
今日休むことやたぶん一人でいることも
たしかめていた
ドアチェーン以外は

ドアを思い切り引くと
ノブをつかんだまま
女が出てきた
入れ替わるように
俺は玄関に
室内に進んだ

幸せな親子4人
ありふれた3LDK
積み重ねられた洗濯物
麦茶のボトル
風鈴が鳴った
追いすがってきた女を
俺はものもいわずに
突き飛ばした
「ね、落ち着いて」
Take it easy

I'm afraid I wasn't able to deliver your message
to the following address.Because sender's mail address
is in recipient's blocking list.

女の小賢しい裏切りに俺はカッとなった
薄手のサマースウェーターとカーディガン
まるで主婦というタグでも付いているような
あか抜けなさに
その弛緩が
俺を刺激した
女を抱きよせ
唇を覆った
少し口臭がした
はじめて知った
固かった身体はすぐに
ぐったりした
そのままかぶさって
女の両手を
左手で抑えた
耳朶から首筋を吸い上げ
右手でスウェーターをたくし上げる

青い静脈が浮かび上がる
白く豊満な乳房が晒された
乳首を含んだときも
女の抵抗は本気ではなかった
手も握らずにいた
3年間の抑制が
俺の中で弾けた
乱暴にスカートをまくり
白い大きめな下着に
手をかけたとき
はじめて気づいたように
女は激しく暴れた
女はとても濡れていた
指先にからめとった体液を
俺は女の顔になすくりつけた
その匂いを嗅ぎながら
唇を割って俺の唾液を注ぎ込んだ

Take it easy

女がノロノロと下着に足を通し
スカートの下に納めてから
俺はいった
「パンツ脱げよ」
「お願い、もうすぐ子どもが帰ってくるの」
「脱がしてやろうか」
俺が果てなかった不満と侮りの腰つきが
下着を足首に落とした
あの付け根の熱い奥に
ぶちまけなかったのは
寸前で腰を引いたのは
恐怖したからだ
泣きじゃくるだけの
無防備なこの女は
俺の子を産むのではないかと
俺はまだ暖かい下着をつかんで
ズボンのポケットに突っ込んだ
エレベータを使わずに
外廊下の非常階段で下りた

Take it easy

西日射す団地の
影の下に入り
女のベランダを見上げて
姿を現すと賭けた
ベランダの上と下で
俺たちは眼を交わした
1時間前には麦茶を飲んでいて
いまは下着をつけていない女は
俺に軽く手を振った
少し微笑んでいるように
見えた

蔦の絡まるバルコニーの代わりに
洗濯物が翻るベランダ越しに
俺たちは立っていた
俺はポケットから白い布を取り出し
わずかに染みの付いたそれを
鼻に押しつけた
そして純白の絹のスカーフのように
高く掲げて女に振った
俺は幾層もの城壁を抜け
4頭立ての馬車を駆り
夕焼けの町へ帰った
女の下着は
駅のトイレに捨てた

Someday My Prince Will Come

(7/11/02)