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モスクワの少年

2001-09-17 23:01:00 | ダイアローグ
モスクワの少年

いぜんシベリアを旅した話をしたね
ハバロフスクから終点のモスクワまで
モスクワには一週間ほど滞在してから
国際列車でクリスマスのパリに抜けたんだ

モスクワはさすがに見るところは多かった
ばかでかいレーニン像ばかりそれまで見てきたから
メトロポールホテルは芸術だと感激した
プーシキン美術館で印象派も見た
赤の広場は悪趣味だと思った

でもいちばん感心したのはメトロだった
ちょうどマクドナルドのモスクワ出店が騒がれた頃で
メトロのMはマクドナルドのロゴマークにそっくり
エスカレーターで深い地下鉄駅に降りていく
核戦争が起きたときはシェルターになるといわれるだけに
天井もはるかに高くて構内は広いんだ
贅沢にところどころ大理石も使っている
壁面や天井には彫刻が彫られていて
俗悪なポスターなんて一枚も貼っていない
まるで美術館の回廊を歩いているみたいだった

後でモスクワの建築物はパリの模倣ばかりと知ったけれど
地下鉄はパリのほうがずっと見劣りがした
東京や大阪とは比べものにならないね

べつに鉄道ファンではなかったけれど
当時発売されたばかりの液晶画面がついたビデオカメラで
地下鉄の駅ばかりを撮影して歩いた
モスクワを起点にすべての路線に乗った
ちょっとした仕事がらみでもあったから
ちゃんと三脚かついでバッテリーをたくさん持って

ビデオカメラは行き先々で大いに役立った
民警(ミリツァ)の警察官や地下鉄の職員に
不審がられたときでも
いま撮影した映像をすぐに再現してみせれば
驚いて喜んで感心してお咎めもなし
人だかりができても自信たっぷりに操作してみせれば
力関係は一人でも大勢を圧倒できるんだ
ただしひったくられたり壊される恐れがあるから
けっして機材を触らせたり持たせたりはしない

地上駅は貧しい人たちの寝ぐらになっていて
待合室は暖房で温められた小便と汗の臭いがこもっている
アメリカでは家を追い出されてホームレスになる人が多いけれど
モスクワのホームレスは故郷の家を捨ててきた人たちだそうだ
ホームレスといっても一人というのは少なくてほとんどが家族
幼児から夫婦その両親まで一家そろって駅で暮らしている

だからちょっとビデオ撮影はしにくいんだ
どこにレンズを向けても彼らの暮らしぶりを盗み撮りすることになるし
ビデオカメラは目立つから盗み撮りもできない
それに比べて地下鉄ではホームレスは閉め出されていて
目的地に向かって移動する乗降客ばかり
ずっと清潔で整然としている
撮影していても比較的に無関心な人が多い

それでもちょっと困ったことはあった
日本でいえば小学校5、6年生くらいの少年が後をついてくるんだ
地下鉄のモスクワ駅を撮影しているときに
近くで見ていたのは知っていた
たいてい一駅ごとに降り
ホームを端から端まで歩いて
アングルを決めるから
尾いてくる人間はすぐに見分けがつく

トウモロコシの毛のような黄色い髪で
ほっぺたが赤く痩せっぽちで
薄っぺらなジャンパーのポケットに
いつも両手を突っ込んでいて
つかず離れずの距離でついてくる
最初はかっぱらいかなと緊張したけれど
眼が合うとはにかむようにしているし
暖房がある駅や電車で遊ぶ子どもは多いから
暇を持て余した家出少年かもしれないと放っておいた

でもやっぱり気になるんだ
少し撮影に飽きていたのかもしれない
見物するのはおもしろいけれど
撮影手順は決まってきて単調になるからね
そこで手招きして少年を呼んでみた
ロシア語はまるっきりわからないから
ジェスチャーでファインダーを覗いてみろ
と躊躇している身体を押してやった

少年がいま見たばかりの
入線してくる電車と乗降客の様子を再生してみせたら
青い眼をほんとに丸くして驚いていた
やっぱりビデオカメラに興味があったようで
けっこう嬉しそうだった
お前を撮ってやるとカメラを向けたらあわてて逃げ回るんだ
ロシア人というのは田舎者が多いけど
あんまり真剣に逃げるんでちょっと驚いた
僕をTV局の人間で
自分がTVに映ると勘違いしたのかもしれない

これで気がすんだろう厄介払いできると思っていたら
その後も少年は相変わらずついてくる
手を振って追い払う真似をしてみせても
ちょっと立ち止まるくらいで
いつのまにか犬みたいに後ろを歩いている
貧乏たらしい子どもを連れていると
くみやすいと思うのか寄ってくる人がいてそれも面倒くさい
その人たちが少年に何かを尋ねたりして
顔を赤くした少年がモゴモゴしていると
関係ないのに何かこちらもみっともない気分になる

しかたなくまた呼び寄せて
重い方の三脚をかつがせてみた
助手代わりにしたら喜ぶかと思ったんだ
また青い眼を見開いたけど
あれは癖なのかもしれない
ちゃんとかついでついてきた
ひ弱そうだから持ち逃げしても
すぐに捕まえられると踏んでいた
本当にこき使ったわけじゃない
たいていは僕が持った
どこで降りていつ乗るか僕の気ままだからね

ようやく撮影を終えてモスクワに戻ったら
まだ5時前なのに地上はまっ暗だった
エスカレーターを上がったところで
少年に別れを告げた
振り向きはしなかったけれど
僕を見送っているようだった
車に向かって歩いていると
後ろからペタペタと駆けてくる足音がする
外国で駆け足を聴いたら気をつけなければいけないが
体重の軽い足音だから彼だなとすぐに気づいて
そのまま歩いていた

しまったと心で舌打ちした
撮影を手伝わして三脚を持たせたのだから
少し金をやるべきだったとね
振り返るとやっぱりあの少年で
走ってきたのと僕に何か云おうとして息が白かった
両手をポケットから出していたせいか
ちょっと怒っているようにも見えた
こいつ手袋もないのかと呆れた
金をくれというのだとは思ったけれど
あいにくルーブルは少ししか持ち合わせない
子どもにやるにしても少なすぎる
かといってドルや円では多すぎる

けれどみんなルーブルには顔を顰めドルや円を拝む国だから
きっと少年もドル札を要求するのではないか
そんなことを考えながら金を入れたウエストポーチをまさぐっていた
人通りのなかカメラや荷物を足元に置いて金を数えるのは
ちょっと危ない振る舞いだ
正直だんだん彼が疎ましくなっていた
掌のルーブルを取ってくれないかと差し出した
彼はいらだたしそうに何事か早口で繰り返し
万国共通の首を横に振る拒絶のジェスチャーをすると
逆に僕の掌に何か柔らかいものを握らせ
きびすを返して駅の方角に駆けていった
少年の後ろ姿は急いでいるようで
帰る家はあるようだと少し安心した
彼は一度もこちらを振り返らなかった
手を開いてみるとそれはキーホルダーだった
小さな熊のぬいぐるみの人形が付いていた
西側がボイコットしたモスクワオリンピックの
キャラクターになった何とかというクマだ

さすがにホテルに帰ったら疲れを覚えたけれど
日本語のわかる人をつかまえて
少年が別れ際に繰り返した言葉を想い出し
何度か発音してみせてようやくその意味を知った
どうも「礼」とか「償い」いう意味らしかった
ビデオカメラのファインダーを覗かせてくれた
そのお返しにキーホルダーを上げます
そういうことのようだった
お湯の出の悪いシャワーを浴び
夜は埃っぽいディスコになるダイニングルームで
夕食を摂る間マンガチックな小さい熊を眺めながら
少年の行動を考え直してみた

ビデオカメラを見せてやったお返しだとすると
このキーホルダーを僕に渡したくて
その後もついてきたと思えた
そうではなくて何か礼をしたいと思ったけれど
なかなか思いつかずにいたのかもしれない
それとも一目で安物とわかる上に
擦りきれたようなクマ人形だけれど
愛着があって手放すには
けっこう決心がいったのかもしれない
僕の手にこれを握らせたとき
ちょっと得意げな顔をしていたようにも思える
それが僕には何か見下されたような感じを受けたので
数えもせずにルーブル札を差し出したのかもしれない
ようするに少年は好意には礼をもって報いるという
男の子らしい矜持を僕に示したということらしい

もちろん少年がくれたキーホルダーは
どこかで失くしてしまった
僕はまだ旅の途中で
次に訪れるはじめてのパリに胸を高まらせていた
少年の顔はもう忘れてしまった
ただモスクワの地下鉄が立派だったことは
いまでも覚えている

(9/17/2001)
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謝る男

2001-09-16 18:45:00 | ダイアローグ
謝る男

ごめんな
俺はもうダメだ
お前には応えられない
お前が俺にではなく
俺がお前に依存している
とっくに気づいているんだ
俺は俺ほど見下げ果てた人間を知らない
もうこのまま消えてしまいたいくらいなんだ

ごめんな
とーちゃんが忘れました
明日朝一番で買ってきます
ヤマキじゃなくてにんべんね

ごめんな
後5年かそこら
お前が成仏するまで
とーちゃんのお膝はお前のものです
もう邪険に振り払ったりしません

だからそんな隅で俺を責めて鳴かないでくれ
こうして謝っているんだから
留守番電話を勝手に解除しないでくれ
俺のスコッチグレンの靴に小便を溜めないでくれ
俺の寝顔に肛門を押しつけるくらいはかまわないから

(9/16/2001)
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シベリアにて

2001-09-15 22:53:00 | ダイアローグ
シベリアにて

ちょうどゴルバチョフから
エリツィンに代わる頃
シベリアを旅したことがある
クリスマス前の冬だった
何もないところでねえ
文化果つる場所といったら
失礼だろうが
建築物も橋も通りにも
色彩もデザインも趣きも
心弾むものは何もなかった
僕がもう三十を過ぎて
若くなかったせいもあるだろうな

警察官の月給が
長靴1足と等価だったから
みんな必死な表情してた
若い男には卑しい顔つきが多かったな
飢えていると日本では聞いてたけれど
食堂車でパンにバターを
載っけるように食べているのを見て
笑ってしまった
僕たちにはバターは塗ったり
舐めるものだけど
ロシアのバターとは
塊を食うものなんだ

深刻な物不足は
昨日今日はじまったわけじゃない
ウォッカは自家製だし
野菜も庭でつくったり
物々交換がけっこうあって
自分の技能によっては
サービス交換や副収入も稼ぐ
あの国を訪れる外国人が
必ず聴かせられるジョークに
政府は給料を払うふり
労働者は働くふり
というのがあるが
かなり前からそんな二重経済なんだ
国営食料品店の棚はガラ空き
現金が手に入る自由市場には
食物が溢れている
国旗のように象徴的な現実なんだ

とはいっても
むき出しの格差には
やっぱり気が滅入る
街角ではたぶん年金暮らしの老婆が
ひねた人参や小さな玉葱の数個を
通行人に売っている
これが中年男になると
その数が1、2個増える
だいたい黙って立っているだけ
朝見かけて夕方にも立っている
自由市場の半分以下の値段でも
さっぱり売れないんだな
僕は高級ホテルで
赤いトマトにゆで卵
冬のシベリアではだが
大変なご馳走を
食べている
法外な高価でね
戸外の気温は零下くらいで
思ったより寒くはなかったけれど

抑留されて死んだ
日本人兵士の墓地にも行った
ほかに見物するところもなくて
申し訳ないけどしかたなくだった
痩せた犬しか見かけない
雪に埋もれた町はずれに墓地はあった
僕たちが車を止めると
どこからか3人ばかりの
太ったおばさんがあらわれ
小さな花のブーケを抱え
何か云って笑いかけてくるんだ
日本人の墓参目当ての花売りらしい
赤や緑や黄色の
原色のネッカチーフを巻いて
とうの立ったマトリョーシカだな

もちろん相手にせず
墓地に入ったのだけれど
雪に埋もれているから
ここだと教えられても
墓地なのか空地なのか
何の感慨も湧かずに
ぼんやり立っているしかない
さっきの花を買っていれば
少しは格好ついたのにと
後悔していると
日本人は線香代わりに
煙草に火をつけて供えると教わってね
僕もそうした

つまんないことしているな
とすぐに思った
だってマルボロだもの
ちょっと話がそれるが
国家や経済が崩壊したり
機能していないとき
つまりその国の貨幣がゴミ同然である場合
それに代わる通貨はマルボロなんだ
1カートンのマルボロはちょっとした資産になる
キャメルでもケントでもなく
なぜかいつからかマルボロ
無秩序がふつうという国ではね

それはさておき
墓石らしきところの雪に
火のついた煙草を
2本さしてはみたけれど
あの戦争の時代には
フィルター付きの煙草なんてなかっただろうし
いがらっぽいロシアの煙草の方がマシだろうと
我ながら嘘くさいなと思いつつ
型どおりしゃがんで拝んだわけだ

安らかに眠ってください
とか念じようとするんだけれど
兵隊さんたちは迷惑だろう
こんな所に眠っていたくはないだろう
という思いの方が強かったな
墓地の出口で振り向いたら
煙草は風で倒れていて
投げ捨てたのと変わりなかった
帰りがけに
また花売りおばさんたちが寄ってきたけれど
必要もないのに買うわけないよ
しおれた花なんて

(9/15/2001)

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男と女のいる舗道

2001-09-11 23:28:00 | ダイアローグ
男と女のいる舗道

レストランやカフェで
女性を壁際に座らせて
自分は通路側に座る男がいる
彼女によい席をあげた
自分は二の次でいい
そう思っているのだろうが
わかっていないなと思う

第一に
彼女の視界に入るのは自分だけ
そんな有利な状況を自ら放棄している
君は何のためにその店に彼女を誘ったのだ
壁際に座れば店内を見渡すことになる
インテリアや運ばれる料理
ギャルソンやほかの客の様子に
彼女はどうしても気を取られてしまう
慣れない店で気疲れするかもしれない
どうしても君への集中力を欠いてしまうのだ

君が壁際を占めれば
慣れた店のいつもと変わらぬ光景を確認し
次なる場面の変化を予測すらできるだろう
たとえば簡単な話
オーダーするのにいちいち振り返り
ギャルソンを探す必要がないというだけでも
雲泥の違いがあるのだ
メニューを吟味しているときに
近づこうとするギャルソンを
首を振って制するという
高度な技も使えたりする
君は多くの情報を持ち
状況を的確に把握している
彼女を店に入ってきたままの
白紙の状態に留めるのだ
背後で何が起きているかわからない
無防備だという不安が
君を頼もしく感じさせ
顔だけでなく心も君に向けさせるのだ

第二に
店内や人の様子に気を配り
万が一に危険なことや不測の事態が起こったときは
君にはすばやく動ける用意がある
見知った男女にバッタリという場面も考えられる
躓いたギャルソンにコーヒーをかけられる
そんな間抜け役も避けられる
ついでにいっておくと
彼女がコーヒーをかけられたときは
君はすぐに立ち上がり
事態を周囲に知らせる騎士役を演じよう
視線を集めるヒロイン役を彼女に振るのだ
それは2人だけの小さな事件として
思い出に残るエピソードのひとつになるだろう
間違ってもギャルソンを叱ってはいけない
3秒くらい彼及び彼女を見つめて
「この後、ちゃんと対応してくれよ」
と心で念じるのだ

似たような課題として
君は車道側を歩くべきかというのもある
上記した同じ理由から
もちろん君が車道側を歩くべきだ
ただし店内以上に危険で予測不可能な外では
周囲への目配りに忙しいあまり
結果的に彼女のまわりをウロチョロしてしまい
彼女を無用にイライラさせることが往々にしてある
そんなぶざまを避けるには彼女との距離を狭めればよい
もっと密着して肩や腰を軽く抱いて歩けば
問題ははるかに困難ではなくなる

右折と折り返すときくらいなはずだが
彼女が車道側に変わってしまったときでも
少しも慌てる必要はない
「こりゃ、危ないな」
と軽く力を込めて彼女を制御し
反対の手に抱き変えればいいだけだ
彼女にとってはちょっとした驚きであり
君のとっては嬉しい役得である

それまで君の手指は彼女に軽く触れ
添えるほどでいい
話が上の空になっても
そこに神経を集中させて
手指で語らっていると思うべきだ
君が右利きなら
君の左手は
彼女の左側面の
腰や脇腹、肩や頭、髪など
すべてに触れることができる
右手ほど器用には動かず
もどかしいところが
抱いているというより
触れて話しかけている
ということなのだ

少し歩こうと二人で決めて
肩や腰にかるく手を回そうとして
「嫌らしい」
という女はよほど頭が悪いか
君が相手にされていないのだから
いっしょに歩くという心弾む時間はあきらめて
早く立ち去った方がいい
ある意味ではセクスなどより緊密な
運命共同体的な合意を必要とするのだ
いっしょに歩くということは
下手すると車や人や自転車で怪我するわけだから
二人の歩調が合わないときも
やはり考え直した方がいい
いうまでもないが
彼女が一日中立ちっぱなしの仕事である場合は
話はまったく別である
ゴールを切ったばかりのマラソンランナーに
二人三脚を強いるような真似をしてはいけない

ついでにいうと
並んで歩くというのはセオリーではない
どちらかが前後して歩いてもかまわない
彼女が彼の服の裾をつまんでついていく
その逆も悪くない
大切なのは互いをじゅうぶんに意識しているかどうか
同時に樹木や草花ショウウインドウ路地通行人犬猫鳥
など視界を横切るすべてに
二人の好奇心や関心が全開しているかなのだ
もたれあって歩く男女はいかにも見苦しく
後者が乏しいことが問題なのだが
ホテルか相手の部屋をめざして
移動しているだけなのだろうから
大きなお世話というものだろう

歩行や散歩の相手として
もっとも避けねばならない人とは
たとえばローマにいてパリを語り
青山にいて京都について話す人だろう
東京にいて故郷を語るのはもちろん別の話だ
眼前の事物や現象を受け入れずインスパイアされず
近くも遠くも
過去の似た体験を話して倦むことない人は
つまらない人である
少なくとも
君もまた受け入れられていないと知るべきだが
誰をも受け入れない頑な人だから
それほど気にしなくてもよい

歩くことによる精神や身体の活性化については
よく知られているので今回は省略するが
そうして研ぎ澄まされた五感をもってしても
傍らの彼女を好ましいと思うとき
君を見ていない横顔を眩しく感じるとき
君は君の感情の淵源を知るだろう
間違いなく正確に

いうまでもないことだが
彼女が彼であっても
そう大きくは違わないはずだ
また一方が車椅子など
何らかの障害があるときでも
歩く場所や触れる箇所が限られるだけで
君がなすべきことにほとんど変わりはない

しかし、君の場合はそれ以前の問題があるな
まず、足と手を同時に出してはいけない
ほら、蟹みたいに横歩きすると電柱にぶつかるぞ
こら、嬉しくとも人の周囲を走り回るな
犬じゃないんだから

(9/11/2001)


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くれる?

2001-09-09 23:05:00 | ダイアローグ
くれる?

わたしが食べているのを見ていてくれる?
顔を上げたら
ちょっと微笑んでうなずいてくれる?
わたし私の数少ない美点を見つけてくれる?
約束の時間に遅れるのは
まじめ過ぎるからだと思ってくれる?
髪型や服装が変わったのに気づいてくれる?
「似合うかしら」と訊いたら
ちょっと大げさなくらい褒めてくれる?
わたしのくだらない話を最後まで聞いてくれる?
あなたのことを家族や友だちに
少しずつ打ち明けているのをわかってくれる?
煙草を吸うのはやめてくれる?
身体には悪いのだから
わたしの前だけでもいいから
退屈しているんじゃと不安にさせないでくれる?
見つめかえしてくれる?
手を握っていてくれる?
あなたの話を聴いていなくて
形のよい眉や茶色の瞳
何よりセクシーな唇の動きを追っているだけだから
間抜けな相づちをしてもがっかりしないでくれる?
わたしはそれほど美人じゃないし
頭もよくないわ
素敵な服を選ぶセンスもないけれど
あなたがくれたお花は
とっても美しいと思う
あなたにあげられるものは何もない
それでも世界中の誰よりも
あなたを信じている
このわたし自身よりも
それを知っていてくれる?
だから
さっき声をかけてきた
あなたのお友だちに
わたしを紹介してくれる?

(9/9/2001)


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