「
タクシー運転手 約束は海を越えて」をCATVで観ました。
傑作です。アメリカアカデミー賞の外国語映画賞の韓国代表映画ですが、すかした芸術作品や小難しい政治映画ではありません。韓国では映画は有力な輸出産業のひとつですから、「光州事件」を扱って事実に基づきながら、誰でも楽しめるエンタティメント映画に仕上げています。
たいていの人は、この映画を見た後、二つのことに気づくはずです。
第一、日本ではこんな映画は作れない。韓国映画のはるか後塵を拝している。そう思えるほど、質の高い映画である。
第二、クライマックスのカーチェイスシーンは、いくらなんでもフィクションだろう。そんなご都合主義があるものか。
第一については、私見ですが、ここ10年くらいに封切られた作品を比べても、質でいうなら、韓国>中国>香港>台湾>日本という順です。これに最近、躍進がめざましいインドネシアやフィリッピン、タイなどの映画産業が、娯楽アクション分野で日本を追い上げています。
また、ソウルのタクシー運転手を演じたソン・ガンホや彼を助ける光州のタクシー運転手に扮したユ・ヘジンの二人を名優だと唸らない人は少ないでしょう。ほかにもたくさんの優れた俳優が韓国映画では活躍しています。映画には役者から入るのがつねなので、韓国映画を観たとたん、なんてユニークな俳優がいるんだと驚きました。
第二についてはその通りでしょう。ただし、軍から銃撃されて倒れた負傷者を助けようとした光州のタクシー運転手がいたことは事実のようです。また、4台どころか、映画をはるかに上回る大規模なタクシーやバスの車列が集結して、軍の弾幕を前に決起したことも記録されています。
私たちが、「光州で暴動」という記事で知っていた、1980年の韓国の「学生を中心とした反政府デモから暴徒化」というものではなかった、そうした政府発表の裏側の事実(惨劇と抵抗)が鮮烈に描かれています。
映画『タクシー運転手』神話の構造と実在のタクシー部隊
https://www.huffingtonpost.jp/hotaka-sugimoto/taxi-20180515_a_23433398/
この軍が民衆を弾圧する迫真的な街頭シーンは、誰もがすぐに天安門事件を想起させることでしょう。
中国当局、韓国映画「タクシー運転手」の議論を禁止、六四天安門事件連想で
https://www.epochtimes.jp/2017/10/28740.html
ソン・フン監督ら、スタッフは、当然、76年の天安門事件のこのエピソードを念頭に脚色したのでしょう。当時、天安門事件と光州事件を比較考査した論考があったかどうか。連鎖とみるべきかどうか。いずれも私は不案内だが、現在から見直す契機になってもよいはずです。ただし、天安門事件はいまだに中国政府によって、「なかったもの」とされているので資料が乏しく比較は難しいものがあります。
ふたりの車夫
https://gamayauber1001.wordpress.com/2017/06/15/arickshawman/
したがって、第2についても、「光州事件」において、タクシー運転手たちの負傷者救援はあった、数百台の車列をつくるほどの「決起」もあった。事実を元にした脚色と考えてよいはずです。
御用あって暇がなくても、観ておくべき映画です。
(止め)