コタツ評論

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靖国の嘘

2005-10-19 12:59:11 | ノンジャンル
先の戦争で亡くなった人について、私たちの国家は適切な対応をしてこなかったということは気にするべきだ。国家として適切な対応をしてこなかったのに、英霊と祀ったり戦争の犠牲者と悼んだり、ましてや慰霊などというのは欺瞞を通り越して冒涜と呼ぶべきだろう。適切な対応とは何か。まずは遺骨収集である。靖国神社法案の上程の頃から、一部の有志の細々とした活動を除いて、遺骨収集活動は実質的に沙汰止みになった。兵士たちの遺骨の大半はアジア各地の戦地で野ざらしのままである。沖縄を訪れば、いまでも各地にしゃれこうべはざくざく残っている。荼毘に臥されてはじめて遺骨と呼ぶ。ただの骨片である。もちろん、それは国家の責任であるが、そうした国家を60年認めてきた国民の無責任を問う必要はないか。もういいかげんに靖国をめぐる嘘っぱちの言説を斥けるべきだ。多くの人は、戦争で死んだ人のことなど忘れてきたのではないか。ひゅんと死んだ竹内の詩にあるように、男たちは事務に、女たちは化粧に忙しかったのではないか。戦後直後から今日まで。不戦の誓いと平和の祈念を政治家の口から聞く度に、とくに遺骨収集の所管官庁である厚生大臣をつとめた政治家が心底から信じているかのように口を尖らすのを見るとき、「嘘をつけっ」という声がどこからか木霊してほしいと思う。しかし、死者の木霊も言霊もない。ないのにあるというのはバカであり、ないのにあるかのように振る舞うのは悪人である。靖国を凝視すれば、そこまでいく。靖国か、新たな慰霊施設か、どちらも必要ないと断じたいところだが、虚偽を具体化しているだけ、靖国の方が実際的だろう。

レイモンド・カーヴァー傑作選

2005-10-18 12:57:26 | ノンジャンル
この2,3日、『レイモンド・カーヴァー傑作選』(中公文庫 村上春樹訳)を仕事をさぼって読んでいる。その気になれば、2時間くらいで読める短編集だが、ひとつ読むとお腹いっぱいになるので、まだ半分過ぎたあたり。村上龍とか村上春樹とかは、一度も読んだことはないと思いこんでいたが、「大聖堂(カセドラル)」は既読だった。どこかのアンソロジーでも読んだのか。レイモンド・カーヴァーとポール・オースターがごっちゃになっていた。ポール・オースター原作の映画を何本か観ていたせいかな。カーヴァーの方がはるかに、「足下に流れる川」が深い。村上春樹の訳文はたいしたもの、といったら村上ファンから驚かれた。村上春樹を読んだことがなかったのでしかたない。村上二人の小説はタイトルに引くのだな。おっさんになると食指が動かない。「サマー・スティールヘッド(夏虹鱒)」に唸った。ネタばらしはできないが、ネタとしては破綻していることは誰でも読めばわかる。しかし、シュールに逃げていない。それどころかえぐいほど生々しい。カーヴァーは詩作もする人だそうだ。この作品は、詩と小説の境界にあるように感じた。傑作選だから、ベストヒットアルバムみたいなものだろう。カーヴァーのB面を聴きたくなった。世間は、「ちょっといい話」や「ちょっと怖い話」を好むが、ちょっとな話なんてないんだというカーヴァーの声が聞こえてきそうだ。

真夜中の相棒

2005-10-17 12:56:36 | ノンジャンル
というひどい邦題(文春文庫 テリ・ホワイト)だが、私の心に残る名作。ブックオフによくある。しみじみ切なくなります、肩寄せ合って生きるマックとジョニー。そしてサイモンが登場して、お約束の3Pになります。作者は女性。アメリカのやおいです。カーヴァーの「僕が電話をかけている場所」の僕とJPのように再生しない。友情じゃなくて恋の道行きだから。奈落の底へまっしぐら。

昔の名前で出ています・・・

2005-10-04 12:54:52 | ノンジャンル
ま、そのう、わざわざ聴くという歌ではないというか、パチンコ屋とかラジオや有線放送などから流れているのをふと耳にする、辛い想い出とだぶる、くしゃくしゃの泣き顔、突っ張った両腕、濡れて光る足下のネオン、安物のサンダル、「京都にいるときゃ~」、胸が詰まるわな。たとえ、男の作詞家が主に水商売の女を想定して書いた他愛もない歌詞でも、歌い手によってはリアルになる。ま、嫌いな人は寒気がするくらいこの手の歌を避けるから、一度、小林旭の民謡を聴いてみるとよい。トランペットのように器楽的な声によって、聞き慣れた民謡がまったく違って聴こえるだろう。

ノーリターン

2005-10-04 12:52:16 | ノンジャンル
あれはなんと呼ばれているドレスなんだろう。足首まで覆ったロングドレスなのに、これでもかとばかりに身体の線を強調した、昔の結核手術痕のように背中を大きく開けた銀ラメのあのドレス。「ハッピーバースデー、ミスタプレジデント」と歌うあの有名な映像のマリリンは、一足先に黄泉の国から甦ってJFKを迎えにきたような甘美な恐怖をまとっていた。