緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

一度の外来

2007年04月04日 | 医療

緩和ケアについて
よく勉強してくれているレジデントから
電話がありました。

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お元気でしたか?
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「80歳を越えた方で
 初診で小細胞肺がんと診断がつきました。
 お元気ではありますが、化学療法は薦められず
 ホスピスをということになりました。
 ご本人も緩和ケアを理解されています。
 地域のホスピスの外来受診までの間で
 1回だけになるかもしれませんが
 先生の外来にも受診していただこうと思っているのですが・・」

私の外来にいらっしゃいました。
緩和ケア病棟訪問の2日前のことでした。

「この年ですし、医師の話から
 抗がん剤はもういいなあと思ったのですが
 息子達は、何故治そうとしないのかと言うのです。
 抗がん剤も受けず
 ホスピスに入ろうとする私の選択は
 間違っていたのでしょうか。」

「いいえ。年齢やがんの広がりの状況から
 日常生活を送る時間を最大限にするには
 体の力を温存できる今の選択がよいと思います。
 諦めているわけでも
 立ち向かう勇気がないわけでもありません。
 最良の選択を勇気と誇りをもってなさったと思います。」

そう言ったとたん、ぽろぽろと泣き出されました。

それから2週間後、お手紙を頂戴しました。

あの時の外来で
やっと緩和ケアを受け入れることができたこと
そして、迷いなくホスピス外来を受診できたこと
後は思い残すことなく死んでいくと・・


返事を書きました。

がんだけが、今の人生を決定づけているものではないはずです。血圧など健康に気をつけて、どうぞ、お大切に生活をなさってください・・


そして、再度お手紙が来ました。

自分は先生の一患者にすぎないと思っていました。
返事が来るとは予想もしていませんでした。
たった、一度の外来で。
先生は私に心を注いでくれました。
一期一会だったのだと感じました。

一期一会・・・
ありがとう。

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6 コメント

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不思議なご縁です (キャサリン)
2007-04-05 04:28:12
今年、87歳になられる癌友がおります。81歳で逝った母と同じ歳です。5年前の入院時、お向かいのベットにおられました。 胃癌、全摘出の後で食事が採れず…私と同じ歳の娘さんが、大腸癌から膀胱に転移。近くの病院中。バナナがきっかけとなり、食べられる様になりました。 秋のお彼岸過ぎ「室内灯が眩しい」と涙を拭っておられました。 翌日、娘さんが逝かれたと。3日間、ふたりで泣いておりました。昨年末、ご主人を亡くされました。 住まいが近く、親しくさせて頂いております。 3歳の時に両親を亡くされ、唯一の弟さんを戦争で亡くされたそうです。 瞳の美しい、小柄な方です。
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Unknown (アビシニアン)
2007-04-05 05:03:19
一期一会。
緩和ケアに携わると、まさに一症例一症例が「一期一会」ですね。コミュニケーションがとれて、冗談も交えてお話をしたりお話を聞いたりしていた患者様がそのうちいなくなってしまう...
それだけに、その残された時間をできるだけ苦痛なくすごしてもらいたい...
僕の数少ない症例の中で、症状緩和があまりうまくできなかったケースがありました。実はそのケースが自分自身ではトラウマだと思っていました。それがきっかけで緩和ケアの世界に身を投じようと決心しました。そういう方って多いのではないのでしょうか?うしろめたさからの逃避のためか、必死で猛勉強して、緩和ケアに関して自分に対して非常に厳しくしていました。でも、先生のブログをみさせてもらっているうちに、その考え方が間違いだったと感じました。トラウマや逃避からくる後ろ向きの価値観では、必死すぎて悲壮すぎて余裕がない。すべては、「一期一会」なのですね。
これから出会うかもしれない緩和ケアを必要とする患者様に対して、苦痛緩和はもちろんのこと、「一期一会」の気持ち、お互いに出会えてよかった、お互いにありがとう、と言えるような、そんな人間関係ができればいいな、と思います。緩和ケアといのは、とても「悲しい」けれど、とても「すばらしい」ケアなのだと感じました。
先生のブログをみさせてもらっているうちに、どんどん自分の価値観(緩和ケア、生死、医療、在宅での看取り)が変わって行くのを感じます。ありがとうございます。

「桜...」の話、感動しました。
そして、本の入荷が書店から連絡きました(地方なもので)。たのしみ ^^
返信する
コメントありがとうございました。 (aruga)
2007-04-06 00:47:08
キャサリンさん
がんをめぐってご友人が沢山いらっしゃり、それぞれの方に素晴らしい思い出があるのですね。魂を揺さぶられるような感情を共にされた仲間は、本当に強いつながりなのだと思います。

アビシニアンさん
自分で意識していないためか、お褒め頂いたような、照れくさいような気持ちでおります。緩和ケアについて、講演をしてほしいと言われることがあるのですが、自分の中で意識していない姿勢のようなものをどのようにすれば伝えられるかなあ・・と未だにまとまっていないのですが。
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Unknown (アビシニアン)
2007-04-06 04:22:15
ブログからさかのぼってのコメント投稿すみません。意識していないからこそ、すばらしいと思っております。それに、このブログをみるだけで十分に伝わっています。「さらに上級なスキルをめざす がん疼痛緩和」入手しました。じつは前回出版された本は、ボロボロになってしまい、セロテープでつぎはぎしていました(^^) 特に、【神経障害性疼痛への対応】やNSAIDsの項がさらに充実して、わかりやすくとても勉強になりました。より実践的な内容になっていますね。他にもたくさんリニューアルされたコーナが...愛読書の一つになりそうです。この場で質問しても良いかわかりませんが、すみません1つだけ。【在宅でもできる持続皮下注投与】の項で、レスキュードーズとして「15分以上の感覚をあけ...」とありますが、前回出版された本では「20分」とありました。変更された理由があれば、教えてもらいたいのですが。また、先生の病院で持続皮下注のレスキュー間隔を15分とされた根拠(薬学的であればなおさら)を、もしできれば教えていただきたいのですが。薬のことはこちらが本職なのですが、すごく気になって気になって眠れなくなってしましいました。無理言ってすみません。
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皮下注のレスキュー間隔 (aruga)
2007-04-07 00:05:07
ご質問ありがとうございます。以前、安全をみこんで20分としていました。
前回の本を出した後で、バクスター社のディスポ-ザブル・ポンプのPCAボタンに1回/60分だけではなく、1回/15分のものが発売されていることを知りました。(遅いよ!)
間隔20分とすると、混乱を招いたり、この15分間隔で投与できるポンプは使用してはいけないと思われてしまうかもしれないと思い、大差はないことから15分間隔で統一するようになりました。
前の本、そんなに愛読して頂き本当にありがとうございました。
今回、もう一つ力を入れたのは、貼付剤をフェンタニル注射剤へ切り替えるときの考え方です。色々危ないことが起きていると聞いたものですので、一生懸命書きました。
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Unknown (アビシニアン)
2007-04-07 02:28:00
丁寧なお答えありがとうございます。正直、お返事がいただけると思っていませんでした。このコメントに対するお返事はいりません。先生はいつ眠っているのかと、心配していたりします。どうか、ぐっすりお休みになって、このブログをこれからもずうっとずうっと続けてください。先生のブログを楽しみにしている医療関係者はたくさんたくさんたくさんいます。一ファンより・・・
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