プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

香山リカ著『いまどきの「常識」』(岩波新書)

2005-11-13 20:37:52 | 読書ノート
精神科医で帝塚山学院大学教授の香山リカさんが、いまの世相のなかに無意識的に広まり、定着しつつある三十の「いまどきの常識」をとりあげ、それらの常識にコメントを加えながら、その問題点、それを生み出す現代日本社会の問題点を鋭くかつ軽妙に明らかにしています。「反戦平和は野暮」「お金は万能」「世の中すべて自己責任」「現実には従うしかない」「強い者には逆らうな」、理想を語ることが忌避され、息苦しいなかで大勢に流される現代日本社会の世相は、本当にこれでいいのか、香山さんは鋭く問いかけます。よりよい明日を願うひとびとにとって、「いまどきの常識」を説得的に克服する地道な努力が避けて通れない課題となっていることを教えられたように思います。
私がもっとも印象に残ったのは、「“偉い人”には逆らうな」の章です。香山さんは、大学の「青年期の心理学」の授業の途中で、毎年、夭折したロックシンガー「尾崎豊」の話をし、曲を聴いてもらって感想をきくようにしているそうです。大学二、三年生のあるクラスの感想レポートに「ワルぶってるだけではないか」「おとなに支配されてるなんてただの妄想だ」「どうして学校や先生を恨んでいるのか理解できない」「理由はどうであれ、物を壊して人に迷惑をかけるのはいけない」「みんな不満はあっても我慢して生きているんだから、ひとりだけ身勝手なことをするのは許されない」・・・このようなことばが並んだそうです。香山さんは言います「彼らは決して、今の生活に不満がなく毎日が楽しいわけではない。それどころか、その心の内をつづってもらうと、“自分には居場所がない”、“どこにいても息苦しい”と、“生きづらさ”を訴える若者も少なくない。・・・ただ、その感情の矛先が、尾崎豊の時代には、“親、教師、世間、社会”に向かっていたのに対し、今の若者は、ときには反発も感じるけれど“みんな我慢しているんだから”とそれを抑え込んでいるようだ。」さらに、今気になるのは、多くの人が「決まってしまったことなんだから」と口にすることだ。「有事法制そのものには疑問もあるけれど、成立してしまったんだから協力するしかないじゃないか」、「自衛隊のイラク派遣には賛成できないけれど、行くことになったからには無事を祈るべきじゃないか」などなど。
「決まったことには逆らわない」、「強い力をもっている人の言うことはきく」、「みんな従っているのに自分だけ浮いたことはしない」、こんなことを続けていたら、「本当にリーダーや権力者の言うことが正しいような気になってくる。小泉首相の支持率がなかなか下がらないのも、こういう仕組みによる側面もあるのではないだろうか」と香山さんは、問題を投げかけています。
わたくしたちは、社会に従うことをそれじたい、「支配」と感じた尾崎豊の感受性を忘れないようにしたいものだ。

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1 コメント

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「常識」、括弧付きなのがポイントですね (クルト)
2005-11-20 22:10:27
この本、読みました。

面白いですよ、これ。

「常識」、括弧付きなのがポイントですね。

マスコミに出て、大声で偉そうな事を言っている

人って、時勢が変われば、前に言ったこと、

まるで無かったように、別の事をのたまうの

ですよ。

相手だって、商売なんだから、お笑いと一緒で

その時のネタで生活している。

見ている人も、自分だけは賢く立ち回っていると

思っていながら、要するに踊らされているだけ。

いいように利用されているのに気づいているのに、

どうしていいのか、判らない人達の群れ。

それしか思いつかないのが哀しいですね。
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