goo blog サービス終了のお知らせ 

Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

Precision medicineが集中治療に入ってくるのはいつの日か?

2022年02月08日 | EBM関連
最近、改めてこのことについて考える機会があった。
勉強のため、これを読むことにした。

Shah FA, Meyer NJ, Angus DC,
A Research Agenda for Precision Medicine in Sepsis and Acute Respiratory Distress Syndrome: An Official American Thoracic Society Research Statement.
Am J Respir Crit Care Med. 2021 Oct 15;204(8):891-901. PMID: 34652268.


以下、勉強したことと思ったこと。
「」は上記の文献に書いてあること(の意訳)。

・「Precision medicineとpersonalized medicineは時々同じ意味で使われるが、実際は異なる。最終的には個人個人に合わせた治療が望ましいが、実際はそのレベルに到達するのは困難で、現状ではprecision(高精度)止まり。」
Wikiにはこう書いてあるが、これはちょっと違う気がする。がん治療のようなprecision medicineの花形ですら、personalizedと言えるレベルには達していないはず。

・「非集中治療領域でのprecision medicineの発展を見ていると希望を持ちたくなるが、敗血症やARDSは病態がもっと複雑だし、治療方針を数時間で決定しないといけないので遺伝子検査の結果を待つ余裕もない。なので、通常診療で測定される項目を用いたprecision medicineが最初の一歩になるだろう。」
これだけ読んでも、本当の意味でのprecision medicineが集中治療に入ってくるのは当分先だろうということが分かる。

・「重要なことは、もしそういう治療があるとしても、厳格に行われる前向き研究によって確認される必要がある点だ。」
ここも大事。RCTのサブ解析の結果とか、観察研究でのリスク因子などを使って、ICU患者の治療方針を個別に行っていくことがprecision medicineだと思っている人がいたら、それは大間違い。

・「phenotypes、subphenotypes、endotypes といった言葉が一般的に使われるが、ここではまとめてサブグループと呼ぶ。」
とくにphenotypeっていう単語はよく見かけるようになった。かっこいいけど、結局はサブグループのことだからね。ちょっと流行り過ぎなんじゃないかなー。

・「無作為化なしに、ある予測因子を持った患者がある治療に対してより反応しやすいかどうかの因果関係を判断するのには限界がある。」
RCTで治療が有効なサブグループが見つかる。観察研究で治療に反応しやすいサブグループが見つかる。それイコール、そのグループに対してその治療法が選択可能、ということにはならず、サブグループを対象としたRCTが必要だ。EBMの基本ですね。

・「Adaptive trialのような研究デザインが重要だ。」
例えば研究途中でこの群で有効そうだとなればその群のみを対象とするように変更したり、予定されたサンプル数が少なそうなら増やしたり、そういう研究手法が今後はどんどん行われていくのでしょう。有効性が示唆されたがサンプル数が足りず証明には至らない、みたいなのは悲しいものね。

・「データサイエンスの進歩によってprecision medicineを促進しよう。」
機械学習の方が普通の多変量解析よりも予測精度が高いことは、集中治療領域でも多くの研究が示しているので、治療が有効かもしれないサブグループの特定などにも今後は利用されていくのでしょう。ただ、この機械学習の手法を使ったら予測精度が上がったよ、という研究止まりで、実際にそれを利用してRCTをしたとかはまだ見たことがない気がする。

・「precision medicineが進歩しても、資源の豊かな国だけでしか利用できません、とかじゃダメでしょ。」
ほんとにそうだ。話はずれるが、金持ちの国によるコロナワクチンの買い占めは悲しい出来事だった。

・「適切で持続的な資金が必要だ。」
世の中、結局は金なのよね。

まとめ。
現状ではprecision medicineをICUで行うことはできないし、がん治療レベルのものが入ってくるのも当分先。
「患者さんの病態に即した治療をしよう」というのは、カッコよく聞こえるけど、現状では「なんちゃって」です。

追伸。
AJRCCMという雑誌は特に人工呼吸関連についてEBMから少しズレている、という印象を僕は持っているので、precision medicineについて検索してこの文献を見つけた時にはちょっと心配したのだけど、読んでみたらちゃんとした内容だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

集中治療系雑誌のimpact factor 2020

2022年01月13日 | EBM関連
今更ですが、あけおめです。
最初は、去年やり残していたことを。



結構動きがあったよ。

・AJRCCMがぐっと伸びて、単独トップ。
・ICMが2年連続で低下。
・Crit CareがCCMを完全に抜き去って、Chestと同じに。
・Annalsが第3グループから抜け出した。

掲載されている文献の内容を見る限り、Crit Careが難しくなったという印象はない。狙い目だ。
それとAnnalsはフランスのICU学会の雑誌で、日本ではあまり馴染みがないけど、ここまで高くなると無視できないね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベッドサイドでのエコー:目で見て満足する医療かEBMか?

2021年12月08日 | EBM関連
先日、「クレアチニンが上昇しているので心エコーをしたが、pre-renalの可能性は否定的だった」という発言を聞いて、「マジか?」と驚いていたら、ちょうどこれを読んで、そうだよね、と思った。

Bernstein E, Wang TY.
Point-of-Care Ultrasonography: Visually Satisfying Medicine or Evidence-Based Medicine?
JAMA Intern Med. 2021 Dec 1;181(12):1558-1559. PMID: 34633409.


ICU界隈でも、国内外を問わずエコーは大流行。文献はどんどん出るし、セミナーもたくさんある。
でも分かっていることは、「エコーをちゃんとやると、何かの診断精度が向上する」ことだけ。裏を返せば、ちゃんとやらないと間違った情報を元に有害なことをするかもしれないし、診断できてもそれが予後改善につながるとは限らない。だから、
"We recommend making POCUS use more evidence-based by focusing research efforts on assessing the role of POCUS in patient treatment and clinical outcomes."

たしかに、身体所見や聴診が予後を改善することを示したRCTはない(気がする)。でも、その限界は誰でもすぐに思い当たるので、乱用は避けられる。
エコーは体の中が”見える”ので、なんかすごく正しいことをしている気がしてしまい、拡大解釈が容易にされてしまいそう。上記のpre-renalの件はその典型で、腎臓がどれくらいの血流を欲しがっているかは心エコーではわからない(腎エコーでもわからない)。

これは勘だけど、ICUからエコーがなくなっても、患者予後への影響はごく僅かでしょう。逆に言えば、エコーを一所懸命にやっても、患者予後の改善はごく僅かでしょう。
もちろん意義はゼロとは言わない。例えば、患者さんが突然ショック+低酸素になった、聴診したら右の胸が聞こえない、エコーで気胸と診断、レントゲンで確認する前にドレナージしてショックから離脱、なんてのはアリでしょう。

ただ、今の流行はちょっと行き過ぎている印象はある。
自分のやっていることが"Visually Satisfying Medicine"になっていないか、気にしてみたらどうだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ケースレポートから国際多施設臨床研究へ

2021年10月21日 | EBM関連
Finfer S, Cook D, Machado FR, Perner A.
Clinical Research: From Case Reports to International Multicenter Clinical Trials.
Crit Care Med. 2021 Nov 1;49(11):1866-1882. PMID: 34387238.


FinferはANZICS-CTG、CookはカナダのCCCTGの中心人物。つまりここ20年の集中治療の臨床研究の歴史を作ってきた人たちによって書かれたもの。
かつ17ページの大作で、集中治療における臨床研究の過去から未来までについて論じている。

臨床研究をする人は正座して読みましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RCTについての、ありがちだけど重要な話

2021年04月11日 | EBM関連
昨日来たICMから、2つ紹介。

Shehabi Y, Serpa Neto A, et al.; SPICE III Study Investigators.
Early sedation with dexmedetomidine in ventilated critically ill patients and heterogeneity of treatment effect in the SPICE III randomised controlled trial.
Intensive Care Med. 2021 Apr;47(4):455-466. PMID: 33686482.


SPICE IIIのサブ解析。65歳以上ではDEXを使うと予後が良くなるかも。

Juschten J, Tuinman PR, Guo T, et al.
Between-trial heterogeneity in ARDS research.
Intensive Care Med. 2021 Apr;47(4):422-434. PMID: 33713156.


ARDSについての67のRCTのsystematic review。コントロール群の28日死亡率は10-67%と大きな幅があり、補正しても18-45%と、患者背景だけでは説明できない大きな違いがあった。介入群が有意な効果を示した研究の方がコントロール群の死亡率は高かった(44% vs. 28%)。

・サブグループ解析はあくまで仮説を作る行為。66歳だと有効だけど64歳だと有害な治療って存在するのか?
・コントロール群の死亡率が高い研究は疑ってかかる必要がある。偶然有意差が出ただけかもしれないから。

常識だけど、繰り返し言ってないと、知らない人たちが増える。
年寄りの義務かと。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究報告時のガイドライン

2021年04月08日 | EBM関連
今朝、JAMA SurgeryのePubで、文献を書くときに使うガイドラインのまとめが送られてきた。
外科雑誌で?というのはちょっと驚きだけど、まとめとして便利かなと思って、紹介。

STROBE Reporting Guidelines for Observational Studies

SQUIRE Reporting Guidelines for Quality Improvement Studies

ISPOR Reporting Guidelines for Comparative Effectiveness Research

TRIPOD Reporting Guidelines for Diagnostic and Prognostic Studies

CHEERS Reporting Guidelines for Economic Evaluations

AAPOR Reporting Guidelines for Survey Studies

MOOSE Reporting Guidelines for Meta-analyses of Observational Studies

PRISMA Reporting Guidelines for Meta-analyses and Systematic Reviews

SRQR and COREQ Reporting Guidelines for Qualitative Studies

The CONSORT Framework

TREND Reporting Guidelines for Nonrandomized/Quasi-Experimental Study Designs

あれま、4つくらいしか知らないぞ。
初めて見たのはCONSORTだったかなー。いつの間にやら随分増えてたのね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゾンビRCT

2021年04月07日 | EBM関連
くっだらない話を晒しっぱなしにはできないので、さっさと文献紹介。
すっごい面白いやつ、見つけた。
(と言ってもEpubは半年も前なので、巷ではとっくの昔に話題になっていたかもしれなけど)

Carlisle JB.
False individual patient data and zombie randomised controlled trials submitted to Anaesthesia.
Anaesthesia. 2021 Apr;76(4):472-479. Epub 2020 Oct 11. PMID: 33040331.


Anaesthesiaに投稿された526文献を詳細に調査(ちなみに調査したのは著者一人だけ)。
そのうち153の文献で症例の個人データが登録されたので、1つあたり平均3時間かけてデータを精査した。
その結果、67の研究(44%)でデータに間違いがあり、40(26%)でretractされるべき間違いがあった(=ゾンビ研究)。
もっともRCTの投稿の多かった5カ国は順に中国、韓国、インド、日本、エジプトで、これらの国でゾンビ研究が多かった。

例えば中国は、2019年3月からの1年間で48のRCTが患者情報付きで投稿され、そのうち17がゾンビ研究だった。
ちなみに日本は11研究中2つがゾンビ。
ゾンビ研究の具体例が本文に記載されているけど、その多くは症例の水増しのようだ。同じ患者さんのデータをコピペしたり、ちょっとだけ修正したりして、でっちあげたものらしい。

この研究の結論は、
・症例データ付きで投稿されたRCTの半分近くに間違いがあり、4分の1は科学的価値がないと判断された。
・Anaesthesiaだけが特別だと考えるのは困難であり、雑誌の編集者が最初に考えるべきは、‘what is the evidence that this study is not flawed?’である。

この人、どんだけすごいんだと思うし。
日本から1つの雑誌にたった1年間で2つもゾンビが投稿されているのも驚きだし。
これからRCTを見たときにどうしたらいいんだとも思うし。

とりあえず、すごい話だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Immortal Time Biasによる書き直し

2021年01月30日 | EBM関連
1月19日にJAMA Internal Medicineにonline publicationされた一連の記事。

Notice of Retraction and Replacement. Stefan et al. Association of antibiotic treatment with outcomes in patients hospitalized for an asthma exacerbation treated with systemic corticosteroids. JAMA Intern Med. 2019;179(3):333-340
(これだけフリーで読める)

Antibiotic Treatment for Inpatient Asthma Exacerbations
What Have We Learned?


Possible Immortal Time Bias in Study of Antibiotic Treatment and Outcomes in Patients Hospitalized for Asthma

Impact factorが18点越えの超メジャー内科雑誌でも2年前に間違えた。
みなさん、研究するとき、文献読むときは気をつけましょう。

僕は、自信ないです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガイドラインにおけるCOIと推奨の関係

2021年01月04日 | EBM関連
ガイドラインは数年前までこのブログのメジャーな話題の一つだった(最近は飽きちゃったのか、あまり書かないけど)。
過去ログはこちら
久しぶりに、そーだろーなー、という研究があったので紹介。

Nejstgaard CH, Bero L, Hróbjartsson A, et al.
Association between conflicts of interest and favourable recommendations in clinical guidelines, advisory committee reports, opinion pieces, and narrative reviews: systematic review.
BMJ. 2020 Dec 9; PMID: 33298430.


ガイドラインの作成メンバーにガイドラインの内容に関連したCOIがあると、その薬剤やデバイスを推奨する頻度が1.26倍になる。

ICU関連での典型例はこれでしょ。
ガイドラインって、あまり知らない分野のまとめをしてくれるから便利だけどね。
COIまで読んでいられないし。
確認するべきだと言っても、ほとんどの人はしないだろうし。
COIに影響されない仕組みなんて、結局は人が作るものだから無理だし(声の大きい人が勝つ、そして声の大きい人は往々にしてヤバめのCOIを持っていたりする)。

正しい医療の実践って、難しいわね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

集中治療系の多施設RCTの結果がネガティブになる理由

2020年12月13日 | EBM関連
Abrams D, Montesi SB, Moore SKL, et al.
Powering Bias and Clinically Important Treatment Effects in Randomized Trials of Critical Illness.
Crit Care Med. 2020 Dec;48(12):1710-1719. PMID: 33031148.


集中治療系のRCTが発表される七大雑誌(NEJM, JAMA, Lancet, AJRCCM, Lancet RM, CCM, ICM)に過去10年間に掲載された101の多施設RCTを調査。
・77%はコントロール群の死亡率の設定が高すぎ
・47%の研究で介入による死亡率の低下を10%以上と設定したが、実際に有意差が示されたのは3研究のみ

アウトカムの発生を大きく設定しすぎ、介入効果を大きく設定しすぎ。つまりはNが足りない。
これまで効果がないとされた介入の中には、本当は臨床的に意味のある効果があった可能性は否定できない。

教科書的な話だけど、具体的に示されると分かりやすい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする