王??氏医案 陰傷動血案
(現代名中医小児科絶技より)
患者:李某某 12歳 男児
初診年月日:1989年8月
病歴:1989年3月 下肢に紫斑が出現。初めは両腿部に最も甚だしく、次に、胸腹部に広がったが、1週以内に紫斑は消失、その後すぐに肉眼的血尿が生じ、地元の病院で、尿検査;PRO(2+)、RBC(4+)/HP、紫斑病性腎炎と診断され、中西薬治療を受けたが効果が緩慢で、氏を受診した。
初診時所見:
両下肢に少量の紫斑あり、色は淡で、時に鼻血、大便はタール様。尿検査:PRO(2+)、RBC多数/HP、舌質淡、苔薄黄、脈沈細。
青紫湯 加黄耆15g 阿膠(烊)9gを与えた。
具体的方薬:青黛3g 紫草9g 白及9g 乳香6g 沢蘭15g 澤瀉30g 益母草15g 生山楂15g 生山薬15g ?尾草fèngwěicǎo10g 倒扣草dǎokòucǎo9g 生地12g 黄耆15g 阿膠(烊)9g
水煎服用 日に1剤 早晩温服
経過:連続して加減しながら30剤を服用して、患者の症状は消失、尿検査、PRO(蛋白)(-)RBC消失。(つまり尿所見が正常化した)
補講:聞きなれない生薬2つを紹介します。日本では流通していません。
入手困難ですので起源は省略します。薬性 帰経 効能のみにします。
?尾草(ファンウェイツァオ)
味淡 微苦寒 大腸心肝 清熱利湿 涼血止血 消腫解毒
倒扣草(ダオコウツァオ)平とする説と、涼とする説があります。
清熱 解表 利水 活血に作用し、腎炎の治療薬としては主に広州地域に多く報告があるようです。
評析
紫斑病は秋季に多く、概ね、秋季は「燥」に属し、燥邪が肺を傷し(生熱し)、陰が傷つき(熱邪により)動血が起きやすく、皮膚に外溢すると紫斑が生じる。邪熱が足少陰腎経経脈に入り、腎臓に勢いよく溢れると尿血が生じる。故に治療は「熱 血 肺 腎」に重きを置き、清熱涼血を主として、早期には清肺祛邪、後期には腎陰を守ることである。
本方、青紫湯中
青黛は五臓の熱を清し、平肝涼血に作用し
紫草は涼血し、皮膚に到達し、邪気を外に透し
二薬は相伍され、清透内外に作用し、共に主薬である。
加減運用:
症状が軽く表証を伴う者:
銀花9g 板藍根12g 白芷6g 焦梔子9gを加味する
(病状が一歩進んで)気営熱証が重い者:
(温薬である)乳香を去り、寒水石15g(石膏の別称) 丹皮9g 犀角粉(頓服)0.5g 玄参9g 生地12gを加味する
タール便を呈し、紫斑の色が淡の者:伏?肝(灶心土の別称)15g 乾姜5g 阿膠珠9g 黄耆15g 黄精9gを加味する。
ドクター康仁の印象
出ましたね、久しぶりの止血剤の黄土湯(おうどとう)。
灶心土zào xīn tǔ(ザオシントゥ)黄土高原の黄土のカマドの焼けた土を指すのですが、今の中国には無いでしょうね。昔ならともかく。
黄砂と聞いた瞬間に身震いするくらい嫌なものですが、黄土湯の組成は、灶心土 白朮 附子 生地 阿膠 黄芩 甘草で、便血 吐血 衄(じく) 不正性器出血に用いられ、脾不統血の治方になります。
灶心土が君薬で温中収斂止血に作用します。方剤論では、灶心土 白朮 附子の温薬剛燥と、生地 阿膠の清熱滋陰で「剛柔相済」となると教えられました。
評析の加減運用中、「タール便を呈し、紫斑の色が淡の者:伏?肝(灶心土の別称)15g 乾姜5g 阿膠珠9g 黄耆15g 黄精9gを加味する。」の「乾姜」にはちょいと違和感がありましたが、さすがに大温熱薬の附子は使えないので、乾姜を代わりに配伍させたと思えばうなずけますね。
王??氏は広東地域の中医でしょうか?地域性のある薬剤がありますね。
青紫湯 加味方
具体的方薬:青黛3g 紫草9g 白及9g 乳香6g 沢蘭15g 澤瀉30g 益母草15g 生山楂15g 生山薬15g ?尾草10g 倒扣草9g 生地12g 黄耆15g 阿膠(烊)9g
乳香はちょっと使いにくいですね。活血止痛作用が有りますが、外傷性の場合に使用され、本案のような陰傷(生熱)動血案には温薬ですので使うのが躊躇されます。
生山楂は意味不明ですね。
生山薬とは山芋のトロロですから、粘りますね。
全体ではどんな感じの煎じ薬になるのでしょうか?青黛(せいたい)を使うとブルーグリーンの色になりますね。そこに紫が加わり、トロロも入り、阿膠まで入り、乳香の匂いまでする。
30日の間、服用し続けた男の子を褒めてあげましょう。
さて、
来る30日には「神戸医療福祉大学」で「アンチエイジングと漢方」のテーマで講演する予定になっていますが、まだ何の準備もしていないのです。
そろそろ準備しないと。
http://www.kinwu.ac.jp/topics/index.html?id=23726
2013年3月25日 記