苓姜? 甘湯 独活寄生湯 羌活勝湿湯の比較
高齢者が腰周りの冷え、頻尿、腰痛を訴えて漢方外来を受診することが多い。大別して、腎陽虚によるものは腎気丸(八味地黄丸)加減を行う。浮腫がある場合には、牛車腎気丸、あるいは腎気丸に五苓散などを加減する場合がある。日常の診療で想起する有名な方剤を挙げて、「思考の流れ」を述べてみたい。
苓姜? 甘湯(りょうきょうじゅっかんとう) 漢代「金匱要略」
「金匱要略」の「腎着病(じんちゃくびょう)」に記載されている方剤である。
腰から下が水風呂に入っているように冷え、小便が近く、腰痛がある場合に使用された。
組成は
茯苓 干姜 白? 甘草 である。
赤は温薬、(ブルーは涼寒薬)、グリーンは平薬である。
茯苓の利水滲湿作用、白?の健脾燥湿作用、甘草の益気健脾作用を総合すれば、中国医学でいう脾虚湿盛の浮腫みのある状態である。干姜の温里散寒作用をあわせれば、浮腫みがあって冷えがある場合に使用されると推測される。補陽薬、補腎薬の配合は無い。最も基本的な方剤である。
方意は散寒除湿である。
腎着病の概念は、原文を( )内に添付すると、寒邪、湿邪の陰邪が腎の外腑の腰部に侵入するために①冷寒の感じ(腰中冷)②腰痛(腰以下冷痛) ③重い感じ(身体重)などの陽気が阻まれる為の証候と、④浮腫(形如水状)の脾虚の証候が出現する病の概念である。病は下焦(かしょう)に属するが腎の真臓ではなく外腑の腰部であるとする点が特徴で、結果⑤小便自利であるとする。腎気丸が虚労腰痛、小便不利に用いられるのと対照的である。
独活寄生湯(どっかつきせいとう)唐代「備急千金要方」
独活 防風 秦艽 細辛 桑寄生 肉桂 杜仲 牛膝 人参 茯苓 甘草
当帰 熟地黄 生地黄 白芍 川芎 が組成である。
中国医学では、膝や腰の痛みなど、痛みを伴うリュウマチ様疾患を痹症(ひしょう)というが、痹症日久、つまり痹症が慢性化し、肝腎不足に陥り、気血ともに虚してきた場合に使用される。
独活 防風 秦艽 細辛は祛風湿、鎮痛に働き、桑寄生 肉桂 杜仲 牛膝は益肝腎に働き、人参 茯苓 甘草は補気に働き、熟地黄 白芍 当帰 川芎 は四物湯であり養血に働く。生地黄を加える場合もあるが、これは温薬による「燥」防止の「滋陰」の意味である。
方意は、祛風湿、鎮痛、益肝腎、益気養血である。 温薬が多いため、やはり冷えを伴う痹症(ひしょう)に効果的である。冷えが強ければ附子 干姜を、湿が強ければ防己などを加味する。
苓姜?甘湯(りょうきょうじゅっかんとう)に比較して、生薬の数も多く、関節、腰の「慢性の痛み」を伴う冷えに効果的である。祛風湿薬と共に、白? を除いた益気養血の八珍湯(はっちんとう)(四君子湯と四物湯)が加味されていること、直接の補肝腎薬が配合されているのが特徴である。
羌活勝湿湯(きょうかつしょうしつとう)清代「内外傷弁惑論」
寒湿が原因の痹症(ひしょう)や頭痛に用いられる方剤であるが、冷えを伴う場合に適宜、干姜 肉桂などを加味すると頭痛、関節痛、冷え共に改善する場合がある。頭痛、関節痛などの特徴は、冬季や雨天の際の増悪であり、舌苔が厚く白?苔(はくじたい)を呈することが多く、胸悶(むなぐるしさ)眩暈(めまい)などの他に、悪心 下痢または軟便などの消化器症状を伴う。四肢には軽度の浮腫が見られることもある。風湿頭痛という中国医学の概念があり、頭痛の特徴は物がかぶさっているような感じのする頭痛である。
組成は
羌活 独活 炙甘草 藁本 防風 川芎 蔓? 子である。蔓? 子(まんけいし)は頭痛に効果がある祛風勝湿剤である。冷えとは関係なく、高温多湿な夏場に症状が悪化する場合もあり、この意味では「冷え」を主症にする病態ではない。その場合には、胸苦しさや頭痛、軟便、悪心嘔吐などの消化器症状を伴うことが多い。
以上挙げた方剤は、いずれも「湿」と「痛み」と、多くの場合「寒=冷え」を伴う症候に用いられる。明らかに腎陽虚の証を呈する場合以外に考慮すべき方剤である。
続く、、
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