吴茱萸湯 四逆湯 当帰四逆湯からの考察
体を内部から温める方剤を温里剤(おんりざい)という。小建中湯、理中湯、大建中湯、黄耆建中湯は代表的な温里剤である。お腹が冷えて痛む場合に使用される。この3者については11月29日、12月01日、12月02日、12月05日の稿で小考察を加えた。
手足が冷たいことを中国医学では四肢厥冷(けつれい)という。私は四肢厥冷が特にひどい場合には当帰四逆加吴茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)をコアにして処方している。しもやけになりやすい人に効果があり、冷えのために下腹部や腰に痛みを覚える場合にも有効である。膠原病に伴うレイノー症状にも一定の効果がある。
当帰四逆湯からの発展
当帰四逆加吴茱萸生姜湯は当帰四逆湯に吴茱萸と生姜を加えたものである。どちらも漢代の傷寒論に記載されている方剤である。
桂枝湯からの発展としても理解できる
桂枝 白芍 大棗 炙甘草 当帰 細辛 川芎(川芎は元方では木通あるいは通草)が当帰四逆湯の組成である。これに吴茱萸と生姜が加わったものである。
赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。圧倒的に温薬が多いので、感覚的にも体を温める方剤であることが納得できる。
この組成は桂枝湯(桂枝 白芍 生姜 大棗 炙甘草)に当帰 細辛 川芎 吴茱萸が加わったものであるとも理解できる。
桂枝湯(けいしとう)は、カゼの初期で発汗が認められる場合(これを中国医学では習慣的に風寒表虚症と呼ぶ)に使用される発汗祛邪(きょじゃ)剤である。
吴茱萸湯(ごしゅゆとう)とは
頭痛、頭重、肩こり、手足の冷え、はなはだしき場合には乾嘔(からばき)を訴える場合に有効な方剤である。これも傷寒論に記載されている方剤である。
組成は吴茱萸 人参 大棗 生姜 であり。温薬だけで構成されている。傷寒論(六経弁証)では厥陰(肝)、少陰(腎)、陽明(胃)の三経同病に使用するとされる。当帰四逆加吴茱萸生姜湯には吴茱萸湯の人参を除いた成分が全部含まれている。
四逆湯(しぎゃくとう)とは
これも傷寒論に記載されている方剤である。全身陽虚の四肢厥逆(ししけつぎゃく)(四肢厥冷と同意)に対する救急的な方剤であり、組成は生附子 干姜 炙甘草である。心、腎、脾の陽気衰微が激しく、急いで陰寒を除き、救急に当たる意味から「回陽救逆(かいようきゅうぎゃく)剤」の範疇にはいる方剤である。当帰四逆加吴茱萸生姜湯には附子 干姜などの大辛大熱の温補剤は含まれない。
四逆とは
以上のような各方剤の命名を総合すれば、四逆とは四肢厥逆の意味であることがわかる。
木通は原則使用しない
原方で配合されている木通は、多くの臨床例で腎障害の副作用があることが報告され、現在は中国では原則使用禁止となっている。従って、私も当帰四逆加吴茱萸生姜湯の加減を行う際には木通を川芎などに変えて使用している。
日常の診療では他方剤と組み合わせる
高齢者で腎陽虚が明らかな場合には、八味地黄丸を加減する方が使いやすいし、ご婦人で、生理痛がある、下腹部や腰に冷えと痛みがある、足が冷える、唇かさかさする、などの症状がある場合には温経湯との加減方が使いやすい。
続く、、