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温経湯 冷え性の漢方治療

2006-12-21 13:40:13 | うんちく・小ネタ

温経湯と少腹逐瘀 湯、折衝飲の比較

冷え 子宮筋腫 月経過多 経期延長 生理痛の症例から

現実の臨床では、方剤をそのまま使うことは稀である。つい一ヶ月前37歳の女性で、直径5cmの子宮筋腫があり、一児はいるものの、将来の妊娠分娩を希望している女性が漢方外来を受診された。

脈象は細弱、青紫舌で舌下静脈やや怒張、下肢が冷え冬場にしもやけになりやすく、眠れないくらい足先が冷えるとのこと、生理痛があり、生理が来ると痛みが増し、バッファリンを服用して痛みをコントロール、月経量が多く、月経期間が7~10日と長く、生理に血塊が混じるとの事であった。

気血両虚、気虚不摂血気味、寒凝血、筋腫合併と診断した。気血両虚に対して人参 白? 茯苓 生甘草 当帰 熟地黄 白芍 川芎を、衝任寒証に対して、

肉桂 桂枝 烏薬 小茴香の温薬を、寒凝血淤に対して益母草 丹参 紅花 桃仁 莪? 三棱などやや多目の活血薬を、理気止痛の目的で川郁金 延胡索 香附子を、筋腫に対しては夏枯草 蒲公英根 威霊仙 蘇木 劉寄奴を配合しせんじ薬を調合した。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。

 

服用後1ヶ月後、生理痛も無く、とても楽であったとのこと、手足の冷えも改善し、生理時の血塊が少なくなり、生理期間も5日に短くなって調子がとてもいいと喜んでおられた。

 経験から以上のような生薬の組合わせは比較的短時間で構成できるものであるが、生薬を組み合わせるに当たって想起する方剤は4~5方剤である。想起の順番は前後するが以下に参考とする方剤を列記してみる。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 漢代「金匱要略」

桂枝 茯苓 丹皮 桃仁 赤芍の組成である。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。この組成から、私には、桂枝茯苓丸が体を積極的に温めるというイメージはまったく湧いてこない。体を温める温薬は桂枝の1生薬だけである。事実、冷え性がつらくて婦人科を受診して、桂枝茯苓丸を処方されて冷え症が改善したという症例は非常に少ない気がする。

方意(ほうい)は活血化瘀(かお)、通陽利水、消(ちょう)である。

(ちょう)とは、腫瘤の意味である。血(おけつ)が原因となる腫塊を指す。

従って、血による月経異常に対しても効果があるわけである。桂枝茯苓丸は元来、冷えの改善を方意とする方剤ではない。子宮筋腫に用いられるが冷えや生理痛には力不足の感が否めない。

温経湯(うんけいとう) 漢代「金匱要略」

人参 当帰  肉桂 ? 丹皮 白芍 牛膝 甘草の組成である。


当帰四逆加吴茱萸生姜湯 冷え性の漢方治療

2006-12-20 16:58:35 | うんちく・小ネタ

茱萸湯 四逆湯 当帰四逆湯からの考察

体を内部から温める方剤を温里剤(おんりざい)という。小建中湯、理中湯、大建中湯、黄耆建中湯は代表的な温里剤である。お腹が冷えて痛む場合に使用される。この3者については11月29日、12月01日、12月02日、12月05日の稿で小考察を加えた。

手足が冷たいことを中国医学では四肢厥冷(けつれい)という。私は四肢厥冷が特にひどい場合には当帰四逆加茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)をコアにして処方している。しもやけになりやすい人に効果があり、冷えのために下腹部や腰に痛みを覚える場合にも有効である。膠原病に伴うレイノー症状にも一定の効果がある。

当帰四逆湯からの発展

当帰四逆加茱萸生姜湯は当帰四逆湯に茱萸と生姜を加えたものである。どちらも漢代の傷寒論に記載されている方剤である。

桂枝湯からの発展としても理解できる

桂枝 白芍 大棗 甘草 当帰 細辛 川(川は元方では木通あるいは通草)が当帰四逆湯の組成である。これに茱萸生姜が加わったものである。

赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。圧倒的に温薬が多いので、感覚的にも体を温める方剤であることが納得できる。

この組成は桂枝湯(桂枝 白芍 生姜 大棗 炙甘草)に当帰 辛  茱萸が加わったものであるとも理解できる。

桂枝湯(けいしとう)は、カゼの初期で発汗が認められる場合(これを中国医学では習慣的に風寒表虚症と呼ぶ)に使用される発汗邪(きょじゃ)剤である。

茱萸湯(ごしゅゆとう)とは

頭痛、頭重、肩こり、手足の冷え、はなはだしき場合には乾嘔(からばき)を訴える場合に有効な方剤である。これも傷寒論に記載されている方剤である。

組成は茱萸 人参 大棗 生姜 であり。温薬だけで構成されている。傷寒論(六経弁証)では厥陰(肝)、少陰(腎)、陽明(胃)の三経同病に使用するとされる。当帰四逆加茱萸生姜湯には茱萸湯の人参を除いた成分が全部含まれている。

四逆湯(しぎゃくとう)とは

これも傷寒論に記載されている方剤である。全身陽虚の四肢厥逆(ししけつぎゃく)(四肢厥冷と同意)に対する救急的な方剤であり、組成は生附子 干姜 炙甘草である。心、腎、脾の陽気衰微が激しく、急いで陰寒を除き、救急に当たる意味から「回陽救逆(かいようきゅうぎゃく)剤」の範疇にはいる方剤である。当帰四逆加茱萸生姜湯には附子 干姜などの大辛大熱の温補剤は含まれない。

四逆とは

以上のような各方剤の命名を総合すれば、四逆とは四肢厥逆の意味であることがわかる。

   木通は原則使用しない

原方で配合されている木通は、多くの臨床例で腎障害の副作用があることが報告され、現在は中国では原則使用禁止となっている。従って、私も当帰四逆加茱萸生姜湯の加減を行う際には木通を川などに変えて使用している。

   日常の診療では他方剤と組み合わせる

 高齢者で腎陽虚が明らかな場合には、八味地黄丸を加減する方が使いやすいし、ご婦人で、生理痛がある、下腹部や腰に冷えと痛みがある、足が冷える、唇かさかさする、などの症状がある場合には温経湯との加減方が使いやすい。

   続く、、


桂枝茯苓丸 冷え性の漢方治療

2006-12-19 12:41:49 | うんちく・小ネタ

生理不順や月経痛や冷えのどれを優先して治療するか?

冬場に冷えを主訴に来院される女性が多い。ほとんどの女性が生理不順や生理痛を伴っていることを前稿で述べた。

先日、下腹部や下肢の「冷え」が強く、生理痛もあり、婦人科を受診して当帰芍薬散をいただいたが、一向に冷えが改善しない女性が来院された。当帰芍薬散の前には桂枝茯苓丸を処方されたという。

漢方エキス剤の普及は喜ばしいことであるが、場当たり的な処方例が目立つ気がする。現行の保険の効く既成のエキス剤で、婦人科で処方されることの多いものとして、当帰芍薬散に次いで、桂枝茯苓丸がある。 そこで、配合されている生薬の性質から「冷え」に対する効果を考察してみた。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

千数百年前の漢代の「金匱要略(きんきようりゃく)」に記載された方剤である。昭和になって保険収載されたことから、広く婦人科領域で使用されている。適応症はおおむね以下のようである。

適応症

下腹部の腫瘤(大方は子宮筋腫である)、下腹部の圧痛や、引きつりがあり、生理痛があり、不正性器出血や無月経、胎盤残留、死胎残留、悪露停滞などに対して

とされている。

説明書によっては、「体格がしっかりしていて赤ら顔であり、のぼせやほてりを感じるタイプの人に用いる」とか、「骨盤内のうっ血、血流障害による冷え症」あるいは、

「実証で手足が冷え、顔や頭に頑固な湿疹がある場合」などと記載されている場合もある。いささか拡大解釈気味ではある。

組成

桂枝 茯苓 丹皮 桃仁 赤芍である。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。この組成から、私には、桂枝茯苓丸が体を積極的に温めるというイメージはまったく湧いてこない。体を温める温薬は桂枝の1生薬だけである。事実、冷え性がつらくて婦人科を受診して、桂枝茯苓丸を処方されて冷え症が改善したという症例は非常に少ない気がする。

桂枝は辛温であり、陽気を巡らし、血(おけつ)や水湿(すいしつ)を配合剤と協力して体外に消退させる働きがある。その意味で、中国医学では、

桂枝茯苓の組み合わせ」は、通陽利水(つうようりすい)に働くと言う。しかし、体を温める温陽(おんよう)とか温里(おんり)とは考えない。あくまで、陽気を巡らし利水を行うという理論であって、体を温める意味ではない。

丹皮 桃仁 赤芍はいずれも活血祛瘀(きょお)薬である。丹皮、赤芍は涼薬であり、総合的に血を除くと共に熱(おねつ)を清する。もっとも、熱(おねつ)という概念は中国医学でも最近は用いられない。その発生病理が不明瞭だからである。確実なことは、涼薬である丹皮、赤芍と平薬である桃仁の組合わせには体を温める作用は無いということだ。

桂枝茯苓丸の方意(ほうい)

活血化瘀 (かお)、通陽利水、消(ちょう)である。

(ちょう)とは、腫瘤の意味である。血(おけつ)が原因となる腫塊を指す。

従って、血による月経異常に対しても効果があるわけである。桂枝茯苓丸は元来、冷えの改善を方意とする方剤ではない。

生理不順や月経痛や冷えのどれを優先して治療するか?という観点からは、桂枝茯苓丸は明らかに前2者である。

組成からの「方意」に忠実であるならば、下腹部の刺痛性の痛み、月経血に血塊が混じる、舌象で瘀血が疑われるなどの最低限の症候を確認してから処方すべきである。

冷えと共に、生理痛がひどければ少腹逐瘀 湯(しょうふくちくおとう)がより効果的な場合が多く、折衝飲(せっしょういん)も有効な場合が多い。

      続く、、


当帰芍薬散 冷え性の漢方治療

2006-12-18 17:29:41 | うんちく・小ネタ

  生理不順が先か冷え性が先か?

冬場に冷えを主訴に来院される女性が多い。ほとんどの女性が生理不順を伴っている。加えて、「生理不順」と「冷え」を別々に治療している女性が殆どである。何か中途半端な処方例が目立つ。現行の保険の効く既成のエキス剤ではそれも仕方ないことかも知れないが、処方に工夫が見られない。 そこで、婦人科で処方されることの多い生理不順に対するエキス剤について、配合されている生薬の性質から「冷え」に対する効果を考察してみた。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)はおそらく婦人科で処方される漢方エキス剤で最も多いものであろう。適応症はおおよそ次のようなものである。色白で筋肉が柔らかく、疲労しやすく、腰や足が冷えて、眩暈、肩こりがあり、貧血気味の女性と解説には記載されている。

組成は

当帰 白芍  白? 澤瀉 茯苓である。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。この組成から、私には、当帰芍薬散が体を積極的に温めるというイメージは湧いてこない。事実、冷え性がつらくて婦人科を受診して、当帰芍薬散を処方されて冷え症が改善したという症例は非常に少ない気がする。

当帰 白芍 の3生薬の組み合わせは血虚に使用される四物湯のうち3生薬である。それで、まず、顔色が悪く、貧血気味であり、背景に気虚も存在するような疲れやすいご婦人のイメージが湧いてくる。

白? 澤瀉 茯苓3生薬の組み合わせは、健脾利水、利水滲湿である。ここから、胃腸が虚弱で、下肢などが浮腫みっぽいイメージが湧いてくる。

そもそも、当帰芍薬散は

中医学的には、肝血不足が基本にあり、そのために肝陰が肝気を抑制できず、脾虚体質があると、肝気が脾に乗ずる肝脾不和に用いるとされる。

当帰 白芍 の3生薬の組み合わせにより肝血を補い、肝気を抑え、白? にて益気健脾をはかり、肝気が乗じるのを防止し、脾気虚による寒湿を茯苓、澤瀉で除くという方剤の考え方「方意(ほうい)」を持つ。

従って、当帰芍薬散は元来、「冷えの改善を方意とする方剤ではない」といえるだろう。

冷えが強い場合は、

適宜、茱萸、生姜、干姜、肉桂、桂枝、附子を加味するほうが効果は確実であり、痛みが伴えば炙甘草の加味も効果的である。

         

            続く、、


炙甘草湯について考える

2006-12-15 12:27:27 | うんちく・小ネタ

   方薬の組成から適応症を考えてみる

動悸不整脈で漢方外来を訪れる患者さんは多い。私は、炙甘草湯の加減を行っています。たいていの患者さんは老年期で、同時に夜間の咳嗽などを伴っている。西洋医学での治療剤である、βーブロッカー、抗不整脈剤、血小板凝集抑制剤などを服用している場合が多い。漢方処方を加えることによって、「体調が良くなった。」と喜ぶ患者さんが多い。今回は古典的な炙甘草湯を考え、古人の知恵を学んでいくことにします。

症例: 

52歳のA子さんは、気管支喘息で、西洋医学的に治療中である。寛解期に日に2度のステロイド吸入、発作時にメプチンエアーで治療して、喘息の発作は冬を除けば月に一度ぐらいにおさまってきた。ところが、次女の進学問題での心労が重なり、2006年の秋口から発作の回数も増加、同時に動悸、息切れ、胸痛が出現して循環器内科を受診したところ、頻脈性不整脈と診断された。抗不整脈剤を投与されたが、動悸が治まらなくて、漢方相談に来院した。疲れやすく、のぼせ症状があり、便秘気味で、脈は結代があり、弱く、舌質はやや乾燥している。睡眠が不足していると訴えられていました。気陰両虚の状態です。炙甘草湯を処方して2週間で心胸部の不快感が消失、同時に処方した酸棗仁(安定剤)にて睡眠も安定し、柏子仁(精神安定作用とともに潤腸通便作用がある)を加えることでさらに便通も改善され大変喜ばれました。

炙甘草湯(復脈湯)

棗 人参 炙甘草 生地黄  麻子仁 阿膠 生姜 桂枝

が組成です。色分けは赤が温薬、ブルーが涼薬、グリーンが平薬です。

この中で「君薬」は炙甘草、大棗、人参です。方剤の組み合わせから、適応証を考えてみれば、

    大棗、人参、炙甘草はともに補気薬です。従って気虚証がまず候補に挙げられます。

    生地黄、麦門冬は滋陰剤です。従って陰虚証が次の候補です。

③ 生姜と桂枝の組み合わせは温薬であり、陽気をめぐらせる働きがあります。肉桂などの助陽剤や、巴戟天、鹿茸、淫羊藿などのような直接的な補陽作用はありません。従って、陽気のめぐりが悪い状態が候補です。

④ 阿膠はロバの皮から抽出した水溶性コラーゲンです。栄養剤であるとともに、養血、止血に働き、滋陰潤肺の作用があります。従って、滋陰の意味から陰虚、養血の意味から血虚も候補です。

 麻子仁腸を潤し便通を整える潤腸通便があります。潤すということは津液の滋潤作用の意味ですから、養陰作用もあります。従って、便秘を伴っている状態か、あるいは便秘を予防した方が良い状態が候補です。

便秘について漢方的に考えてみると、

便秘の原因は大きく分けて2つ、津液が不足し腸が潤されなくなって生じる腸燥便秘と腸の蠕動(ぜんどう)運動が減弱する場合です。おのおの、その特徴を挙げれば、以下のようになります。

津液不足  

①実熱(熱結腸道といい、発熱、便秘の陽明腑実症が典型)

②陰虚(紅舌、少苔、無苔、脈細数を伴う)

③血虚(やがては津液不足になる、蒼白舌などを伴う)

蠕動減弱 

①気虚(疲れると便秘になる、淡白舌、少気懶言、動即耗気を伴う)

②陽虚 寒症(畏寒肢冷を伴う)

③気滞症(狭義の肝うつ気滞:うつ、いらいら、脈弦などの症候を伴う)

④痰濁(肥っている、胖大舌、だるい重い、厚苔などの特徴がある)

炙甘草湯に配合されている麻子仁は便秘予防の目的

以上の便秘の原因を考えれば、炙甘草湯に配合されている麻子仁は、気虚あるいは陰虚の際に出現する便秘に対して配合されていると推測されますが、大切な問題提起として「便秘が主症候」である場合には、麻子仁を1種類単独で用いられることがあるのか?あるいは無いのか?です。答えは「無し」です。従って「便秘予防」と考えたほうがいいのです。炙甘草湯は張仲景の「傷寒論」に記載されている方剤ですが、心臓病を患っている時に、排便に時間がかかるような便秘は避けた方がいいと彼は考えたのでしょうか?医師の細やかな神経を感じさせます。

炙甘草湯は心肺気陰両虚、心陽不振に対して用いられる

古典的中国医学で「心」に帰経をもつ生薬は、炙甘草湯の中で君薬の一つである炙甘草と麦門冬しかありません。「肺」に帰経を持つものは、人参、炙甘草の2生薬です。

A甘草の肺に対する効能は、潤肺止咳化痰といい、肺を潤し、咳を止め、痰を除く。甘草の補気効能の最大の特徴は補心気の際の君薬となることである。心気虚の症候である動悸、不整脈に対して益気補心脾に働きます。

B.甘草は配合する薬剤によりその効能が変化する。人参と配合すれば補肺脾に働き、人参でも西洋参と配合すれば補気生津に働き補気作用に加え滋陰作用の側面が出てます。同じく山薬と配合すれば補気養陰の効能が生じます。

近代薬理学的な研究が進み、甘草の調和諸薬、緩和、鎮咳、抗炎症、痰、抗潰瘍効果、肝機能改善などの薬理作用が次第に明らかにされつつあります。

しかし、明らかな抗不整脈作用などに関しての解明はまだのようです。漢方製剤の7割近くに甘草が配合されています。上海で中薬学を学んだ時に「甘草は配合する薬剤によりその効能が変化する」と教えられて、甘草の「配合の妙」を感じさせられました。

          続く、、