温経湯と少腹逐瘀 湯、折衝飲の比較
冷え 子宮筋腫 月経過多 経期延長 生理痛の症例から
現実の臨床では、方剤をそのまま使うことは稀である。つい一ヶ月前37歳の女性で、直径5cmの子宮筋腫があり、一児はいるものの、将来の妊娠分娩を希望している女性が漢方外来を受診された。
脈象は細弱、青紫舌で舌下静脈やや怒張、下肢が冷え冬場にしもやけになりやすく、眠れないくらい足先が冷えるとのこと、生理痛があり、生理が来ると痛みが増し、バッファリンを服用して痛みをコントロール、月経量が多く、月経期間が7~10日と長く、生理に血塊が混じるとの事であった。
気血両虚、気虚不摂血気味、寒凝瘀血、筋腫合併と診断した。気血両虚に対して人参 白? 茯苓 生甘草 当帰 熟地黄 白芍 川芎を、衝任寒証に対して、
肉桂 桂枝 烏薬 小茴香の温薬を、寒凝血淤に対して益母草 丹参 紅花 桃仁 莪? 三棱などやや多目の活血薬を、理気止痛の目的で川郁金 延胡索 香附子を、筋腫に対しては夏枯草 蒲公英根 威霊仙 蘇木 劉寄奴を配合しせんじ薬を調合した。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。
服用後1ヶ月後、生理痛も無く、とても楽であったとのこと、手足の冷えも改善し、生理時の血塊が少なくなり、生理期間も5日に短くなって調子がとてもいいと喜んでおられた。
経験から以上のような生薬の組合わせは比較的短時間で構成できるものであるが、生薬を組み合わせるに当たって想起する方剤は4~5方剤である。想起の順番は前後するが以下に参考とする方剤を列記してみる。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 漢代「金匱要略」
桂枝 茯苓 丹皮 桃仁 赤芍の組成である。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。この組成から、私には、桂枝茯苓丸が体を積極的に温めるというイメージはまったく湧いてこない。体を温める温薬は桂枝の1生薬だけである。事実、冷え性がつらくて婦人科を受診して、桂枝茯苓丸を処方されて冷え症が改善したという症例は非常に少ない気がする。
方意(ほうい)は活血化瘀(かお)、通陽利水、消癥(ちょう)である。
癥(ちょう)とは、腫瘤の意味である。瘀血(おけつ)が原因となる腫塊を指す。
従って、瘀血による月経異常に対しても効果があるわけである。桂枝茯苓丸は元来、冷えの改善を方意とする方剤ではない。子宮筋腫に用いられるが冷えや生理痛には力不足の感が否めない。
温経湯(うんけいとう) 漢代「金匱要略」
人参 当帰 川芎 肉桂 莪? 丹皮 白芍 牛膝 甘草の組成である。