小建中湯 理中湯(人参湯)の使い分け(2)
理中湯(人参湯)は小建中湯と共に脾胃虚寒症(気陽虚)に用います。
理中湯(人参湯)の方証は傷寒論原文では以下のように記載されています。
人体の上部からの症状を順に並べてみます。
理中湯方証:
頭重、めまい、喜唾久不了了(よだれが止まらない)、寒多不用水(不渇)、舌質 白薄、舌苔 薄白、胸上有寒胸痛、胸下結鞭、食不下、嘔吐、腹満腹痛、下痢、小便自利
これでは、なんのことやらわからないでしょうから、平易に追加、要約すれば、
お腹が冷えて痛みがあり、下痢をすることもあり、寒がりもあり、吐いたり、食欲も低下する、腹部を温めると症状緩和し、手でさすると気持ちがいい、よだれが多く、喉は渇かない。舌は白っぽく(血色が悪く)、苔(こけ)は薄く白い。小便は普通に出る。中には頭が重かったり、めまいを起こす場合もある。
となります。
もっと単純に考えれば、お腹が冷えて、痛んだり、下痢したり、胃腸虚弱な感じの
人には理中湯を用いる。 ということです。
前回、小健中湯の稿で、漢方の勉強方法の一つとして、薬剤(方剤を含む)の効能、特徴から、治療できる病態を勉強することをあげました。今回も、その方法に従ってみましょう。
理中湯(人参湯)の組成:
人参 白? 干姜 炙甘草です。
色分けは温薬が赤、微温薬がオレンジ、平薬が緑、涼薬は薄いブルーです。これらの色分けから、理中湯は小建中湯と同じく、体を温める温剤であることがわかります。従って、「中焦虚寒症」に用いられるのです。
小建中湯との組成の違いは、理中湯(人参湯)には、明らかな「補薬」である人参と白?(びゃくじゅつ)が配合されていることです。人参と白?はともに「益気健脾(えっきけんぴ)」作用があります。平たく言えば、「気を補い、消化吸収機能を改善する。」作用を持つのが人参、白? などの補気薬です。従って、気虚の程度は、小建中湯証よりも強いものです。気虚については稿を改めます。
人参にも副作用がある
私の中国時代は「人参」に対する興味から始まりました。生干人参(きぼしにんじん)、党参、太子参、西洋人参、高麗紅参、野山人参などいろいろな人参を買い求めては、上海のアパートで鉱泉水(ミネラルウォーター)の空き瓶に入れて、日本食コンビニで買い求めた「松竹梅」を入れて、人参酒を作製して、人参別に飲んでいました。
そこで気がついたことを紹介します。
上海の冬は「骨まで凍るような寒さ」と形容されるように、一種独自の寒さがあります。風の冷たさでしょうか?そういう寒さには高麗紅参、野山人参酒がとてもいい。
逆に上海の夏は、ひどい湿気と高温で日本にいたときとは比較にならないほどの消耗度でした。「とにかく蒸し暑い」の一言です。その高温多湿の夏には、西洋参酒がわりといい感じでした。
アパートに訪ねてくる中国の友人達も「日本酒(リーベンジョウ)の人参酒」を珍しがり、勝手に飲み始めるようになりました。まもなく、中国語の家庭教師が「歯が痛んで仕方がない」と訴えるようになり、アパートの階下のカラオケの従業員は「仕事が終わって帰宅しても眠れない」と言い始め、苦情が続出しました。
(せっかく好意で飲ませてやってるのに、なんじゃあ? これは!)と、私自身もいらいらし、食欲も落ち、口内炎も出現し、気がついたら便秘にもなっていました。
さしもの、各種人参酒も底をつき、再度製造する気にもなれず、自然の流れで、青島ビールだけを飲むようになりました。そのうちに、この奇妙な症状が、私も含めて、アパートに集合する中国人全員から消失したのです。(はは~ん、これは人参の副作用だったのか?)と思い至った訳です。
まさに「過ぎたるは及ばざるが如し(どんな良薬でも過剰に服用すれば、副作用が出るので、逆効果である)」、「気の余りは火に変わる(補気薬の代表である人参を過剰摂取すれば内火になる)」を実感しました。
私見的結語
理中湯(人参湯)は人参が入っているために、胃腸が弱っている場合などは、投与量によっては、逆効果になる場合もある。{過ぎれば内火(中国語でネイフオ)をもたらす可能性がある。}その場合には小建中湯を用いる。穏やかな小建中湯を用いて、ゆっくりと胃腸の具合が回復してきたら、理中湯(人参湯)に変え、投与量を加減して、さらに脾胃の虚寒証に対する治療を考慮する。
逆に、
小建中湯には人参や白? などの補気薬が入っていないために、少々乱暴に投与してもさしたる副作用は無いが、もし小建中湯で十分な効果を得られない場合には、
理中湯(人参湯)に変えてみる選択を考慮する。
続く、、