雲のむこうはいつも青空

まったりもったり~自閉症息子のいる暮らし@ちびくまママ

暴れないパニック

2007年05月17日 | 「発達障碍」を見つめる眼
お母さん仲間からお聞きしたお話です。

特別支援学校のスクールバスに乗って通学していたお子さんが
公共の路線バスを使っての通学を始めました。
そのお子さんに、そのことについての感想を尋ねたら
「ラクになった」のだそうです。

何がどう楽になったのか、お母さんが巧みにお子さんの話を
引き出してみたところ、
「スクールバスはよく道を間違えるのでびっくりしたけれど
 路線バスではそういうことはないので、ラクになった」
ということでした。

特別支援学校の通学バスが本当に「道を間違えた」のか、
あるいは欠席だとか道路状況の関係とかで
臨機応変にルートを変更しただけなのか、その辺はわかりません。

でも、そのことについてきちんと予告も納得のいく説明も
受けていないそのお子さんが、突然のルート違いに「びっくり」し、
一般の人も沢山乗っている通勤通学時間帯の路線バスの方が
「ラクだ」と感じるほど、その心身を疲弊させていたことは
間違いのない事実のようです。

これとは別に、学齢期の自閉っ子の支援にあたっておられる方から
こんな話もお聞きしました。

このお子さんは、これまで3年間担任の先生が変わらなかったのですが
この春、転校することになり、当然担任の先生もその他の先生も
周囲の子どもたちもがらっと総変わりすることになりました。

それで、その子にとってはとても負担が多いだろうと心配して
「この学校に来てしんどくない?」と訪ねてみたところ、
「この学校は変更が少ないから楽だよ」という意外な答えが
帰ってきたのだそうです。

実は、彼の以前の担任の先生は、ちょっと(かなり?)そそっかしい
方で、例えばその1週間のスケジュール表を作ってはくれるのだけど
ほとんど毎週と言っていいほど、その中に間違いがあったのだそうです。

こうした先生の書き間違いや思い違い、ちょっとした連絡ミス、
果ては先生には直接非のない学校ならではの「臨機応変な」
予定変更までひっくるめて、
その子は全部を「この学校の突然のスケジュール変更」だととらえて、
それに頑張って対応していたのでしょう。

学校という場である以上、転校後に予定変更の数がそれほど変わったとは
思えないけれど、彼にとっては学校を変わるという変化より
「楽になった」と感じられるほど、今まで「突然の予定変更」を
負担に思っていたとは、なんとも気の毒な話だと思いました。

私たちだって、「毎日運転手の気分でルートの変わる路線バス」や
「時刻表は一応あるけど、そのとおりには動いていない電車」や
「10回に1度は道を間違って教えるカーナビ」なんて
使ってたら、落ち着いて生活はできないですよね。
それが、こと多数派が「まあ仕方ない」と考えられる範囲の変更で
相手が自閉っ子となると、それで混乱するほうが悪いように
考えられてしまうのはどうしてなのでしょう。

それでも、そこで泣き叫んだり大暴れをしたりすれば、
「ああ、突然予測しないことが起きてパニックになったのね」と
気づけるくらい自閉症についての知識がある人は増えてきましたが、
上で紹介したどちらのお子さんも、突然の予定変更で大騒ぎを
するようなことはない物静かで落ち着いたお子さんなので、
ひょっとしたら周りの人は
彼らがどれほどしんどい思いをしていたのかには気づいて
いなかったかもしれません。

うちの息子と同じように、騒がなくても暴れなくても、
多数派とは違うものの感じ方を持って生まれ育ってきて、
非自閉の人には何でもないような変化にも一生懸命適応している
自閉っ子にとって、突然の予定変更が辛いことには
なんの変わりもないのです。
それなのに、周りの人にわかりやすいように暴れないで
耐えていることはたいてい
「突然の予定変更に耐えられた、柔軟になった」と
プラスの要素として考えられてしまがちです。

「暴れないパニック」「騒がないパニック」は周りの人にとっては楽でも
ひょっとしたらその子自身にとっては「暴れるパニック」
「騒ぐパニック」よりずっと負担の大きいものになっているかもしれない。
自閉っ子に関わる人間は、そのことを忘れてはいけないのでは
ないかと思います。