雲のむこうはいつも青空

まったりもったり~自閉症息子のいる暮らし@ちびくまママ

そろばん

2009年08月20日 | ちいさな幸せ
私が小4のとき、同じクラスにFくんという男の子がいました。
色白で、髪を7:3に分け、見るからに賢そうな
端正な顔立ちでした。
私は彼にあこがれていました。
初恋? いいえ、そうではなくて。

彼はそろばんの名手だったのです。
当時、まだ学習塾はあまりポピュラーではなく、
習字とそろばん、というのが小学生の習い事としては
一般的でした。
その中でも、Fくんは小4にして珠算1級を持っていて、
こと計算にかけては彼の右に出るものがいなかったのです。

一方、私は今でもそうですが、数字にはめっぽう弱いのです。
大学時代にはよく「お前、それでよくうちの大学に入れたな~」と
同級生たちに驚かれるほど、簡単な暗算ができませんでしたし、
職場では1千万円違う予算書を製作したことも…

理屈はわかって、式まではきちんと立てられるのに
(入試はこれで部分点で乗り切りました)
計算がまるで駄目。計算ドリルは時間をゆっくりかければ
なんとかなるけれど、タイムを計るとドンびりに近い。

そんな私に、誰からも一目置かれるF君はきらきら輝いて
見える存在でした。
「私にもし将来子どもができたら、小さい時からそろばんを
 習わせて、Fくんみたいにしたいなあ」
子ども心に、そんな夢を見たのです。

息子が生まれたとき、私はその夢を思い出しました。
息子には小さい時からお習字とそろばんを習わせて、
母がしてくれたように絵本を沢山読み聞かせて…。

泣き声も細くておとなしく、笑うときもくすっと
含み笑いをするような息子を抱きながら、
私は暗算の名手で、優等生と呼ばれ、私の憧れだった
Fくんのようになった息子の将来像を思い描いたのでした。

その後息子の障碍が判明し、
絵本大好きの息子のおかげで、読み聞かせだけは嫌というほど
させられたできたけれど、
習字やそろばんなどという考えはすっかりどこかへ行ってしまいました。

ところが、2年生の3学期末の懇談で、障担K先生から
「そろばんを取り入れてみようかと思うのですが」と
提案があったのです。
これまで取り組んできた100マス計算はもう
先生と同じ速度でできる(と言っても、息子の場合は
答を暗記してしまっている)ので、飽和状態であること、
あまりレベルを上げないで、目先の変わった指導法を
取り入れたい、ということでした。

もちろん、私はもろ手を挙げて賛成しました。
昔夢見たように計算の名手にするためではなく、
指先の微妙な動きが必要なそろばんは息子の脳に
今までにない新鮮な刺激を与えてくれそうな
気がしたからです。

そして、3年生の1学期から、息子のそろばん学習が
始まりました。最初はそろばんの玉の動く音にびくついた息子。
「音に慣れてもらうため」といつもそろばんを片手に持って歩く
K先生の姿に
「先生、それじゃ知らない人が見たら、それで生徒を折檻しているように
 見えますよ」
と私は笑ったりしていましたが

根気強いK先生の指導のおかげで、1学期の終わりには
和が10になる1桁+1桁の計算を
そろばんでおくことができるようになりました。

そしてこの夏休みには、この9個の計算を合計何秒でできるか
タイムを1日2回計ることが宿題の1つになっています。
最近はタイムも1分を切るようになりました。

毎日、息子がそろばんをジャーッと弾いてから
パチパチと計算している様子を
私はなんとも言えない感慨を持って眺めています。

誰からも一目置かれる暗算の天才にはしそこなったけれど
そこには間違いなく
彼なりの賢さで次々に私の想像を超えて育っていく
逞しい息子の姿があります。
そろばんの玉の音が、「まだまだこんなもんじゃないよ。
あんたの思い通りにはならなかったけれど、この子には
もっともっとあんたの知らない可能性があるんだよ」と
私に語りかけてくるような気がするのです。



大原麗子さん

2009年08月07日 | CIDP
女優の大原麗子さんが亡くなりました。
あれだけ綺麗で華やかな人が、誰にも看取られずに息を引き取って
この暑さの中、そのまま2週間以上も気づかれずにいた…
あまりにむごすぎる最期に、胸が痛みます。

今日のワイドショーもニュースもその話で持ちきりでしたが
彼女は長年にわたってGBS(ギラン・バレー症候群)を
患っていた、と報じられていました。

でも、私には、彼女はGBSというよりCIDP患者だったのでは
ないかと思えてなりません。

GBSとCIDPはどちらも免疫システムの異常で
末梢神経が侵され、まず手足が動かなくなり、麻痺が
呼吸筋に至ると命が危うくなる、という点では
共通する病気です。

違うのは、GBSが短時間のうちに急激に発症するのに対し
CIDPの発症は緩やかで、時には何年にもわたって徐々に
麻痺が進行すること、

GBSは発症から4週間以内に症状がピークを迎え
以降は快方に向かうとされているのに対し、
CIDPは6週間以上にわたって症状の進行が進むこと

GBSから一度回復した場合の再発率は非常に低いのに対し
CIDPは再発を繰り返したり、慢性に進行したりする、と
いう点でしょう。

紛らわしいのは、CIDPの中にも亜急型と言って
私のように発症から1週間程度で両手両脚にはっきりした
麻痺が現れるケースで、

私自身がそうだったように、このような症例では
まずGBSと診断されることが稀ではありません。
けれども、免疫グロブリン療法で一旦ある程度まで
回復していた筋力がまた数週間後には低下し始める、という
再発・再燃を3度繰り返した時点で

私の診断名はGBSからCIDPに変更になりました。

大原麗子さんのように何度も何度も良くなったり悪くなったりを
繰り返すケースは、むしろCIDPといったほうが
良いのではないかと思うのです。

私が入っているCIDPの患者会の会員さんの中でも
私のように初診日から免疫グロブリンを受け、
初診から2ヶ月でCIDPの確定診断を受けたというような
ケースは非常に稀で、

多くの人は診断も有効な治療も受けられないまま
何年もかかってドクターめぐりをした挙句に
ようやく診断がついたという人が少なくないのです。

昨年、大原さんが転倒して骨折したというニュースが流れたときに
「あんなに何度も再発する、っていうのは、
 GBSじゃなくてCIDPなんじゃないでしょうか」と
主治医に疑問をぶつけてみたら

「まあ、直接診察してみないことにはなんとも言えないけれど、
 可能性がないとは言えないねえ」
との答でした。

GBSは知る人ぞ知る、という病気ですが
CIDPとなると、神経内科の専門ドクターでなければ
名前すら知らない、ということもあるのです。
正しく診断ができるドクターにかからなければ
QOLが著しく侵され、神経に不可逆なほどの損傷を受けるまで
有効な治療が受けられないこともあります。

今日の9時のNHKニュースでは独協医大の小鷹先生の
コメントで
「再発を繰り返したり慢性のケースもあるので」
と短く紹介されただけでしたが、

せめてこの機会にGBSが大々的に紹介されることで
GBSとCIDPが世に知られ、まだ光のあたっていない人たちに
光があたることを願ってやみません。

最期になりましたが、大原麗子さんのご冥福を
心からお祈りします。