第4話の「残る雁」が印象に残ります。春になって皆北に帰っていくのに、群れに入れてもらえなくなった仲間はずれの雁や、傷を負ったり病んだりして帰れなくなった雁を、「」残る雁」といい、不運にみまわれ世間から取り残されている兄妹が自分たちを例えてそういうのです。多分にひがんだ言い方だと思うのですが、人間が陥りやすい感情です。
約10年前、昼休みの散歩で寄ったある神社で「天を怨まず、人を妬まず」と書かれているのを見て、なるほどと思いました。確かに人間には自分の力ではどうしようもないことがありますし、常に他の人と比べて自分を見出す習性もあります。しかし、運命、境遇を素直に受け入れ、他人と比較することなく自分を受け入れると大変楽になり、嫌な思いもしません。
塙十四郎は、自分のことを残る雁だといった女の前途を祈って「そんな筈があるものか、お前の人生はこれからだ。」と言います。