現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

手塚治虫「火の鳥 望郷編」

2022-11-13 16:13:22 | コミックス

 地球人が宇宙へ移住する時代(この作品が「マンガ少年」に連載された1976年から1978年ごろは、まだアメリカのアポロ計画(1961年から1972年まで)が月へ人類を送り込むのに成功した直後でしたので、いつの日にかそういう時代が訪れることがまだ信じられていました)を舞台に、聖書を下敷きにして壮大なスケール(宇宙空間的にも、時間的についても)で描いた作品です。
 地球を飛び出した若い男女が、悪徳不動産屋(星も売買対象です)に騙されて荒涼とした星に取り残されます。
 男は事故で死にますが、女(ロミ)は、その後に産まれた男の子が成人するまで冷凍睡眠で若さを保って、子孫を残すためにその子と結ばれます。
 しかし、その後生まれてきた子どもたち(ロミにとっては子どもであり、孫でもあります)は男の子ばかりで、このままではロミが死んだら子孫たちも死に絶えてしまいます。
 ロミの境遇に同情した火の鳥が、ムーピー(相手が望むものになんでも変身する能力を持った生物で、他のストーリーでも活躍しています(その記事を参照してください))でロミの複製(つまり女)を作って、ロミの孫たち(男の子ばかり)と結ばれさせて、人間とムーピーの混血(男も女もいます)が産まれて、その星(エデン17)は栄えます。
 ロミはエデン17の女王になり、ほとんどは冷凍睡眠して寿命を保って、自分の子孫たちを守っています。
 しかし、その後、望郷の気持ちから地球に戻ろうとして宇宙を彷徨ったロミはやっとたどり着いた地球で死にます。
 また、悪徳商人によって、文字通り悪徳(麻薬、酒、ギャンブル、殺人、戦争など)を覚えさせられたエデン17の文明も滅びます。
 当時の最先端のSFの知識で描かれたエンターテインメントでありながら、人間の生と死、男女関係、近親相姦、食人、環境破壊、移民に対する迫害、人種差別など、様々な今日でも重要な問題について考えさせてくれます。
 


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