現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

松本清張「駅路」駅路所収

2018-08-30 15:15:17 | 作品論
 銀行を定年退職した男が失踪した話です。
 短編集の表題作ですが、推理小説としてはすでに賞味期限が切れている(こんな小さな事件に専従の刑事が二人も担当して、広島まで出張して捜査しています)ようです。
 それよりも、この作品の時代設定である昭和30年代と現代とでは、いろいろな点が大きく違っていることが、興味深かったです。
 失踪した男は、銀行の営業部長で定年を迎えた(ただし、系列会社の重役になることをすすめられていました)のですが、以下のようにその暮らしぶりは今のそれとは大きく違います。
・応接間のある中流の瀟洒な住宅に住んでいた。
・地方支店に支店長として単身赴任していた時代に愛人を作って、毎月一定額を送金していた。
・失踪時にある程度のまとまったお金を持ち出し、愛人と新しい暮らしを始めようとしていた。
・それでも、残された妻(冷淡な女性として描かれています)には一生困らないだけの財産は残していた。
 現代では、みずほ銀行などのメガバンクの営業部長でも、とてもこうはいかないでしょう。
 ここに描かれているように、1950年代までの日本では非常に格差がありました。
 しかし、1960年代から1970年代の高度成長時代に、この格差は急速に縮まりました。
 いろいろな批判はあるものの、労使が闘争しつつも協調していた55年体制が、一定の成果を上げていたことも指摘できるでしょう。
 しかし、バブルの崩壊と2000年代の小泉政権の異様な高人気に支えられた様々な施策(特に竹中平蔵経済財政政策担当大臣によるもの)により、格差は再び拡大し始めました。
 その傾向はその後も続いており、安倍一強時代にさらに加速しています。

駅路 (新潮文庫―傑作短編集)
クリエーター情報なし
新潮社

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