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「世界に誇るカイゼン」は錯覚、日本企業はデジタル化で滅亡

2016-06-06 22:48:56 | IT・ビッグデータ・新技術
なぜカイゼン気質を持つ日本人が、ITと相性が悪いのか、別記事で私の意見を書きます。


「世界に誇るカイゼン」は錯覚、日本企業はデジタル化で滅亡するぞ!
2016/06/06
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/463805/060200089/

 いまだに、現場のカイゼン活動こそが「日本企業が世界に誇る強みの源泉」と無邪気に信じている人が大勢いる。実際、日本企業の経営者には、この現場力を信じる現場重視タイプが圧倒的多数で、現場を“軽んじる”構造改革タイプはごく少数だ(関連記事: ITが大好きな社長は失脚する、その深い理屈を教えよう)。だが、もういい加減にそれが大きな間違いであることに気付くべきである。

 このカイゼン、今となってはカイゼンの亡霊といったほうがよいが、それに取りつかれたままでは、日本企業はこれからのデジタル化の時代に生き残れないだろう。間違いなく、カイゼンの亡霊に取り殺されてしまう。カイゼン活動は、現場の創意工夫で取り組む活動のため部分最適の権化。「成果を横展開するのが本当のカイゼンだ」と反論されそうだが、多くの企業で実態はむしろ逆だ。

 現場の創意工夫とは、それぞれの現場がオリジナリティーを発揮するということ。モノマネとは対極、とてもクリエーティブな試みだ。企業はカイゼン活動へのモチベーションを高めるために現場を競争させたりするから、現場はますますクリエーティブになる。ある部署の取り組みが成果を上げたりすると、他の部署は対抗心をむき出しにして、それ以上の成果を上げられる別のやり方を必死で探す。

 そんなわけで、カイゼンに取り組む現場には「他人のマネをする」という発想が無い。ある大手製造業では、生産現場を知らないCFO(最高財務責任者)が、工場でのカイゼン活動の話を聞いて驚愕し、こう聞いたそうだ。「なぜ、一番成果を上げたやり方をマネないのか」。現場の担当者は独自のやり方で成果を上げたことを褒められると思っていたらしく、「えっ!」と絶句したそうだ。

 確かに、品質向上や原価低減に向けての現場の個々のこだわりが製造業を強くし、ものづくり大国ニッポンを創り出したのは間違いない。だが、カイゼンの成果の横展開を成功した一部企業を除けば、カイゼンの深化による究極のタコツボ化をもたらした。工場ごとに全てが違う。しかも、このカイゼンの発想はホワイトカラー職場や非製造業にも伝播し、部分最適は日本企業の文化になってしまった。

 少し前に「製造業の経営者はIoT(Internet of Things)に高い関心を示すのだけど、本当はIoTに関心があるわけではない」という訳の分からない話を聞いた。あるコンサルタントから聞いたのだが、大概の場合、経営者は「IoTで生産現場の見える化」という話に食いついてくるそうだ。ただし、経営者の問題意識を聞くと、実はIoTでも何でもよいから、生産現場の見える化を図りたいということらしい。

 つまり、自社の工場の内情を知りたいわけだ。「経営者なのだから、自社工場の状況ぐらい分かるでしょ」と思うのだが、そうでもないらしい。工場ごとに部分最適化されているものだから、たとえ標準原価をクリアしていても、本当にその工場のパフォーマンスに問題がないかが判断できない。同一製品を生産している工場同士ならともかく、異なる製品を造っている工場だと、その優劣は分からないのだ。

 何のことはない。欧米の大手製造業では10年以上も前に片付けてしまった生産現場の見える化が、日本の製造業にとっては今も大きな課題のままなのだ。IoTという最先端のバズワードは、それに対する経営者の問題意識、あるいは危機感に火をつける役割を果たしたにすぎないわけだ。

 そう言えば、日本の製造業では生産管理システムはどこが管理しているだろうか。大手企業では多くの場合、本社のIT部門は生産管理システムにタッチしていない。各工場が独自の生産管理システムを構築し、自ら管理している。IT部門が関わっていても、せいぜいハードウエアなどインフラの運用を任されている程度だ。まさにITも生産現場ごとに部分最適化されているのだ。

 今回の極言暴論の趣旨からすると余談だが、IT部門に理由を聞くと、「生産管理システムは生産のためのシステムですから、現場主導で…」といった言い訳が返ってくる。IT部門にとって最大の自己矛盾といってよい。営業現場などのデジタルビジネスへの取り組みについては「シャドーITだ」と“難クセ”を付けて「全体最適の観点で問題」と非難するのに、生産現場の“シャドーIT”については見て見ぬフリを決め込んできたわけだ。

 「日本企業が世界に誇る強みの源泉」というカイゼンに対する妄想により、日本の企業社会の隅々にまでカイゼン文化が浸透してしまったわけだが、本当の不幸は、この部分最適文化が日本企業のIT導入に大きな足かせとなったことだ。欧米や新興国の企業がITを活用した全体最適によって競争力強化に成功する一方、時代遅れのカイゼンの亡霊に取りつかれた日本企業は、部分最適の誤びゅうから抜け出せずにいるのだ。

 私はこの極言暴論で、何度も日本企業のERP(統合基幹業務システム)導入の問題点に言及している。ERP導入の際に業務改革と称して、ERPが提供する業務プロセスではなく、部分最適化された各部署の“ベストプラクティス”をERPに実装するために、山のようなアドオンを作ってしまう。日本企業のERP導入の多くは、この愚行により失敗するのだが、まさに業務改革をカイゼンと同一視したことにより失敗したわけだ。

 またERPの話をしてもくどくなるだけなので、今回は別の例を出したい。ERPよりも以前に日本でもブームとなったBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)である。本来のBPRは、ERP導入による業務改革と同様、業務プロセスの標準化・全体最適を志向した取り組みである。ただしBPRでは、ERPのような改革のための特定の道具が存在しなかった。

 要は何でもよかったのだが、当時はグループウエアの「ノーツ」が脚光を浴びていたので、BPRに取り組む日本企業の多くはこのノーツを活用した。もちろん、ノーツにはERPのような標準の業務プロセスが実装されていなかったので、企業はBPRの成果としてノーツ上のアプリを大量に作った。アプリを作ったのはIT部門の場合もあるが、多くはIT部門公認のEUC(エンドユーザー・コンピューティング)として実装された。

 結果は言わずとも明らかだろう。BPRを現場のカイゼン活動と勘違いしたことにより、ノーツ上に膨大な部分最適集が出来上がった。かくして、当時BPRに成功したとされる“先進企業”は皆、このレガシー資産に苦しめられた。今もグループ全体で数万個のアプリが存在する企業もあるという。本来の意味でのBPR、業務改革に乗り出そうとする際、大きな足かせとなっているわけだ。

 言うまでもなく、全体最適とは企業、あるいは企業グループ全体の観点、経営の観点で最適化を図るということだ。その結果、部分を担う現場によっては不都合を強いられることも生じる。ある部署が不要となったり、別の部署の業務負荷が増大したりするのは当たり前だ。現状の枠組みを変えずに、それぞれがカイゼンを競うことで“皆で幸せになりましょう”という部分最適とは相容れない。

 残念なことだが、ITは“皆で幸せになりましょう”を許さない。しかもグローバル競争は激化しており、競争力や収益力の向上のために、ITなどを活用して無慈悲にリストラを実施する海外の企業と戦っていかなければならない。付加価値の高い商品を持ち、個々のワザを磨くことで勝ち残っていける企業以外は、カイゼンなどの現場力で何とかしようという発想と一刻も早く決別しないと大変なことになる。

 全体最適というと、単に効率化や合理化のための取り組みだと思う人もいるが、さにあらず。例えばビジネスのデジタル化でキーワードになった「カスターマーエクスペリエンス(顧客体験)」。バーチャル、リアルを問わず一貫性のあるサービスを提供できるかどうかが競争力を左右することが広く認知されるようになった。この一貫性のあるサービス、一貫性のある顧客体験の提供のためにも、全体最適が不可欠なのだ。

 「IoTだ」「ビッグデータ分析だ」「AI(人工知能)だ」とバズワードに乗っかるのは結構だが、もはや部分最適の発想では企業の競争力の向上にはつながらない。基幹系システムの刷新か、デジタルビジネスのシステムか、IT投資の主体がIT部門か、工場か、営業部門かを問わず、全体最適の観点のないIT投資では話にならないのだ。

 そんなわけなので、ビジネスのデジタル化が進む今、日本企業は部分最適の文化、カイゼンの亡霊を取り除かねばならない。もちろん、現場力やカイゼン活動の効用を100%否定するものではないが、カイゼンの成果を必ず横展開することが必要である。横展開できるなら、それはベストプラクティスによる標準化であり、全体最適である。だが、それができる日本企業は何社あるのだろうか。


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