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神々の、さまざまな思惑・・「ノアの大洪水」のパラドックス(2)

2015-12-27 | エジプト・イスラム・オリエント



ノーマン・コーン氏の「ノアの大洪水」という本のご紹介を続けます。

リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。


               *****


             (引用ここから)


もともとのテキストでは、「大洪水物語」は、人類史のなかの一つのエピソードにすぎなかったように思われる。

現存するテキストの断片では、神々の集まりで、最高神エンリルが行った演説の、最後の部分から始まっている。

エンリルは、彼がいかにして神の法を確立し、天から地上へ王をつかわして、王位を確立し、5つのシュメールの都市を作り、それに名前を与え、それぞれの支配者を定め、シュメー地域全体を支える灌漑施設を作ったかを語っている。


次にテキストの空白部分がある。

テキストは、ここで明らかに、神々がどのようにして大洪水を送り、人類を一掃しようと決めたかを報告している。

信仰あつい王が、壁に近づいて,立ちながら、謙虚に神々からの啓示を求め、神の声を聞き、神の集会の決定を知る。


啓示は与えられる。

「洪水が町々を覆い、「人類の種」は滅びるであろう。。

そして三人の最高神の一言によって、王位もまた、くつがえされるであろう」。。


またテキストの空白部分があって、その後の記述により、私たちは、王がどのようにして、巨大な舟で、嵐と洪水から生き延びたかを知る。


ありとあらゆる破滅的な風と疾風が吹きまくり、

嵐は、町々を席巻した。

嵐が7日7晩、この国に吹き荒れ、

破滅的な風が、巨大な舟を高波の中でゆさぶった後、太陽が顔を出し、地と空を照らし、

王は巨大な舟の入り口を開き、

王は太陽神の前にひれ伏した。

王は多くの牛や羊を殺した。


その後彼は、最高神の前にひれ伏し、神は人類の種を保ち続けた報いとして、彼に神と同じような、永遠の生命を与えた。

最後に、王は、超自然的な王国に落ち着く。




こういう「シュメール版・大洪水物語」は、現体制を強化するという政治的な目的のために作られたように思われる。

体制の中心には、王がいる。

そして物語は、王位が神によって作り出されたということを主張するだけではなく、神に深く帰依し、そのため、大洪水の間は〝安全通行証”を、大洪水の後は、「不死の生命」をもって報いられた王を示しているのである。


王と密接に結びついているのは、祭司たちであった。

そして詩は、彼らの利益にも触れているのである。


神々の集会における開会演説で、エンリルは、

「〝わが人類”の滅亡の後生き残ったものたちは、「聖なる地」に新しい町を作り、神の法の順守と信仰のために働くよう望む」、

と宣言している。

これらのことはすべて、まるで宮廷詩人の声を聞いているかのようである。


紀元前1800年頃、セム系のハムラビがシュメールを含むバビロニア帝国を作り上げた時、征服者たちは、シュメールの宗教や文学をかなり取り入れて、適応させた。

とくに「大洪水物語」は、アッカド人によってとりあげられ、書き改められ、修正され、洗練されたものとなった。


物語では、「大洪水物語」に先立って、人類がどのようにして誕生し、どのようにして神の怒りをかったのか、という物語がある。

もともとは、小さな神々が世界維持するのに必要な労働、特に土地を灌漑するという仕事を行っていた。

しかし仕事を約40年も続けた後、小さな神々は反抗し、仕事を放棄し、実際にその道具を燃やしてしまったのである。

そして彼らは、神々の長で、陸地を領分とするエンリルの家へ行き、その家を取り囲んだ。

エンリルは、神々の集会を招集した。


とりわけ、彼は、エンキという神の助言を求めた。


この神は、地下水を支配し、また策略と才知で有名であった。

エンキの提案は、人間という新しい存在を創り出し、小さな神々の仕事の代わりをさせるということであった。

そして、母神の助けを借りて、この提案は実行された。

粘土と、殺した神の肉と血を混ぜ合わせた「人間」が作られた。

このようにして、人間は神々の召使いとして働くように創り出されたのである。


不幸なことに、この解決は一時しのぎのものにすぎなかった。

1200年もたたないうちに、人間はあまりにも多くなりすぎ、その喧噪が神々には邪魔ものとなった。

エンリルが眠ろうとしたとき、大地は牡牛のようにほえたてた。


はじめエンリルは、神々を説得して疫病を送りこみ、この問題を解決しようとした。

しかし、さらに1200年たつと、人口も喧噪もまた元に戻ってしまった。


今度は、雨を降らせるのをやめた。

これはいくらか効果があった。

しかしまた1200年たつと、エンリルは、やはり眠れなくなった。


怒り狂った神々は、6年間続けて、雨と毎年の洪水を止め、その結果、恐ろしい状況が生じた。

飢えた人々は、隣人同士が殺し合い、親は自分の子を殺して、むさぼり食った。


いずれの場合にも、エンキが救いをもたらした。

エンリルが次々と皆殺し計画を奸計するたびに、エンキはそれを挫折させていった。


エンキには、アトラハシスという熱心な信者がいた。

この名前は、「きわめて賢明な王」という意味である。

彼は神話の中の王で、その治世は4800年続いたと考えられている。

災害の脅威が迫ってくる度に、信心深いこの男は、彼の守護神に祈りを捧げ、その度ごとに、エンキはこれに応えた。

エンキが様々に介入したおかげで、人類は生き残り、それまで同様、勢いよく増え続けていった。


ついにエンリルは、人類を完全に絶滅させる洪水を送ろうと決心した。

しかしエンキはそれをもすりぬける方法を発見した。


かれはアトラハシスに直接情報を伝えず、彼の住んでいる葦の小屋の壁に伝えた。

そして壁は、おそらくそこを通り抜ける壁の音で、そのメッセージを伝えた。


エンキの助言は、「巨大な舟を作り、アスファルトで表面をおおえ」、というものであった。

「ギルガメシュ叙事詩」によると、「小屋を引き倒して、それで舟を作るように」、とされている。

アトラハシスは、一生懸命に仕事に取り組んだ。


彼は王として、この奇妙な行動を長老会議に説明しなければならなかった。

長老たちのために、彼は

「エンリルとエンキが仲たがいをしたので、もはやエンリルの陸地に住むことはできず、地下の水の中の守護神の元へ行くために船出しなければならないのだ」、

と説明した。

こうして彼は舟を作ることになった。

神々は、地上をおおった大洪水に積極的に参加した。

嵐の神は、黒雲の中でゴロゴロと鳴り、他の神々は堤防をあふれさせ、また別の神々は松明をかかげて大地を燃やした。


すべてのものは暗黒と化し、山は水中に姿を消し、人々はすべて溺れ死んだ。

神々自身も恐ろしくなり、犬のように身をすくめてうずくまり、地上から天へ逃れようとしていた。

彼らが頼りとしていた食べ物や飲み物のお供えが無くなったので、彼らは人類の破滅を嘆き悲しんだ。


アトラハシスの舟は、嵐を乗り越えて、7日7晩の後、ある山の頂に止まった。

それからアトラハシスは、外を見て、大地が屋根のように平らになり、人間はすべて粘土と化してしまったのを見た。

もう1週間、彼は待ち、その間、舟は山頂に留まっていた。


それから彼は鳩を放ったが、鳩は戻って来た。

つばめを放った時も、同じだった。

しかそこで、アトラハシスは、舟から出て、羊をいけにえとして神々のために香を焚いた。

神々はそのお香をかぎつけ、まわりに集まってきた。


エンリルは、最初は「人間」というものが生き残ったことに激怒した。

しかし次には人類を絶滅あせようとした浅はかさを、母神やエンキに非難され、それを甘受しなければならなかった。


              (引用ここまで)

写真(下)は、「ハムラビ法典」(メソポタミア文明展・カタログより)


                  ***


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