引き続き「吉田憲司氏著「仮面の森・アフリカ・チェワ族の仮面結社の世界」のご紹介をさせていただきます。
長くなりましたが、これが最終回です。リンクは張っておりませんがアマゾンなどでご購入になれます。
筆者は「邪術と変身」という章で、ごく最近の、次のようなエピソードを紹介しています。
*****
(引用ここから)
1984年7月、ザンビア共和国の首都で、筆者は、現地の複数の友人から次のような事件の新聞記事が掲載されていたと聞いた。
7月某日、市内のF地区の住人でチェワ族出身の女性が死亡し、検死のためある病院の死体安置所に運び込まれた。
その後、夜になって、看護婦2人が別の死体を運び込もうとしたところ、安置所の中にハイエナがおり、そこに前から置いてあった子供の死体を食べ終わろうとするところであった。
看護婦らがあわてて逃げようとすると、そのハイエナはチェワ語で
「逃げないでくれ。頼みがある。わたしは先ほど運びこまれた者だ。
こんな姿になってしまったが、どうか警官に頼んでわたしを家の近くに戻してくれ」と語った。
早速警官はハイエナを元の地区に連れていき、放してやった。
彼女は邪術師であった。
また、次のようなエピソードも聞いた。
わたしが、ある村の墓地の傍らを通った際に、〝その墓地にはハイエナに変わった女性の墓がある″という話を耳にした。
以下は、案内に立ってくれた人の話である。
・・
ある日、隣家の主人が「妻が死んでハイエナに変わってきた」と言いながらわたしの家に駆けこんできた。
わたしが見に行ってみると、遺体の顔の部分だけにハイエナのように毛が生え、残りの部分はまだ人間のままだった。
わたしは警官や知事を呼びに行った。
彼らはやってきて、すぐに棺を閉め、ロープで縛って埋めることになった。
もしそのままにしておいて、遺体が完全にハイエナに変わって逃げ出しでもしたら、そのハイエナが村を訪れるたびに人が死ぬ、とされるからだ。
〝邪術師が死ぬとハイエナに変わる″というのは、その後何度も耳にしたことであった。
・・・
○呪術師のイメージ
「人食い邪術師」は、自分の手で様々な動物を作り出し、それを「使魔」として用いるとされる。
その際、彼らはまず、木でそれぞれの動物の像を作り、それにその動物の体の一部分を主成分とする「薬」を加えて、呪文を唱える、といわれる。
「使魔」となる動物にはミミズク、フクロウ、ホロホロトリ、ライオン、ヒョウ、ハイエナ、ジャッカル、ゾウ、キイロヒヒ、イノシシ、ネズミ、ワニ、トカゲなどがある。
ハイエナは「人食い邪術師」の乗り物としても知られている。
邪術師は、ハイエナに乗れば、一晩のうちにどんなに遠くへも行けるという。
「人食い邪術師」は、人を襲ったり、家畜を盗んだりもするという。
一般に彼らは、自分で足を運んでも危険でない時は、自ら動物に変身し、一方、発見されたり反撃されたりする恐れのある時は、「使魔」を作って派遣するのだとされている。
墓場にいるのをみつかりそうになったような場合には、ウサギなどに姿を変えるという。
変身には、ライオンに変わるならライオンの体の一部、ヘビに変わるならヘビの体の一部が薬として用いられるという。
「人食い邪術師」は、動物に変身するだけではない。
彼らは人の目をごまかすために、切り株や立ち木や臼などに姿を変えることもあるとされる。
夜間出歩く時は、体中から火を放って姿を隠す。
竜巻も、邪術師が作り出したものだと言われる。
渦の中心に邪術師がいる、というのである。
伝統医によれば、「人食い邪術師」のこのような変身は、普通の人には見破れなくとも、彼ら特有の薬を持っている者には看破できるとされる。
「人食い邪術師」は死後、ハイエナやライオン、ワニに生まれ変わると言われる。
「人食い邪術師」は、生前これらの動物を薬として用い、これらの動物を作り出して「使魔」として用いたり、自らそれに変身したりしては人を襲い、その肉を食べてきた。
その過程で、彼らはいつのまにか、これらの動物の霊にとりつかれ、生前から脳ないし心がそれらの動物の脳ないし心になってしまっている。
このため、死後も、体が動物の体になってしまうのだという。
ある動物が人間に対して害を与えるからといって、その種の動物すべてが「邪魔師」の変身ないし創出したものと考えられるわけではない。
チェワの人々の考えによれば、地上には個々の動物種について、「本当の動物」と「邪術師が変身ないし創出した動物」の2種類が存在するとされる。
チェワの人々は、それを「神の作った動物」と「人間の作った動物」という表現を用いて区別している。
「神の造った野生動物は、人のそばにはやってこない」
「人を襲ったり、村の近くの畑を荒らしたり、墓場にいたり、村の中に入って来たりする動物は、邪術師が作ったものだ」。
また、「彼らは家畜は作り出せない」と断言する。
死後の変身も例外ではない。
埋葬後、「喪明けの儀礼=ボナ」までの間にハイエナやライオンの姿を見かけた、あるいはその声を聞いたという噂が広まると、そのハイエナやライオンは、そのまま死者が変わったものとして受け止められる。
人のいるところ、あるいはいたところに有害な野生動物がやってくる、その事実こそが邪術師の変身の証左だというわけである。
人間のいる所に来る野生動物を異常視するという思考は、野生動物は人間のそばに来ないことを正当化する「起源神話」によって根拠づけられている。
その神話とは、以下のようなものである。
・・・
人間と動物はもともと神が作られた。
だから大昔には、人間と動物は一緒に仲良く暮らしていた。
人間が腹を空かせた時は、ただ空を仰いで「神よ、恵みを」と言うだけで、動物が勝手に死んで、肉になってくれた。
ところが人間が他人を妬み、呪術などを始めたので、神が怒って、人間と動物を引き離してしまわれた。
それ以来、人間は腹が空けば狩をして動物を追わなければならなくなった。
一方、動物は人間から逃げ、たまに遭遇する動物は、邪術師に関わるものであるために、人間に怪我や病をもたらすようになった。
・・・
ただ、これだけで邪術師の野生動物への変身が現実のものとして認識されるようになるとは限らない。
〇「あとがき」より
チェワ族の調査に同行してくれたトンガ出身者が、ある日、
「チェワの人たちの間では、どうしてあんなに邪術にまつわる話が多いんだろう?
仮面を持っている連中の間では、邪術の話をいやというほど聞かされる。
仮面と邪術の間には、なにかつながりがあるのだろうか?」と言った。
トンガでも、邪術についての告発やそれに対抗するための薬の使用は見られるが、それほど頻繁ではないという。
またトンガ族は、仮面結社を持たない。
実際に村に住み込むと、毎日のように女たちは「今そこで邪術師に会った」と言って、息せききって村へ駈け込んでくるし、葬儀があるたびに、誰が邪術を使って殺したのかが話題になった。
邪術について調べていくうちに、その邪術に対立する存在としての「霊媒」の世界が見え始めた。
そしてある日、村人から、仮面をかぶった「ニャウ」、「霊媒」、「邪術師」の3者だけが、互いに避けあう、という事実を知らされたのである。
(引用ここまで)
*****
仮面、霊媒、邪術、、これらが生きている世界に、大いに魅惑されました。
しかし、問題はまだなにも解決されていません。
仮面とは何か?
変身とは何か?
人はいかにして動物になるのか?
これから、それらの謎を追いかけてゆきたいという望みを持っています。
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