2012-13シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦、ボルシア・ドルトムント対バイエルン・ミュンヘンの試合が目前に迫っている。初のドイツ勢対決となった。前評判はバイエルンが圧倒的だが、私は勝敗の可能性はほぼ同程度と見ている。
バイエルンは昨シーズン、リーグ戦、ドイツカップ、CLのすべてにおいて準優勝となり、今季はその雪辱に燃えている。マンジュキッチ、ハビ・マルティネス、ダンテという補強が的確で、特に守備の意識が非常に強化された。引いてカウンターという相手に脆かったのが改善され、ハイプレスから相手を圧倒する戦いを身に付けた。それが驚異的な得点力を生み、同時に失点のリスクも軽減した。
選手層も厚く、バトシュトゥバーとトニ・クロースの離脱がダメージとして感じられないほど。特にクロースの負傷後にロッベンが絶好調と言える状態で、チームを助けた。バルセロナ相手に圧勝し、その強さを世界に轟かせた。ただし、今年に入ってからのバルセロナはCLでもわずかに1勝しただけで、よい出来とは言えず、バイエルンへの対策も十分とは感じなかっただけに割り引いて評価しなければならない。
ドルトムントはブンデスリーガ2連覇を果たす中で、対バイエルンは全勝を誇った。個の能力に勝るバイエルンに対して組織の連動性で戦い結果を出し続けた。特に昨シーズンは接戦でもドルトムントに自信が感じられた。ドイツカップ決勝は大差となったが、これは翌週にバイエルンがCL決勝を控えていたから。両者の間ではコンディションでわずかでも差があれば、大差となるということだ。
今季のドルトムントが昨季と大きく変えたことは、ターンオーバーを多用したということだ。昨シーズンはリーグ戦もCLもドイツカップですらほとんど同じメンバーを固定して戦った。それがチームの連動性を育み、シーズン中盤から終盤にかけて無敗という結果に繋がった。ただシャヒンが抜けて新しい組み立て方を模索したシーズン序盤は苦しみ、それがCLグループリーグ最下位という結果をもたらした。
今季はリーグ戦では無理をさせず、たとえルールダービーであってもコンディションが悪い選手は休ませた。リーグ戦の取りこぼしが多く、バイエルンに独走を許すこととなった。一方で、CLは死のグループと呼ばれたグループリーグを無敗の首位で突破し、トーナメントでも準決勝のレアル・マドリードのセカンドレグで敗れるまで無敗を保った。
バイエルンは今季のCLはグループリーグでBATEボリソフにアウェイで敗れるという波乱はあったが、それ以外は危なげなく首位で突破した。アーセナル戦は初戦のアウェイで3-1と勝利し、迎えたホームでのセカンドレグを0-2と落とした。明らかに油断があり、運動量が乏しく、危うくアーセナルに逆転を許しかけた。この経験が、ユヴェントス戦、バルセロナ戦のセカンドレグの戦い方に繋がっていった。
クラブの格としてはドルトムントの対戦相手となったシャフタールやマラガは、バイエルンの対戦相手よりも落ちる。しかし、シャフタールやマラガは組織性の高いサッカーをやり、運動量や戦術では非常に高いレベルにあった。特にマラガはドルトムントの弱点を突き、ほぼ勝利を手にするところまでいった。
ドルトムントの弱点は、ボールを持たされ、ショートカウンターを狙われることにある。つまりは、ドルトムントの攻撃スタイルをそのままやられると脆いと言える。
ただCLレベルではこうした戦いをしてくるチームは多くない。インテルやチェルシーがカウンターでCLを獲っても、ポゼッション重視のサッカーが近年好まれている。
バイエルンはドルトムント相手にカウンターに徹した戦いをすることはない。従って、バイエルンがボールを持ち、ドルトムントがカウンターを狙う展開が増えるだろう。お互い手の内を知り尽くしていても、その構図自体は変わることはない。そのためドルトムントにも十分な勝機がある。
今季はこれまで4試合対戦があった。シーズン開幕前のドイツスーパーカップ、ブンデスリーガ、ドイツカップと3試合続けてバイエルンホームで戦い、バイエルンの2勝1分けだった。ドイツスーパーカップは、前半バイエルンが圧倒し、後半ドルトムントがペースを掴んでの2-1。リーグ戦は優勝を狙うためにはドルトムントは負けられない戦いではあったが、冷静に戦っての1-1。そして、ドイツカップはバイエルンが圧倒しながら結果は1-0だった。
両者の決勝進出が決まってからリーグ戦で4度目の顔合わせがあり、お互いメンバーを落として戦い1-1のドロー。ドルトムントホームで、バイエルンに退場者が出て、最後はドルトムントが怒濤の攻めを見せたが、この戦いはあまり参考にならないだろう。
バイエルンはウェンブリーで今シーズンの自分たちの戦い方を貫こうとするだろう。前線からのハイプレスを軸とした攻撃サッカーを。ドルトムントは引きながら、機を見てプレスをかけてカウンターを狙うことになる。マリオ・ゲッツェの不在はかなり痛いが、それをどう埋めるのかが課題だろう。
得点重視ならば、ギュンドアンをトップ下に上げて、シャヒンをボランチに起用することが考えられるがかなりの冒険だ。最もオーソドックスな手は二列目の左にグロスクロイツを置くことだが、攻撃力は落ちる。ギュンドアントップ下で、センターにベンダーとケールでは攻撃の組み立てに不安を残す。フンメルスのコンディションによっては、フンメルスからのフィードにあまり期待できない可能性もあり、ドルトムントとしては普段以上に追う展開は避けたいところだ。
主力の負傷や退場、事故的なPKなどサッカーには不確定要素が多分にある。信じられないような好プレーやミスも起こりうる。実力と戦術だけでは決まらないのがサッカーだ。
ゲッツェがいれば、2-1でドルトムントと予想したところだが、ゲッツェの不在が確定した今それは予想ではなく願望となった。予想は1-1でPK戦、その結末は神のみぞ知るということにしておこう。