祖父・小金井良精の記 上 (河出文庫) 価格:¥ 998(税込) 発売日:2004-06-04 |
読んだのは、新潮社の『星新一の作品集18 祖父・小金井良精の記』版(1975)。『星新一 一〇〇一話をつくった人』 を読み興味を持ったのがきっかけ。
星新一が母方の祖父の生涯を描いた。ただ通常の伝記とは趣が異なる。エピソードごとに分けられた短い文章を繋いで描かれている。また星新一らしい客観性の高い文体のため、内面を描くというよりも出来事の集積の中から人となりを表現している。
小金井良精の妻が森鴎外の妹ということもあり、鴎外に関する記述も多い。
戊辰戦争における峻烈な体験については非常に興味深かった。歴史の流れは既に決していてこれまでそれほど関心を払わなかったが、戊辰戦争の意味合いやその体験談は強く心に残るものだった。
『星新一 一〇〇一話をつくった人』 でも感じたことだが、庶民とは一線を劃す階層の話でもある。中級武士の家に次男として生まれ、東京に出て教育を受け、やがて学問を志して医学の道を進む。国のため、家族のため、自分のため、様々な要因はあろうが、現代の日本では考えられないほどの必死さで勉強したのだろう。例えば、大学の教授は全てドイツ人だからもちろん授業はドイツ語。入学前から学んでいたとはいえ他の勉強もしながら語学もマスターして当たり前の時代とも言える。
幕末とは異なる知的エリート層の出現であり、彼らの努力が日本を一気に文明国へと押し上げることとなったが、彼らの出自は特定の階層であり、その後教育環境による再生産によって階層が固定化していったようにも見える。それでも彼らの持つ「明治の精神」とも言うべき資質はこの本からも感じられた。エリート意識も正しい発露であれば有益なのだろうが、翻って現在の日本では勘違いか弊害ばかりが目立っている。