卒業式前日の一日を描いた作品。9つの章から成り、それぞれ視点が変わる。
祥子の視点で令とのやりとりを描いた「思い出し笑い」。桂の視点でグラン・スール(姉)との関係を描いた「お姉さまのラケット」。三奈子の視点で祥子や令とのやりとりを描いた「私とインタビュアー」。蔦子の視点で写真部の先輩たちとのやりとりを描いた「卒業集合写真」。美術部の藻音の視点で先輩との関係を描いた「菓子パンの宴」。乃梨子の視点で『薔薇の館の三年生の忘れ物捜索』の模様を描いた「支えとスキンシップ」。由乃の視点で珍しく聖との会話を描いた「忘れた忘れ物」。瞳子と聖の視点で描いた「隣は何をする人ぞ」。そして、最も長い祐巳視点の「リボンの道」で締めくくられる。
卒業式前日ということで当然別れがテーマとなる。ただしウェットなエピソードは少ない。桂姉妹の「お姉さまのラケット」と美術部の「菓子パンの宴」のふたつだけだ。薔薇さまたちの別れについては既に織り込み済みといった感じ。「リボンの道」でも祐巳と祥子が泣く場面はあるが、儀式めいた描き方となっている。
卒業式への前振り的な要素も強い。聖、蓉子、江利子ら前薔薇さま方の登場も予想される。
「マリア様がみてる」のシリーズは、『パラソルをさして』までが第1期、『薔薇の花かんむり』までが第2期と分類できる。第1期では、祐巳と祥子の姉妹が互いに気持ちが通じ合えるまでを描いている。第2期では、祐巳と瞳子の姉妹成立までが描かれる。祥子らの卒業は大きな出来事ではあるが、精神的には既に乗り越えている問題だ。そのため卒業式前日を描いても淡々とした印象が残る。
ただエピソードの羅列からなる今作はこのシリーズらしさが如実に現れているのも事実だ。多彩なキャラクターのそれぞれのエピソードは短編集同様各キャラクターをうまく掘り下げている。次の展開を待つ前にまずは卒業式。そんな思いを残す作品となっている。
アニメ版は第4シーズンが来年1月よりスタート。学園祭以降が描かれると予想される。当然祐巳と瞳子の物語が軸になると思われるが、黄薔薇・白薔薇のエピソードもきちんと拾っていくと1クールで『薔薇の花かんむり』まで行くのは難しそう。どのように描いていくか興味深いところだ。
またそれに際してAT-Xで大晦日に過去のシリーズの一挙放送が予定されている。昨年は『ARIA』シリーズの一挙放送が行われたが、今年は『マリみて』ということで楽しみだ。
【10/17追記】
先日読み返していたら、大事なことを見逃していた。何てことはない、卒業式当日に由乃は菜々を妹として報告する気なんだってことを。こんな分かりやすい前振りに気付かないなんて、いったい何を見ていたのやら。