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感想:『お釈迦様もみてる―学院のおもちゃ』『お釈迦様もみてる―ウェットorドライ』

2009年10月16日 19時31分38秒 | マリみて
お釈迦様もみてる―学院のおもちゃ (コバルト文庫)お釈迦様もみてる―学院のおもちゃ (コバルト文庫)
価格:¥ 460(税込)
発売日:2009-04-01
お釈迦様もみてる―ウェットorドライ (コバルト文庫)お釈迦様もみてる―ウェットorドライ (コバルト文庫)
価格:¥ 460(税込)
発売日:2009-10-02


シリーズ3作目購入に伴い、積読だった2作目と共に読了。
姉妹作『マリア様がみてる』と巧みにリンクしながら、福沢祐麒を主人公に描くシリーズ。1作目の「紅か白か」、2作目「学院のおもちゃ」までは、「マリみて」でのエピソードをなぞるためのストーリーという印象が否めなかった。
男子高がリアルじゃない点は問題ではない。「マリみて」のリリアン女学園だって実際にはリアルとは程遠い。問題はストーリーやエピソードが始めにありきで、キャラクターの内面から生み出されたものと感じにくかった点だ。
3作目になってようやく、キャラクターの内面から物語が進み始めた。祐麒と鉄の気持ちをうまく掬い上げながら、男子高っぽいエピソードを上手く織り交ぜている。
「マリみて」のような華やかさや深みは感じないが、BL風味のライトなシリーズとしてようやく自立した印象を受けた3作目だった。


感想:『マリア様がみてる ハロー グッバイ』

2008年12月26日 21時26分34秒 | マリみて
マリア様がみてるハローグッバイ (コバルト文庫 こ 7-60)
価格:¥ 480(税込)
発売日:2008-12-26


『マリア様がみてる』祐巳・祥子編終幕。
10年8ヶ月にわたる長期シリーズがひとまず完結した。私がこの作品に触れたのは昨年のことなので、リアルタイムに接したのはわずか1年足らずのこととなるが、それでも感慨が浮かぶ。この一年頻繁に読み返した作品だった。

「卒業前小景」でも触れたように、祐巳と祥子が心から互いを信頼しあえるようになるまでを描くことが最初のテーマだった。「パラソルをさして」がその意味で第一期の完結と言えるだろう。その後、祐巳の妹問題がテーマとなり、それが終結したのが「薔薇の花かんむり」。その後、祥子の卒業までゆっくりと時間が過ぎていった。

「ハロー グッバイ」単体での評価はそう高いものではない。『マリア様がみてる』は基本的に三人称表記の主観視点による構成が多いが、少女小説ということもあって一人の主観的な展開が続く方が内面の描写を含めて読み応えがある。本作は視点の移動が多いのが特徴的だ。「卒業前小景」同様、多くのキャラクターに見せ場を作る配慮が感じられるが、ストーリー主体ではないキャラクター小説では散漫に感じられてしまう。
もちろん、シリーズ最終話として主要キャラクターを披露してこその読者サービスだから、単体での評価にあまり意味はない。

祥子の卒業をもってシリーズを終わらせることは妥当な判断ではあるが、祐巳たちの薔薇さまとしての活躍を見てみたかったという思いも残る。蓉子さまじゃないが「アラエッサッサー」だし(笑。
テーマはひねり出せるだろうが、キャラクターの面で辛そうに見える。瞳子は一期二期ともに重要な役回りを果たしたキャラクターだが、ストーリーのための行動が多くて、内面を十分に描けたように見えない。菜々に至っては、さらに顕著となっている。彼女らを話の軸として展開させていくことはかなり難しそうに思うだけに、仕方がなかったと言えるかもしれない。

シリーズ全般に対する感想などもそのうち書きたいと思うが、今はまだ余韻に浸りたい。大晦日にはAT-Xでアニメの一挙放送もあるし、年明けには第4期シリーズの放送もある。特に新シリーズにはどこまで踏み込んで描けるか期待して見てみたいところだ。


「マリア様がみてる」SS『ビター・チョコレート――一年生たちのバレンタイン――』

2008年10月20日 22時04分31秒 | マリみて
何をとち狂ったのか、ふと思いついて「マリみて」のSSを書いてしまった。ちなみに全然エロくはない(笑。

時期は『クリスクロス』から『あなたを探しに』。ネタバレ前提の話。タイトル通り、バレンタインデーイベントを一年生たちの目を通して描いたもの。

この時期の描写でいくつか気になる点があり、そのうちのひとつである、祐巳がもらったチョコレート2個って少なすぎやしない?ってのの回答みたいな感じのSS。ホントは、瞳子が社会科準備室から薔薇の館にたどり着くまでに何があったかが気になるんだけれど、作者が書かないと分からないところだしね。

『ビター・チョコレート――一年生たちのバレンタイン――』

『ビター・チョコレート――一年生たちのバレンタイン――』(内容は同じ。感想が書けたり、縦書きで読めたりする)

縦書きで書いたから縦書きでアップしたかったけど、ちょっと時間がないので今はこれで。ブログじゃSS発表するのに相応しくないけれど、冒頭部分だけここに書いておこう。




    ビター・チョコレート
     ――一年生たちのバレンタイン――


 それは女の子にとって特別な一日。ありったけの気持ちを想いを込めて包み込んで最愛の人へ届ける儀式。
 聖バレンタインデー。
 リリアン女学園の生徒たちにはさらに素敵なイベントが用意されている。待ち焦がれていた日を目前に、初体験となる一年生たちはちょっぴり右往左往。その日をどう過ごすかは人生の一大事ってくらいみんな真剣に思っているから――。




『マリア様がみてる 卒業前小景』

2008年10月01日 22時52分27秒 | マリみて
マリア様がみてる―卒業前小景 (コバルト文庫)マリア様がみてる―卒業前小景 (コバルト文庫)
価格:¥ 460(税込)
発売日:2008-10-01


卒業式前日の一日を描いた作品。9つの章から成り、それぞれ視点が変わる。
祥子の視点で令とのやりとりを描いた「思い出し笑い」。桂の視点でグラン・スール(姉)との関係を描いた「お姉さまのラケット」。三奈子の視点で祥子や令とのやりとりを描いた「私とインタビュアー」。蔦子の視点で写真部の先輩たちとのやりとりを描いた「卒業集合写真」。美術部の藻音の視点で先輩との関係を描いた「菓子パンの宴」。乃梨子の視点で『薔薇の館の三年生の忘れ物捜索』の模様を描いた「支えとスキンシップ」。由乃の視点で珍しく聖との会話を描いた「忘れた忘れ物」。瞳子と聖の視点で描いた「隣は何をする人ぞ」。そして、最も長い祐巳視点の「リボンの道」で締めくくられる。

卒業式前日ということで当然別れがテーマとなる。ただしウェットなエピソードは少ない。桂姉妹の「お姉さまのラケット」と美術部の「菓子パンの宴」のふたつだけだ。薔薇さまたちの別れについては既に織り込み済みといった感じ。「リボンの道」でも祐巳と祥子が泣く場面はあるが、儀式めいた描き方となっている。
卒業式への前振り的な要素も強い。聖、蓉子、江利子ら前薔薇さま方の登場も予想される。

「マリア様がみてる」のシリーズは、『パラソルをさして』までが第1期、『薔薇の花かんむり』までが第2期と分類できる。第1期では、祐巳と祥子の姉妹が互いに気持ちが通じ合えるまでを描いている。第2期では、祐巳と瞳子の姉妹成立までが描かれる。祥子らの卒業は大きな出来事ではあるが、精神的には既に乗り越えている問題だ。そのため卒業式前日を描いても淡々とした印象が残る。
ただエピソードの羅列からなる今作はこのシリーズらしさが如実に現れているのも事実だ。多彩なキャラクターのそれぞれのエピソードは短編集同様各キャラクターをうまく掘り下げている。次の展開を待つ前にまずは卒業式。そんな思いを残す作品となっている。

アニメ版は第4シーズンが来年1月よりスタート。学園祭以降が描かれると予想される。当然祐巳と瞳子の物語が軸になると思われるが、黄薔薇・白薔薇のエピソードもきちんと拾っていくと1クールで『薔薇の花かんむり』まで行くのは難しそう。どのように描いていくか興味深いところだ。
またそれに際してAT-Xで大晦日に過去のシリーズの一挙放送が予定されている。昨年は『ARIA』シリーズの一挙放送が行われたが、今年は『マリみて』ということで楽しみだ。

【10/17追記】
先日読み返していたら、大事なことを見逃していた。何てことはない、卒業式当日に由乃は菜々を妹として報告する気なんだってことを。こんな分かりやすい前振りに気付かないなんて、いったい何を見ていたのやら。


『マリア様がみてる チェリーブロッサム』

2007年10月30日 22時45分51秒 | マリみて
マリア様がみてる―チェリーブロッサム (コバルト文庫)マリア様がみてる―チェリーブロッサム (コバルト文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2001-07


「銀杏の中の桜」

発表順で言えばこれがこのシリーズの第1作にあたる。お嬢さま学校で独特の風習を持つこの学園に高等部から入学した主人公の視点で描く。非常に正統的な作りであり、そこで出会った一人の少女と絆が生まれゆく物語である。
文庫で書き綴られたこのシリーズはここを目指していた。一方で、この作品は雑誌に掲載されたあとこれまで文庫に収録されずにいた。文庫化にあたり、加筆修正は行われているというが、これまでシリーズで積み上げたがゆえの違和感は強く残る。それは作者の思惑を越えたキャラクターの成長であり、シリーズが持つ厚みと言えるかもしれない。
初登場となる乃梨子に対しても、その後の描き方と比べると違った印象を持つ。リリアンに慣れ、志摩子との関係を通じて成長し変わっていったとも捉えられるが、やはりこの一作は特殊なものと言えるだろう。
文庫で楽しんでいた読者にとって、志摩子の謎が明かされる話だ。彼女の悩みの深さに比べると本当になんだこんなことかと思われる内容だが、あとがきにもある通り彼女にとっては深刻な悩みだったのだろう。周囲と本人の事の比重の差異は祥子でもあって、大事なのは本人だけという意外と起きる真実をうまく表している。
雑誌でこの作品を読み志摩子の謎を知っていた読者にとっては、謎の共有という一種の優越感を持ったのではないか。初めから狙った訳ではないだろうが結果的に作者はそれを効果的に利用したとも言える。ちょっとした謎をうまく散りばめて読者を惹きつける手法はこのシリーズのあちこちで使われている。特にシリーズ後半では積極的に提示している。

「BGN」

「銀杏の中の桜」を祐巳の視点で描いた作品。裏話的なものではあるが、シリーズの正統派はむしろこちら。「銀杏の中の桜」で覚えた違和感を払拭するための作品とも言える。
“荒療治”については、始めにそれありきであるがため、この作品の前から伏線を張っていた。それでも、“荒療治”すぎる印象は否めない。それをフォローするための役回りを担うために瞳子が登場する。彼女の場合、役割ごとに個性が与えられている感じで、かなり後になるまで明確な意図が読みにくい。どこまでが演技でどこまでが地か分かりにくいという面もあるが、それ以上にコアの部分が確立するまで時間が掛かったと考えられる。


『マリア様がみてる いとしき歳月(後編)』

2007年10月29日 22時43分42秒 | マリみて
マリア様がみてる―いとしき歳月(後編) (コバルト文庫)マリア様がみてる―いとしき歳月(後編) (コバルト文庫)
価格:¥ 460(税込)
発売日:2001-04


「will」

いよいよ薔薇さま方も卒業。祐巳は紅薔薇さまからは遺言を託され、白薔薇さまとの別れに餞別を捧げる。残る側からの別れを描いた作品で、意外と涙する場面はほとんどない。そんな少し乾いた感じがとてもいい。最後だから、蓉子も聖も自分の想いをはっきり告げる。それが湿っぽくならない原因だろう。そう、彼女たちはやり残したことや後悔といった気持ちを持たずに卒業していくのだから。

「いつしか年も」

卒業式。卒業する蓉子、聖、江利子の視点で描く。そこに憂いはない。
互いの出会いを思い返しながら、三人三様に卒業式を過ごす。ウェットな描写も多いこのシリーズだが、別れに関しては意外なほどあっさりしている。永久の別れではない。必ずまたいつか会える。そんな信頼がそこにある。
最初に書かれた「マリア様がみてる」は三人が卒業した後が舞台。あとがきで作者も述べているが、この三人はシリーズを通してどんどんと豊かなキャラクターへと育っていった。卒業後も登場する機会はもちろんあるが、徐々に物語の本筋からは離れていってしまう。それはもったいないようだけれど、やはり必然だ。彼女たちはいつまでも後ろを向いていていいキャラクターじゃない。

「片手だけつないで」

時間は一年近く巻き戻り、志摩子と聖の出会いと姉妹になるまでを描いた。一人称だが、志摩子と聖が交互のように視点を変える。
聖に余裕がないというのが第一印象だ。妹を持つことで変わるというのは、何人かのキャラクターで描かれているので、彼女もまた志摩子を妹にして変わったということなのかもしれない。ただ、聖の姉や蓉子、江利子らと比べても見劣りする。まだ栞の傷が癒えていないとか、彼女のキャラクターに拠るとか考えられるが、その後の聖の描写と比べてやや疑問の余地がある感じだ。
今回、志摩子の呼び方について書かれていた。曰く、手伝いとして山百合会の仕事をしていた彼女を聖が「志摩子」と呼ぶようになり、他の上級生もそれに追随したと。「由乃」と呼び捨てにするのは姉の令だけだし、「祐巳」の場合も姉の祥子だけだ。しかし、令や祥子は姉以外の薔薇さま方からも呼び捨てにされている。以前からこれはかなり気になった。
呼称についてはもうひとつ、蓉子、江利子、聖の三人は互いを薔薇さまの称号で呼び合うことが多かった。もちろん祐巳のいないところでは名前で呼び合っていたのかもしれないが。それが祥子、令、志摩子の世代に変わると、称号で呼び合う印象がない。改めて読み直す中でその印象が正しいかどうか確認したいと思っている。


『マリア様がみてる いとしき歳月(前編)』

2007年10月29日 22時41分48秒 | マリみて
マリア様がみてる―いとしき歳月(前編) (コバルト文庫)マリア様がみてる―いとしき歳月(前編) (コバルト文庫)
価格:¥ 460(税込)
発売日:2001-02


「黄薔薇まっしぐら」

シリーズの中でもかなりマンガチックな作品。黄薔薇ファミリーにはその傾向が強いが、特に江利子はキャラクターとしての肉付けが薄い。だから却ってこういうドタバタに合っていると言えるけれど。
謎の提示から引き込む手法だが、落とし方はかなりベタ。祐巳は探偵役はもちろん無理で最後は紅薔薇さまが引き継いだ。蔦子の使い方もかなり無茶がある。『いとしき歳月』という表題だが薔薇さま方の卒業というしんみりした雰囲気はここには微塵も無い。それもまた一つの手法だが、成功しているとは言いがたい。

「いと忙し日日」

一冊の中で1/3程度の長さの話だけれど、『いとしき歳月』前後編合わせて最も面白いと感じた作品だ。卒業式前の「三年生を送る会」のための慌しい準備に追われる一週間を、基本的に祐巳の一人称で描いている。月曜日から土曜日までの章タイトルが付いて、毎日の出来事が記されている。日常と呼ぶには忙殺しすぎだけれど特別な事はほとんど起きない。特に人間関係においては忙しすぎて問題が起こる暇も無い感じだ。
でも、そんな日常の些細な機微がとてもいとおしく描かれている。こういう何気ない部分にこのシリーズの魅力を感じる。一人称が成功しているかどうかは微妙だが、祐巳の視点で淡々と描いた手法はうまく機能している。面白いからもっと膨らませて欲しいという気持ちもあるが、この長さで収めたからこその良さなのかもしれない。
最後の章である「おまけ」のみ蓉子の一人称となっている。この本の中で唯一しんみりする部分と言えるだろう。「紅薔薇さま、人生最良の日」もそうだが、彼女の視点では非常に素直に想いが描かれている。この短編の落とし方も非常に素晴らしかった。

「一寸一服」

「黄薔薇まっしぐら」でも描かれた江利子と熊男こと山辺先生との出会い。実質4ページ、江利子の一人称で書いている。正直、「黄薔薇まっしぐら」のようなドタバタでなく、こうした落ち着いた形で描いた方が良かったのではないかと思う。後編がかなりフラットな感じの作品ばかりなので、バランスを考えた結果なのかもしれないが。


『マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物(後編)』

2007年10月29日 22時39分36秒 | マリみて
マリア様がみてる―ウァレンティーヌスの贈り物〈後編〉 (コバルト文庫)マリア様がみてる―ウァレンティーヌスの贈り物〈後編〉 (コバルト文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2000-04


「ファースト デート トライアングル」

バレンタインデーイベントの賞品の半日デートと、祐巳・祥子のデートを絡め、更に由乃らまで加わって交錯した作品。とはいえ、それが上手く絡み合っているかというとかなり疑問。
祐巳と祥子は関係が修復したばかりということもあって幸せ一杯の雰囲気。祥子の浮世離れした面を面白おかしく描いている。令とちさとのデートに関しては、由乃の嫉妬という側面から描いた。いかにもな感じだし、結局のところ由乃と令の関係は揺るぎないわけで特段印象に残るものではなかった。デートを観察しにきた蔦子と三奈子のコンビも特にこれといったやり取りがあるわけではない。
唯一内面まで描いたのは志摩子と静のデート。志摩子の弱さが現れたのは聖との別れが近いことや彼女の変化の兆しなどが原因だ。しかし、彼女の悩みはこの時点ではまだ明らかになっていないし、また明らかになった後もなかなか共感しにくいものだ。主要キャラクターの中で最もつかみ所がない彼女と読み手との距離を縮めるという意図が成功したとは言いがたい。一方、静も魅力的に描かれているが、ユニークさは感じられてもコアとなる部分が見えてこない。他の誰でもない静ならではの要素が何なのか。もう少し踏み込んだ描写が欲しかった。

「紅いカード」

「長い夜の」で一人称は珍しいと書いたが、実際には短編を中心に少なくなかった。ただそこで書いたように通常の三人称と比べてあまり差の無い使われ方をしているため、印象に残りにくいのは事実だろう。そんな中でこの作品は一人称らしい描かれ方をしている。
内容は「びっくりチョコレート」で書かれなかった謎の種明かし。美冬というこれまで登場しなかった全くの部外者の視点で、祥子と祐巳を描いている。祥子の過去に関しては、特にエピソードの使い回しの上手さが感じられた。これはシリーズを通して読んだ後に改めて読んで感じることだ。読み流していたような出来事が後に別の角度から語られ、改めて読み直すことでその繋がりに感嘆する。こうした細部をうまく利用することで厚みを引き出している。
温室での祐巳とのやり取りは「びっくりチョコレート」で書かれたものの視点を移した形だが、こうした描写も厚みを持たせる要因となっている。このシリーズの面白さはそうした物語のふくらみにあると言ってもいいだろう。多面的に描きながらなお物語の面白さを損なわないというのは実はかなり難しい。エピソードの使い回しにしても物語にうまく絡めるのは大変だ。そうした点に非常に巧みであることが面白さに繋がっている。

「紅薔薇さま、人生最良の日」

非常に短い作品で、蓉子の視点からバレンタインデーイベントを描いている。祐巳の視点では完璧な薔薇さま方もそれぞれに心のうちにいろいろな思いを抱いている。これまで聖や江利子はその内面が描かれたりもしたが蓉子はこれが最初。そして、彼女の想いや喜びがダイレクトに伝わってくる作品となっている。


『マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物(前編)』

2007年10月29日 22時37分21秒 | マリみて
マリア様がみてる―ウァレンティーヌスの贈り物〈前編〉 (コバルト文庫)マリア様がみてる―ウァレンティーヌスの贈り物〈前編〉 (コバルト文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2000-03


「びっくりチョコレート」

久しぶりに祐巳を軸とした展開で、多くのキャラクターがそれぞれに役割を持って動いている。単なるバレンタインデーではなく、山百合会のイベントとなることで広がりを見せた。後にこのイベントの短編もいくつか書かれているし、関連するエピソードも多い。翌年のこのイベントも重要な意味を持つことになる。それだけ各キャラクターたちにとって意味のある出来事だと言えるだろう。
祐巳と祥子が話の中心となると必ず出てくるのが「すれ違い」だ。お互い自分の気持ちを相手に伝え切れずに、相手の事が分からずに思い悩むという流れが何度となく繰り返される。『マリア様がみてる』ではまだ知り合ったばかりという状況だったが、それから数ヶ月経ってもそれは解消されていない。むしろこういう「すれ違い」からの衝突を経て少しずつ二人の距離が小さくなっていく。
一本の作品として見た場合、紅いカードの謎など不十分な内容とも言える。これは祐巳の視点のみで描いたため起きた事態だが、今作の場合それで良かっただろう。祐巳の視点で彼女の物語を描き切ったという意味では評価できる。ただラストの祐巳と祥子のやりとりはもう少し上手く描けなかったかといった印象が残ってしまった。

「黄薔薇交錯」

20ページほどの非常に短い作品。江利子、由乃、令の三人の視点でそれぞれの思いを描いている。よく気が付く江利子と由乃に対し、令のボケっぷりを楽しむといった内容。


『マリア様がみてる ロサ・カニーナ』

2007年10月27日 23時43分35秒 | マリみて
マリア様がみてる - ロサ・カニーナマリア様がみてる - ロサ・カニーナ
価格:¥ 500(税込)
発売日:1999-12


「ロサ・カニーナ」

もともとは志摩子の物語だったはずだが、静がそれを食ってしまったという印象を受ける。志摩子はもちろん未熟ゆえの危うさは持っているが、芯の強さがある。他の一年生だけでなく二年生のキャラクターたちと比べてもその強さは秀でている。彼女は自分で考え行動できるため、こうした平穏な世界では主人公になりにくい。一方、静は出番は多くはないが、これまでに登場したキャラクターとはまた違った個性を持ち、なかなか魅力的な存在として描かれている。
志摩子と静の物語を祐巳の視点で描くというやり方は、いい面と悪い面を持っている。二人の姿が客観的で分かりやすい反面、心の葛藤は見えにくくなる。二人の思いをもう少し深く描いて欲しかったという感想は持った。また、ほんのワンシーンだけだが、神視点に近い形で描かれている。祐巳のいない場所で静と聖が会うシーンだが、それ以外が祐巳の視点であるため少し浮いた感じになっている。この作者の他のシリーズの作品を読んだことがないので推測だが、少なくともこのシリーズにおける視点の問題はこの当時試行錯誤していたのだろう。視点の切り替えをうまく組み込んでいればもっと味わい深い作品になっていた気がする。

「長き夜の」

このシリーズでは珍しい一人称の作品。本書の約半分を占める中編だが、番外編的エピソードではある。
普段の祐巳視点の三人称を単純に一人称の「私」に置き換えただけで、一人称らしさはあまり感じない。どっぷりと読み手が「私」にシンクロする通常の一人称に比べると淡白な印象で、一人称にしたメリットが見出せない。これも作者の試行錯誤の一つだったのだろう。
内容では柏木優の再登場が目立つ。『マリア様がみてる』以来の登場だが、かなり雰囲気が変わったと言えるだろう。彼はシリーズを通して大きく役割が変化していると思われる。最初の登場では道化っぽい存在だったが、ここで祥子の保護者的な側面がアピールされ、今後祐巳にとっても重要なキャラクターとなっていく。まだ変化の最中ということで、シリーズを通して読んだ後に改めて読むとまだちょっと違和感を覚える部分はあるが、この作品から作者が明確な意図を与えたことが読み取れる。