![]() | マリア様がみてる―いばらの森 (コバルト文庫) 価格:¥ 540(税込) 発売日:1999-04 |
「いばらの森」
本書の2/3以上を占める作品だが、もう一つの短編のために書かれたと言っていいだろう。謎解きめいた部分が核となっているが、全体としての動きが乏しく、また後半のご都合主義的な展開が非常に目立っている。むしろ由乃を軸として描いた方が良かったのではないかと思われるが、祐巳の視点のみで書かれている。シリーズを通して由乃と聖の絡みが少ないことが原因かもしれない。
白薔薇さまである聖の過去を巡る物語だが、その内容は「白き花びら」で語られるためここでは大筋しか書かれていない。一篇の物語としてはこの二つを融合させた方が良かっただろうが、シリーズものという自由度が分離させたと言えるだろう。どちらが良かったかは分からないが、小説としては分離させたことは悪くはなかったと思う。
「白き花びら」
アニメで見たときはあまり興味を惹かれなかった。しかし、小説では100ページにも満たない短編ながら心に沁みる描かれ方だった。メディアの差異がはっきりと出た作品と言えるだろう。
聖の二年生時の姿が彼女の視点で書かれている。栞との出会いと別れ。その様は同性であることを除けば普通の恋愛小説とあまり変わらない。この作品で強く惹かれるのは蓉子の存在だ。『黄薔薇革命』において、「友達なんて、そういう損な役回りを引き受けるためにいるようなものよ」と語った彼女が、聖のために行動する姿に心が動かされた。祐巳の視点の時には常に余裕を持って振舞う彼女も、決して完璧な存在ではない。おせっかいと分かっていようと、たとえそれで嫌われようと言うべきことを言う彼女。それでもその想いは伝わらない。ラストで寒さの中、外で聖を待つ蓉子にこみ上げるものがあった。些細な描写に込めた書き手の思い。短いけれどとても印象的な作品となった。