白夜の炎

原発の問題・世界の出来事・本・映画

王毅外相はなぜ岸田外相の電話会談を承諾したのか?/遠藤誉より

2016-03-16 16:22:51 | アジア
「岸田外相は14日、王毅外相と電話会談をした。なぜこのタイミングで中国はようやく応じたのか。その回答は王毅外相のロシア訪問と香港における北朝鮮船舶の入港拒否に求めることができる。中国政府関係者を取材した。

◆なぜ、このタイミングなのか?
岸田外相が3月14日夜、中国の王毅外相と電話会談したことを明らかにした。今年1月6日、北朝鮮が水爆実験と称する核実験を強行したあと、日本の外務省は何度か電話会談をしようと中国に呼びかけていた模様だ。しかし中国側が応じなかったという。
2か月間以上経ってから、中国がようやく電話会談に応じたことに関して、「なぜこのタイミングなのか」と記者から聞かれた岸田外相は「先方の意図は分からない」と回答した。
そこで筆者は「先方(中国)の意図」を知るべく、中国政府関係者を電話取材し、「なぜこのタイミングなのか?」と、同じ質問を投げかけてみた。
すると、以下の回答を得た。
1. 王毅外相がロシアを訪問したことに注目しているだろうか? 彼はなぜ、わざわざ全人代を中途で退席し、閉幕前にロシアを訪問しのか、その理由を考えてほしい。
2. 先般、北朝鮮の貨物船が香港に入港しようとしたけれど、拒否された。中国が拒否したのだ。
3. この二つに共通なことは、北朝鮮問題だ。中国は国連制裁決議をきちんと守っているが、決議の際に消極的だったロシアとは、しっかり話し合って制裁決議を守るよう、しかしその一方では北朝鮮が暴走しないように朝鮮半島の安定を図らなければならない。アメリカは自国の国民が遥か離れたところにいるからいいだろうが、われわれは陸続きなのだ。六者会談以外にわれわれの安全を守るすべはない。

◆全人代を欠席してロシアを訪問した王毅外相
中国の王毅外相は、3月10日から11日にかけて、ロシアのラブロフ外相の切迫した招きに応じてモスクワを訪問した。全人代開催中に海外に行くのはよほどのことで、48時間の休暇を承認してもらった上での外訪だった。11日、クレムリン宮殿を訪問し、プーチン大統領とも会談している。
3月14日、中国外交部の陸慷報道官は定例記者会見でつぎのように述べた。
――現在の朝鮮半島情勢に関して、中露はともに6カ国協議の再開を支持している。THAADの問題に関して中露双方は、米国による韓国へのTHAAD配備は朝鮮半島の実際の防御の必要性を遥かに超えており、中露の戦略的安全保障上 の利益を直接損ない、地域の戦略的均衡も破壊するとの認識で一致している。

このことから分かるように、中露は北朝鮮制裁の実行とともに制裁決議の中に含まれている6ヵ国協議再開への道筋を話し合い、朝鮮半島が危険な状態に突き進まないように検討したと思われる。その緊迫性は、現在韓国で行われている米韓合同軍事演習への警戒と、史上最大規模の軍事演習が北朝鮮をより挑戦的にさせ、暴走させてしまうことへの危惧にあることは、容易に想像がつく。
国連の安保理決議案に関して、王毅外相はわざわざ訪米してアメリカ側と摺合せ合意に至った上で決議をしようとした。そのときロシアがまだ賛同できない意思を表示したので、中国側はロシア側を説得して、ようやく決議に漕ぎ着けたという経緯がある。
そのときもロシアは制裁決議が出る寸前に北朝鮮に小麦粉などを送り、ギリギリ北朝鮮の「人道的?」支援をしている。
このような経緯の中で決議された制裁を、中国は今度ばかりは何としても守って欲しいと、強くロシアに対して望んでいるという。船舶の着岸拒否に関しても、3月11日付の本コラム「朝韓間の経済交流即時無効を北朝鮮が――中国新華社が速報」にも書いたように、中国は対北朝鮮の国連安保理制裁決議2270号が発動する前から、北朝鮮からの石炭の輸入禁止などの措置に出ている。

◆山東省だけでなく香港でも北朝鮮貨物船の入港禁止
本コラムでも書いてきたように、中国では山東省日照港に入港しようとした北朝鮮船籍の「グランドカーロ号」の入港を拒否している。日照港はこれまで主として北朝鮮の石炭を輸入する港として機能してきたが、今では完全凍結を行なっている。
3月10日、香港政府の報道官は9日、北朝鮮の貨物船「ゴールドスター3号」(金星3号)が香港の海域に入ることを認めず入港を拒否したことを明らかにした。燃料と船員の生活物資を補給するために入港しようとしたようだが、それでもこの船が国連制裁リストに挙がっている31隻中の1隻なので拒否したという。船は北朝鮮の国旗ではなく、カンボジアの国旗を掲げて偽装していたとのこと。
それ以外にも中国はこれまでに数隻の北朝鮮船舶の入港を拒否している。今回ばかりは、かなり厳格に国連制裁を守っているようだ。身に危険が迫ってきているので、何としても北朝鮮の暴走を止めたいという切迫した状況にある。

◆中露間にある微妙な温度差
韓国におけるアメリカの行動に関して、中露は同じ危機感を抱いている。両者とも、遠いところにいるアメリカが韓国に進出してきて北朝鮮を刺激するのは、アメリカの自国民にとっては安全圏にいるだろうが、中露にとっては陸続きで隣接しているため自国に直接危険が及んでくるため非常に迷惑だという共通した不満がある。それは北朝鮮を守りたいという気持からのスタートではなく、自国を守るために、過度に北朝鮮を刺激しないでくれという主張だ。国連安保理で決めた2270号制裁を忠実に実行していくだけにすれば北朝鮮を追い詰めることができるが、さらに史上空前の米韓合同軍事演習を北朝鮮の目の前で強化することは、北朝鮮に反撃の口実を与え、戦争に突入する危険性を高めるというのが、中露両国の切迫した危機感だ。
このような中露両国の危機感の中、なにかしら微妙な中露間の温度差が伝わってくる。
それはこれまで続けてきた中朝軍事同盟が果たしてきた役割を、ややロシアの方にシフトさせていきたいという中国のそれとない思惑と、シリア問題が生んだ米露対立とともに、米中が中露よりも先に、2270号決議に関するニゴシエーションを済ませたという微妙な心理的ズレだ。今では中国の方が、ロシアよりも「絶対に北朝鮮の暴走を許してはならない」という緊迫感が強い。
それは中国の「共産主義体制」が危機を迎えているために、わずかな不穏な動きをも招きたくないという逼迫感に満ちているからではないかと、筆者の目には映る。
いずれにしても、米韓合同軍事演習を激化させて北朝鮮を刺激してくれるなというのが、中国の現在の切なる望みだ。日本を含めた米韓に対する不満でもある。
一方、6カ国協議に持っていくには日本の協力は欠かせない。アメリカに物を言って抑制してくれる可能性が日本にならあるかもしれないとも、わずかながら期待している。ロシアに対しても6カ国協議の可能性を模索することを依頼している。そのためにも制裁は徹底してほしい。抜け道を作って欲しくない。
これら複雑な要素が、これまで日本側の要求に応じて来なかった王毅外相が、ここにきて突然、岸田外相の電話会談に応じた理由ではないだろうか。中国政府関係者の回答は、このことを示唆しているように思えた。」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20160316-00055497/

金時鐘先生「大佛次郎賞」受賞のお祝い会 伊地知紀子(大阪市立大学教授)/ベリタより

2016-03-16 16:20:11 | アジア
「金時鐘先生「大佛次郎賞」受賞のお祝い会 伊地知紀子(大阪市立大学教授)

  今日は、済州4・3事件公開学習会をKCC会館にて。
  徐仲錫先生(韓国・成均館大学校名誉教授)をお迎えし、「朴槿恵政権下の済州4・3運動の課題」というタイトルで韓国歴史教科書国定化問題と済州4・3についての学習会でした。2017年が朴正煕生誕100年という節目にあたり、これに向けた動きを指摘しておられたのはなるほどと思いました。

  いろいろ催しや集会が重なるなか、たくさんの方が来てくださり、終了後は、このたび『朝鮮と日本に生きるー済州島から猪飼野へ』(岩波新書)で「大佛次郎賞」を受賞された金時鐘先生のお祝い会となりました。

  東京から金石範先生も来られ、いつもの顔ぶれが集まり、最初からリラックスした感じで始まりました。花束贈呈では、金時鐘先生が花束を受け取るなり体のバランスを崩され、「重い花束をもらった演技をしようと思って」とみんなを笑顔にしてくださいました。

  ご両親が、売れるものはすべて売り払い金時鐘先生を日本へ送り出した後、看取るものもなく亡くなられた話をされ、金石範先生が「死者は生者のなかで生きている」と語られました。困難な時代に済州4・3に向き合い、次世代へと引き継ぐ課題をうんでくださったお二人を囲んでの心に染みる席でした。

伊地知紀子 (大阪市立大学教授 文学研究科)


※済州4・3事件
 「1948年4月3日に在朝鮮アメリカ陸軍司令部軍政庁支配下にある南朝鮮(現在の大韓民国)の済州島で起こった島民の蜂起にともない、南朝鮮国防警備隊、韓国軍、韓国警察、朝鮮半島本土の右翼青年団などが1954年9月21日までの期間に引き起こした一連の島民虐殺事件を指す」(ウィキペディア)

※金時鐘さん(詩人)
  済州4・3事件に関わったために当局から追われ、日本に渡った。『猪飼野詩集』『原野の詩』『失くした季節』ほか

※金石範氏(作家)
  済州島出身の両親のもとに大阪で生まれた。『火山島』『国境を越えるもの 「在日」の文学と政治』ほか


■伊地知 紀子教授の著書には以下のものがあります。

『消されたマッコリ。-朝鮮・家醸酒(カヤンジュ)文化を今に受け継ぐ-』社会評論社
『在日朝鮮人の名前』明石書店
『生活世界の創造と実践-韓国・済州島の生活誌から-』御茶の水書房


■済州島からの訪問者
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201601302249066


■月命日コラム 伊地知紀子
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201601241513520

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603140047121

AV出演強要被害 テレビ出演を偽装しての撮影、出演者が自殺したケースも/小川たまか

2016-03-16 15:52:08 | 社会
 酷すぎる。偉そうなことを言うのではないが、一度徹底した禁止が必要。言論の自由をこうゆうところに適用してはいけない。人権を踏みにじってもよいという権利はどこにもない。

 そしてかつて慰安婦という非道な制度を作った帝国の政治理念は、今もこのようなろくでなしとそれを受け入れる社会のありようという形で生き続けていると感じる。

「東京を拠点に活動するNPO法人ヒューマンライツ・ナウがアダルトビデオの出演強要被害について調査報告書を公表。これに関する記者会見が3月3日に行われた。

調査報告書はヒューマンライツ・ナウのHPでも確認することができる。
「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」

販売後、自殺に追い込まれたケースも
報告によれば、2009年に設立されたPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)に寄せられた相談件数は、2012年の1件から2014年には32件、2015年には81件。2016年はすでに20件ほどの相談があるという。相談件数は同会の存在が知られるようになるにつれて増え続けている。相談内容は、「AV出演強要」(13件)、「AV違約金」(12件)、「AVに騙されて出演」(21件)、「AV出演を辞めたい」(4件)、「過去のAVを削除したい」(20件)など。女性からの相談が多いが、ゲイビデオに出演した男性からの相談もあったという。

具体的な相談例として報告されたのは6例。6例のうち1例は、昨年違約金裁判を起こされた出演女性が勝訴したケース(参考:AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと)。このほかの被害のうち、3例について下記に要約する。

■暴力的な撮影が行われたケース
知人から「グラビアモデル」の事務所に紹介すると言われX社と面接。専属モデルになることが決まったが、面接でAVの話は一切出なかった。X社の紹介でY社の面接へ。性体験の有無などを質問され戸惑った。Y社の作品に出ることが決定したが、仕事内容は知らされていなかった。撮影開始直前にX社からAVであることを知らされ拒否したが、キャンセルには高額の違約金が発生すると言われ、応じざるを得なかった。1本目の撮影終了後に契約の解除を申し出たが、違約金をちらつかせるなどして出演を強要。

撮影内容は次第に過激になり、以下のような行為も行われたが、事前に内容が知らされることはなかった。
・撮影のため1日12リットル以上の水を飲まされる
・避妊具を付けない複数人からの挿入行為
・避妊具を付けず肛門と膣への挿入行為
・膣内に男性器に見立てた管を通し大量の卵白などの液体を何時間も続けて流し込まれる
・下半身をむき出しのまま、上半身は木の板囲いによって固定され、身体的自由を奪われたまま凌辱を受ける
・多数に及ぶ無修正動画への出演強要

全裸のままスタジオから逃げたこともあったが、そのたびに監督らから怒鳴られ撮影が強行された。一連の撮影の結果、膣炎、性器ヘルペス、カンジタ、ウイルス性胃腸炎、円形脱毛症、うつ病、男性恐怖症、閉所恐怖症などを発症。今もAVが販売され続けている事実から逃れるため整形手術を繰り返している。

■自殺に追い込まれたケース
スカウトマンから声を掛けられて勧誘。スカウトマンは女性が気の弱い性格であることを見抜き、取り囲んで説得。出演の許諾を得た。断り切れずに出演した直後に強く後悔したが、すでに次回の撮影も決まっていたため出演せざるを得なくなった。辞めたがっていることを知った会社側は矢継ぎ早に出演させ、半年ほどの間に複数のAVが制作された。その後、会社との契約を解除、被害者支援団体に相談し販売停止交渉を弁護士に依頼することを決意したが、実際に依頼する直前に自殺。

■テレビ出演を偽装して撮影されたケース
路上で「深夜番組のロケ。素人モデルさんをメイクアップして小悪魔的コスプレイヤーになっていただく企画」「出演すれば謝礼金も支払う」と声を掛けられ、その場で承諾。ロケバスで書類へのサインと身分証明書の提示を求められたが、しっかりした会社だと思ったことやロケバス内に女性もいたことから安心し、暗くて読めないまま書類にサイン。学生証を渡した。
その後、コスプレに着替えて撮影が開始され、徐々に卑猥な質問や体にさわる行為が繰り返された。恐怖のあまり身動きがとれなくなり、そのまま複数の男性から性交され、その様子が撮影された。

「身体管理に関しては自己責任」という契約内容
「暴力的な撮影が行われたケース」について、どのような契約書があったのかを質問したところ、ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子氏、PAPS世話人の宮本節子氏らから次のような回答があった。
「このケースについては契約書が被害女性に渡されていない。契約書が女性に渡されないケースは多い。『こんな契約書が家にあったら人に知られちゃうから預かっとくね』などと言われる場合もある」
「したがって、このケースでどのような契約が結ばれたかはわからないが、多くの場合、契約書には出演の際の具体的な内容は書かれていない。『AV』とだけ書かれていたり、『AV』と書いていないこともある」
「契約書には『身体管理に関しては自己責任』と書かれていることもある」

また、ヒューマンライツ・ナウ副理事長で千葉大学教授の後藤弘子氏は次のように話した。
「契約書は本来、弱い立場の者を守るためのもの。契約書をたてに嫌がる人に対して出演を強要することは許されない」
先述した昨年の違約金裁判でも、「アダルトビデオへの出演は、原告が指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者である被告の意に反してこれに従事させることが許されない性質のものといえる」と判決で指摘されている。

「自殺に追い込まれたケース」については、「相談者の自死を確認したのはこのケースだけだが、相談者からの相談が途絶え連絡が取れなくなるケースは少なくない。相談者たちがどうしているのかわからないケースはある」と追加で説明があった。

「テレビ出演を偽装して撮影されたケース」について、女性をスカウト・契約したのはプロダクション(マネジメント会社)とメーカー(制作販売会社)のどちらかと質問した。通常の場合、女性はプロダクションと契約を結ぶことが多いが、このケースではメーカーとの契約だったという。

制作会社社員「プロダクションの契約には関知していない」
筆者は、昨年の違約金裁判の後、あるAV制作販売会社の社員と話をしたことがある。その社員に違約金裁判で女性が勝訴したことを話すと、「驚いた」と口にした。以下がその際に聞いた内容の要約だ。
「AVの制作販売会社で、無理に女性を出演させるようなところは自分の会社も含めてないと思う。そんな危ない橋は渡らない。ただ、プロダクションから連れて来られる女性がどういった説明をされているのか、どんな契約なのかは関知していない」
「撮影日当日に女性が撮影が来なかった場合、スタッフや場所代などの経費はプロダクション会社に請求する」
「車の中で撮影するAVが流行った時期があった。それはホテルなどで撮影するよりも安上がりだから。また、路上したスカウトした女性の場合、ホテルなどに移動するまでに『やはり出たくない』と言われてしまうことがある。気持ちが変わらないうちに撮影する意味でも車での撮影は便利」

報告書では、「なお、真に自由な意思でAVに出演するケースもあると考えられるが、本調査はあくまで、AV出演の課程で発生している人権心外事例に着目し、その解決について提言をしようとするものである」という一文がある。筆者も、自分の意志でアダルトビデオに出演したり、AV女優(俳優)としての活動を望む人については、何か問題があるとは思わない。

ただ、撮影が出演者の意図に反するかたちで行われた場合、それは人権侵害であり、出演者のダメージが非常に大きいことは想像に難くない。契約の際にAVであることを明かさなかったり、気の弱さにつけこんだり、言葉巧みに勧誘して気持ちが変わらないうちに撮影してしまおうといったことは、そのリスクを考えればあってはならないはずだ。

現代において、一度撮影されて流通してしまった映像を完全に回収することは困難だ。撮影内容はもちろんだが、AV出演に関してのリスクを真摯に話しておくことも必要だろう。筆者はこれまでにAV女優の方や制作者に何度か取材したことがあり、良識のある制作者はそうしていると考えてきたのだが、違うのだろうか。例が適当かはわからないが、タバコには「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」といった警告表示が義務付けられている。会見に出席した角田由紀子弁護士は「契約書の内容が非常に巧妙で、弁護士など法律の専門家が関与しているとしか思えない。普通の人がパッと見せられて、読み解ける内容ではない」と話したが、こういった騙すためのような巧妙な契約書ではなく、制作側が出演者に出演にあたってのリスクを説明し、撮影にあたって充分な配慮をすることを約束し、その上で了解を取るのは最低限必要なことだと感じる。

出席者の一人から「制作の背景には需要の問題がある。需要の問題は社会問題にされてこなかった。需要を喚起するばかりでブレーキのない状態は問題がある」という発言があった。出演を強要するようなやり方をしてまで制作が続けられるのは「需要」があるからに他ならない。

また、会見に出席した一人、NPO法人ライトハウスの藤原志帆子氏は「『来週発売されてしまうので止めたい』というような緊急の相談が来ることもたびたびある。警察に相談しても、契約書を受け取っていなかったり、サインしてしまっているなら介入できないと言われてしまう。出演してしまった人は『自分が悪い』と思ってしまう人も多いが、そういう人たちがようやく支援団体につながり始めている。それでもまだ氷山の一角」と話した。

報告書では、現在の消費者法(消費者法制、特定商取引法、消費者安全法)の定義にあてはまらないことなどを指摘し、内閣府と国会議員に対して法律に下記のような意を盛り込むことを要望している。
●内閣府・国会議員に対して
AV強要被害に関する必要な調査を行い、AV強要被害の被害者を保護・救済できるよう、必要な法改正案を検討準備すること。法律には以下の内容を盛り込んでください。
・監督官庁の設置
・不当・違法な勧誘の禁止
・違約金を定めることの禁止
・意に反して出演させることの禁止
・女性を指揮監督下において、メーカーでの撮影に派遣する行為は違法であることを確認する
・禁止事項に違反する場合の刑事罰
・規約の解除をいつでも認めること
・生命・身体を危険にさらし、人体に著しく有害な内容を含むビデオの販売・流布の禁止
・意に反する出演にかかるビデオの販売差し止め
・悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止などの措置
・相談および被害救済窓口の措置

性犯罪被害報道のジレンマ
会見では、記者らから、被害報告のあるメーカーやプロダクションの名前や、自殺した女性の年代(年齢)を聞く質問があがった。回答は、「メーカーやプロダクション名の公表は現段階では考えていない」というものだった。また、女性の年代についても伏せられた。「被害を受けた人たちに関する情報は報告書にあるものが限界。これ以上の情報を公開した場合、被害者に直接取材が及ぶことを恐れている」という理由だった。

被害者たちを撮影した映像は実際に販売されており、今もまだ流通しているものがあることを考えると、被害者情報については極めて慎重にならなければならないのはわかる。記事から被害者を特定するような動きが起こらないとも限らない。

ただ、記事を書く側からすると、記事に書くか書かないかは別として、実際に被害者本人の声を直接聞かなければ確かめられないこと、判断できないこともあると感じる。さらに言えば、被害者が実際にいることを確かめていないのに記事を書いていいのかという思いがある。契約書の内容についてもそうだ。だがこれは、地道な取材を行い、被害者支援団体からの信頼を得ることで成し遂げるべきなのだろう。

一つ感じるのは、性犯罪報道のジレンマについてだ。たとえば、性犯罪被害の報道については、被害者の情報は極力伏せられるし、場合によっては被害内容や被害に至るまでの経緯、加害者の情報さえも伏せられることがある。それは被害者を守るためである。しかしそのことが、報道の内容を曖昧にし、誤解やあらぬ詮索につながってしまうこともある。

また、次のようなこともある。『リベンジポルノ』(弘文堂)などの著書がある渡辺真由子氏に取材した際、次のような話を伺った。

渡辺:私がテレビ局にいたとき、1人暮らしの女の子のマンションで性犯罪事件がありました。女友達が泊まりがけで遊びに来て、朝方友達が鍵をかけずに帰ったのを狙ってストーカーが押し入り、被害者を暴行したんです。こういう手口があることを、ぜひニュースで取り上げたかった。でもテレビ局の場合は、映像がないとニュースにならないんです。特に性犯罪は現場の映像が撮りづらいんですよ。普通は事件現場を撮影しますが、被害者のマンションを映したら特定されてしまうからそれは絶対にできない。そうすると映像がないので、その時点でニュースにできないということでカットされてしまう。そういうケースが今もおそらくたくさんあって、ひどいことが起きていてもテレビで報じられることは少ないのではないかと思います。(インタビュー「リベンジポルノを利用した強制売春も…“恥ずかしさ”が被害者を沈黙させる」より)

出典:ウートピ
被害者を守るための情報を伏せることは必要だが、それが性犯罪を見えづらくすることにもつながっている。性犯罪被害者は、なぜ名乗り出ることができないか。それは性犯罪被害に遭うことが「恥」だと考えられているからであり、被害者が「隙があった」「被害にあう方も悪い」と責められることがるからだ。

以前、実名を出して活動をしている性犯罪被害者の女性に話を聞いたことがある。彼女は、「私はラッキーなケースだった」と言った。「海外に住んでいるとき、知らない男に家の鍵を壊されて侵入され、レイプされた。被害を立証しやすいケースだった」と。たとえば知人や家族、元パートナーから被害を受けたような場合などは、被害の立証が非常に難しく、「あなたにも隙があった」と落ち度を指摘されてしまう。性犯罪被害は、知らない人からよりも知っている人からの方が多いにも関わらず。

性犯罪被害者への偏見をなくし、性犯罪被害をなくすためには、性犯罪被害が今も起こっていることを伝えることが必要だ。しかし、その情報は被害者を守るために伏せられることがある。被害に遭った人がなぜ声を上げることができないかといえば、そこには彼ら彼女らへの偏見があるからだ。被害者に何の落ち度もなくても、「恥」の烙印を押されてしまうのだ。

性犯罪被害をタブーにせず、被害に遭った人が自ら語りたいと思うのであれば、語ることのできる社会に変えていくことが必要だと考えている。


小川たまか
ライター/プレスラボ取締役
1980年・東京都品川区生まれ。立教大学院文学研究科で江戸文学を研究中にライター活動を開始。 フリーランスとして活動後、2008年から下北沢の編集プロダクション・プレスラボ取締役。教育問題・企業取材・江戸文化など。バナーの画像は下北沢駅前食品市場の屋根です。奥に見える小田急線地上ホームは2013年3月末に営業を終了しました。」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogawatamaka/20160304-00055051/

サンダース、ホワイトハウスを襲撃する社会主義者/ルモンド・ディプロマティークより

2016-03-16 12:46:21 |  北米
「 米国左派の有権者にとって、バーニー・サンダースはなんともおなじみの経歴の持ち主だ。ヴァーモント州選出の上院議員で、党員ではないが民主党大統領候補の一人である彼は大半の進歩主義者同様、2016年11月の大統領選挙に向けて公然と姿を見せた。

 サンダースは1941年、ポーランドからのユダヤ系移民を両親にブルックリンで生まれ、学生時代に米国社会党青年部の「青年社会主義者同盟(YPSL)」に加入した。10年も経たないうちに党が分裂し崩壊すると、サンダースはがむしゃらにその時代の闘争に身を投じた。すなわち公民権闘争やベトナム戦争反対闘争などだ。その後、山深いヴァーモント州の小さな団体「自由統一党」の公認候補として上院選と知事選を果敢に戦ったが、落選した。

 1970年代後半には、一時、政治活動に休止符を打ち、教育プロジェクトで働いた。1979年に「フォークウェイズ・レコード・コレクション」で、サンダースはアメリカ社会党の大統領候補だったユージーン・V・デブスの演説を朗読した。この中で彼は第二の青春を次のような宣言に捧げている。「私は資本主義の兵士ではない。私はプロレタリアートの革命家だ。(中略)私はたったひとつの闘いを除き、すべての戦争に反対する」。これは米国の福祉政策を狙い撃ちしたレーガンの“反革命的”政策を支持しようとしていた国家への反逆の信仰告白だった。

 皆が驚いたことだが、それから2年後にサンダースはヴァーモント州最大の市、バーリントンの市長になった。地元週刊紙ヴァーモント・ヴァンガード・プレスは、「バーリントン人民共和国」という特別号を発行して敬意を表した。サンダースは市長室の新しいデスクにデブスの写真を飾った。その後、市長を3期務めた後、1990年に無所属の連邦下院議員として国政に加わり、2006年にヴァーモント州選出の上院議員になった。デブスの写真は、現在はワシントンのキャピトル・ヒルのオフィスに飾られている。

雲散霧消した左翼勢力の連合

 サンダースは厳密には独立系だが、民主党員たちと統一会派を組んでおり、その社会主義は、ボリシェビキ・シンパだったデブスよりも、スウェーデンのオロフ・パルメ首相(1969年~76年、82年~86年)の社会主義に近い。サンダースは、スカンジナビアの福祉国家の成果とアメリカ社会の不公平とを比較し、子供の貧困と誰もが利用できる医療制度の不在を強調している。

 サンダースにとって、社会主義はアメリカの進歩義者の長くて豊かな歴史を伝承することだが、そのほとんどは国の進歩に関する公的な言説から抹消されてきた。ヴァーモントの上院議員としての彼の政治的経歴は、民主党内左翼のそれに連なっている。民主党全国委員会の委員長だったハワード・ディーンが2005年5月22日に「ミート・ザ・プレス」番組でこう語っている。「彼は基本的に進歩派民主党員だ。事実、バーニー・サンダースは、投票時には、98%、民主党員と同じ投票をする」

 だから国会内唯一の独立メンバーである彼は革命の信奉者ではないし、英国労働党左派のジェレミー・コービンのような急進派でもない(1)。サンダースが重視しているのは、所有と支配ではなく、再分配をめぐる闘いだ。最近の演説で彼は「政府が生産手段を所有する(2)」のが良いとは考えていないと訴えた。サンダースの急進派としての公約は対抗馬のヒラリー・クリントンの企業に友好的な政策と対照的だ。

 民主党のリーダーと社会主義者のライバル、これほど毛色の違う候補者もいない。一方のクリントンが助言者と綿密に打ち合わせをした上で、注意深く吟味した言葉を選んでいるのに対し、サンダースの方は対照的に飾りのない口調で話しかけている。こうしたスタイルの違いの問題だけではない。サンダースが公民権運動の活動家だった1964年に、クリントンは超保守派の共和党大統領候補バリー・ゴールドウォーターを支持していた。だが本当の違いは政治ヴィジョンの中身だ。2003年、イラク戦争に賛成票を投じたクリントンは聴衆に、ニューヨーク州上院議員として「ウォール街の代表」であることを印象づけた。その競争相手で平和活動家のサンダースは、「政治革命」を求めている。社会主義の社会の建設ではなく、フランスで政治家のジャン=リュック・メランションが「市民革命」について語るようなやり方で、人々を民主的な生活に包含させる革命だ。

 21世紀のアメリカで社会主義者がこんなにも人気を博していることは、驚くべきことだ。左派にルーツをもつ政治家は欧州では珍しくないが、米国ではそうではない。米国では政権を争い、大規模な再分配制度を構築する大衆政党が育たなかったからだ。それでも、20世紀の大半、民主党員の多くは、こうした制度に道を開く努力を続けてきた。労働組合、公民権団体、アソシエーションなどだ。その実現を支えてきた社会的勢力はいまも健在だ。だが、民主党員が資本の利益に資する党の基本的な在り方に歯止めをかけることができないとしたら、さしたる抵抗もなしに公共的な議論の場から脇へ押しやられてしまう。民主党員と党の指導者たちとの政策の隔たりが拡大するにつれ、サンダースに耳を傾ける人々が増えるのは驚くにあたらない。

 ヒラリー・クリントンのイデオロギーの背景は、「第三の道」を標榜したニューデモクラットの伝統につらなる。ニューデモクラットたちは1980年代後半に、いまは亡き民主党指導者会議(DLC)の指揮下に結集した。その基本方針は、レーガン政権時代の保守主義の勝利への反撃を旗印にしていた。社会運動の衰退によって公平な税政策は終わりを告げ、個人保護より企業支援へと向かうスリムな政府の促進を前提としていた。個人には社会保障の形だけの残渣物を与えておくだけで良かった。

 1990年代を通して、ビル・クリントンとヒラリーが民主党の政策の変容に果たした役割は否定できない。予算の帳尻を合わせ「皆が慣れ親しんできた福祉政策」に終止符を打ったのは、ロナルド・レーガンではなく、ビル・クリントンだった。ファーストレディであり弁護士のヒラリーは、ニューデモクラットたちが思いついた改革案を支持した。例えば最貧困層の社会保障を削減する1996年の福祉改革法案だ(3)。オバマ大統領は、2008年の予備選におけるヒラリー・クリントンとの対戦で変革を公約したにも関わらず、未完の医療保険改革は別にして、旧民主党指導者会議が掲げた課題の多くを継承してきた。経済界と進んで妥協する姿勢に失望した民主党支持層もある。

 特に2008年の金融危機以後、左翼のいくつかの活動がクリントン路線にとって逆風となっている。オキュパイ運動の出現、シカゴ教員組合のストライキ、ファストフード店労働者たちの起こしたアクション、警察の暴力への抗議活動、収入格差についての公共の議論などだ。メディアはティーパーティーの大言壮語やドナルド・トランプの逆上の方を声高に報道したが、こうした行動や活動のすべてがアメリカ左翼の再出現を示唆している。

 サンダースは、雲散霧消し、理解してもらうのにさえ苦労するようになった左翼勢力を強化し組織化するために大統領選挙に立候補したのだと説明している。「出馬するとしたら、私の仕事は勝利を手にし、政治を変えることができる連合をまとめることだ」(4)。サンダースの選挙運動が長期的にどんな効果をもたらすかは未知数だが、6ヵ月の論戦の後、米国の人々の琴線に触れているのは間違いない。彼は集会の幾つかでは数万人の支持者を集めた。彼は、アイオワ州の民主党予備選挙でクリントンに10ポイントの差を付けられているが、2番目のニューハンプシャー州ではクリントンをリードしている[訳注:2月1日のアイオワ州でクリントンが僅差で勝利したが、2月9日のニューハンプシャー州ではサンダースが勝利した]。驚いたことに、この社会主義者の候補は、米国の政治家にとって必須条件である資金集めゲームでも遅れを取っていない。12月中旬、サンダースは68万1000人から4150万ドル近くを集めた。この追撃により、ヒラリー・クリントンは立ち位置の再考を迫られた。例えば、以前は支持していた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に反対の立場を取ると表明した。

 サンダースには克服不可能に近い障壁が立ちふさがっている。伝統的に民主党に有利な州のほとんどで、有権者はいまもクリントンの方が大統領本選での当選の可能性が高いとみている(世論調査では、サンダースが共和党候補者に勝てるとみられている)。その上、「スーパー代議員」と呼ばれる現職の公職者や元公職者たちでサンダース支援を公約している者はほとんどいない。こうしたスーパー代議員たちは、民主党全国大会の代議員数の2割を占めている。民主党の中で最も進歩的なエリザベス・ウォレンやジェシー・ジャクソン、ビル・デ・ブラシオですら、公式にサーダースへの支持を表明していない。

 サンダースを支援する労働組合が限られていることは、米国の労働運動の現状を物語っている。11月に組合員200万人を数えるサービス従業員国際労働組合(SEIU)が、多くの地方支部の反対を押し切って、クリントン支援を決めた。2ヵ月後にはアメリカ教員組合連盟(AFT)の支援も支援を決めた。クリントンは既に組合員総数にして950万人を数える組合の支援を取り付けているが、全体の3分の2に相当する(5)。

こけおどしのトランプ

 わずかな例外もある。組合員数18万人強の全米看護師連合と20万人の米国郵便事務労働者組合(APWU)は、いずれもサンダースを支援している。12月には、アメリカ最大のメディア組合で、70万人の組合員を擁するアメリカ通信労働組合(CWA)が、サンダース支援を表明した。しかし労働界?の大物たちは最有力候補とたもとを分かつことを好まない。市民団体や共同体ネットワークの多くでも同じことがいえる。黒人の教会指導者や州議会議員、その他、サンダースへのなじみが薄く、党のアウトサイダーへの支援には及び腰の民間のネットワークにも同じことがいえる。

 クリントンは、さして心配するには及ばない。全国的にみれば、誰よりも知名度が高く、一番人気の民主党の大立者であり、共和党の予備選におけるトランプの電撃的な成功と論法を警戒する予備選投票者たちから最大の信頼を得ている。民主党中道派は、自らを「良くはないが比較的まし」な輩として打ち出すことで、長らく支配勢力を維持してきたのだ。

 サンダースの選挙戦は、1968年のユージーン・マッカーシーや1972年のジョージ・マクガバンのような、民主党を内から組み立て直そうとする運動ではない。1980年代にジェシー・ジャクソンの選挙戦から生まれた「全米虹の連合」(National Rainbow Coalition)のようなものを構築できるほど強力な左派でもない。だが、主流派の政治から疎外された何百万もの人々が現状への不満の声をあげることができる手立てであり、だからこそ、サンダースは有権者の声を反響している。政府は庶民を助けることができ、改革の道は資本に手綱をつけて譲歩を勝ち取る力をもつ運動を構築することだと、サンダースは信じている。

 この数ヵ月で人気が高まっているにもかかわらず、この社会主義者の候補者の支援者は数千にとどまっている。人口3億2500万人の国にしては少数だ。だが、社会主義的な考えを公共の議論の場に押し出したり、サンダースが言うところの「億万長者クラス」を現状の元凶だとして非難する人々に論議を提供したりするには十分な数かもしれない。

 民主党の体質や左からの反乱を吸い取ってきた歴史を考えれば、予備選内での活動という戦略には疑問の余地がある。だが、ヴァーモント州の上院議員であるサンダースにとって失うものはわずかだが、得るものは多い。「社会主義」という物騒な言葉にそっぽを向くことのない、新しい大衆が出現するのだから。



(1) Alex Nunns, « Jeremy Corbyn, l’homme à abattre », Le Monde diplomatique, octobre 2015.参照。
(2) 2015年11月19日、ワシントンD.C.ジョージタウン大学での演説。
(3) Loïc Wacquant, « Quand le président Clinton “réforme” la pauvreté », Le Monde diplomatique, septembre 1996.参照。
(4) « Bernie Sanders is thinking about running for president », The Nation, New York, 18 mars 2014.
(5) Brian Mahoney et Marianne Levine, « SEIU endorses Clinton », Politico.com, 17 novembre 2015.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2016年1月号)」

http://www.diplo.jp/articles16/1601-1unsocialiste.html

全人代政府活動報告は誰が書くのか?――習近平は事前にチェックしている

2016-03-14 16:02:36 | アジア
「日本の一部中国研究者は、今年の全人代政府活動報告に習近平を讃える言葉が少なかったため習近平が李克強に不満を抱いたとしているが、あまりに現実を知らな過ぎる誤読だ。起草課程に関する根本的知識を指摘したい。
◆日本の一部チャイナ・ウォッチャーの誤読
日本には、今年の全人代における李克強国務院総理による政府活動報告の中で、習近平国家主席に対する賞賛が足りなかったために習近平が激怒したなどと書いている中国研究者がいる。その理由として習近平を「核心」と呼ぶ回数が少なかったからと解説している。
日本の中国観は、こういうゴシップ的報道を好む傾向にある。これをただ単なる「娯楽」として楽しんでいるというのなら、それは個人の趣味の問題で、自由と言えば自由だ。
しかし、それらはやがて、中国を分析して日本の経済界や外交分野などにおける政策に、それとなく心理的に影響をもたらし、日本に不利な形でも戻ってくるので、誤読による中国分析は日本国民にとっていい結果をもたらさない。
客観的事実を冷静にとらえて上で、ビシッと批判する方が中国を正確に批判あるいは分析することができ、それはやがて日本国民にプラスの方向で戻ってくるので、ここでは政府活動報告が、どういう過程で起草され完成されていくのかに関して、基本をご紹介したい。

◆政府活動報告作成に関する法規
全人代における政治活動報告作成に関しては、法規的に厳格に制限を受けた規定が中国にはあり、必ず「国務院研究室」が起草から完成までを担当しなければならない。ただし、国務院研究室のスタッフだけではなく、国務院研究室を中心として中央行政省庁の国家発展改革委員会、国家財政部あるいは中央銀行などの代表からなる「政府活動報告起草組」が、報告書起草に当たる。
起草組の委員は毎年30名から40名により構成される。
中央経済工作会議が終わった後に起草に取り掛かる。中央経済工作会議は、中共中央政治局常務委員(チャイナ・セブン)以外に、中共中央政治局委員、中央書記処書記、全人代常務委員会委員などから成る大きな会議だ。
会議後、3,4カ月をかけて起草案を作成する。
起草組は毎年4回以上の大きな会議を開き、何回にもわたる小討論会を開いて、最終的に起草案を決定する。
でき上がってきた起草案の修正に関しては、国務院総理(現在は李克強)のみならず、必ず国家主席および中共中央総書記(現在は両方とも習近平)が目を通して最終決定をしなければならない。それ以外にも最近ではネットを通して「人民の意見」を求めるという形も採っている。
以上が全人代における基本的な流れである。

◆報告書内容に最終決定権を持っているのは習近平総書記
以上のプロセスを経て、ようやく起草案ができ上がるのだが、完成までにはなお多くのプロセスがある。
今年の場合、上記4回の大きな会議は、習近平と李克強によって主催されている。
一つ目は、1月6日に李克強国務院総理が開催した第118回国務院常務委員会で、二つ目は1月14日に「習近平総書記」が主宰した中共中央政治局常務委員会会議で、この会議が最高決定権を持つ。
つまり、李克強は国務院総理として国務院(中国政府)側の立法機関である全人代における政府活動報告に対して直接の責任を負わなければならないが、その内容の是非に関して、より高位の指摘を行なうのは、習近平総書記なのである。
1月14日に習近平が主催したのは、フルネームで書けば「中国共産党中央委員会政治局常務委員会」だ。
これこそは、中国における最高意思決定機関で、「中国共産党中央委員会(中共中央)」であることに注目しなければならない。
だから、1月14日に会議を主宰した時の習近平の肩書は「習近平総書記」すなわち「中国共産党中央委員会・習近平総書記」であって、「習近平国家主席」ではない。
このことは非常に重要だ。
この時点で、習近平が中国共産党中央委員会の総書記として、「全人代における政治活動報告書に対して最終決定」をするのである。
ここで習近平総書記が行った最終修正に関しては、絶対に覆してはならない。
なぜなら中共中央政治局常務委員会は、中国の最高意思決定機関だからだ。

このような中国政治の基本中の基本も知らずに、「習近平に対する賞賛の言葉が政治活動報告書の中に少なかったので、習近平が激怒した」などという、あり得ないゴシップを書いて喜んでいるのは、如何なものか。これではまるで、全人代で初めて習近平が政治活動報告の内容を知ったようで、このような誤読は、日本国民の中国全体へ誤読を招き、日本国民にとって有利な状況をもたらさない。

◆習近平の「核心化」は軍事大改革のため
この一連の誤読の中で、習近平への賞賛の言葉の象徴として、「核心」という言葉を使う回数が少なかったからとしているが、「核心」に関しても誤読しているのは、更に好ましくない。
2月10日付けの本コラム<習総書記「核心化」は軍事大改革のため――日本の報道に見るまちがい>で書いたように、習近平が各省幹部に「核心化」を言わせ始めたのは軍事大改革のせいである。 それまでの軍区の司令官だった者などが、軍区撤廃による不満を持つ。最も危険なのは、軍事大改革前まで絶大な力を持っていた総参謀部など4大総部の撤廃に対する不満だ。
しかし習近平政権としては北朝鮮問題や南シナ海問題などに迅速に対応するため、どうしてもこの軍事大改革を断行しなければならなかった。そのため軍事的指揮系統に関して、習近平を中心に求心力を高めなければならないのだ。なんと言っても、この軍事大改革で習近平は「軍の最高司令官」になったからである。
「核心化」を、習近平の名誉欲のためのごとく説明するのは、中国の軍事戦略を見誤らせるという、日本国民にとっては決定的な不利益をもたらす。そのような甘いものではないこともまた、肝に銘じてほしい。
日本の一部のメディアも中国研究者も、「日本人にとって耳触りのいいこと」を発信しようとする傾向にある。その方が視聴率が取れるし、また研究者の方も注目を集めることができると望むからだろう。この傾向は、「可愛いのは自分であって、真に日本国民を大切だとは思っていない」という姿勢が招いたものではないだろうか。気持ちは分からないではないが、こういった現象を、日本国民のために憂う。」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20160314-00055415/

ロシアがシリアに軍事介入した四つの理由 ―政治評論家カラガノフの分析―/メムリより引用

2016-03-09 15:23:15 | 国際
「ロシアの週刊誌The New Timesは、2016年2月15日付誌面で、政治評論家カルガノフ(Sergey Karaganov)のインタビューを掲載した。本人は、モスクワの国立研究大学高等経済学部々長である。インタビューはロシアの外交政策とロシアから見た中東情勢の現状をテーマとするが、そのなかでカルガノフは、ロシアがシリアに軍事介入した四つの理由を指摘し、更にロシア・トルコ間の緊張に関しても触れた。以下そのインタビュー内容である※1。


写真① セルゲイ・カルガノフ(Image: Newtimes.ru, February 15, 2016)

スンニ派シーア派何れが勝っても破滅、どちらに勝たせても行けない

(問)シリアにおける軍事作戦は、ウクライナ絡みという意見が広く流布している。つまり、(ウクライナにおけるロシアの活動)から西側の目を引き離し、テロリズムと戦うためシリアに軍事介入をおこなった点を強調して、国際社会での孤立を避ける。これが軍事介入の背景とする意見がある。これをどう考えるか。

(答)ロシアは、随分前からシリアに対する軍事介入を意図し、準備してきた。作戦自体入念に準備したうえで、発動されたのである。いきなり軍事介入が始まって驚いたと言う人は、知識不足の馬鹿か或いは嘘つきのどちらかである。国は、軍事専門家、戦闘機材を輸送し、航空基地と連絡道路を修理、整備し軍事要員の受入れ施設を建てるなど、兵站を事前に設定したのである。ラタキアの基地整備は、航空機の第1陣到着より1年前に着手されている。我々のシリア介入に関しては、いくつかの理由がある。

第1. 我々は随分前から、中東が惨憺たる状況になることを予想していた。大半の中東諸国は、歴史の古いイランと特異なステータスを持つイスラエルを除き、今後20ないし30年の間に崩壊するだろう。そこで我々が考えるべきは、どのようにして崩壊するかである。我々がいなくても崩壊するのか。数千数万のテロリスト候補者が存在することを計算に入れると、介入してネジを締めたりゆるめたりした方がよいのか、彼等が互いに殺しあって、何倍も惨状が拡大してロシア国境に近づく前に、我々が始末した方がいいのか。そのような考慮があった。

第2. ロシアは、中東に或る種のバランスが必要であることに気付いた。バランスがないと大爆発になるという認識である。まずシリアでスンニ派が勝ってもシーア派が勝っても同じで大惨事となる。それがほかの中東地域へ波及していく。どちらに勝たせてもいけない。

第3. 勿論〝姿勢〟の問題もある。我々は大国でありたい。未熟な国家主義の願望、ピヨトル大帝※2とエカテリナ女帝※3から受け継いだ現実離れの思想、と呼ぶ人がいるかも知れないが。

第4. シリア(に対する)介入がウクライナから目を転じさせ、我々と西側との関係が別の次元へ移る。私もその通りであると思う。そして、このゴールは完全に達成されたのである。

我々は、新しいトルコ帝国やペルシア帝国の出現を望まない。カリフ領の建設も不可

(問)ウクライナ問題が注目されなくなったというが、注視の転換は完全に果たされたのか、ミンスク協定の履行は※4、進んでいるのか。

(答)ミンスク協定は、関与者全員―アメリカ及びヨーロッパ諸国を含めて―が履行の時が来たと決めて初めて、履行されるのである…話をシリア問題に戻すと、この戦争は、軍事上外交上はっきり成功した場合でも勝利がない。我々はいつでもシリアを出る用意をしておかなければならない。国民も前以てそのシナリオに備えておく必要がある。その過程で別の紛争にまきこまれないようにしなければならない。そこが肝腎である。その意味で私は対トルコ紛争を強く懸念している。トルコは、我々を背後から刺した。何故トルコはロシア機を撃墜したのであろうか。答の一部は、この地域の政治文化の妙な特異性にある。我々がここに関して抱いていた先入観の多くは、間違っていた。自分の発した言葉に責任を持つという点など、前提のひとつであるが。しかし我々の対応は感情的で、余り理性的ではなかった。その結果のひとつとして、第二次クリミア戦争※5の恐れも、でてきた。

(問)トルコには何を望むのか。

(答)何を望まないのかを指摘する方が容易である。我々はこの地域で行動するようになったが、関与当初から、我々は新しいトルコ帝国やペルシア帝国の出現を望んでいなかった。カリフ領の建設も御免である。

(問)では、我々はイラン、トルコ双方の野望を抑えつつあるということか。

(答)それはあなたの表現だ。私が言いたいことは、今言った通りである…。今日のトルコは、19世紀後半から20世紀初めにかけてのロシアに、よく似ている(ちなみに、同じ理由から彼等は偉大な文学を持っている。我々の偉大な文学はなくなったが)。突如として彼等は トルコ帝国の回復を決めた。5-10年前からこれを口にしている。あちこちに広がる一種の流行であった。4年前彼等がアラブの春を支持したのも、そこに理由がある。

※1 2016年2月15日付 Newtimes.ru

※2 ピヨトル大帝は17世紀後半に即位したロシア皇帝。ロシアを農業社会から帝国へ発展させ、18世紀になってヨーロッパ列強に対抗したことで知られる。

※3 エカテリナ女帝は、1762年から1796年まで統治し、ロシア帝国領を黒海そして中部ヨーロッパへ拡大した。

※4 ミンスク協定の履行のための対応パッケージ。ウクライナのドンバス地方における戦闘軽減を目的とする。

※5 クリミア戦争(1853年10月―1856年2月)は、ロシア対トルコの戦争に、イギリスとフランスがトルコ側に加担し、サルディニア軍が支援し、クリミア半島を主戦場として、戦った。この戦争は、中東を支配する列強間の紛争に由来する。」

http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP633516

原油価格予想、2016年末までに1バレル60ドルに/SUPUTONIK

2016-03-05 15:56:00 | 国際
「ロシアのファイナンシャルグループBKSのアナリスト、キリル・タチェンニコフ氏は、そろそろ原油価格の上昇を当てにしてもいい頃だとの見解をあらわした。タチェンニコフ氏は今年末までにブレント原油は1バレル60ドルに達するとの予測を出している。

「我々は米シェールオイルのメーカーの今年のオペレーション計画の分析を行なった。パブリック・カンパニーの発表した2016年の採掘計画を見、その差異の中間値を考慮した結果、米石油大手13社の平均日量は、我々の試算では27万5千バレル減となった。」タチェンニコフ氏はBKSの概観でこう書いている。
タチェンニコフ氏によれば、他の米石油メーカーの計画採掘量はさらにこれより低く、2016年末までには日量50万バレル以上も削減される。」」

http://jp.sputniknews.com/business/20160304/1720846.html

考えてみればもっともなアメリカ大統領候補者選び

2016-03-03 19:52:44 |  北米
 アメリカの大統領候補者選びがかまびすしい。

 しかしよく考えればもっともな状況では?

 共和党、つまり金持ちのための党の候補は金持ちのトランプ。ピッタリである。

 共和党主流派なる連中は、自分たちの姿と本質が「ありのままに」-少し古いが-登場したことに慌ててるのではなかろうか。

 金持ちによる、金持ちのための、軍事力と諜報能力による政治と軍事。これがレーガン政権以降、というよりも戦後一貫した共和党の政治ではないか。

 他方民主党の方はと言えば、サンダース、貧乏人のための、まともな判断力のある、誠実な政治を掲げている。これぞ本来のアメリカンデモクラシーであり、民主党が進むべき道である。

 アフリカ系の皆さん。クリントンなどに騙されてはいけません。彼女は旦那同様、あなた方の力を利用して、自分ちの好きなことをやろうとしているだけです。もう彼女は民主党の草の根の一員だった時の彼女とは違います。そもそも若いときは共和党員でした。彼女は結局アメリカの国家権力の魔物に取り付かれてしまったようです。リビアをめちゃくちゃにしたのは国務長官のヒラリーですよ。忘れないようにしましょう。

 金持ちの党からは金持ちのトランプが。

 そうでない方からは、貧乏ではないかもしれないが金持ちではない社会民主主義社が登場。

 ピッタリである。

 それにしても二党からしか大統領にでられないというのは、そもそも間違っているのではないか。第3の候補に立候補するのは決まって金持ち。今のアメリカは基本的に金持ちの寡頭制支配の国ということだ。アメリカの民主主義について、もう少し疑ってかかった方がよいと思います。

国連の北朝鮮制裁決議は本当に「最強」?――核・ミサイルを止められない5つの理由/辺

2016-03-03 15:04:23 | 軍事
「国連の5度目となる対北朝鮮制裁決議「2270」が3月2日、採択された。

水爆実験と称される1月6日の4度目の核実験から57目と、北朝鮮制裁決議では過去最長となった。それでも制裁内容は「過去20年間では最強の制裁」(パワー駐国連米大使)と言われている。韓国では「国連創設以来、史上最強の制裁となった」と評価するメディアもある。果たしてこれで北朝鮮の核・ミサイル開発にブレーキが掛かるのだろうか?結論は無理だろう。以下、国連決議の問題点を5つ挙げてみる。

その一、中・露が障害となっている
中国は北朝鮮制裁に今回は一歩も、二歩も踏み込んだ。それでも日米韓が求めた「強力で包括的な制裁」には全面的に同調はしなかった。今回の制裁が選択的だったことからも伺いしれる。実際に中国は▲北朝鮮への原油供給の全面的な中断(空軍用とロケット用燃料に限定)▲海外人力(5万人)の送金(2~3億ドル)停止▲貿易の全面中断(大量破壊兵器と無関係の地下資源の輸出や7億4千万ドル相当の対中繊維輸出はOK)▲セカンダリーボイコット(北朝鮮と取引する第三国への制裁)には首を縦に振らなかった。

ロシアにいたってはさらに手を加え、わざわざ「北朝鮮の民間機の海外での給油(燃料販売と供給)は許可する」との例外規定を加えさせた。また、当初制裁対象者に含まれていた朝鮮鉱業貿易開発会社の駐ロシア代表を外させた。北朝鮮経由のロシアの貿易や鉱物資源を担保にした北朝鮮への経済協力を進めているロシアには障害になるからだ。

中露の妨害は今に始まったことではない。2006年7月のテポドン発射の際に日米が制裁決議案を上程したが、拒否権を持つ中露が反対したため通らず、拘束力のない非難決議(1695号)で終わった。また、同年10月の核実験の際には日米は制裁決議案に北朝鮮の船舶に対して強制的な検査の実施を盛り込んだが、公海上での強制検査は北朝鮮との軍事衝突の恐れがあるとして反対したためこれまた通らなかった。

さらに2009年4月に安保理決議を無視して「衛星」と称して長距離弾道ミサイルを発射した際にも制裁決議に反対し、結局は議長声明に格下げさせた。国連制裁委員会による資産凍結指定企業も14企業から大幅にカットし、3つの企業に限定させてしまった。

その二、制裁が中途半端である
安保理決議(1718号)では制裁対象人物は「北朝鮮の核関連、弾道ミサイル関連及びその他の大量破壊兵器関連の計画に関係のある北朝鮮の政策に責任を有している(北朝鮮の政策を支持し又は促進することを通じた者を含む)者」と定められている。となると、真っ先に金正恩国防委員長がリストアップされなければならない。その理由は、水爆実験は金正恩国防委員長が12月15日に決断し、また長距離弾道ミサイル「光明星」の発射も「2月7日に打ち上げろ」との命令を出しているからだ。北朝鮮は金第一書記の直筆のゴーサインも公開している。それなのに今回も制裁対象から外されている。

また「北朝鮮の政策を支持し又は促進することを通じた者」とは水素爆弾成功祝賀平壌市軍民大会やミサイル発射成功を祝った宴会の出席者である金永南最高人民会議常任委員会委員長や黄炳誓軍総政治局長、朴奉柱総理ら党・軍、政府幹部らである。国際会議の場で核実験やミサイル発射の正当性をPRする外務省の李スヨン外相らも対象とならなければならない。ところが、幹部では李万建党軍需工業部部長が今回指名されたのが唯一で、他誰一人制裁対象にされてない。イラクのケースとは大違いだ。

サダム政権下のイラクに対する経済制裁では制裁委員会が作成したブラックリストにはフセイン大統領を含め89人の個人と205の組織、団体がリストアップされていた。北朝鮮の制裁対象は今回個人16人と12の団体が追加され、個人が28人、団体42に増えたものの、その数はイラクと比べればはるかに少ない。同じ核開発で制裁を受けていたイランでさえ4度の制裁で個人41人とアフマディネジャド大統領(当時)との支持基盤である革命防衛隊の関連企業を含む75の団体が制裁対象にされていた。

まして、第二自然科学院長にせよ、宇宙開発局長にせよこれまで制裁対象とされたミサイルや原子力関係者らは海外に資産もなければ、海外に出ることもない面々だ。さらに制裁の対象になった貿易会社など組織、団体は看板を変えれば、事業再開はいくらでも可能だ。名義を変更するか、新しい会社を作るか、あるいはダミー会社を使えば、関連業務はいくらでも継続できる。

現に、数日前に安保理に提出された制裁履行状況を調査している制裁委員会の専門家パネルの年次報告書では北朝鮮の船舶が外国の旗や別名を掲げて海外の港に入港している実態が明かにされている。制裁対象の北朝鮮の海運企業「オーシャン・マリタイム・マネジメント(OMM)」に属する9隻が名前を変えたりして運航を続けていたとされる。

その三、国連加盟国が決議を履行していない
さらにこの報告書では、北朝鮮は外交官や一部友好国との長期にわたる貿易関係を通じて制裁を逃れてきたという。アフリカなど一部の加盟国に制裁逃れの報告を求めているが、応じていない国もある。ナミビアでは北朝鮮企業が軍需工場の建設に関与していたし、シリアやエジプトへの武器輸出も中国を経由して行われていた。違反しても決議にペナルティーが科されてないのが問題だ。

北朝鮮に現在適応されている制裁は国連憲章第7章第41条に基づくもので、第41条には「経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる」と書かれてある。

国際社会が4度にわたる核実験や6度にわたる長距離弾道ミサイルの発射に憤りを覚えるならば「外交関係の断絶」も義務付けられているわけだから、国交のあるEUを中心に北朝鮮と国交を断絶する国が続出しても良さそうなものだ。しかし、核問題で断交した国は北朝鮮と国交のある163か国のゼロである。人権問題では2か国が断行しているが、いずれも小国だ。加盟国の積極的な関与がなければ制裁の効果は十分に発揮されない。

その四、国際社会の人道支援が北朝鮮経済を助けている
国連安保理で北朝鮮制裁が論議され、北朝鮮への輸出入を規制する制裁決議が採択される直前の3月1日、ロシア政府が北朝鮮に人道支援した小麦粉2千5百トンが南浦港に到着した。総額で400万ドル相当(約4億5千万円)。世界食糧計画(WFP)を通じての支援だ。WFPへのロシアの今年の支援金900万ドルの一部である。ロシアは、昨年も6月に400万ドル、10月に200万ドル相当の食糧支援を行っている。

北朝鮮に経済制裁を掛けているオーストラリアもWFPの対北朝鮮栄養支援事業に220万ドルを寄付している。オーストラリア政府は2002年から毎年、年平均400万ドル相当の支援を行ってきた。ちなみにWFPは2013年7月から2016年6月までの3年間で約2億ドルの対北支援を検討している。

スイスも今年、外務省傘下の開発協力庁(SDC)を通じて北朝鮮に保健事業支援として835万ドル、食糧事業関連で67万ドル、併せ約900万ドルの支援を行う。スイスは昨年もWFPに560万ドル相当の粉ミルク支援を行っている。EUも昨年、北朝鮮の食糧支援を行っている英国、ドイツなど7つのNGO団体に760万ドルの資金を拠出している。

NPO法人の国際救護団体「ワールドビジョン」が植樹や農業支援の名目で120万ドルの支援を行う他、世界基金も国連児童基金が北朝鮮で結核を退治するための事業費として2018年6月までの2年間2,840万ドルを支援する。国連も干ばつに見舞われた昨年、北朝鮮に630万ドルの人道支援を行っていた。

国際社会の人道支援は北朝鮮が2度目の核実験を行った翌年の2010年には2500万ドル、また3度目の年の2013年には3千万ドルと大幅に減少したが。10年前までは年平均3億ドルもあった。

北朝鮮の国防費は40億4千万ドルで世界36位だ。GDP(170億ドル)は世界101にもかかわらず、GDPに占める国防費支出は世界1位である。国際社会の人道支援があるからこそ北朝鮮は予算を核やミサイル開発など国防に回すことができる。今回の制裁決議「2270」でも人道支援や人道目的に関する協力は除外されていた。

その五、伝家の宝刀である「第42条」を適応しないことにある
一度目の核実験の時は、日米両国とも「第42条」を押し通そうとしていた。それ以降の国連制裁決議では「第42条」について触れようともしない。

「42条」には「安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる」となっている。

北朝鮮が「41条」を無視して、核実験を再度強行したわけだから、本来ならば、速やかに「42条」の適応を求めるのが筋のはず。ところが、中露を含め関係国の間では「暴発(戦争)を招く恐れがあるから」ということで「禁句」となっている。

結論を言うなら、関係各国が覚悟をもって「42条」に踏み込み、「政策を転換しなければ体制を維持させない」との本気度を示さない限り、金正恩政権が核とミサイル開発をそう簡単に断念することはない。」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/pyonjiniru/20160303-00055001/