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コラム:通貨安競争、伊勢志摩合意で終止符を=河野龍太郎氏

2016-03-01 19:38:15 | 国際
「[東京 1日] - 年明け以降、国際金融市場の激しい動揺が続いている。事の本質は、中国をはじめとする新興国や資源国において、大規模な過剰設備と過剰債務が生じていることにあるが、現在の国際環境下では、その解消の道筋が見えないのである。

新興国や資源国の減速を補うべく成長の加速を期待し得る主体は今やどこにも見当たらない。むしろ先進国の一部は、通貨高を通じ新興国の過剰の調整負担が自らに降りかかるのを避けるべく、一段と極端な金融緩和に踏み出している。

しかし、調整負担が一部に集中すれば、市場はそれらの国々の金融システムや為替制度の健全性、持続性に疑いを強め、国際金融市場の動揺も収まらない。国際金融市場の安定化、ひいては世界経済のソフトランディングには、国際的な政策協調が不可欠だ。それでは、国際協調はどうあるべきか。それが今回のテーマである。

<世界経済史に残る「安倍合意」のチャンス>

2月26―27日に中国・上海で開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、実際に政策の国際協調が議論された。通貨安競争の回避や財政出動などが謳われたが、G20は参加国があまりに多く、そもそも実質的な拘束力のある合意は期待しにくい。

例えば、マイナス金利政策は通貨安政策とは各国から見なされておらず、デフレ脱却のツールとして諸外国から理解を得られていると日銀は主張している。同様に欧州中央銀行(ECB)も3月の追加緩和を難しくするような声明文には反対。中国も自国の問題を世界経済低迷の元凶と扱うような議論を端から受けつけなかった。各国の金融当局者や財政当局者は、対外的な要因から自国政策に足かせをはめられるのを極度に嫌う。G20の声明文は、抽象的な一般論にとどまった。

では、どうすればよいのか。有効な国際協調合意が成立するチャンスは、今年5月に日本の伊勢志摩での開催が予定されている主要7カ国(G7)サミットとなろう。ここで安倍晋三首相が、事前に中国政府を取り込み、議長国として以下の合意を目指すべきだ。合意が実現すれば、「伊勢志摩合意(安倍合意)」として世界経済史に残る功績となり得る。

具体的には、まず、世界的なディスインフレ環境の下、米連邦準備理事会(FRB)が、国内のインフレが高まらない限り、利上げを中断する方針を明確にすることである。国内均衡を目指し米国が利上げを継続する構えを見せれば、バブル崩壊によってドルベースの過剰債務を抱える新興国、資源国の調整は困難を極め、同時にドル高進展が人民元問題を深刻化させる。

FRBの利上げ中断は、当面の国際金融市場の安定には不可欠な要素だろう。国際金融市場の混乱を受け、米国のクレジットスプレッドも拡大傾向にあり、自国にも悪影響を及ぼし始めている。

一方、日銀とECBは追加緩和を自制し、ある程度の通貨高を甘受する必要がある。資源輸入国である日本経済や欧州経済は、コモディティー価格下落の最大の受益者であり、両経済の経常収支黒字は大幅に増加している。日欧経済が、執拗(しつよう)に通貨高を拒み続けることが、世界経済に与えるストレスは小さくない。

また、経済に依然、大きな負の需給ギャップを抱えるユーロ圏はまだしも、日本経済は14年の年初以降、完全雇用にあり、人手不足に悩む状況にある。国内均衡の観点からも、ある程度の通貨高を拒否する理由は乏しい。2%インフレの早期実現が遠のくという懸念はあるが、日銀の追加緩和が中国当局を人民元の大幅切り下げに追い込み、世界経済が大混乱に陥れば、2%インフレどころか再びデフレに舞い戻ることにもなりかねない。

もちろん、為替市場には行き過ぎが付き物であり、行き過ぎに対しては協調で行動を取る用意があることを示しておく必要はあるだろう。中国は、こうした日米欧からの一定のサポートを得た上で、対ドルでの人民元の大幅切り下げを回避し、資本規制の強化も辞さない覚悟を示すことが不可欠である。改革とは逆行するが、大幅な人民元の切り下げを回避しつつ、通貨高の痛みを和らげるため、緩やかな切り下げを可能にする資本規制が必要となる。

一方、財政政策については、あくまで信認に足る長期的な財政再建の道筋を立てた上で、当面の景気減速を和らげるため、財政に比較的余裕のある国から、ある程度の景気刺激策を講じることも必要となるだろう。単なる一時しのぎで追加財政を発動すると、各国の既得権益層と結びつき、国際金融市場の混乱を大義名分に、大盤振る舞いの財政が繰り返されるだけに終わる。

17年4月に予定されている日本の消費増税については、予定通り実施し、景気に大きな落ち込みが予想される場合には、それを相殺すべく追加財政を検討すべきである。消費増税の先送りで大幅な日本国債の格下げとなれば、国債金利が上昇しなくても民間部門の資金調達に悪影響が及ぶ。

リーマンショック後、新興国バブル、資源バブルを作ることで世界経済は回復してきたが、今やバブルは全面崩壊した。国際協調は、要するに、バブル処理の国際的な負担の分かち合いであり、政治的な国際合意は当然にして容易ではない。しかし、世界経済にはすでに大きな構造的な過剰問題と為替レートのミスアライメント(均衡為替相場からの著しいかい離)が発生しており、本連載でかねて述べている通り、これらは中国など新興国や資源国の政策の誤りだけによるものではない。アグレッシブな金融緩和を行い新興国バブルや資源バブルの種をまいた米国も責任を取る必要がある。

また、日銀やECBの金融緩和の成功の証とされていた日欧の株高も、実はファンダメンタルズが悪化していたにもかかわらず、ドルに対し固定的な為替レート制を維持していた中国の犠牲の上で成り立っていた部分が少なくない。各国の政策当局者が協調して目指すべきは、世界経済をソフトランディングに向かわせた上で、いかにして中長期的に不均衡を縮小させるかである。

もちろん、日本が多少なりとも通貨高を甘受する姿勢を示すことは、これまでのアベノミクスからの大きな方針転換であり、短期的には日本株にも一段の下押し圧力がかかるかもしれない。しかし、国際金融市場が安定に向かえば、長い目で見て、日本が得るものは小さくない。一方、このまま日銀がマイナス金利政策を追求していけば、アベノミクスは、近隣窮乏化政策の典型として、そして世界経済を泥沼の通貨安競争へ突き進ませたとして、世界経済史に記録されることにもなりかねない。安倍首相の君子豹変に期待したい。

<各国が行動様式を変えなければ1930年代の繰り返しに>

もっとも、仮に上述した国際協調政策が採用され、世界経済がソフトランディングするとしても、それで全ての問題が解決されるわけではない。

国内均衡と矛盾する政策が採用されることで、とりわけ米中では、新たな不均衡が生じるリスクがある。まず、世界的にディスインフレ傾向にあることを前提にすると、米国では利上げ中断が生み出す過剰流動性が株式市場や住宅市場に流れ込み、新たなバブルが醸成される可能性がある。米国の株高や住宅価格の上昇に連れ高する形で、金融緩和環境が続く日欧でも、そうした動きが観測される可能性がある。

中国については、追加財政で景気がある程度支えられるとしても、それによって資源配分が歪み、潜在成長率の低迷が続く恐れがある。また、人民元の大幅切り下げを回避するための資本規制それ自身も、当然にして市場規律を損ない、資源配分に悪影響をもたらす。

マクロ経済のボラティリティーを抑えるべく、ソフトランディングを志向することは政策的には妥当だが、それは、あくまで副作用を伴う「時間を買う政策」に過ぎない。ソフトランディングを好感し、先進各国で株高が続けば、政策当局はそれに慢心して必要な改革が止まり、結局さらに大きな問題を抱え込むのがこれまでの経験だったことを肝に銘じておく必要がある。

国際協調政策が、結果的に、超低金利と拡張財政の長期化・固定化に終われば、収益性の低い分野に経済資源が向かうだけで、世界経済の潜在成長率のさらなる低下は免れない。それゆえ、「伊勢志摩合意(安倍合意)」では、長期的な目標として各国が潜在成長率引き上げのために構造改革を推し進めることを約束することが重要だ。

ただ、それだけでも十分ではない。同時にグローバリゼーションの下での新たなルールとして、以下の2点も合意に盛り込むことが重要である。

第1に、基軸通貨国や準基軸通貨国は、他国への影響が余りに大きなアグレッシブな金融政策は自制すること。第2に、規模の大きくなった新興国については、完全なフロート制に向け為替レートの柔軟化を着実に進めていくことである。

振り返れば、10年の米国の量的緩和第2弾(QE2)以前は、日米欧の中央銀行の間で、大幅な通貨の減価につながるアグレッシブな金融緩和は行わないという紳士協定が存在していた。それが破られ、いつの間にか、通貨切り下げ合戦が繰り広げられているように思われてならない。

近年、G7では、為替レートの決定は市場メカニズムを尊重し、介入は極力回避した上で、各国の金融政策は国内の物価目標の達成のために割り当て、為替レートをターゲットとすべきではないというのが表向きの合意となっている。

13年2月のG7の声明文では、こう謳われていた。「我々、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、我々が長年にわたりコミットしている、為替レートは市場において決定されるべきこと、そして為替市場における行動に関して緊密に協議すべきことを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は為替レートを目標にはしないことを再確認する」(財務省訳)。

しかし、これは実質的には、インフレ目標を掲げた上で、為替レートを明示的なターゲットにしていなければ、通貨安につながるアグレッシブな金融緩和を問題視しないという解釈に変質している。当初、主要先進国がこうした合意に達したのは、経済規模が大きくなっているのにもかかわらず、固定的な為替レートを維持して競争力を維持しようとした中国への対抗策という側面が大きかった。

ところが今や中国の固定的な為替レート制だけでなく、主要国のアグレッシブな金融緩和が、世界経済や国際金融市場に大きな歪みをもたらしているのは明らかだろう。筆者は、09年後半から、FRBのアグレッシブな金融緩和が、固定的な為替レート制を介して新興国バブルや資源国バブルをもたらし、それがいずれ世界経済を揺るがすことになると懸念していたが、案の定、その予想は的中してしまった。

各国が行動様式を変えなければ、同じことが繰り返され、グローバリゼーションの下で、先進各国の金融緩和はますますアグレッシブになり、その副作用も増幅されていくだろう。今や金融機関の収益を蝕み、金融仲介機能を損なうマイナス金利の領域に入ってしまった。その結果、最後には各国がますます内向きとなり、反グローバリゼーションを掲げる政治勢力が支持を広げていく恐れがある。これでは、1930年代の繰り返しとなる。

金融政策はあくまで国内均衡を目標に据えた自律的なものであるべきだが、基軸通貨国や準基軸通貨国は、他国に大きな影響をもたらすほどのアグレッシブな金融緩和には自制的でなければならない。世界経済と国際金融市場の安定化のために、「伊勢志摩合意(安倍合意)」として、是非とも安倍首相から各国首脳に提案すべきである。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。」

http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-ryutaro-kono-idJPKCN0W33Q8?sp=true

NY判事、アップルの主張認める スマホのロック解除で

2016-03-01 14:33:54 | 情報
 どう考えてもアップルが正しい。なぜアップル擁護の声が小さいのか。通信の秘密は基本的人権の一部、あるいはその基礎だ。権力による一般市民への支配が際限なく強められつつある。西側の自由や民主主義は何なのだろう。


「ニューヨーク(CNNMoney) 米連邦当局が米アップルに対し、薬物取引業者のスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」のロック解除に協力するよう求めている問題で、ニューヨーク州東部地区連邦地裁の治安判事は29日、当局が主張する法的根拠は認められないとの判断を下した。
この裁判で問題になったのは、2014年に覚せい剤取引の疑いで逮捕され、検察との司法取引に応じた容疑者のiPhone。麻薬取締局(DEA)は昨年、容疑者の取引相手や業者仲間を突き止めるために捜査令状を取り、iPhoneに記録されたデータを調べようとしたが、ロックを解除することができなかった。
司法省は、裁判所が令状を出す権限を定めた1789年の「全令状法」を根拠に、アップルにロック解除への協力を要請していた。しかし治安判事は、捜査当局がこの法律を使ってアップルに協力を強制することはできないとの判断を下した。
アップルはこのほか、昨年12月にカリフォルニア州で起きた銃乱射事件をはじめとする米国内10件、計13台のiPhoneについてロック解除を求められている。
アップル側は、当局の命令に従った場合、全世界で使われているiPhoneのセキュリティーが侵害されると主張してきた。
ただDEAは今回の件について、アップルは当初、協力を承諾していたと指摘する。司法省は29日に出した声明で、アップルは裁判所が当局の要請を発表した時点で拒否に転じたと述べ、アップル側の主張は顧客への体面を保つためのジェスチャーにすぎないとの見方を示唆した。
連邦当局は今回の判断について上訴する構えを示している。」

http://www.cnn.co.jp/tech/35078727.html?tag=cbox;tech

警察・検察が推進する「新捜査手法法案」について

2016-03-01 13:38:38 | 政治
 昨日東京弁護士会館で集会があり、そこで現在国会で審議継続となっている、新たな捜査方法に関する法案が取り上げられた。

多大な問題を含むことは明らかなのでその一部をここに紹介する。

1 盗聴の拡大 
 通信傍受が角田際され、将来的には会話傍受も検討される可能性がある。盗聴の拡大では、現行の薬物などの限定が外され、窃盗、詐欺等の一般犯罪に拡大され、自動的に警察施設に送信され、立ち会いも不要で警察官だけが聞けるようになる。

2 司法取引
 他人の犯罪事実について捜査協力する見返りに、自分が助かる制度であり、人間関係を破壊し、他人を売り渡し、何より取調官のストーリー通りの供述を提供することで、えん罪を助長しかねない。

3 潜入捜査
 身分をごまかしても潜入捜査と、身分を隠したままの匿名の証言(証人保護制度)により、えん罪を引き起こしかねない。

 その他様々な問題がある。

 今国会で審議される予定がある。気をつけなければならない案件であろう。

日本共産党の元幹部は中国をどう見ているか/ちきゅう座より

2016-03-01 13:37:18 | アジア
「昨年末、村の日本共産党(以下日共)の人が来て、後援会の会長を引受けてほしいといった。私は当面の問題では一致できるとしても、あなた方が目指す社会主義社会は党員の誰に聞いてもよくわからない。しかも中国が社会主義への道を歩む国だというが自分には到底そう思えないという意見をいって、丁重にお断りした。
こういう話のあとなので、聴濤弘著『マルクスなら今の世界をどう論じるか』(かもがわ出版)という本をインターネット上で見たとき、その書名に魅かれた。
聴濤氏は1935年生まれ。京都大学経済学部中退、1960~64年の5年間旧ソ連留学、日共国際部長・政策委員長を歴任、もと参議院議員という輝かしい経歴の持主である。私は、日共がどんな社会主義を構想しているか知るよりどころになると思ってこの本を読んだ。聴濤氏の著作を読むのは初めてなので、以下の感想には誤解があるかもしれない。

ここでは上記の本の<中国をどうみるか――「社会主義」か「資本主義」か・・・・・・という部分についてだけふれたい。
聴濤氏は冒頭で「マルクスがいまの中国を見れば即座に『社会主義ではない』というにきまっている」という。私もその通りだと思う。さらに「もう少し違った観点からも(マルクスは)『社会主義ではない』というであろうと思っている」とのことである。
「もう少し違った観点」を求めて読んでゆくと、「ネップをはるかに越える」というところで、中国人学者余斌のことばを肯定的に引用している(ネップはロシア革命直後の経済危機脱出のための一時的な市場経済政策)。
余斌氏は、中国の「改革開放」路線はそもそもネップの精神にもとづくものであった。しかし今の中国はネップを「はるかに越えて資本主義化」しているとのべ、さらにレーニンは資本主義の復活を警戒するよう注意していた。国有企業の改革は労働者が企業の管理・運営に参加する改革でなければならない、と発言したということだ。
聴濤氏は、中国経済は完全に市場経済に開放され、それは合理性をもつといいつつも、「市場は必ず暴走する(無政府性)。それに社会的規制をかけていくのは資本主義でも労働者の任務である。にもかかわらず『社会主義』になると市場経済が『決定的』になるというのは理論上は社会主義の否定を意味する」という。これにも同意できる。
さらに最後の「全人代の変容」というところで、聴濤氏は全国人民代表大会を最高の国家機関とし、その代表(議員)の構成変化にふれている(私見では中国の最高権力機関は中共中央常務委員会である)。1978年から83年までは労働者代表と農民代表の合計が47.3%であった。しかし1998年から2003年ではその数値はわずか18.8%で、労働者農民の比重は28.5ポイントも下がっている事実を指摘し、「高い比重を占めるのは政府の官吏(全てが共産党員といっていい)であり、企業家(資本家)の比重も増えている。党大会の構成もほぼ同じ傾向である」という。
以上の議論からすれば、中国は資本主義化が後戻りできないところまで進んでいること、経済改革が労働者参加の方法をとっていないこと、さらに(聴濤氏は解放軍・秘密警察の存在を検討していないが)中国の支配階層は党官僚・資本家であるという結論に導かれると私は考える。

聴濤氏は「中国指導部の経済政策を決定しているのは近代経済学者であり、マルクス主義学者ではない……」という。これはまったくそのとおりで、この20年間経済体制改革の理論的基礎と政策の多くは、欧米留学帰りの新自由主義の影響が強い新制度経済学者が提供してきた。
新自由主義者は市場経済こそが企業と個人の自由な活動を保証し、能力を発揮する体制だと考え、政府の市場への介入は所有権保護やマクロ経済の安定など、市場が正常に動くための条件整備に限られると主張している。彼らのなかでは(一部のマルクス経済学者も含めて)市場経済への移行の過程で何を優先するかについては激しい論争があったが、計画経済に訣別することでは一致していた。

ところが市場経済への移行過程では、計画経済と市場経済、国有企業と非国有企業が併存して腐敗の温床となった。すでに1980年代二重価格制をとったために、国有企業が安価な計画価格で入手した物資を高く市場に流し、官僚のふところを肥やす現象を生んだ。これが「官倒爺」と呼ばれ、89年の天安門事件につながったことはご存知の通りである。
国有企業の民営化の過程でも、党官僚が非常に安価に企業の所有権を私物化することが多く、すでに2006年、個人資産1億元以上の億万長者は3220人、その9割が中共や政府の高級幹部の子女であった。金融・貿易・国土開発・大型プロジェクト・証券など政府による規制の強い分野では、企業の主要なポストが高級幹部の子弟によって占められていた(関志雄『中国を動かす経済学者たち』)。
この構造は、習近平政権によっておよそ3年にわたる腐敗追放が行われたいまも基本的に変らない。300家族の5000人で中国経済を動かしているということばがあるくらいだ(産経2016・2・14)。小平の「先富論」は高級官僚から実践され、世界第2の国富は下層人民にいまだゆきわたらない。労農人民のための福祉政策は長い間政権担当者からかえりみられなかった。

聴濤氏は2013年からの「日中理論会議」の討論内容を紹介し、何回目かの会議のとき国有企業について、「(社会主義建設の)『管制高地』といわれる国有企業は……国家的・社会的見地からの目標がありその実現を基準としているのか、それとも採算性あるいは効率性の重視という観点から結局「収益」追求が基準になっているのかという質問をした」
答は要領を得ずあまりよくわからなかったそうである。問うまでもない。収益追求に決まっている。それがめぐりめぐって労農人民のために使われるなら問題はない。そうではないから問題なのである。目前の国有企業は高級官僚とそれに結びつく経営層の権益確保のための「管制高地」である。中国人学者の答えが要領を得ないのはやむをえない。

新制度経済学者は、中小企業の分野では民営化に進展が見られたが、大型国有企業では完成していない。企業と個人に公平な機会と自由を提供するためには、なお大型国有企業の民営化(株式の国家所有を50%以下にすることも含めて)は避けて通れないとみている。
聴濤氏は2015年9月の中共中央の「国有企業改革を深化するための指導意見」を「市場化を一層進め中国経済の成長を図る」ものと理解している。たしかに文言には企業改革がある。けれども私は「指導意見」は民営化を促進するのではなく、国有企業の(国際的)独占力の強化、「国進民退(市場における国有企業の支配拡大、民営企業の縮小)」をすすめるものだと思う(本ブログ「八ヶ岳山麓から(170)」参照)。
聴濤氏は、「指導意見」が企業経営にかんして企業党の責任者と企業責任者が同一人物であるべしとしていることについて、「国有企業改革の方法を示すものとのして重要である」との見解を示している。
だがこれをやれば、国有資本の特権を拡大することになり、現行の不公平な市場構造と利権構造が維持され、同時に中共中央は企業経営への干渉を強化して、政治権力を維持・安定させるのに役立てることができるのである(「経済」誌2016・1夏目論文参照)。私には党責任者が企業責任者だからといって、従業員ないし国民にとって有利なことをやるとは到底考えられない。

聴濤氏は、中国は資本主義化した道をさらに一層深化させる方向に進むのか、今後ある時点で社会主義的転換が起こるのか、と自問自答している。そして「当然転機が起ることを期待する。期待の論拠は中国が1949年に革命を成功させて以来、さまざまな事件を繰返してきたが、66年間、社会主義の理念を放棄したことはないという点である」
このくだりにはびっくりする。「中共が支配しているから社会主義だ」というのと、「中共は社会主義の理念を放棄していないから、社会主義へやがて転換する」というのはよく似た理屈である。いずれの判断も、中共に労農人民の立場に立った社会改革の意志と能力があるという前提があってはじめて生まれるものである。論拠というにはあまりに脆弱である。聴濤氏は中共もまた変化したことにお気づきでない。中国の一般庶民はもちろん、権力のない何千万という下部党員もほとんどが内心では中共から距離を置いている現実をどうお考えだろうか。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion5935:160229〕」

http://chikyuza.net/archives/60690

[インタビュー]韓国は先延ばしせずに南北対話の再開を

2016-03-01 12:43:47 | アジア
「 日本外務省の代表的な戦略家だった田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長が、北朝鮮の4回目の核実験以降、北朝鮮に対し強硬策を展開している韓国政府に向け、制裁はあくまで「問題を解決するための手段であり、それ自体が目的ではない」と指摘した。韓国は北朝鮮核問題の解決という最終目標のために柔軟な姿勢を持つ必要があるとの助言と思われる。
 田中理事長は23日、ハンギョレとのインタビューで、「北朝鮮を相手に軍事的に問題を解決することは不可能なので、外交的交渉のためのシナリオがなければ、制裁も意味を持たない」とし「先延ばしせず、対話を再開すること」を求めた。外務省でアジア大洋州局長と外務審議官(次官補)を務めた田中氏は、2002年9月、小泉純一郎首相の訪朝と平壌宣言を主導した人物で、現実主義的外交観を持っている。

「北朝鮮相手に軍事的な問題解決は不可能 
外交交渉のシナリオなければ 
強力な制裁措置も意味を持たない」

-北朝鮮の4回目の核実験やロケット発射で、東アジアの情勢が急変している。とりわけ米中間では、韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備をめぐり熾烈な対立が展開されている。現在の急変している東アジア情勢をどう見るべきか?

 「世界の力のバランスが変わりつつある。米国のリーダーシップが弱まっており、ナショナリズム、宗教、原理主義などが国境を越えて世界各地のいろんな場所で混乱を起こしている。東アジアにおいては、中国が南シナ海などで非常に攻勢的な海洋政策を進めており、北朝鮮は再び核・ミサイル実験を行った。朝鮮半島の情勢を見る際につくづく思うのは、北朝鮮に対して関係諸国が本気で政策を調整し向き合う力が相当衰えているということだ。したがって、このまま状況が進展すると、北朝鮮は次第に核とミサイル能力を高めていくだろう。どこかでこの悪循環を止めなければならない。今のこの時期は、リスクは非常に大きいが、一つのチャンスになり得ると考える」

 -現在、日米韓は、北朝鮮に対して強力な制裁措置を打ち出した。特に韓国は、開城工業団地の中断という極めて強硬なカードを出したが。

 「開城公団の中断は、(北朝鮮が)何をやってもこの事業を続けるわけではないという、韓国の明確な意図を示したという点で重要だったと思う。同時に韓国政府が北朝鮮の行動によっては(工団を)原状回復できる、拡大していけるという基本的な姿勢を持つ必要があるのではないか。政府のとる行動とは、最終的な結果を作り出すためのものであって、措置そのものが目的ではない。したがって、より長い目で開城公団を見る必要もあると思う。北朝鮮を相手にして軍事的な問題解決は不可能であるため、外交的な交渉のためのシナリオがなくてはならない。そうした計画があってこそ、強力な制裁措置が意味を持つようになる」

 -北朝鮮の核問題を解決するために実現可能なプロセスについては。

 「政策調整を通じて、日米韓の間で(問題解決のための)きちんとした計画を作らなければならず、中国もそれに含まれるべきである。交渉のための入口としては、『核・ミサイル実験のモラトリアム(凍結)』が考えられる。そこからスタートして6カ国協議の2005年の9・19合意に立ち戻り、それを実行できる具体的プランをもう一度進めることが望ましいのではないか。時間をかけずに、2005年に合意した様々な措置を執行していくための協議に入るべきだ。当時、合意が上手く移行されなかった一つの理由は、検証可能な核廃棄、すなわち検証措置だった。今まで日米韓は、北朝鮮が合意後も陰で核やミサイルを開発したのではないか、したがって信じられないという信頼性のギャップが非常に大きい。そのため、明確な制裁措置、協議のための前提、そして解決のための時間的要素など、明白なアクセント(強調点)のある枠組みのなかでの解決を、これから推進すべきだろう」

 -結局、重要なのは中国だ。現在、韓国内では、北朝鮮の核問題を解決するために中国の協調が必要な状況下で、朝鮮半島へのTHAAD配備を同時に推進したのは失策だったと指摘される。

 「中国は、THAADによって安全保障体制がダメージを受けるというロジックを打ち出している。しかし、北朝鮮が今のように核とミサイル能力を強化する状況のなかで、THAADのようなミサイル防衛を推進せざるを得ないという韓国の論理は正当だと思う。もちろん韓国は北朝鮮との距離が近いため、THAADが本当に有効なのかについての技術的議論もあり得る。

 問題の核心は北朝鮮の非核化であり、その議論に中国を引き入れることにある。何があっても必ず(朝鮮半島に)THAADを導入する、という必要はないかも知れない。昨年、香港の鳳凰テレビで米国や中国の専門家とテレビでの討論を行ったことがある。当時、ミサイル防衛とTHAADに対して激しい議論が行われた。中国がそれほど(THAADに対して)強く言うのであれば、中国は(北朝鮮を動かすための)梃子を持っているので、北朝鮮の核廃棄に役割を果たすべきである。現在、韓国の有力政治家が核武装の議論をしており、それは結果的に核のドミノ現象を起こし、日本と台湾にまで核が拡散するかも知れないという話が出ている。こうした状況下で、中国が『分かった、我々が北朝鮮に対して協議をし、具体的な解決のためのシナリオに協力する。その間はTHAADの議論を止めてくれ』と言うなら理解ができる。中国が自身の梃子を活用し、北朝鮮の核廃棄に努めるならば、韓国が核武装やTHAADの議論をしなくても済む」

 -これまで日米の一部では、朴槿恵政権の対中政策に対して「中国傾斜」ではないかという懸念を示してきたが。

 「私は、韓国が中国との関係を強化していくことは間違っているとは思わない。経済的に見ても、中国は韓国にとって極めて大きな市場だ。これはゼロサムの問題ではない。ただ、南シナ海など、中国が起こす諸問題について韓国がきちんとした立場を示さなかったり、対米・対日関係を軽視してまで中国に近寄るという印象を与えるのは間違いだと思う。政策の内容よりは、政策の説明の仕方の問題だ。韓国が中国と関係を強化することと、米国と安全保障関係や政治関係を強化することは両立しなければいけない」

 -理事長は、過去2002年、小泉純一郎主要の平壌訪問を導いた主役だ。当時、金大中政権は北朝鮮に対して太陽政策を推進していて、小泉首相は平壌宣言を通じて日朝国交正常化を試みた。しかし、これらの動きは米国のブッシュ政権によって挫折させられた。当時の日朝間の舞台裏交渉を主導した主役として、今の東アジア情勢を見る所感は。

 「先ほど、日米中韓が本気で政策協調をしなければ、問題を変化させるのは不可能だと指摘した。より長いプロセスから見れば、1994年に米朝が枠組み合意を結び、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を作った。ブッシュ政権はKEDOを本当に嫌がっていた。それを作ったのがクリントン政権だったこともあり、ブッシュ政権は北朝鮮に軽水炉を提供することに極めてネガティブな認識を持っていた。今でも思い出すのだが、当時TCOG(対北朝鮮政策の調整のための日米韓3国間の政策調整監督グループ)という協議の枠組みがあった。そこで3か国が対北朝鮮政策の調整をしたが、「政権が変わったとして米国がこれに対して否定的な態度を示すのは間違いである」と明確に指摘したことがある。小泉訪朝の際にも米国との調整にかなり尽力した。北朝鮮問題を解決するためには(関係国の間に)相当な(国家間)政策調整がなくてはならない。

 金大中大統領はとても尊敬に値する方だったが、当時、米国との政策調整が十分でなかった。2002年9月、小泉首相の訪朝の際にも、米国のブッシュ政権はネオコンの影響力が強かったため、綱渡りをしているようなものだった。当時の(日朝が発表した)平壌宣言は、北朝鮮の核とミサイル問題を国際的な協議で解決しようとする内容だった。そのためには米国を引き込む必要があったが、かなり難しかった。一国の政府を(北朝鮮の核問題解決という)一つの目的に結束させることの困難さと言える。その結果、いま北朝鮮が4回に及ぶ核実験を行った状況にまでなった。これに関しては、米国が悪い、韓国が悪い、日本が悪い、というよりは、関係国間の強い結束と連携がなかったことが今の状況を生み出したと言いたい」

 -最後に、当時の小泉首相の訪朝直後、ジェームズ・ケリー米国務省アジア太平洋次官補が訪朝し、高濃縮ウランによる核開発の疑惑を提起した。そのため基本合意が破棄されることになるが、それに対しては米国が日朝国交正常化を妨げるためのものだったという陰謀論も提起されたことがある。

 「陰謀ではない(笑)。米国には非常に多種多様な意見が存在し、それらの多様な意見を持つ人々が競争しながら政策を作っていく。一つの意見だけが存在するわけではない」

東京/キル・ユンヒョン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-02-25 19:35

http://www.hani.co.kr/arti/international/japan/732125.html訳H.J」

http://japan.hani.co.kr/arti/international/23435.html

「政治的公平性は権力が判断するものではない」高市氏発言に田原氏ら危機感

2016-03-01 12:23:42 | 政治
「 高市早苗総務相が、政治的公平性を欠く放送を繰り返した放送局の「電波停止」を命じる可能性に言及したことに対し、田原総一朗氏らテレビの報道キャスター6人が29日、会見し、「高市氏の発言は憲法と放送法の精神に反している」と抗議する声明を発表した。会見では「政治的公平性は一般的な公平公正とは違う。権力が判断するものではない」「誰もチェックしない権力は最後に大変なことになる」などと批判し、日本のメディアと政治の行く末に懸念を示した。

 会見には田原氏のほかに、岸井成格氏、鳥越俊太郎氏、大谷昭宏氏、金平茂紀氏、青木理氏が出席した。

「萎縮が蔓延」「誰もチェックしない権力」に懸念

 冒頭、鳥越氏がアピール文を読み上げた。高市氏の発言は、憲法によって保障されている「放送による表現の自由」や「放送が民主主義の発達に資する」という放送法1条の精神に反していると批判する内容。高市氏が「電波停止」の拠り所とする放送法4条は「倫理規定」であることが定説であり、放送法は戦争時の苦い経験として、政府からの干渉の排除や放送の独立を確保することが意図されていると説明した。

 出席したキャスターからは、口々に高市氏の発言への批判が聞かれた。金平氏は、放送の現場は「いま息苦しい」と語る。権力からの攻撃なら跳ね返せるが、自主規制や忖度、自粛といった雰囲気が「メディアの内側に生まれてきている」と指摘。「過剰な同調圧力から生じる『萎縮』が蔓延している」と危機感を示した。

 岸井氏は、高市氏が電波停止の条件として言及した「政治的公平性」について、メディアとしての姿勢を語った。「政治的公平性は権力側が判断することではない。政治家や官僚は大事なことはしゃべらないか隠す。場合によっては嘘をつく。政府の言うことだけ流すのは本当に公平性を欠く」。さらに「公平公正」いう言葉にみんな騙されると指摘する。「政治的公平性は一般の公平公正とは違う。権力は必ず腐敗し暴走する。それをさせてはならないというのがジャーナリズムであり、ジャーナリズムの公平公正」とした。

 鳥越氏は、「これはある種のメディアへの恫喝。背後には安倍政権の一連のメディアに対する姿勢がある」と、高市氏一人の発言ではないとの見方を示した。そして、「政権のチェックをするはずのメディアが、政権によってチェックされている。誰もチェックしない政権は、最後に大変なことになる」と述べ、戦前の大本営発表などを例に上げ、懸念を表明した。

 田原氏は「高市氏の発言は非常に恥ずかしい発言。直ちに全テレビ局の全番組が断固抗議するべき。だが残念なことに多くのテレビ局の多くの番組は何も言わない」とテレビ局の姿勢に疑問を投げかけた。また、この3月で岸井氏(ニュース23)、古舘伊知郎氏(報道ステーション)、国谷裕子氏(クローズアップ現代)が時を同じくして降板することに触れ、「骨のある人たちが辞める。残念なこと。まるで『高市発言』を受け取って自粛したという行動になりかねない」と述べた。

 青木氏は「ジャーナリズムの矜持に関わるときは組織の枠を超えて連帯して声を上げないといけない時があると思う」と語り、大谷氏は「視聴者に既に多大な影響が出ているのではないか」と自らの取材先での経験を元に語った。大谷氏は、東日本大震災の被災地で「まだ復興していないのに復興しているかのような取材をさせられているんだろう」という住民のメディアへの不信感を痛感したという。会場の記者に「メディア人だから危機感を共有してほしい」と呼びかけた。」

http://blogos.com/article/163805/