べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

月夜にとろける夏の夢

2007年05月17日 17時43分32秒 | メルヘン

きょうという日が
おだやかに過ぎ去ろうとしています

ともし火を落とした部屋の中は
黄色い月あかりに満たされて
まるで蜜かなにかのように
とろりと甘くよどんでいるのです
夜風はほのかに待宵草の香りをふくんでいて
そのことが
なおさら夏の夜の濃密さを深めているようです

どこか遠くの方から聴こえてくるのは
ケルトの子守唄でしょうか
その美しく澄んだ歌声は
しっとりと胸に染み入り
まどろむ魂を葦の揺りかごにのせて
そっと運び去ろうとするかのようです

やがて意識は少しずつ闇にたぐりよせられ
部屋の情景が徐々に輪郭を失い
天井が消え
屋根はなくなり
そのうち壁や床さえ消えうせて
知らぬ間にぼくのからだは
ぽっかり宙空に浮かんでいるのでした
あたりには
鏡を砕いてまき散らしたような
満天の星空がひろがるばかりです

その銀の大河の中ほどを
ひときわまばゆい光を放ちながら
いましも大きなほうき星がひとつ
ゆっくりよこぎろうとしています
音もなく静粛に
それでいて厳かに

いつのまにかぼくのかたわらには
羊飼いの少女がひっそりとたたずんでいて
あどけない仕草でそっと耳打ちするのでした
「ほうき星が通りすぎたあとにはね
地上に金の粉が降りそそぎ
そこにお花が咲き乱れるの」
どうりで夜風が花の香りをふくんでいるはずだね
と、こたえる間もなく
ぼくの意識は眠りの沼のはるか深みへ
ふぅっと ひきずりこまれていきました

そうしてきょうという日が
静かに終わりを告げたのです












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