べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

更待月の浮かぶ夜

2007年01月13日 13時43分44秒 | メルヘン

また今夜も眠れないのかい
そんなときはね
温かいミルクを飲むといいんだよ
ほらね
ふわふわと立ちのぼるやわらかな湯気が
眠りをいざなう白いひつじたちに姿をかえていくのがわかるだろ
カーテンをほんの少しあけてお外を見てごらん
夜空にぽっかり更待月(ふけまちづき)が浮かんでいるよ
家々の屋根の瓦はてらてらと月の光に濡れそぼち
その上をほら
ネコが一匹考え深げに歩いてくよ
あれはきっと哲学を学んだネコにちがいない
あぁ、そうだよ
ネコにだって悩みごとはあるさ、いろいろとね
それが証拠にほら
たわんだヒゲはなんとなく憂いをおびて
太いしっぽの先のあたりにも
そこはかとない哀愁がただよっているじゃない
けれどもね
あのひとりぼっちのネコを哀れんじゃいけないよ
薄暗がりに輝く瞳にうちひしがれたようすはうかがえないし
軽やかな足どりには悲しみのかけらさえ見うけられないもの
あのネコはね
きっと好んで孤独を受け入れているにちがいない
ひとりになってね
深く思索することを望んでいるにちがいないのさ
いやいや望んでいるというよりも
あこがれているといった方がいいかもしれないね
人並みに思いを巡らせてみることにさ
問題は何について思い悩むかということ
おそらくあのネコがいま考えているのはね
たとえばキリンのつくため息は
やっぱりそれなりに長いのかどうかということ
あるいは横丁の魚屋の女将さんは
ときどき食べ物をわけあたえてくれるけど
どうして生のお魚でなく
缶詰のキャットフードばかりくれるのかってこと
まぁ、そんなところだろうね、きっと
ほら、あそこを見てごらん
時計台の時計の針が捻じ曲がっているだろ
そしてガス灯のあかりもいつになく瞬いているよ
こんな夜はね
夜空のむこうからほうき星の子供が落っこちてくるのさ
ほらほら
街はずれの森影がほんのり明るくなっているだろう
あの森の奥の奥の奥深くにはね
だれも見たことのない秘密のお花畑があるんだよ
知っているかい
そこのお花はすべてガラスでできているっていうことを
そうしてね
森の小鳥や動物たちがみんな寝静まったころ
ガラスのお花たちはいっせいに
きれいな音楽を奏ではじめるのさ
その指揮をしているのがほうき星の子供ってわけ
ほうき星の子供はね
頭にちょこんと三角の帽子をのっけてね
枯れ枝で作ったタクトを振るんだよ
軽やかに楽しげにね
そうするとガラスのお花たちはね
みんなでリズムをあわせてからだを揺らすの
風もないのにゆらゆらとさ
いちど聴いてみるといいよ
花びらと花びらがすれあってね
それはそれは美しく澄んだ音色なんだよ
この街いちばんのオルゴール職人にだって
あんなにきれいな音はだせないね
さぁさぁ
ミルクが冷めないうちに飲み干して
静かにまぶたをとじてごらん
遠く麗しい旋律が聴こえてくるから
ふわふわひつじの綿毛につつまれて
やすらかな眠りにつきなさい
そうして東の地平線に新しいお陽さまが顔を出すまで
やわらかな夢を見るんだよ
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