べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

灰色ロバと野の花

2007年01月20日 09時36分32秒 | 慰め種

なんどめかの峠を登りつめたところで
ロバははじめて歩みをとめました
遥かな遥かな旅路の果てのことでした

ロバの毛並みは灰色で
その背には大きな重い荷物がありました
峠の頂から来し方をふり返ってみると
そこにはこれまで灰色ロバの歩んできた道が
遠い地平線にむかって一筋伸びているばかり

思えば長い道のりを
てくてく歩いてきたもんだ
ロバは遠い過去を眺めながら
誰に語り聴かせるわけでもなく
ため息まじりに独りごちるのでした

ロバがまだ小さな子供だったころ
その毛並みはつやつやと銀色に輝いていて
このさき長い道のりがずっと続いているなんて
思いもよらないことでした
重い荷を背負ったまま
こんなに長い道のりをよくも歩いてきたものです

ほんとうに長い道のりでした
気持ちはすでにくじけていたのに
心はとっくに音をあげていたのに
足がひとりでに
前へ前へと歩みを進めてきたのです
惰性・・・・あきらめ・・・・麻痺・・・・
ただそれだけのことだったのかもしれません
それもそのはず
なんのために重い荷をかつぎ
いったいどこへ行こうとしているのか
ロバ自身にもわからなかったのですから

なんのためにこんなことをしているのでしょう
なにを求めてこんなに遠くまで来てしまったのでしょう
果てしのない旅をしてきて
これまで楽しいことなどあったでしょうか
嬉しいことなどあったでしょうか
思い出されるのは
つらくて苦しいことばかり
なんのために重い荷を背負い
なんのために長く険しい道のりを
とぼとぼ歩んできたのでしょう
灰色ロバはまたしても
深い深いため息をひとつ大きくつきました

と、そのとき
ふと目の端にとまるものがありました
それは路傍に咲く野の花でした
よく目をこらして見ると
野花はあちらにもこちらにも
そしていまいる足元にも
ひっそりと風に揺られて咲いているのでした

あぁ、なんてことでしょう
こんなにも愛らしく咲いている野の花に
いままで気づかず通り過ぎてきたなんて
ロバはこれまでにないほどの
深くて哀しいため息を胸の底から吐き出しました

このさき灰色ロバがたどるであろう道なき道は
霞がかかって見えません
でもきっと野花は咲いているのでしょう
道端にひっそりと
けして目立たぬように・・・・・・
いき先のわからぬこの旅も
まんざら悪くはないかもしれないな
灰色ロバはぼんやり霞んだゆく手を見すえながら
そんなふうに思うのでした





☆絵:シャガール
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