脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

赤い悪魔に突き立てた刃 ~FIFA CWC VSマンチェスター・ユナイテッド~

2008年12月19日 | 脚で語るガンバ大阪
 G大阪、クラブ史上最大の決戦を迎えた。FIFAクラブワールドカップ準決勝において、欧州王者マンチェスター・ユナイテッドと対戦。3-5と実力の差を見せつけられるも、終始G大阪らしいアグレッシブな攻撃姿勢を貫き、スタジアムを沸かせた。

 
 
 世界中から集まった報道陣の数が試合の注目度を物語る

 実にスペクタクルに富んだ最高の試合となった。67,618人の観衆を集めた横浜国際総合競技場を凄まじい歓声が包み込む。9年ぶりのマンチェスター・Uを多くのファンが心待ちにしていた証だ。G大阪サポーターの声援がかき消される。おそらくクラブ史上最高の力を誇る欧州王者にG大阪がどこまでJリーグの誇りを見せつけられるか。観客の大半が赤いユニフォームなどに身を彩る独特の雰囲気の中で試合は始まった。

 
 
 会場の注目は、2008年度のバロンドールを受賞したC・ロナウドに集中

 テベスを1トップに据え、ボランチにスコールズとアンデルソン、両翼は右にバロンドールのC・ロナウドと左にナニ。中央にギグスを置くマンチェスター・Uに対して、G大阪は、4-2-2-2ともいえる布陣。山崎をCF気味の高い位置に据え、セカンドトップに播戸、ルーカスを左、橋本を右に置き、遠藤を明神とのコンビで中盤の底に配置した。

 
 
 

 前半からアグレッシブに勢いを見せたG大阪。3分に橋本が中央で落として明神がミドルシュート、4分には左サイドを駆け上がった安田理がネビルをかわして豪快にゴールを狙うなど、立ち上がりは非常に果敢な姿勢が目立つ。11分の播戸の決定的なチャンスにも象徴されるように、播戸と山崎が相手DFラインの裏を狙い、ルーカスは少し下がった位置でボールを引き出す。明神と橋本も果敢に遠藤をサポートして前線に顔を出した。“これ以上の相手はない”と言わんばかりに選手たちの気持ちがピッチに溢れていた。

 
 C・ロナウドからボールを奪う遠藤
 
 
 
 世界を震撼させる強烈なFKが牙を剥く

 しかし、マンチェスター・Uは冷静だった。ほぼベストメンバーの守備陣は焦ることなく抜群の連携でG大阪の攻撃をやり過ごす。中盤では、攻撃的なアンデルソンが果敢にプレスをかけてくることで、ボール奪取の際にテベスとギグスがボールを受けやすく、一瞬の隙でサイドのC・ロナウドとナニにボールが渡る。G大阪に対して手探りの状態ながら、攻守のおける緩急は流石だった。

 
 明神と中澤がナニとテベスをマーク 緊迫感漂う攻防 

 26分、右サイドでテベスからのボールを受けたC・ロナウドの突破を許し、一気にシュートまで持ち込まれる。山口が体に当ててこれをクリアするが、このCKを蹴ったギグスのキックにヴィディッチに頭で合わされ先制点を奪われた。CKを奪うまでのプロセス、セットプレーの連携、全てにおいて彼らの完成度の高さを感じた瞬間だった。

 
 
 27分、右CKからヴィディッチが頭で先制点
 
 
 アシストはクラブ通算最多出場記録を更新するギグス

 前半ロスタイムには、エリア内でテベスに粘られ、シュートをかろうじてクリアするが、これによって相手に与えたCKを今度はC・ロナウドに頭で決められる。何とか前半を0-1で折り返したかったところだったが、先制点を決めたヴィディッチを囮にして背後から高い跳躍を見せたC・ロナウドのヘディングシュートに誰も対応できなかった。

 
 
 高さを併せ持つ反則性 これがバロンドール!C・ロナウドが2点目を奪う

 後半も全く臆することなく攻撃を仕掛けるG大阪。欧州王者に高いポゼッションを見せる。64分には遠藤がFKをわずかにファン・デルサルにセーブされるなど、徐々に彼らをナーバスにしていく。73分にマンチェスター・Uがテベスに代わってルーニーを投入したその直後、遠藤のスルーパスに走り込んだ橋本が中央に折り返し、山崎が1点を返す。欧州王者を相手に1点差に詰め寄ったこの瞬間、スタジアムを強烈な歓声が包み込むが、それは皮肉にも途切れることはなかった。
 その直後、フレッチャーのフィードに走り込んだルーニーにファーストタッチでのゴールを決められてしまう。中澤を瞬時に抜き去るテクニックは流石。ゴールを前にして彼の恐るべき集中力が追い上げムードのG大阪に容赦なく牙を剥いた。
 77分にはナニとのワンツーで左サイドを突破したエブラのクロスにフレッチャーのヘッドを許し、4失点目。1分後には、ナニの攻め上がりからギグスがダイレクトで繋いでルーニーに再び決められる。1-5というスコアに世界の高い壁を誰もが感じた一瞬だった。

 
 山崎がエリア内で突破を試みる 果敢に高い位置で勝負した
 
 
 マンチェスター・Uはルーニーをテベスに代えて投入
 
 
 その直後、山崎が渾身のシュートを決めて1点差に迫る

 
 赤い悪魔が本気になった ルーニーがファーストタッチでゴール

 
 攻撃のてを緩めないマンチェスター・Uを相手に中澤は必死のクリア

 
 交代出場のフレッチャーが4点目となるゴール 簡単に得点を奪う

 
 ルーニーがダメ押しの5点目 規格外の“違い”を見せつける

 G大阪は挫けなかった。むしろ彼らの見所はここからというべきだった。82分に左サイドに開いてボールを受けた播戸のクロスからエリア内でネビルのハンドを誘う。PK職人の見せ場到来にスタジアムが沸き返った。GKファン・デルサルに反応されながらも、遠藤の力強い“コロコロ”で2点目を返すことに成功。さらにロスタイムに入ったところで、相手のパスミスをハーフライン付近で奪った山口が一気にルーカスへパスを通す。相手の左SBエブラが前がかりになっているところを走り込んだ橋本にルーカスからボールが渡ると、渾身の右足シュートがゴールに吸い込まれた。

 
 
 
 
 83分、遠藤のPKがファン・デルサルを打ち破る
 
 マンチェスター・Uにとって最多失点タイとなる3得点の奪取は、世界にG大阪の存在を知らしめるには十分だった。タイムアップの笛が吹かれる頃には、欧州王者目当ての観客の多くに、G大阪の衝撃を上塗りできたのではないだろうか。世界の壁を実感すると同時に、感じた手応え。悔しさの中にも何か清々しいものが込み上げてきた。点差こそ開いたが、昨季の浦和が自分たちのスタイルをミランに見せつける戦いをしたように、G大阪も“らしさ”を前面に出すことができた。

 

 15年間見てきたG大阪の姿は、この夜ハイライトを迎えた。欧州王者を本気にさせたG大阪。まだまだ強くなる。この経験を糧に誇り高く、世界3位を目指して、最後までこの大会を戦う。赤い悪魔に傷を負わせた刃の鋭さは本物だ。