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アートネタなど日々のあれこれ

美術館を手玉にとった男

2016-01-09 01:05:29 | 映画
ユーロスペースで「美術館を手玉にとった男」を見てきました。(この映画館での上映は既に終了しています。)

この映画は、全米20州、46の美術館を30年間だまし続けていたという、贋作画家マーク・ランディスのドキュメンタリーです。信じられないような話ですが、何と実話。おまけに、本人が本人役(?)で出演しているという・・・(以下、ネタバレします。)

マーク・ランディスのレパートリーは、15世紀のイコン、印象派、ピカソ、マグリット、ディズニー等々、とまあ、実に多岐にわたります。それを神父やら資産家やらに扮して美術館に寄贈して歩くのです。お金を詐取したわけではないので罪には問われませんでした。贋作の製作過程はけっこうアバウト。古く見せるためにコーヒーをぶっかけちゃうとか(笑)。そして、この贋作を見抜いたのが、シンシナティ美術館の元学芸員、マシュー・レイニンガー。彼は自分の職を捨ててまでランディスの活動を追い、贋作作りをやめさせようとするのですが・・・。

それにしても、事実は小説より奇なり、を地で行くような話です。そもそもなぜランディスは贋作の制作を始めたのか?彼は十代の頃、統合失調症と診断され施設に入れられますが、やがて、独特の記憶術を用いて模写を始めます。彼にとって、贋作を作り「寄贈」することは、「慈善活動」であり、社会とつながるための(恐らく)唯一の手段。神父や資産家に扮するのは、映画で見た人物がヒントになっています。一方で、何やら鋭い名言(?)を吐くことも。「オリジナルなんて存在しない。すべて元ネタがある。」「美術館のツボは金と美」(←だったかな?すみません、うろ覚え・・・)

そして、ランディスの贋作になぜ、46もの美術館がだまされたのか?だまされた美術館の学芸員のコメントも様々ですが・・・。ただ、あくまで素人考えですが、「寄贈」となると「購入」よりもしかして、チェックが甘くなるのかな?とはちらっと思いました。

この後、レイニンガーの元同僚がランディスの展覧会と開くというアイデアを思いつき、実現します。観客の評判もよく、ランディスもまんざらでもなさそう。これで、彼も贋作から足を洗い、自身のアート制作を始めるのかと思いきや、何ともシニカルなオチが・・・。

というわけで、いかにも一筋縄ではいかないというか、いろいろと考えさせられる映画でした。アートの本質とは?「オリジナル」は存在するのか?美術館の存在意義とは?はたまた人は社会とつながりを持たずに生きていけないものなのか?とかいうところまで・・・。アートの本質が人に何かしらの感動を与えることだとしたら、贋作を見て喜んでいる人がいるのなら、それだってアートじゃないか、ということになる・・・私たちが「アート」と思っている(思い込んでいる?)ものっていったい何なんだろね・・・と、見終わった後、そんなもやもやが頭の中をぐるぐるしてしまったのでした。
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