小麦粉内に含まれる糖質は少量ですが次のものがあります。( カッコ内の数字は小麦粉量に対する%です ) デンプンから生じるマルトースはここには入っていません。
グルコース ( 0.05-0.2 % )
フルクトース ( 0.05-0.2 % )
マルトース ( 0.05-0.2 % ) α-グルコース2分子が結合した二糖類
ラフィノース ( 0.5 % ) フルクトース、ガラクトース、グルコース連なった三糖類
スクロース ( 1.0 % ) グルコースとフルクトースが結合した二糖類
フルクタン ( 1-4 % ) フルクトースの重合体
何も入れないリーンなパン生地では、上の糖質だけがドウの中にあるわけです。
ドウの中のグルコース、フルクトース、マルトースが最初に消費されます。すなわちマルターゼによって分解されます。次いでラフィノース、スクロース、フルクタンがサッカラーゼによって分解されます。
そしてそして、アミラーゼによって分解されたマルトースがイースト細胞内でマルターゼによって分解されるのです。
パンのドウが発酵を始める時間的なラグが発酵過程に生じます。それをよく表わした図がありますご覧ください。Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety Volume 16, Issue 5 参照
横に発酵時間を、縦に炭酸ガス量を取っています。
発酵し始めてから10分間はグルコース、フルクトース、マルトースによるガスでしょう。イーストの細胞壁はこれらの糖に対してきわめて親和性があるようです。しかし量が少ないのですぐにピークが下がっています。
そのあとラフィノース、スクロース、フルクタンのサッカラーゼによる分解でガスの量が、発酵45分後まで持続します。そのあと少し、45分間ほどラグがあってデンプン分解によるマルトースの分解によるガスの発生が3時間後まで続いています。
糖の分解はドウの中のすべての糖類が一斉に始まるのではなく単糖、とそのほかの糖、アミラーゼ分解で生じたマルトースと仕訳けられて取り掛かられる点で非常に特異的です。
上で書いたことを別の言葉で言い表すと「イーストの基質優先について」という表現になります。
イースト菌にとってグルコースとフルクトースは親和性の高い(端的に言えば“好きな”)糖質です。
フルクトースはグルコースと同時に消費されますが、両方の糖が存在する場合はグルコースの消費の方がより速いと言われています。
生地の中のグルコース、フルクトース、スクロースおよびフルクタンがほとんど枯渇して初めて、酵母細胞はマルトースを消費し始めます。
マルトースは、マルトースパーミアーゼによって酵母細胞に輸送され、その後マルトースによって細胞内で加水分解されます。マルトースパーミアーゼの発現は、グルコース抑制およびマルトース誘導によって調節されるので、酵母細胞がグルコース/フルクトース消費から、マルトースの消費に移る時に遅れ期( Lag phase 既出図参照)を生じることになります。