Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 180

2021年01月30日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

これとは別に、スザンヌ アミゲス ( Suzanne Amigues、1937~、古代植物学のスペシャリスト。ポール ヴァレリー モンペリエ大名誉教授 ) が、テオプラストスが描いた地中海地域の種と雑種の比較に関して、テオプラストスは、『薔薇の香りは小さく、花は全くの二重である。』と又、ヘロドトスは『ミダスの息子の庭にある薔薇は、60枚の花びらを持ち、他のすべての薔薇を超える香りを持っている。』と書いています。さらに、『これらの薔薇は、萼片、棘、ローズヒップがR. gallicaに似ている。』とも記しています。R. gallicaが、中央アジアのR. x damascenaと同じように、地中海で交雑したことは間違いないでしょう。 実際、上記で仮定したように、R.x damascenaと同様の過程を経てきた可能性があります。「ローズウォーター生産の為の交雑がR. x damascena x R. gallica x R. moschataであるか、或いはR. centifolia x R. pheniciaのハイブリッドで地中海周辺に広がったのです。」と気になるコメントを述べています。

 

ロビン レーン フォックス(Robin Lane-Fox、1946~、イギリスの古典主義者、古代史家)は、ホメロスが地中海の偉大な旅行者とでもいうべきフェニキア人が使用している海路をどのように描いたかを、彼の著書:トラベリング ヒーローズ(Travelling Heroes)の中で説明しています。ウンゲンタリア(unguentaria)の考古学的発見からの証拠――小さなセラミックまたはガラス瓶が地中海東部全体に分布しているのが発見されました――と論じています。

 

Unguentarium(涙器)は、ヘレニズムとローマの考古学者が頻繁に見つける小さなセラミックまたはガラス瓶です 。BC4世紀とBC3世紀の変わり目にキプロスで最初に現れました。その形態には、多くのバリエーションがあります。BC1世紀半ば以降、キプロスでは薄い吹きガラスの瓶が登場し始めました。1世紀後半または2世紀初頭には円錐形の土台を備えたガラス製のものが現れました。日常生活で身だしなみを整えるためにつかうもの、墓に納める目的で作られた物もあり、使用目的を明確に言い表すことはできません。

    

ウンゲンタリウム(Unguentarium)は、イスラエルからスペイン、そして北のイギリスとゲルマニアまで、ローマ帝国の地中海地域全体に分布しています。

Unguentaria ( lacrimarium, 涙器)という言葉は、小さな容れものが会葬者の涙を集めるために使用されたと考えられていたからです。この事実は、聖書で「あなたの涙をあなたの瓶に入れなさい」とある以下の詩篇からも明らかです。又、シェークスピアの戯曲でも見ることが出来ます。引用しておきました。

 

 


ダマスクローズ 179

2021年01月28日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

薔薇は香を混ぜ合わせてもその香りが濁ることはありません。花の香りが一番良いときに他の香りと混ぜると、薔薇だけの、または主に薔薇の香りだけがします。薔薇の香水の添加物は、香りであろうとフレーバーであろうと、うまくブレンドされていれば、ある場合には香りの重さと強さを調整したり、ワインのように別の香りや甘い味を加えることができます。

3世紀後のディオスコリデス(90 AD)は、製造プロセスをより詳細に説明しています。彼の好みはグリーンオリーブから作ったオイルでした(Dioscorides Materia Medica Vol I)。調理後、油をろ過して、蜂蜜で覆った手でペーストを繰り返し混ぜ合わせ軽く押して混ぜました。ミックスしたものをマセレーションの為に一晩おいて、沈殿物が底に沈んだら、残りの油を移し、蜂蜜を塗った壺の中に保存しました。

テオプラストスとディオスコリデスの主な違いは、薔薇の花びらから圧搾した物をどのように保存したかの点にあります。テオプラストスは、塩を使い、オリーブオイルに香り付けをしています。一方、ディオスコリデスは100年後、海綿状の葦を使用して花びらからの圧搾を吸収してから、次に圧迫するという、はるかに洗練された方法を説いています。

プリニウスは、イタリアで育つ葦は、『海綿状の構造を持ち、液体をよく吸収する傾向があるため、ロザセウムをよりよく厚くすることができました。軟膏または軟膏であるロザセウムは、薔薇の花びらを圧搾する準備ができたのです。』と書いています。

花びらと萼の基部だけが使用されました。この最初の圧搾が最も求められていました。Dioscorides(Materia Medica Vol . I)は、このプロセスを最大10回繰り返すことができ、その後のプレスごとに、以前よりも低品質の製品が生成されると述べています。8ポンド3オンスの凝縮油(Ec;tuuuévou)がプレスされた花びらと、ハニカムスプリーの層各プレスの間に注がれました。薔薇の花びらの2回目の圧搾を進めるには、ディオスコリデスは次のように述べています。『数千の新鮮で乾燥した薔薇を、再び蜂蜜を染み込ませた手で混ぜて、最初の圧搾に移る必要があります。』

3番目と4番目も同様に行います。常にドライフラワーを使用し、常に蜂蜜を振りかけるのです。」元の浸軟は、特に塩を加えると、7日間新鮮な薔薇の花びらで効果的に再生可能でした。(Materia Medica 第113章)

 

ディオスコリデス(90AD)は、新鮮な薔薇の花びらからジュースを抽出するプロセスについても説明しています。「花びらの白い土台を切り取り、乳鉢で叩き、生成されたジュースを日陰で凝縮します。」 Amidenus Aetiustと Alexander Olivieri. (1935) は、「赤い薔薇の花びらの白いベースを使用し、それを昼夜乾燥させることを薦めています。

次に、花びらを未熟なオリーブから作られたオリーブオイルに入れます。これを容器に注ぎ、亜麻布で覆い、数日間、40日以内に太陽の下で屋外に置きます。あるいは、冷水の井戸に40日間吊るしておくこともできます。

     

Map representing the distribution of the Arabic dialects in the area of the Levant.

レバント(Levant、広義にはトルコ、シリア、レバノン、イスラエル、エジプトを含む地域。もとはフランス語のルヴァン (Levant) で、「(太陽が)上る」を意味する。)

  

これまでローズウォーターの生産を、現代のウズベキスタンのアムダリヤ川流域から古代ギリシャとローマまでのルートに沿った点についてのみ検討してきましたが、レバントと東地中海でローズウォーターの生産はR. centifoliaとR. phoeniciaによって始まったのではないかという考えがあります。(R. centifoliaは古代地中海世界で既に栽培され、クレタ島にはB.C.3000年頃にあったと考えられています。)Rosa x damascenaを薔薇の苗床で500本栽培したところ、花のサイズと花びらの数が大きく異なるほどに変異を示しました。一方、R. pheniciaはR. x moschataと非常に、形態学的に似ているため、R. x damascenaの親であることがわかっているR. x moschataの多形性※の可能性があります。(事実はDNA分析で明らかになるでしょうが。)

 

※ 多形性とは同一種でありながら形態だけでなく、生理活性,酵素などの分子レベルの性質が多様性を示すこと。個体差以上の,相対的に顕著な差異のある場合を指します。 

       

                  phenicia

   

                Rosa x moschata       

 

 


ダマスクローズ 178

2021年01月26日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

ローマの下水道や他の都市の下水渠は、主に人間の排泄物を除去するために建設されたものではありません。因みに、紀元1世紀のローマでは11本のローマ水道が水を供給しており、ディオクレティアヌス浴場やトラヤヌス浴場などの多数の公衆浴場や公共の噴水や宮殿、個人宅に水を供給した後、最終的にそれらの廃水が下水道に流れ込んでいました。現代の水道とは異なり、蛇口を閉めて水を止めることはなく、水を常に流し続けることで下水が詰まることを防いでいました。水質の最もよい水は飲用に確保され、次によい水質の水は風呂で使われ、その廃水が市内の通りの下にある下水網に排水されました。水道水は垂れ流しで、それが下水道水を押し流していたのです。下水道施設は、都市の衛生にはあまり貢献していなかったと言えます。ローズウォーターは嗅覚を鎮めるために多用されました。

 

※ クロアカ マキシマ(Cloaca Maxima)は、古代ローマの下水システムです。もともとは湿地帯の上に造られた大都市ローマからの排水を目的としたもので、すぐそばを流れるテヴェレ川に水を運ぶ目的で作られました。

  

ローマ帝国時代のローマ中心部の地図。中央の赤い線はクロアカ マキシマ。

 

その名称は「最大の下水」を意味します。伝承によれば、紀元前600年ごろ王政ローマの王タルクィニウス プリスクスが建設させました。

 

ローズウォーターとロザセウムの生産は古代ローマとギリシャの書物と考古学の中に見ることができます。 薔薇の膏薬(rosaceum、ロザセウム)は、古代からギリシャで製造され、イリアス(XXIII、186-7)の、ヘクターの死体に「神の薔薇油」(現代の薔薇油ではなく古代の油)を塗ったと記されています(8/14に詳しく書いておきました)。 又、ペダニウス・ディオスコリデス(40 – 90 AD)によるマテリアメディカ(Le Wall 1915)の中にもローズオイルのことが記載されています(6/6にイグサを使ったレシピを取り上げました)。

テオプラストス(Theophrastus 、c.372-c.287)は、古代における香りと芳香性を述べた重要な情報源です。彼は「匂いに関する植物の研究(第2巻;Enquiry into Plants (volume II) Concerning Odours)」で薔薇香水の作り方を説いています。薔薇の香水を作るために、生姜草のアスパサロ( Aspalathus)※と甘いイチジクを使用すること。又、アルカネットの根は薔薇の香水に色をつける目的で使い、塩は防腐剤として使っています。(アルカネットの根はこれまでもワインの色づけや染料としてヨーロッパ中世で使われてきました、参考3/27,4/30)

 

https://www.amazon.co.jp/Aspalathus-linearis-rooibos-tea-seeds/dp/B075LPZN3D 

          

https://www. thailandmedical.news/news/covid-19-herbs-new-international-study 

※アスパサロ( Aspalathus linearis、ルイボス、アフリカーンス語:rooibos)はマメ亜科のアスパラトゥス属の一種。針葉樹様の葉を持ち、落葉するときに葉は赤褐色になる。南アフリカ共和国、西ケープ州ケープタウンの北に広がるセダルバーグ山脈一帯にのみ自生します。乾燥させた葉は、ルイボス茶、ルイボスリキュールとして楽しまれています。

 

 


ダマスクローズ 177

2021年01月24日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

古代ローマ(BC1200~AD400)におけるローズウォーターの重要性について述べておこうと思います。

ローマ人と古典世界の人々は、暑くて汗をかき、臭いのある体を前提とした、暑い地中海性気候とその下で暮らしていました。身体を動かせば、目は水っぽく、刺激的な臭いがしてきます。さらに、人気のある剣闘士や動物の血浴ゲームの残骸からの匂いには辟易していたに違いありません。

ハエがたかった魚や肉はすぐに酸敗しました。ローマ人が劣化した食品の味を隠すために、徹底的に発酵させた魚のソース(ガルム、Garum )※を使用したと考えることも出来ます。 

 

※ ガルムについては、一度は触れておかねばならないと思っていたことです。その内容については長く分からなかったのですが、近年次第にその内容が明らかになってきました。(製造方法は残念ながらまだわかっていません。)

 

ベスビオ山は西暦79年に噴火し、ポンペイやナポリ湾の他の場所を破壊しました。これは、歴史的記録に基づく日付は8月24日といわれていますが10月との説もあり、ます。ポンペイから出土した魚の骨の綿密な分析から最新の研究成果をお話ししましょう。

 

古代ローマ人は海産物と複雑な関係を持っていました。多くの人々、特に海岸近くに住む人々は間違いなくそれを消費しましたが、この資源は豚肉などの地面の上で生育されている肉よりも季節に左右され、何時手にはいるかわからないものでした。はるかに人気があったのは、ガルムと呼ばれる発酵魚醤でした。これは元々、豊富な時期に魚を保存するために作られた可能性があります。今日消費されている東アジアの魚醤と同様に、ガルムは数ヶ月にわたって小魚を分解発酵させて作られました。

 

ガルムの作成と構成に関する考古学的な理解は、何千もの瓶が入っていた難破船や、ポンペイの円形劇場の西側で見つかったガルムショップでの調味料の生産現場で得られています。この店には、完成品ではない製造のさまざまな段階におけるガルムの甕(amphora)が23あり、約17がアンチョビ、ピカレル、またはその2つの混合物から作られ、残りはニシン、サバ、マグロ、その他の種の寄せ集めであることがわかりました。しかし最近まで、魚の骨格の詳細な分析は行われていませんでした。

 

ナポリの国際考古学民族学研究所(International Journal of Osteoarchaeology)の地中海考古学部門の所長であるアルフレド カランナンテ(Alfredo Carannante)は、国際骨考古学ジャーナルに、ポンペイの「ガルムショップ」からの1つの甕の内容の分析について詳しく書いています。 カランナンテの目標は、存在する種、魚のサイズ、および死亡時の年齢を特定することでした。これにより、捕獲された季節に関する情報を得ることができます。

 

カランナンテは、分析したバッチのすべての骨がスピカラスマリスからのものであることを見つけました。スピカラスマリスは通常、長さが約6インチに成長し、大西洋、地中海、黒海に自生しています。ポンペイのピカラスマリスは、骨がつぶれたり壊れたりしていないという事実から、頭を取って切り身にすることなく甕の中に投げ込まれたようです。それらの小さいサイズと成長線から、ピカラスマリスは一年物で浅瀬に棲む雌ばかりでした。ここからポンペイ爆発の日付が推定できるのですが、このお話は今回は割愛させていただきます。

  

甕の中の魚の骨https://www.reddit.com/r/ArtefactPorn/comments/2k0tod/amphora_with_garum_from_pompeii_79_ad_garum_is_a/ 

ガルムをいれた甕 Garum amphorae 

 

https://eaglesanddragonspublishing.com/ancient-everyday-garum-msg-of-the-roman-world/ 

 ピカレル:Spicara smaris, Class: Actinopterygii, Order: PERCIFORMES

 

Family: Centracanthidae, Genus: Maena

      

死ぬと色が少し変化します

 

さらに、ローマの宗教的な祭りでは、少なくとも1頭、時には数十頭の雄牛を毎日犠牲にしていました。人間の死骸の匂いも数百人も焼くと、臭いは絶えず漂っていました。彼らは、非常に壮大なクロアカ マキシマ※などの広大な下水道システムを構築しましたが、その恩恵に浴するのは金持ちで有名な人だけに限られていました。

         

      Domenico Camardo, Herculaneum Conservation Projectから

 

 


ダマスクローズ 176

2021年01月22日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

古代(BC5000~BC1200)イスラム教におけるローズウォーターとロザセウム(Rosaceum)についてもう少し述べようと思います。

薔薇油とローズウォーターはどちらも、新鮮な薔薇の花びらを水蒸気蒸留して得られます。ほとんどの学者は、この方法は、西暦9世紀にさかのぼることのできるアラビアの蒸溜器に起因すると考えていますが、一部の学者は、BC50年以降のアレキサンドリアの錬金術師に起因すると考えているようです。しかし、BC5000のインダス渓谷から出た、陶器のセラミックポットでの蒸留の記録があり、詳細は不明です。

 

BC5000の蒸留鍋の遺物は、パンジャブ州のBC2600~BC1900の古代都市ハラッパで発掘されました.。このポットは、インドのカナウジで今日まで使用されているアター生産の蒸溜器に似ています。カンヌイのプロセスでは、最初に薔薇の花びらを水中で蒸留し、次に得られた残留物を白檀に閉じ込めます。BC3500にさかのぼるメソポタミアの粘土板と発掘された抽出用の水差しは、シュメール人とアッシリア人が香料を抽出する技術を習得していたことを示す1つの理論仮説となります。

アッシリアの陶板は薔薇とローズウォーターについて語っています。もちろん、これらの古代のテキストで議論されている薔薇の種を特定することはできませんが、その香りは賞賛されており、アナトリアのR. gallica、R. centifolia、R. moschata、R. damascenaなどの香りのよい薔薇を暗示するものです。

『薔薇を沸騰したお湯に1日浸し、水気を切る。油を加えた後、混合物をゆっくりと加熱する。』アッシリア人がこの方法で作った香水は「世界的に」有名だったようです。楔形文は、香りの水を作るには薔薇を直接蒸留するのではなく、水で煮たことも示しています。処方されたごく少量—わずか1カラット(3粒)[0.2 g] —という記述は、それがいかに貴重であったかを示しています。

 

テオプラストスは、彼の「香りの書」の7節で薔薇について言及しています。インドでは、薔薇油は、モーグル皇帝ジャハーンギールにちなんでItr-i Cihangiri(ジャハーンギールの香り)と名付けられました。別の歴史によれば、パキスタンのラホールにあるシャリマール庭園※の池は、結婚式の宴会の最中に薔薇でいっぱいになりました。夏の暑い日には、油滴が水面を覆い薔薇の香りを放ったそうです。

 

シャリマール庭園はムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが1642年に家族のために造営した庭園で、皇帝が夢で見た天国を再現したもの。3段のテラスとなった庭園を水路が流れる構造で、かつては黄金や宝石で飾られた美しい宮殿だったそうです。
            

※ シャリマール庭園、下は池の反対側から見た小宮殿

http://isekineko.jp/pakistan-shalimargardens.html から引用させて頂きました。

 

シロップは薔薇の花びらから作ることができましたが、主として蒸留して作りました。 100ポンドの薔薇の花で3ドラク(約25グラム)未満の薔薇油が出来ます。

FlückigerとHanbury 1874によれば、古代世界では薔薇油を蒸留する方法を知りませんでした。ギリシャの医師ディオスコリデスが説明した薔薇油は、薔薇が染み込んだ脂肪油でした。これは, rosaceumという名前の薔薇の膏薬を作るために使用されました。ロザセウムは、新鮮な赤い薔薇の花びらを潰し、蜂蜜と混ぜ合わせた後、手でこすり合わせて作られました。アナトリアのヒッタイト人(BC1750~1180)は、ピルとしてのロザセウムを知っており、それを使って薬を作りました。

 

エジプトのファラオ、トトメス4世( Pharaoh Thutmose IV, BC1600 )の墓で見つかった薔薇を描いた象形文字は、古代エジプト文明における薔薇の最も初期の記録です。 薔薇の花輪が、後になってBC400年からBC200年にさかのぼったエジプトの埋葬室で発見されました。エジプトの女王、クレオパトラ(BC69-30)は、マーカスアントニウス(Marcus Antonius、BC83-30、ローマ帝国の軍人)の小道に薔薇の花びらを並べて印象づけたと言われています。

   

アウグストケストナー博物館  https://www.pinterest.jp/pin/443182419573803471/visual-search/  

 

アウグストケストナー博物館 ( The Museum August Kestner ) のエジプト学コレクションの館長であるクリスチャンE.レーベン( Christian E. Loeben、1961/12/22、ドイツのエジプト学者) は、古代エジプト庭園にある生産設備を一覧表にまとめた結果、インダスバレー(BC5000)の陶器セラミックポットでの蒸留の記録を見つけました。 蒸留鍋の発掘物は、パンジャブ州の古代都市(BC2600〜 1900年)のハラッパで発掘されたものでした。このポットは、インドのカナウジで今日まで使用されているアター生産に使う蒸溜器に似ています。 カンヌイの工程は、薔薇の花びらを水中で蒸留します。得られた抽出物は、サンダルウッドオイル(Santalum album、サンタラムアルバム)と「ローズアッター」または「ローズオットー」に溶かし込みます。

 

中国の哲学者孔子(BC551~479年)は、中国帝国におけるダマスクローズの重要性について書き残しています。孔子によると、薔薇は周王朝(BC1046~256)の間に皇帝によって高く評価されたようです。薔薇は中国の王立庭園に植えられ、王立図書館には薔薇と薔薇の栽培に関する600冊以上の本が収められていると考えられています。

 

中国の記録はローズウォーターがR. rugosaから作られていることを示していますが、BC810の記録では、ペルシャのファリスタン州がローズウォーターを中国とイスラム世界全体に輸出したとありました。しかし、薔薇栽培家のCharles Quest-Ritsonはダマスクローズの記録を残してはいません。

ローズウォーターは、瑰水と書き、英語化するとMéiguī shuǐとなります。中国ではMei-gui Huaは、伝統医学の生薬として、またハーブティーとして使用されてきました。 Mei-guiの学名はRosa rugose thunbです。しかし、Mei-guiの形態的特徴と植物生態学はR. rugosaのものとは異なっていました。

          

 

Rugose Rose (Mei Gui Hua)  https://www.herbalshop.com/medicinal-herbs/rugose-rose-mei-gui-hua/ から、メイギワの使用方法を以下に引用しておきました。


ローズ(メイギワ) 医薬品名:Flos Rosae rugosae 植物名:Rosa rugose Thunb。 最古の記録の出典:Shiwu Bencao ( 食物本草、明王朝の朱 橚によって、飢餓の時代に生き残るために図解された最初の植物書です ) 。 使用部品:4月から6月にかけて花やつぼみを集め、焼いてから使用します。 特性:甘く、少し苦くて暖かい、肝臓と脾臓に治療効果があります。

  1. 気を調整し、停滞を減らします。肋骨の痛み、上腹部膨満、胃の痛みとして現れます。フィンガーシトロン(フォショウ)、サイペルス塊茎(シャンフー)、クルクマルート(ユジン)と一緒に使用します。
  2. 心臓と血液の気の停滞を取り除きます。不規則な月経と、月経期間前の乳房の膨張と痛みとして現れます。中国のアンジェリカの根(Danggui)、センキュウ(Chuanxion)、白牡丹の根(Baishao)、Bugleweed(Zelan)とともに使用します。
  3. 傷によるうっ血と痛みには、中国のアンジェリカの根(ダンギ)、キケマンの塊茎(ヤンフスオ)、赤牡丹(チシャオ)と一緒に使用します。

 

中国で栽培されているMei-guiの植物学的起源はまだ解明されていないため、Mei-guiとR. rugosaを形態学的特徴、系統発生分析、および植物化学的研究の観点から比較したところ、新疆ウイグル自治区のタリム盆地周辺で栽培されたメイギ(Mei-gui)はロサ ガリカと相同性を示したのですが、中国北東部で栽培されたメイギはハマナスの雑種であると判断されました。中国におけるダマスクローズの存在についての疑問は、東北中国のメイギとは対照的に、タリム盆地メイギの親子関係を追跡することから始めて、さらなる研究を必要とするようです。

 

 


ダマスクローズ 175

2021年01月20日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

シュメール人は、楔形文字で書いた、最古の神話「ギルガメシュ叙事詩(古代メソポタミア、シュメール初期王朝時代の伝説的な王ギルガメッシュと古代メソポタミアに関する研究は、1921年から始まり、90年かけて解明されました。)」を残しており、楔形文字はその後、オリエント世界の諸民族の言語を書き表す文字として、アケメネス朝ペルシャまで続きました。又、シュメール法典は古バビロニア王国のハンムラビ法典に継承されています。シュメール人の神話は、その後のオリエントの諸民族に影響を与え、ユダヤ教の旧約聖書を通じてキリスト教にも引き継がれ、旧約聖書の「ノアの箱舟」の話の原型はギルガメッシュ神話にあります。

楔形文字はシュメール語を書くための表語文字でしたが、前15世紀ごろ地中海東岸で交易に従事していたフェニキア人の都市ウガリトで、30字ほどの表音文字として使われるようになり、他民族に借用されるようになりました。

また、シュメール人の都市国家を征服して前24世紀に初めてメソポタミアを統一したアッカド人は、文字がなかったため、シュメール人の楔形文字を借用し、アッカド王国の支配がメソポタミア全域に及んだため、楔形文字も広くメソポタミア全域で用いられるようになりました。BC7世紀前半にオリエントを統一したアッシリア帝国も公用語としてアッシリア語とアラム語を併用し、アッカド語を書くのに楔形文字が用いられていた。次ぎに西アジアを支配したアケメネス朝ペルシャにおいても、ペルシャ語を書きあらわす公用文字として楔形文字が使用されました。(ペルシャ帝国がアレクサンドロス大王によって滅ぼされ、ヘレニズム時代となると楔形文字は使用されなくなり、やがて忘れ去られます)

アッカド語は、紀元前2千年紀後半の古代西アジア全域において、今日の英語に匹敵するグローバルな外交・通商の媒介言語として使用された言語です。このうち、メソポタミアから見た周辺地域(シリア、東地中海沿岸、小アジア、エジプトなど)で使用されたアッカド語を周辺アッカド語と呼びます。周辺アッカド語は、周辺地域とメソポタミア、あるいは周辺地域間の通信手段として用いられたほか、ローカルな行政経済活動を記録する文章語としても使用された言語です。そのため、周辺アッカド語で書かれた文書を読み解くことにより、私たちは紀元前2千年紀後半の古代西アジア周縁の言語・歴史・宗教に関してさまざまな事柄を知ることができます。

 

横道にそれますが、もう少し詳しく見ていこうと思います。

http://rcwasia.hass.tsukuba.ac.jp/kaken/NL/newsletter01/NL01_07.html から、

        

エマル遺跡からアサド湖を望む(撮影:池田、筑波大学・セム語学・総括、言語学的分析)新学術領域 古代西アジア文明 (tsukuba.ac.jp) から引用させていただきました。                  

 

エマル(Emarはシリア北東部のユーフラテス川中流にある古代の都市国家。南へ流れるユーフラテス川が東へ向きを変えるあたりの南岸にあるテル・メスケネ(Tell Meskene)の遺跡が古代のエマルだとされています。高台にある遺跡の範囲は 1000m × 700m におよび、現在はユーフラテスを堰き止めた人工湖アサド湖の湖畔に位置する。) では住民の多くが西セム語を話し、一握りの書記がアッカド語を書くという二言語の使い分けが存在した状況を、日本語と中国語を例にとった解説がなされており、非常に興味深く読ませていただきました。興味のあるかたは、上のサイトをご覧ください。

 

1970年代の発掘でフランス隊がメスケネ (古代のエマル)で発見した粘土板(以下、エマル文書)は最も新しい周辺アッカド語資料のひとつとして、また歴史的、宗教的に興味深い内容の文書として1980年代以降大きな注目を集めました。

メソポタミアの銅器から青銅器時代にかけて興ったウルク文化期(紀元前3200年)にシュメール人によって絵文字としての性格が強いウルク古拙文字が発明され、長期間繰り返し使われるうちに、次第に単純化、抽象化されて、青銅器時代初頭(紀元前2500年)にはシュメール文字になり、青銅器時代末期(紀元前2000年)にはヒッタイト語楔形文字)からアッカド語楔形文字になります。シュメール文字はシュメール語の他、アッカド語(アッカド語楔形文字)、エラム語(エラム語楔形文字)、ヒッタイト語(ヒッタイト語楔形文字)、楔形文字ルウィ語に借用されます。また古代ペルシア語(古代ペルシア楔形文字)やウガリット語(ウガリット文字)などで独自の文字の発達を促す役割をはたしました。

  

              セム語の「家系」(作図:池田)

 

 


ダマスクローズ 174

2021年01月18日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

※ ラガシュの王グデア

       

古代メソポタミアの都市国家ラガシュの王グデア、ルーブル美術館蔵

下はグアデの円筒印章ですが、印章そのものはなく印影だけが遺っています。

     

       http://sumerianshakespeare.com/25401/index.html 

 

左上の楔形文字文には「ラガシュのグデア、エンスィ(支配者)」と書かれています。

頭を剃ったグデア王の腕を握っているのがニンギシュジダ(Ningishzida、グデア王の個人神;守護神)。グデア王の左は、誰でも守護してくれる、慈悲深いラマ神。左端の獣はニンギシュジダの随獣(ムシュフシュ:ニンギッジドゥに関連する神話上の生き物です。動物が身に着けている角のあるヘルメットは、神の地位を示しています。角が多いほどランクが高くなります)。右端は、ラガシュ市の都市神であるエンリル神、シュメール神話の主神エンリルが持っていた壺から風が吹き、彼が命を吹き込む風の神であることを示しています。

この図像はグデア王が個人神を通してニンギルス神(戦いの神)に謁見する場面です。円筒印章は はんことして使用されますが、「紹介の場面」の円筒印章は護符としての機能も持っています。円筒印章は、軟らかい粘土の上をくるくると回して、その印影を写し取るものです。下の大きな円筒碑文には、グデア神殿建立の理由、建設の過程、建立した神殿への神の招請、祝祭が流麗に語られています。

  

    

        封印が目的で作られた円筒印章、ウルク文化期後期   

        http://web.joumon.jp.net/blog/2008/10/604.html

「戦争を描いた板」はシュメール軍の最も初期の表現の1つで、国境の小競り合いとその影響であると考えられています。戦闘シーンには、敵を踏みにじる馬(おそらくアジアロバまたは国内のロバ)が描かれた四輪戦車(ただし、これらの頑丈な初期の戦車は戦闘ではかなり扱いにくいものであったに違いありません。従って輸送と防衛のために主に使用された可能性があります。)、装甲マントをまとった槍兵、鎌のようなナイフや斧を持った歩兵が描かれています。又、負傷し、裸で、屈辱を与えられ、王に差し出されている囚人も描かれています。    

 

 


ダマスクローズ 173

2021年01月16日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

ローズウォーター;アッシリアのお話に戻ります。                                         

薔薇の花びらの含油部分は、花びらの根元にある萼と白い部分にあります。楔形文字で書かれた書字版から推察すると、アッシリアの医師は正確にローズウォーターを使っていたようです。発掘されたアッシリアとメソポタミアの楔形文字やBC3500年にさかのぼる抽出物の研究から、シュメール人とアッシリア人(BC1200)が、香りを抽出する技術を最初に習得していたことが明らかになりました。

 

ローズオイルや薔薇のアターの製造過程で生じるローズウォーターは香水、宗教行事、医学、料理に使ってきました。ローズウォーターはパフラヴィー語(中期ペルシャ語)ではgolāb、ギリシャのビザンチン語ではzoulápinです。アッシリアで出土した陶板※の中には、。楔形文で、薔薇を直接蒸留したのではなく、水と一緒に煮て(香りのよい水)を生成したことが示されています。

(ここでアッシリアの陶板と楔形文字の起源について少し触れようと思います。何故なら楔形文字は中国の甲骨文字よりも約2000年以上も古い、しかも高度に発達した文明を持った人々の手になる文字だからです。この文字と、これによって書かれた物語は近年解読され、私が学生だった頃にはまだ知られていなかった内容が折り込まれおり、非常に興味を惹かれました。)

※ アッシリアの陶板

                                         

上は、楔形文字で書かれた古代メソポタミアの文学作品、ギルガメシュ叙事詩の一部が刻まれた粘土板

 

メソポタミア文明の最初の担い手であったシュメール人※は、BC3100~3400年頃、粘土板にくさび形の文字(今のところ最古の文字とされています。甲骨文字が発見された殷王朝はBC1700-BC1046ですからそれよりもはるか昔です)を使っていました。シュメール人のウル遺跡( Ur ; 現代のイラク、バグダッドの南 )からは、多数の楔形文字のもととなった絵文字をきざんだ粘土板が見つかっており、それらのほとんどは、奴隷や家畜、物品の数をかぞえ、穀物の量をはかり、土地面積を計算するという、行政、経済上の記録として用いられていました。

        

https://www.researchgate.net/figure/Map-of-ancient-Sumer-and-Elam-wwwhyperhistorycom-2016_fig5_334376185 

※ シュメール人

シュメール人が残した遺物を見ることで彼らの文化度を知ることが出来ます。驚異的な、考えられない程に高度な文化があったことに驚くばかりです。BC3000年ですよ。

 

石灰石、貝殻、ラピスラズリで描かれたウルの垂直材(上が平和の絵、下が戦争の絵)ロンドン大英博物館蔵 The Standard of Ur, about 2500BC, from the Royal cemetery of Ur, ancient Sumer Material: Lapis lazuli, Limestone and shell The British Museum, London, United Kingdom

https://www.flickr.com/photos/amberinsea/4716762228 の解説を引用させていただきました。

 

ウルのスタンダード(「ウルのバトルスタンダード(垂直材)」または「ウルのロイヤルスタンダード」とも呼ばれます)は、古代都市ウルの王墓墓地から発掘されたシュメールの遺物です。ウルのスタンダードはBC2600年からBC2400年頃にさかのぼり、1920年代にイギリスの考古学者レオナードウーリー卿(Sir Leonard Woolley)によって発掘されました。現在、大英博物館にあります。垂直材は21.59 x 49.53 cmの中空の木箱で、貝殻、赤い石灰岩、ラピスラズリのモザイクがちりばめられています。過去数千年にわたる時間の影響で、モザイクを所定の位置に固定していた木枠と接着剤のタールが剥がれたため、現在は組み直した状態です。木箱の本来の目的はハッキリとは判っていません。楽器の共鳴箱ではないかとの意見もあります。

 

ウルの垂直材には、2つのメインパネルがあります。

平時を描いたパネルには、王、牡牛、山羊、羊、魚、穀物をいれた袋などさまざまな地域からの献上品を運ぶ列が、いずれも胸の前で手を組む恭順の仕草を示した人物に率いられています。ひときわ大きく描かれた人物は、ウルの王でしょう。また上段右から二人目の楽師は牡牛の竪琴を持ち、楽師の背後の人物は一見髪が長く女性のようですが、上半身裸という男性の服装で、去勢された男性歌手(カストラート)であると考えられています。ウルのスタンダード、又、古代メソポタミアの都市国家ラガシュの王グデア※の碑文にも女性は不浄であるため神殿工事からは除外することが記されており、こうした考えから女性が一人も描かれていないと思われます。

 

 


ダマスクローズ 172

2021年01月14日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

チンキという手法は、ハーブを生かして使うことのできる、応用範囲の広い活用方法です。タイムについては、前にも少し取り上げましたが、ハーブを使ったチンキの一例として“タイムチンキ”について述べようと思います。

                                                             

タイムの精油の主成分はチモールとカルバクロール、ボルネオール(タイムの開花上部を水蒸気蒸留することで得られる精油)の三つの成分が多く含まれています。その他、シモール、シネオール、リナロール、フラボノイド、またローズマリー酸などのタンニンや、抗酸化剤としてはたらくビフェニルがあります。精油はアルコールには溶けますが、水には溶けにくい成分なのでは、チンキは無駄なくタイムの薬効を利用することができる方法です。3つの精油を簡単にご紹介しておきます。

 

チモールは、エタノール、エーテル、クロロホルム、酢酸、ベンゼンに易溶、グリセリン、水にやや溶ける成分です。 タチジャコウソウ様の香気があり、防腐、殺菌作用があります。

 

カルバクロールは、オレガノの特徴的な刺激臭があり、サルモネラ チフィリウム、セレウス菌に対する殺菌、抗菌性があります。

 

ボルネオール (別名、竜脳、ボルネオショウノウ) は、竜脳樹 ( Dryobalanops aromatic ) やラベンダーに等に含まれます。竜脳樹はボルネオ島、マレー半島、スマトラ島などに分布しますが、今は絶滅危惧種に指定されています。竜脳樹の樹幹の空隙に析出する竜脳は、生薬として中枢神経系への刺激による気付けの効果、咽喉痛、歯痛に効果があります。香気は樟脳に勝り価格も高く、樟脳は竜脳の代用品的な地位だったといいます。


タイムチンキの作り方

材料

ウォッカ    100ml 

乾燥タイム   20g

 

1. タイムを切り取り、乾燥させます。

   

できれば花の咲いているタイムを使うのがお奨めです。

  

  1. 密閉できる瓶に乾燥タイム、ウォッカを入れて、常温で直射日光を避けて約1か月置き、その後、キッチンペーパー、コーヒーフィルター、濾紙等で濾します。
  2. うがいには、10mlのタイムチンキをぬるま湯200mlに入れて使います。

  その他、虫刺され、傷の消毒、鼻づまり、お風呂に適量を入れて使用します。

 

 


ダマスクローズ 171

2021年01月12日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

海狸香(かいりこう、カストリウム:Castoreum、ビベルゲイル:Bibergeil ) 

        

カストリウムは、シベリア、 カナダの河や湖沼に住むビーバーのオスとメスの生殖器のそばにある2個の梨状の袋を乾燥したものです。

医学では、19世紀まで痛風やけいれんに対して、カストリウム(またはそれから作られた海狸香またはビベルゲイルオイルおよびそれから作られた製剤)が神経質症などに使用されてきました。古代ギリシャ、ローマ世界では、すでに体液性病理学で「熱で乾」と分類されている病気等に対して、又、てんかんまたはてんかんのようなけいれんに対して、および言語障害に関連する麻痺に対しても使用されます。

媚薬としての使用は、麻痺の治療薬としての使用と同じ原理に基づいており、体液性病理学に基づいています。カストリウムは医薬品として大きな需要があり、8世紀からドイツ語圏で発見されています。

 

サリチル酸(ビーバーの好きな食べ物であるヤナギの樹皮の成分にはアセチルサリチル酸がある)が含まれており薬効があります。今日、ビベルゲイルは同種療法においてのみ使われています。ビベルゲイルは中毒に対する薬としても使用され、テリアカ(7/18参照)の一成分です。

ビベルゲイルは、中世後期には、主にアジアのマイナービーバーまたはシベリアビーバーを入手していました。米国では、主にバニラ、ラズベリー、ストロベリーフレーバーとして使っています。 スウェーデンでは、ビベルゲイルは、伝統的なシュナップスドリンクであるBäverhojtのフレーバーに使用されています。

    

Bäverhojt https://punchdrink.com/articles/tales-from-the-fringe-beaver-gland-vodka/ 

                                     

トウガラシチンキ (capsicum tincture) 

トウガラシ(Capsicum annuum)またはトウガラシ、タカノツメなどの果実の可溶性成分をエタノールで浸出したもの。

黄赤色の透明な液で、激しい辛味を有する。蕃椒(ばんしょう)チンキともいう。この辛味成分はカプサイシンとよばれる物質で、毛根刺激、頭皮刺激などによる血流の促進を目的とした局所刺激剤や止痒剤(かゆみ止め)として、ヘアローションなどの育毛剤に配合されます。医薬品では健胃剤や外用剤に使用されます。

 

 


ダマスクローズ 170

2021年01月10日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

※2 アンブレットシード

Abelmoschus moschatus https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Abelmoschus_moschatus_(Malvaceae)_(29680066960).jpg 

Abelmoschus moschatus ( 別名Abelmosk, ambrette, annual hibiscus, Bamia Moschata, Galu Gasturi, muskdana, musk mallow, musk okra, ornamental okra, rose mallow, tropical jewel hibiscus, Yorka okra), 食用のオクラは(秋葵、 Abelmoschus esculentus)これとよく似ていますが異なる種です。

     

         http://profice.shop-pro.jp/?pid=33043276 

 

熱帯アジアが原産で、日本では南西諸島に自生。種子が麝香に似た香りを放ち、属名のAbelmoschusは香りの父の意。ジャコウアオイやムスクマロウという別名の通りマーシューマロウと近い種類です。アラブではコーヒーの香り付け、若芽は食用とする地域もあります。中医学やアーユルヴェーダでは生薬として、エジプトでは口臭予防などにも活用されています。アンブレットシードオイルは香水や化粧品、スパイス、酒、飲料、お菓子などのフレーバーとして使われています。

 

 


ダマスクローズ 169

2021年01月08日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

※1 ベンゾイン

    

Styrax Benzoin  https://www.indiamart.com/proddetail/styrax-benzoin-oil-16245354633.html 

エゴノキベンゾインの木。

エゴノキオイルは、甘く、暖かく、バニラのような香りを放ちます。エゴノキ油の主成分は、安息香酸、桂皮酸、安息香酸ベンジル、安息香アルデヒド、バニリン、安息香酸コニフェリルです。エゴノキ科の樹は、安息香となる樹脂を出します。アンソクコウノキ(スマトラエゴノキ)が有名で、マレーシア、スマトラやジャワに産し、時には栽培もされています。安息香は、古くから用いられてきた香料(焚香料)で、幹に傷をつけて樹皮から分泌する樹脂を採取して作られます。褐色の塊で、甘みがあり、熱すると強い芳香を放とます。今日では、医薬品の原料、石鹸、歯磨き、化粧品、煙草などの香料に広く用いられています。

StyraxオイルまたはBenzoinオイルは、Styrax Benzoinツリーの樹脂から、溶媒抽出と水蒸気蒸留法によって抽出されます。Styraxオイルは、防腐剤、抗うつ剤、収斂剤、抗炎症剤、駆風剤、利尿剤、去痰剤として利用しています。

エゴノキオイルは、ベルガモット、コリアンダー、フランキンセンス、ジュニパー、ラベンダー、レモン、ミルラ、オレンジ、プチグレイン、ローズ、サンダルウッドオイルと簡単に混ざります。

        

https://www.sagewomanherbs.com/benzoin-resin-essential-oil.html 

ベンゾイン、安息香( ツツジ目エゴノキ科エゴノキ属のアンソクコウノキ ( Styrax benzoin )、またはその他同属植物が産出する樹脂 )。原産地:インドネシア・タイ・インドネシア。甘い香りで香料の他、呼吸器系に薬効があります。主要な成分は安息香酸でチンキの蒸気に呼吸器の粘膜を刺激して痰の排出を促進する作用があることから安息香と名づけられたという説があります。

 

 


ダマスクローズ 168

2021年01月06日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

チンキ (Tinc、Tincture)

チンクチャーとも言い、天然香料素材をエタノールに浸漬させ、長期間(2〜6カ月くらい)置いて不溶解物を取り除いたものです。動物性香料;ムスク、シベット、アンバーグリス(6/12に絵を入れておきました)、カストリウムのチンキは、名香とよばれる伝統的な高級香水に保留剤として使われています。そのほかのチンキとしてはバニラ、ベンゾイン※1、アンブレットシード※2などがよく知られています。

全く熱をかけない方法なので、素材の香りが最も良く抽出されますが、香りがやや弱いのが欠点です。以下の4種がよく知られています。

      

シベット(ジャコウネコ)http://civetcoffee.seesaa.net/article/421679900.html 

 

カンタリスチンキ (cantharides tincture)

マメハンミョウ科の甲翼虫類であるマメハンミョウを乾燥したものをエタノールで抽出してつくられたチンキ剤。

マメハンミョウエキスともいい、黄褐色の液体で、特異な臭いがあります。毛根刺激作用、皮膚刺激作用、鎮痒効果があり、ヘアトニックなどに配合されます。頭皮を刺激することにより血行を促進し、その結果として育毛効果を期待しています。副作用として腎障害、肝障害、胃腸障害、泌尿生殖器充血、過敏症状、皮膚灼熱感、皮膚そう痒感が、まれに、皮膚から全身に吸収されて、腎障害や肝障害、胃腸障害などを起こす可能性があります。

    

マメハンミョウ(ツチハンミョウ科)https://okirakutonbo.hatenablog.com/entry/2012/08/15/212437 

 

ショウキョウチンキ (ginger tincture)

ショウガ[Zingiber officinale Roscoe(ZingerdまたはZingiberaceae)]の根茎をエタノールで浸出したチンキ剤。

刺激成分はジンゲロール、ショウガオールで、毛根刺激剤、頭皮刺激剤、止痒剤としてへアトニックなどの頭髪用化粧品や、局所刺激剤として育毛剤などに配合します。

 

 


ダマスクローズ 167

2021年01月04日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

コンミフォラ(Commiphora)属は、200種以上で構成されており、すべてアフリカ、アラビア、マダガスカル、インドに自生しています。

ハーベイ ウィッケス フェルター(Harvey Wickes Felter、1865–1927、折衷医学の医師)は、次のように説明しています。ミルラ(Commiphora spp.、アデン湾、紅海、アフリカ、アラビアの地域から1つまたは複数の種類のコンミフォラから得られるガムレシン(gumresin)、ミルラ、ガムミルラ)は、茶色がかった黄色または赤褐色の涙または塊、茶色がかった黄色の粉で覆われています。味は、苦く、刺激的で、バルサムのような芳香があり、アルコールに溶け、水とエマルジョンを形成します。

聖書は、最も貴重で人気のある樹脂であるミルラを、聖なる軟膏の成分および化粧品として説明しています。

    

     

オポパナックス( Commiphora Erythrea、別名、スイートミルラ、ビサボルミルラ、パスティナカオポパナックス、オポパナックスキロニウム、メッカバルサム、 sweet myrrh, bisabol myrrh, Opoponax, Pastinaca opopanax, Opopanax chironium, Mecca balsam)https://cenciro.com/en/incense/commiphora-erythrea-opopanax 

 

原産国:東アフリカ。カンラン科。

オポパナックスは、感覚的知覚と感覚的認識を呼びさまし、刺激し、目覚めさせる香としてしばしば燃やします。直感的な意識を高めると考えられています。

オポポナックスレジノイドはフウロソウ目カンラン科のCommiphora erythrea var.glabreseensからとれる樹脂や浸出物を有機溶剤で抽出して得られるレジノイドです。おもな産地は、アフリカの北東部にあるソマリア、スーダン、エチオピアなどの紅海沿岸地域です。オポポナックスは、樹皮の中にたまった粘性の高い樹液が傷の部分からしみ出たものが乾燥して固まったもので、暗褐色や褐色の球状もしくは涙型をしています。ゴムと同様に木に切り込みを入れて採取し、集めた樹脂は石油エーテルなどの有機溶剤で抽出後、木くずなど有機溶媒に溶けない不純物を取り除いてオポポナックスレジノイドを得ます。香気は、植物樹脂的な甘さの中にややスパイシーなトーンがあり、ミルレジノイドと似た特徴です。なお、ほかの樹脂類と同様に昔から宗教儀式などに用いられ珍重されていた香料で、東洋や中東では樹脂をそのまま粉砕して線香や抹香に混ぜ込んで使用します。調合香料においては保留剤として用いられることが多い。

           

モミジバフウ(アメリカフウ、Liquidambar styraciflua、別名アメリカンストラックス、スイートガム(Sweet gum)、レッドガム(Red gum)American storax)

https://kinomemocho.com/sanpo_liquidambar.html

 

スチラックスレジノイドは、スチラックスの樹脂や浸出物を有機溶剤で抽出して得られるレジノイドで、二つに分けられます。

一つは、アジアスチラックスまたはレバントスチラックスとよばれ、トルコ南西部に生育するLiquidambar Orientalis Millの樹皮にたまるで、もう一つは、アメリカンスチラックス(アメリカンストラックス)で、米国コネチカット南部、メキシコなどに生育するLiquidambar styraciflua L.からとれる樹脂です。さらに、アメリカンスチラックスの変種としてホンジュラススチラックスとグアテマラスチラックスがあります。樹幹に傷をつけたりしておくと病理的に樹液が樹脂化してスチラックスが生成され、これを集めて、温めた後、布を使って不純物を濾過すると灰色がかった緑色の粘性の高い液体になります。これは粗スチラックスとよばれ、これを有機溶剤で抽出するとレジノイドが得られます。かつては、薬として使用されていましたが現在ではもっぱら香料として使用され、マグノリア、チュベローズなどの調合香料に使用します。日本では蘇合香(そごうこう)として知られています。

                 

                 オポポナックス

        

                   蘇合香