Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ザッハートルテ

2018年04月30日 | お菓子の歴史

ザッハートルテ

 

ザッハトルテに似たレシピは1700年代の初めに出版された料理書の中に既に見ることが出来ます。例えば1718年のクックブック・オブ・コンラッド。ハガー (Cookbook of Conrad Hagger) や1749年のガートラー・ヒックマンのトライドアンド トゥルー ヴィアニーズ クックブック(ヴィーネリッシィズ ベヴァルティス コッホブック (Tried and True Viennese Cookbook:Wieneriesches bewahrtes Kochbuch) です。                                        

                                     
                                                    
                フランツ・ザッハ

 

1832年にクレメンス・フォン・メッテルニヒ(Klemens Wenzel Lothar Nepomuk von Metternich-Winneburg zu Beilstein、1773/5/115-1859/6/11、コブレンツ出身のオーストリアの政治家、外相としてウィーン会議を主宰し、後にオーストリア宰相に就任。ナポレオン戦争後のウィーン体制を支えた。)が司厨長に、『重要なゲストに特別のデザートを作るように。』命じた。『そのことで恥をかかせることはありません。』と言っていた司厨長がその夜、体調を崩し、代わりにその任務に当たったのが見習い二年目の、16才のフランツ・ザッハ(Franz Sacher (16 December 1816- 11 March 1907、写真) でした。彼が作ったトルテはメッテルニヒのゲストに大いに受けたのですが、トルテがその後すぐにウィーンで広がった訳ではないのです。

ザッハトルテはフランツの次男、エドゥアルト (1843–1892) がウィーンの王室ご用達のケーキ店 “デメル” でベイカリィとチョコレート職人として修行を積んだ後、父親が残したレシピを改良して現在の形にしたのです。トルテは最初デメルで出されましたが、後にエドゥアルトが1876年に開業したホテルザッハのレストランとカフェで提供されることになります。

 

1900年の最初の十年間、”オリジナル ザッハトルテ” の称号を巡ってザッハホテルとデメルの間で訴訟騒ぎが起きます。

エドゥアルトがザッハトルテを完成させたのはデメルで働いている時期であったこと、又、1892年にエドゥアルトが亡くなり、エドゥアルト夫人のアンナ(Anna Sacher、1859/ 1/2-1930/2/25) がホテルの支配人になると、辣腕を発揮し、ホテルを貴族や外交官が宿泊するような世界の最高の格式あるホテルの一つにしました。アンナは1912年にレシピをウィーン料理研究家であるオルガとアドルフ・ヘス(Olga and Adolph Hess)に与えました。彼らは、ヴィアニーズ クックブックにザッハトルテのレシピを掲載します。

アンナが1930年に亡くなり1934年にホテルが破産すると、三代目のエドゥアルト・ザッハはデメルに就職し“エドゥアルト ザッハ トルテ” の販売権をデメルに譲渡します。

 

1938年、新しいホテルザッハの持ち主が ”オリジナル ザッハトルテ” の名前を付けたザッハトルテを手押し車にのせて売り始めす。1954年、ホテルのオーナーは商標の権利と ”オリジナル ザッハトルテ” の名前はホテル側にあるとデメルを訴えたのです。

法廷での戦いが7年間続きます。争点は名前の変更とケーキの製法(ケーキの真ん中に挟むジャム、バターの代わりにマーガリンを使うこと)です。

デメル、ホテルザッハの双方に出入りしていた作家フリードリッヒ・トアベルグ(Friedrich Torberg、1908/9/16-1979/11/10) が、アンナ・ザッハがホテルを取り仕切っていた当時の証言をします。トルテの表面にはマーマレードが塗られていなかったこと、真ん中にジャムは塗られてはいなかったことを明らかにしました。1963年、両者は法廷闘争を避けて和解します。ホテルザッハは ”オリジナル ザッハトルテ” (Original Sacher-Torte)を名乗り、デメルは三角形のメダリオンの中に ”エドゥアルト ザッハ トルテ“(Eduard Sacher Torte)の名を刻むことになります。

オルガとアドルフ・ヘスに渡ったレシピと同じレシピがファニー・ファーマー ( Fannie Farmer, 1857 /3/ 23-1915 /1 /15 , アメリカの料理研究家。ボストンクッキングスクール クックブックを著した ) の著述の中にあります、又、ルース・エメロス夫人(ニューヨークタイムスのホームエコノミスト)はこのレシピに手を加えて公表しました。

 

ジェイン ニカーソン( Jane Nickerson ) が1956/9 にニューヨークタイムスに掲載したリアルザッハトルテのレシピは次の通りです;

"Real Sacher Cake”


バター          5 oz.

砂糖           5 oz.

卵黄           6 個

チョコレート       5 oz.

小麦粉          5 oz.
卵白           6個

 

バターをクリーム状になるまで混ぜ、卵黄を加える。溶かしたチョコレート、砂糖、固く泡立てた卵白を混ぜる。小麦粉を混ぜてバターを塗った型に入れて中火で焼く。冷めたら、上にアプリコットジャムを少量塗ってチョコレートをかける。

 

マダム・メラニー・ライチェルトによる有名なウィーンレシピ200選(Two Hundred Famous Viennese Recipes, selected by Madame Melanie Reichelt [Wm. Filene's Sons Company:Boston] 1931 ( p. 18 ) では;


"Sacher Cake ( Sachertorte )”

“このレシピはアンナ・ザッハ夫人のご厚意により提供されたオリジナルのレシピである” の註が付いています。 

バター                170g

セミスィートチョコレート       180g

砂糖                 170g

卵黄                  8個

小麦粉                120g

固く泡立てた卵白           10個

アプリコットジャム          2 tbs.


アイシング:
砂糖                 1カップ

水                  1/3カップ                         セミスィートチョコレート        7 oz.

 

バターを混ぜてクリーム状にする。チョコレートを溶かす。砂糖とチョコレートをバターに混ぜる。卵黄を入れて混ぜる。小麦粉を入れ、卵白を加える。8-9インチのケーキ型にバターを塗る。混ぜたものを型に入れて275°Fで約1時間焼く。つまようじ又はストローを刺してテストする。ボードに移して冷ます。上を切って、底を上に返す。熱したアプリコットジャムを薄く上に塗る。チョコレートアイシングを被せる。

 

チョコレートアイシングは次のように作る:

砂糖と水を細く糸を引くまで煮る。

チョコレートをダブルボイラーでとかす。

スプーンにアイシングが付くようになるまで混ぜる。

ケーキの上に広げる。

 

註:ケーキを2-3層にしてアプリコットジャム又はホイップクリームを挟む。

---Viennese Cooking, O. & A. Hess, adapted for American use [Crown Publishing : New York] 1952  ( p. 229 )]

このレシピはアンナ・ザッハ夫人のご厚意により提供されたオリジナルのレシピであると断っているが、アメリカ人の嗜好に合うように変えたようです。

 

フランツが作ったザッハトルテのレシピは残っていないようだ。時代を経ると共にその内容は変化しています。

現在日本で販売されているデメルのザッハトルテの材料は次の通りです。

砂糖、卵、カカオマス、バター、小麦粉、ココアバター、水飴、アプリコット、卵黄、ソルビトール、乳化剤、酸味料、増粘剤、香料。

 

ファニー・ファーマーのレシピ:

 

チョコレート ウィーン ケーキ

バター            3/4カップ

砂糖             7/8カップ

卵黄              5個

チョコレート          4片

小麦粉           1 1/2カップ

ベーキングパウダー       3ts

卵白              5個

アプリコット又はオレンジマーマレード

 

材料を順にまぜて小さな型で焼く。型から外して冷ます。ケーキの真ん中に小さな穴を開けてそこにマーマレードを詰める。ケーキの上にマシュマロのフロスティング又はチョコレートフロスティングをかける。

 

チョコレートフロスティング

砂糖             1 3/4カップ

湯                3/4カップ

チョコレート           4片

バニラ              1/2ts

 

スプーンの先端から落としたときに糸状になって落ちるまで砂糖と水をボイルする。溶かしたチョコレートの中にシロップを注ぎ入れる。均一な濃度になるまで混ぜる。香りを付ける。

 

2つのレシピは卵の量を除いて同じである。次に取り上げるレシピと比較してザッハトルテの本来の姿?を想像しようと思います。

 

モニカ・ケラーマン ( Moniia Kellermann ) が1994年に著したダス グローセ ザッハ バックブック ( Das gorße Sacher Backbuch ) から;

 

生地:

バター          130g

粉砂糖          110g

バニラビーンズ       1/2本

卵黄            6個

チョコレート       130g

卵白            6個

グラニュー糖       110g

小麦粉          130g

 

トッピング:

グラニュー糖       200g

                                              図省略

水            125g

クーベルチュール     150g                      

 

       

                                    アンナ・ザッハのレストラン

 

作り方は上と同じなので省きますが、砂糖、卵、小麦粉、チョコレートの量が年月の経過と共に変化していることが分かるでしょう。それは卵白を泡立てる技術と共に、砂糖の消費を抑えようとする時代の欲求が原因と思われます。卵の量は5個あたりが妥当な量だろうし、卵白を固く泡立てる為に必要な砂糖の量も110gは多い。ケーキの上にかけるフォンダンショコラの量とケーキの中に使う砂糖の量を秤にかけると、適切な砂糖の量が見えてきます。ただし、甘過ぎるのが特徴のザッハトルテであるから上のレシピが本来のザッハトルテなのでしょう。

本書はホテルザッハの窓際に置いてあったのを、売り物なのか断りをして手に入れました。今はネットで購入することも可能です。

 

 

 

参考文献

 

Tried and True Viennese Cookbook 1749

Jane Nickerson, Newyork Times 1956

Madame Melanie Reichelt , Two Hundred Famous Viennese Recipes 1931

Viennese Cooking, O. & A. Hess, adapted for American use [Crown Publishing:New York] 1952 (p. 229)

Moniia Kellermann, Das gorße Sacher Backbuch 1994

 

 


エンジェルフードケーキ

2018年04月29日 | お菓子の歴史

 エンジェル フード ケーキ(エンジェルケーキ)

 

アメリカの製粉会社キングアーサーフラワーが創立200年を記念して1992年に出版したクックブックのエンジェルフードケーキのレシピは次のような文章で始まる。

「これは手に入れて食べることのできる、空気よりも軽い( light )ケーキである。バターもオイルも卵黄も一切使わない他に類を見ない、この世のものとは思えないケーキである。しかし恐れることはない我々の簡単なレシピに従えば誰にでも作ることができる。」

        

        脚付きのエンジェルフードケーキパン

 

エンジェルフードケーキの作り方

1カップ      オールパーパスフラワー

1 1/2カップ   砂糖

12個       卵白(L)

1/2ts      塩

1ts       バニラ又はアーモンドエッセンス又は両方

1 1/2ts     クリームオブタルタル

                                   

1.小麦粉に砂糖を3/4カップ入れて混ぜる。

2.塩とエッセンスを卵白の中に入れて泡立てる。クリームオブタルタルを入れて光沢が出るまで泡立てる。                                        

3.砂糖を1/4カップずつ3回加える。小麦粉をさっくりと混ぜる。

4.3.を油を塗っていないエンジェルフードケーキパンに入れて162℃ で40-45分間、表面がキツネ色になるまで焼く。

5.パンをひっくり返して冷ます。

 

Light はフワフワした、の意味ですが、胃にもたれない、すぐに消化する、コレステロールの少ない、気にしなくてたくさん食べられるうれしいケーキであることを伝えようとした言葉のようです。コレステロールの多い卵黄、牛乳、バターを一切使わない、いくらでも食べられる天使のような優しいケーキです。

 

 

1953年出版のベター・ホームズ・アンド・ガーデンズ・ニュー・クック・ブック, 1962年のジョイ・オブ・クッキング, 1967年のバイ イット・アンド・トライ・イットのレシピは上とほとんど同じ内容です。

1896年刊のボストンクッキングスクールのクックブックにエンジェルケーキの名があります。この頃にエンジェルケーキが生まれたと思われます。そのレシピは;

 

卵白          1カップ

砂糖         3/4カップ

コーンスターチ    1/4カップ

小麦粉        1/3カップ

塩           1/2ts

クリームオブタルタル  1ts

バニラ         1ts

 

卵白を泡立て、砂糖を徐々に入れて混ぜる。バニラを入れ、コーンスターチ、小麦粉、塩、クリームオブタルタルを入れて混ぜる。パンにバターを塗らずに、中火で45-50分間焼く。(1896年から1967年のレシピまで、その内容はほとんど変わっていません。)

 

1897年に、フランスでポール・サバティエが接触水素化反応を発見し( 微細なニッケル粉末を触媒に使ってエチレンに水素を添加する方法を発見した。これにより彼は1942年にノーベル化学賞を受賞している )、1901年にはドイツの化学者、エドウィン・キュノ・カイザーが水素を脂肪に添加する方法を考案した。後にプロクターアンドギャンブル社で綿実油に水素を添加することに成功し、1911年クリスコの商品名で売り出した。( 液体である油に水素を添加すると、常温下で固形となる。 )

バター、ラードを食事の中からできるだけ減らしてコレステロールが原因の脳梗塞、脳卒中、脳溢血を防ごうという社会的な動きと、エンジェルフードケーキの出現は連動しているように思われます。

 

エンジェルケーキに似たケーキに、シフォンケーキがあります。これは、1927年にロサンゼルスのハリー・ベーカーが考案した、卵(全卵)、サラダ油を入れてエンジェルフードケーキパンで焼くケーキである。エンジェルフードケーキを下地に、考え出したお菓子です。

 

 

 

参考文献

 

Brinna B. Sands, The King Arthur Flour 200th Anniversary Cookbook 1992

Better Homes New Cookbook, 1953

Irma S. Rombauer, Marion Rombauer Becker, Joy of Cooking, 1962,1975

Women's Society Tokyo Union Church, Buy it'n Try it 1967

Fannie Merritt Farmer, Boston Cooking School Cook Book 1896, 1918

 

 


アップルパイ

2018年04月28日 | お菓子の歴史

アップルパイ


 

アップルパイを「栄養学」、「料理」、「料理の給仕」の3方向から眺めてみた。

 

まず、栄養学から。

1450年代に書かれたドイツの栄養学書、ダス・コッホ・デス・マイスターズ・エバーハード( Das Kochbuck des Meisters Eberhard )ではリンゴを次のように述べています。

 

“R-52. 

甘いリンゴは湿をもたらす。酸っぱいリンゴは寒で乾な性質を持つのでたくさん食べると熱をもたらす。少量食べると心臓と脳を強くする。又体の中に風をもたらす。
アヴェロエス ( Averroes、1126-1197”、スペインのコルドバ生まれ、哲学者。アラブ・イスラム世界におけるアリストテレスの注釈者として有名。また、医学百科事典を著した。中世ヨーロッパのキリスト教のスコラ学者によって、ラテン語に翻訳され、ラテン・アヴェロエス派を形成した。) は;リンゴジュースは胃を強くするが、たくさん食べるとzieh adern(ある種の血管)を痛め、熱っぽくなると述べている。イブン・スィーナー(Avicenna 、980-1037/6/18、アリストテレスと新プラトン主義を結びつけ、アリストテレス哲学と新プラトン主義を結合させたことでヨーロッパ世界に広く影響を及ぼした)は,リンゴを食べる者はそのジュースをたくさん飲むべきではない。味の悪いリンゴは害があると述べている。     


                                                   

                         Galem

又、ガレノス( Galem, Claudius Galenus 、129-200、ローマ帝国時代のギリシアの医学者。多くの解剖によって体系的な医学を確立し、古代における医学の集大成をなした。彼の学説はその後ルネサンスまでの1500年以上にわたり、ヨーロッパの医学およびイスラム医学において支配的なものとなった)は、リンゴは胃の調子を調え、他の食べ物が逆流するのを防ぐ、しかもリンゴは寒であり乾の性質を持つので粘液と胆汁のバランスを取り消化を助けるので食事の後で食べるべきであると述べています。

ガレノスから1300年後に書かれたドイツの医学書、エバーハードはガレノスの学説を忠実に守っていると言える。それでは料理書に書かれたレシピは、医学書で述べられている事柄をどの程度遵守しているのでしょう。

 

1390年のフォルム・オブ・クーリィ(The Forme of Cury)から;

158.レントに作るアーモンドフルーツパイ

水で濃いアーモンドミルクを濾す。デイツを用意し下処理をする。リンゴとペアを用意しダムソンプルーンといっしょにミンスする。プルーンの種を取り、二つに切る。そこにレーズン、砂糖、シナモン抹、ホールメイス、クローヴ、グッドパウダー、塩を入れる。サンダルウッドで色を付ける。これとオイルを混ぜる。以前にしたようにコフィンを作り、この詰め物を中に詰めてよく焼く。サーヴする。

 

上の料理ではコフィン(ペイストリィで作った入れ物)の中にアーモンドミルク、デイツ、リンゴ、プルーン、メイス、クローヴ、グッドスパイス(メイス、シナモン、ジンジャー、クローヴ、クベブ、ブラックペッパーを予め混ぜておいたスパイス)、を入れて蒸し焼きにしている。リンゴは寒で乾、プラムは寒で湿、ペアは温で湿。これに対してスパイスは熱で乾(クローヴは熱で湿)の性質を持つので体液的にバランスが取れた材料を使っていると言える。(四元素説では料理が全体として暖で湿の状態であることを重視しています。暖で湿の状態に保つことが、即ち人間の体の中を巡る体液のバランスを取ることであり、健康でいられる必要十分条件であるからです。)

 

同じくCury, 23.アップルタルトから、

立派なリンゴ、グッドスパイス、イチジク、レーズン、ペアを用意する。しっかりと潰したらサフランでよく色を付ける。コフィンに入れてしっかりと焼く。

 

リンゴは寒で乾、ペア、イチジク、レーズンは熱で湿、サフランは熱で乾。一方に偏った食材を使うのではなく全体としてバランスが取れている。強いてスパイスを入れる必要がないので上のようなレシピになったと考えられる。それではフォルム・オブ・クーリィから約150年後のプロパー・ニュー・クッカリィ( A  Propre new booke of Cokery (1545), written by Richard Lane and Richarde Bankes )ではアップルパイはどのように変化しているでしょう。

 

グリーンアップルのパイを作る

アップルを用意して皮を抜き、きれいにして

マルメロのように芯を取る

次の方法でコフィンを作る

きれいな水を少量、その半分のバター、サフランを少量用意する

全てを、熱くなるまでチャフティングデイッシュに入れる

この中に粉を入れて水分と一緒に熱する

卵白2個を入れてコフィンを作る

アップルをシナモンとたくさんの砂糖で味を付ける

それをコフィンの中に入れる、そうして焼く。

 

1350年頃とは異なり料理に使うことのできる砂糖の量が、1550年になると飛躍的に多くなります。プルーン、デイツ、イチジク、レーズンに頼っていた甘味の役割は砂糖に移るのです。バターもたくさん使えるようになる。しかもコフィンにはサフランを使い、蒸し焼きにするための単なる入れ物ではもはやなさそうです。たくさん使っていたスパイスは姿を消し、シナモンとサフランが生き残る。リンゴは寒で乾。砂糖は熱で湿、シナモンとサフランは熱で乾なので、リンゴとスパイスのバランスが考慮されていると考えられます。


それでは1700年代のアップルパイを見てみよう。ハナ・グラッセのアート・オブ・クッカリィ(The Art of Cookery Mrs Hannah Glasse 1708–1770)から;

 

アップルパイを作る

ディッシュの縁にクラストを貼り付ける。リンゴの皮を剥いて4つに切る。芯を取ってリンゴを並べる。砂糖を半量入れて、レモンピールを少量ミンスして振りかけ、その上にレモン汁を搾る。
クローヴをあちこちに入れ、残りのリンゴと砂糖を入れる。更にレモンを搾り入れる。甘い味に仕上げる。リンゴの皮と芯、メイスを一片入れてきれいな水でボイルする。漉して砂糖を入れてシロップを少量作る。それをパイの中に注ぎ入れる。クラストの上に塗って焼く。好みでその中にマルメロ又はマーマレードを入れても良い。この方法でペアタルトを作ることもできるがその際はマルメロを入れない。オーブンから出したらバターを塗る。又は2個の卵黄、1/2パイントのクリーム、砂糖で甘くしたナツメグを少量混ぜたものをパイの中に注ぎ入れる。
パイの3隅を切り取り、パイの上に刺してテーブルへ運ぶ。

 

ローマ帝国時代のガレノス(129-200)の影響は1700年代になって消え去ったのだろうか。

 

それでは第三番目の方向(「料理の給仕」)から見てみよう。

ジョン・ラッセル、1452年著の食事と身だしなみに関する作法と習慣について書かれた、ブック・オブ・ナーチャー( Harl. MS. 4011, Fol 171; The Boke of Narture, John Russell) から引用します;

 

ディナーの前にはプラム、ダムソン、チェリー、葡萄を、食事の後にはペア、ナッツ、ストロベリー、ワインベリー、ハードチーズを、サパーの後にはローストアップル、ペア、ブランチパウダー(ジンジャー、シナモン、ナツメグ)を差し上げて胃の働きを助けるのです。

 

食事の前には寒で湿な果物を(ただし葡萄は熱で湿)食事の後には熱で湿又は乾な果物、ナッツ、スパイスを給仕する。寒で乾な性質を持つリンゴはオーブンの中で十分に熱して温で湿な食べ物に姿を変えた。100%ではないがほぼガレノスの学説通りの生活を送っていたようです。

 

アップルパイは、砂糖、小麦粉、バターの需給変化によって姿を少し変えたが、ガレノスの影響は今も引き継がれているようだ。リンゴの中にレーズン、シナモンを入れた、
ガレノスの影響を今も引きずるアップルパイをみていると妙な気分になってきます。レーズンの代わりに酸っぱい干したサクランボ (冷で寒) を、シナモンの代わりに薔薇の花びら (冷で寒、薔薇の花びらはスパイスである) を入れたアップルパイであっても味は悪くはないと思われるが、食べる気にならないのは私だけではないでしょう。

 

「父なる神、神の子、聖霊の御名において。」で始まるキリスト教精神満載のブック・オブ・ナーチャーがなぜガレノスの学説を採用しているかについては機会があったときに述べようとおもっています。

 

 

 

 

参考文献

 

T. Gloning, Das Kochbuch des Meisters Eberhard, transcription 1450

Satoh Yosinori, The Forme of Cury, translation 1390

A Proper Newe Booke of Cokerye 1550

Hanna Glasse, The Art of Cookery 1747

John Russell,  The Book of Nurture 1460-70

 

 

 


マカロン

2018年04月11日 | マカロン

マカロン  1

マカロンが流行っているのでしょうか? 「あなべるお菓子教室」の生徒さんから次回のクールに「マカロン」を入れとほしいという要望がありました。


              

   


   

無作為で「マカロン」の画像を3つ引用させていただきました。美しい色のお菓子ですが、どのマカロンも「食品用色素」を使っているのではないでしょうか。なぜならどれも同じ色調(明度と彩度)をしているからです。「食品用色素」の是非をここで述べるつもりはありません。ただ体に対して「異物」であるものを無節制に取ることが非常に気になる私は、これらのマカロンを見て自然から得られる色素 ( すべてのものが無条件で是ではありませんが ) を利用してマカロンを作ろうと思いました。

それほどに、今の市場にあるマカロンは異常なほどに幾種類もの色粉を多量に使っています。


   

Free shipping America Wilton Double sugar cake pigment color paste food baking wilton 12 color pigment. Total Price: US $27.99 (Approximately ) 

12色で3,000円くらいです。ペースト状で使いやすくできています。

発色しにくい「赤、緑色」のマカロンは相当量の色素を使っているといいうことは、少しお菓子を作ったことのある方なら容易に理解できるのではと思います。


マカロン 2

 

お話は少し飛びますが、マカロンといえばフランスロレーヌ地方ナンシーの銘菓メゾンデスールマカロン ( La Maison des Sœurs Macarons ) を思い浮かべられた方もおられるのではないかと思います。

   

http://www.macaron-de-nancy.com/から 

シェフのニコラス・ジェノー(Nicolas Génot)が運営する、1793年創業のメゾンデスールマカロンが作るマカロンは、プロヴァンス産の卵白、砂糖、アーモンドで作る、ベネディクト派の修道女のレシピを引き継ぐものです。表面にきれいに入ったヒビとアーモンドの味と香りが特徴です。(「これがマカロンなのか!」と一口頬張れば目から鱗の、存在感あるそれでいていくつでも食べられるお菓子です )

 

マカロンはこの他に、13世紀から作られているサン=テミリオンのマカロン・クラックレ (macaron craquelé) 16世紀から作られているアミアンのマカロン・ダミアン (macaron d'Amiens)、ロワール地方のコルムリー修道院のマカロン、ピレネー=アトランティック県サン=ジャン=ド=リュズのマカロンなどがあります。イタリアでは16世紀にカトリーヌ・ド・メディシスがアンリⅡ世のもとへお輿入れする際にイタリアから持っていったアマレッティがあります。

 

マカロン 3

http://karenine.com/laduree-ou-pierre-herme-le-macaron-classique-ou-revisite/ から 

最初にご覧頂いたマカロンはパリ風マカロンと言い、パリにあるラデュレ ( Ladurée ; 菓子店の経営者ピエール・デフォンテーヌが、1930年に始めたもの ) とピエールエルメ( Pierre Hermé )がパリ風マカロンを作るコンフィズリーの代表です。 

  


ピエールエルメのレシピは公開されていますので、http://liberty-telechargement.fr/french/macaron+par+pierre+herme/  からご紹介しておきましょう。


       


材料:

マカロン(小80個、大20個分)

粉糖              480g

アーモンドパウダー       280g

卵白              7個


ココアパウダー         40g

コーヒーエッセンス      1/2 cu.
コチニール色素         6滴

又は 緑色素          6滴

バニラエッセンス        1 ts


つくり方: 

1.粉糖、アーモンドパウダーをいっしょに篩う。チョコレートマカロンを作るときはココアも一緒に篩う。

2.卵白を固く泡立て、好みの色粉を入れる。

3.粉糖とアーモンドパウダーを卵白の中に入れる。左手でボールを回しながら木杓子をボールの中央から縁に向かって動かす。アワを潰さないように混ぜて流れるようなペーストに仕上げる。

4.オーブンを250 ° Cに加温する。

5.鉄板を二枚重ねてその上にパーチメントペイパーを置く。 # 8 の口金を使って2cmの小さなマカロンを、#12の口金で7cmのマカロンを絞り出す。

6.室温で15分間置いてマカロンの表面に皮を作る。オーブンに入れて直ぐに温度を180 ° Cに下げる。オーブンのドアを半分開けたままにして10-12分間、大きなマカロンは18-20分間焼く。

7.冷ます。冷蔵庫で2日間保存できる。


マカロン 4

http://followtheruels.com/2016/07/laduree-macaron-recipe/ からラデュレのレシピをご紹介しておきましょう。上のサイトでレシピの出所は明らかにされていませんが、おそらく次の本あたりなのでは?と思っています。

  

Ladurée Macarons (Laduree)

Nov 30, 2014 by Vincent Lemains and Antonin Bonnet

 

現代を代表するレシピをたたき台にして、本題の「天然色素を使ったマカロン」に戻ろうと思います。もう少しお付き合い下さい。

    

材料(36個分)

アーモンドパウダー    275 g

粉糖           250 g

卵白           6 + 1/2

グラニュー糖        210 g

クリームオブタルタル   1 pinch

エッセンス         1/2 ts

 

マカロンシェル:

1. アーモンドパウダーと粉糖をフードプロセッサーに入れて回す。 

2. ボールに卵白6個を入れて泡立てる。砂糖を1/3、クリームオブタルタルを入れ、約1分間混ぜ砂糖を溶かす。残りの半量の砂糖を入れて泡立てる。1分間混ぜソフトピークまでもっていく。残りの砂糖を入れて1分間混ぜて光沢のあるメレンゲにする。(この段階で色粉を入れる)ゴムべらを使ってアーモンド-粉糖を優しく混ぜる。

別のボールに卵白を1/2入れて泡立てる。これを追加で入れて湿り気と柔らかさを出す。 

3. スプンーで絞り袋の中に入れる。鉄板の上にシリコン紙を敷いて3-4 cmの円形に絞り出す。鉄板を台の上に叩いて泡を取る。約15分間静置してクラストを形成させる。マカロンがべたつかなくなったらオーブンに入れて150℃で14-15 分間焼く。 

4. シリコン紙をオーブンから動かしてシリコン紙の端を持ち上げる。小さなグラスで少量の水を鉄板とシリコン紙の間に注ぎ込み蒸気を出してマカロンがはがれやすくする。ラックの上で冷まし、フィリングを詰める。


マカロン 5

https://www.facebook.com/notes/the-st-regis-bal-harbour-resort/executive-pastry-chef-antonio-bachours-macaron-recipe/491261260921967/ から

 

アントニオ・バチュー ( Antonio Bachour;1975年、プエルトリコ生まれ。) 2011年, Baking & Pastry Innovator でノミネートされ、2012Zest Award を受賞。ザガット・サーベイ( Zagat Survey )は彼を confection master として取り上げました。

 

アントニオ・バチューのレシピ

 

材料:

アーモンドパウダー      125g

アイシングシュガー      150g

卵白             100g

砂糖             100g

フードカラー

 

方法;

アーモンドパウダーとアイシングシュガーをフードプロセッサーの中に入れて回し、篩う。卵白に砂糖を3回に分けて入れ、ソフトピークまで泡立てる。フードカラーを入れて角を立てる。アーモンドを入れて混ぜる。シリコンマットを敷いたベーキングトレイの上に絞り出す。室温で30分間静置する。137℃で1215分間焼く。

  

 

最後に青木定治のレシピを取り上げておこうと思います


マカロン 6

 

http://uchiiwai.akasugu.net/Sho/shohin/31660/group/cat_shobun/catid/0-1787 青木定治のレシピ;


 

 

材料 ( 直径3.8㎝、50個分 ) 

卵白               100

グラニュー糖          30

乾燥卵白            3

クレームタータ        0.25

アーモンドパウダー      142

粉糖             200

色粉              少々

 

方法;

1. すべての材料を室温に準備する。

2. 乾燥卵白、クレームタータ,色粉を混ぜる。

3. 卵白の中に(2)、グラニュー糖を入れて角が上に立つまでよく混ぜる。

4. アーモンドパウダー、粉糖を半分入れて混ぜる。粉がなじんだら残りの半量を加 える。ゴムベラを持ち上げると垂れるまで混ぜる。

5. 絞り袋に入れて1/5gの割合で絞り出す。テーブルに軽く打ち付けて泡を取る。

6. 鉄板を2枚敷いてオーブンに入れる。180℃で予熱し、鉄板を入れたら160℃に下げ て焼く。数分で(ピケが立ったら)鉄板を一枚抜く。マカロンの裏の縁に焼き色が少し付いたら焼き上がりです。


マカロン 7

4人のレシピを比較しました。ピエールエルメとラデュレのレシピには卵白の量を「個」で表現していましたので、M卵と判断して30/個で計算しました。粉糖とグラニュー糖を合わせた、いわゆる砂糖の量は4レシピともほぼ同じ50%付近に収められています。アーモンドパウダーの量もほぼ同量です。同じ形のお菓子を同じ食感で仕上げるのですから当然のことでしょう。

特筆すべきは乾燥卵白を使った青木のレシピです。乾燥卵白を使ったために乾燥時間が不要になり、若干ですがですがアーモンドパウダーの量を増やすことができ、砂糖の量を減らすことができました。

 

       卵白  グラニュー―糖  乾燥卵白  クレームタータ    アーモンドパウダー    粉糖    色粉

ピエールエルメ     21%                                       29%        50%      少々

ラデュレ        21%    23%                 少々             30%         27%      少々

アントニオ バチュー   21%      21%                                 26%         31%       少々

青木貞治       21%    6%           0.6%     0.05%             30%           42%       少々


しかし4レシピ共に「色粉」を使っています。次回はいよいよ色粉について述べようと思います。


   

マカロン 8

 


天然色素の作り方 ( 赤キャベツを使った一例 )

材料;

赤キャベツ        一玉

ベーキングソーダ     1/4 ts 

 

http://www.sewhistorically.com/homemade-natural-blue-food-coloring-with-red-cabbage/ から。

サイトの主は赤キャベツを例に天然色素の利用を薦めています。赤キャベツは、PH3.9以下では crimson#dc143c に、PH5~6では darkorchid#9932c に、PH7以上では midnightblue#191970 に変化します。しかもその色は耐熱性ですからマカロンのクラストとして使っても大丈夫です。


方法;

赤キャベツをスライスして水に浸け、約15分間ボイルします。漉した水を更に15分間煮ます。ベーキングソーダを1/4ts入れると色が紫から青になります。

ついでに。

作った天然色素を効率よく使うには、砂糖を加えて更に煮詰め、瓶に保管して冷凍保存すると良いでしょう。好みの発色と粘度を手に入れることが出来ます。

 

 

同じサイトの主は、http://www.sewhistorically.com/diy-ice-glasses-tutorial/ でアイスクリームに自然色素を使った例を上げていますが、残念ながらここで使っている赤キャベツ以外の色素は易熱性で、熱によって色が変化しますのでこのような使用例となったのでしょう。但し、マカロンのフィリングは加熱しませんので自由に素材を選ぶことが出来ます。

   

 

赤キャベツは、酸塩基指示薬として用いることのできるアントシアニン系の染料を含み、酸性では赤色から桃色、中性では紫色、塩基性では青色から緑色を呈します。アントシアニンを含む植物の例。発色団はアグリコン部分で、中性溶液の色はペラルゴニジンは鮮赤色、シアニジンは紫色、デルフィニジンは紫赤色になります。pH により色調は変化し、シアニジンの場合は酸性条件下で赤色、アルカリ性条件下で青色ないしは青緑色となります。

 

耐熱性の植物性色素には赤キャベツの他に、クチナシ、サフラン、紅花、マリーゴールド、トマト、紫蘇、赤大根、ムラサキイモ、葡萄の果皮、トウガラシ、タマリンド、タマネギ、キャラメル、イカスミ、柿、カカオなどがあります。頭と腕を使って発色の良い、安心して食べられるマカロンを作られることを願っています。



 

 




 


 


 

 




ラム ミートボール

2018年04月04日 | 料理

 

スパイシーラム ミートボール

 

   

 

この料理は3日前に手にした今月(4月)の bon appétit からの引用です。

何故この料理を引用したかというと幾つかの理由があります。

・この料理はアメリカ人が『ミートボールの料理なんて子供ぽくって笑わせてはいけないよ』とかつてなら取り上げるはずもなかった料理であること。

・日本人に受けるかなと思ったこと。

・手軽そうなこと。

・他の料理に転用出来そうな雰囲気があること。

・様々な国の調味料が使われていること。(全体のバランスは果たして取れているのかなと思ったこと) 

などなどが挙げられます。- - - - - 兎に角、とても気を引く料理です。


四の五の言わずにさっさとご紹介しましょう。


材料(4人分)

卵(L)           1個

パン粉(日本の)      1/2カップ

クミン(挽いた)       1/2ts

レッドペッパー(フレーク)  1/4ts

ターメリック        1/4ts

パセリ(チョップ)     1/4カップ

バージンオリーブオイル   2TBS、1/2カップ

塩            1 1/2ts、プラス少量

ガーリック          2片

ラム肉 (挽いた)      1lb

ミント           2カップ

ゴールデンレーズン     3TBS

ギリシャヨーグルト      適量

 

方法;

1. 卵、パン粉、クミン、レッドペッパー、ターメリック、パセリを混ぜる。オリーブオイル2TBS、塩、ガーリック1個、ラム肉をボールに入れて手で混ぜる。

2. ラム肉をゴルフボール大に丸めて鉄板の上に並べる。オーブンに入れて218℃で褐色になるまで8-10分間焼く

3. ミント、レーズン、パセリ、ガーリック1個、バージンオリーブオイル 1/2カップ、塩一つまみをブレンーで混ぜてペストにする。塩が足りなければ追加する。

4. ヨーグルトをプレートの上に広げてペストとミートボールをのせる。