Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ハーブの効用について

2024年07月17日 | ハーブ

去年の秋に蒔いたマジョラムの収穫をしました。ハーブの栽培に慣れている方にとっては当たり前の事かもしれませんが、私は少し手こずりましたのでここで栽培のコツをお知らせできればと思います。

  

 

マジョラムが芽を出したところです。サイトによっては(西ヨーロッパのハーブはどのハーブも微アルカリを好むものですが)マジョラムは酸性土を好むとありましたので、石灰を入れずに種を蒔いてしまいました。(ひどく緑色が濃くて異常ともとれる色合いです)ここには絵はありませんが5-6本あった若芽が3本を残して無残にも根腐れしてしまいました。(それに水を普通の花並みに与えたせいです。)急いで植え替えたのですが、生き残ったのは1本きりとなってしまいました。培養土を2,赤玉土を3培養土を5、石灰を小さじ2杯程度入れた土の中に移植しました。できるだけ水を遣らずに乾燥した状態で栽培したところ何とか育ってくれました。

  

 

小さな花をこの6月の25日になって咲かせてくれました。ハーブは花を咲かせる時がその香りと有効成分が一番多いときですから、蕾の時に収穫しました。マジョラムは(も)肥料をできるだけ少なくすると非常に香り豊かなハーブを手に入れることができます。

そんなわけで上の花は蕾を収穫した後の,摘み残した後に咲いた花です。蕾を摘むと下のように新しい新芽が出てきて、今までの青い葉は黄色くなっていきます。

  

 これからの露の時期を迎えて鉢は軒下に移動しました。

  

 

  積んだ蕾はしっかりと乾燥して料理に生かして使います。

  

 

バキバキに乾いたら瓶に入れて保管です。スパゲッティのミートソースにはこの乾燥マジョラムが一番合います。これまでオレガノを代わりに使っていたのですがやっと45年ほど前に食べていた味に戻れそうです。

 

ハーブの効用については次回に書こうと思います。少しマジョラムの記事が長くなってしまいました。コメント欄で御質問があったので述べとおこうと思います。

 

ハーブの効用について述べようと思います。個々のハーブについては左のカテゴリーからご覧になれます。今回は切り口を変えてハーブをご紹介しようと思います。

 

ハーブには2つの姿があります。1つはハーブから得られる精油、および薬効成分を健康食品、機能性表示食品、薬品等に使った姿です。

2つ目はハーブ関連の一般的な書物に書かれているハーブ本来の姿です。学名から始まり、原産地、栽培方法(収穫、花期、種まき、挿し木、株分け、病虫害、土、水やり、日当たり、温度)、利用方法(園芸、ポプリ、料理、ティー、浴用、染色)、料理の数々からなる姿です。

 

 

1つ目から、カモミールを例にとって述べると;

カモミール(カミツレ)には精油である(アズレン、ビサボロール、カマアズレン、ファルネセン)フラボノイドの(ルチン、クエルシメトリン)が含まれています。その中のアズレンに的を絞って説明します。

 

アズレンは抗炎症性や抗アレルギー、肉芽促進、上皮形成などの作用があるので。

アズレンのスルホン酸ナトリウム(スルホン酸が持つ -SO3H の官能基(スルホ基)は強酸性で水と良く水和するので多くの有機化合物に導入されこのアズレンに利用されています)として使われています。

抗炎症作用:炎症組織に直接作用し、ヒスタミン遊離と白血球遊走を妨げることで炎症を抑えてくれます。鎮痛作用:痛みを和らげる効果があります。抗菌および抗真菌作用:細菌・真菌に対する抑制効果があります。

これらの作用のあるアズレンスルホン酸ナトリウムは次のような症状の治療に使用されます:胃潰瘍や胃炎:胃の炎症や潰瘍の治療。口内炎、急性歯肉炎、舌炎、口腔創傷:口腔内の炎症や創傷の治療。

 

市販のうがい薬としては、「パブロンうがい薬AZ」や「エスコンうがい薬AZ」などがあります。アズレンスルホン酸ナトリウム水和物が配合されたうがい薬は風邪やウイルス予防に効果的で、特に喉の痛みや腫れがあるときに使用されます。軟膏や喉スプレー:アズレンを含む軟膏や喉スプレーも存在します。傷の治りを早くする効果があります.

 

                                                       

                

第3類医薬品(第1類・第2類医薬品以外の一般用医薬品)なので、薬剤師もしくは登録販売者から購入でき、一般従事者からの購入も、薬剤師や登録販売者の管理・指導の下であれば可能です。

 

アズレンを含むスプレー商品としては、以下のようなものがあります:

商品説明;「パープルショット」には、『喉の炎症を抑える有効成分「アズレンスルホン酸ナトリウム」を配合したスプレータイプの商品です。喉の腫れや声枯れに対して効果的で、特に風邪が喉にきやすい人におすすめです』とあります。

また、浅田飴AZのどスプレーSには『「浅田飴AZのどスプレーS」もアズレンスルホン酸ナトリウムを配合しており、のどの痛みやはれ、声がれ、口内炎に効果があります。』

 

アズノール軟膏はステロイドではないのでおむつかぶれの炎症を抑える目的で使用されます商品としては「アズノール軟膏0.033%」があります。

         

                                  

処方箋医薬品で、医師の処方箋を必要とし、薬剤師による調剤によって処方される医薬品です。『国産カモミールの有効成分を引き出したカミツレエキス100%の薬用入浴剤国産カモミールの有効成分を引き出したカミツレエキス100%の薬用入浴剤』

 

その他にスキンケア―の商品として 華密恋(KAMITSUREN) を取り上げておきましょう。

『華密恋(カミツレン):国産カモミールにこだわったスキンケアブランドで、フェイスケア製品をはじめボディケアやヘアケアなど、厳選した国産カモミールを使用した製品を提供しています。』

                   

 

どのような形でカモミールを利用するかで含有量が異なり、それに応じて取り扱われ方が異なります。いずれにしても使用に当たっては細心の注意が必要です。なぜなら、その中に使われている精油の量は、自然界に存在していた時に比べて比較にならないほど大量だからです。

『自然の、ナチュラルな、植物からの』等の説明はその通りですが、いままで我々人間が何千年もの間付き合ってきた自然に存在していたハーブとは全く異なる姿がその中にあるからです。何万倍もの精油を体の中に入れたらどうなるかは想像に難くありません。

 

一番目のハーブの姿はこれくらいにして次に移ろうと思います。

 

2つ目はハーブそのものを直接利用する方法です。先にも書いたように園芸、ポプリ、料理、ティー、浴用、染色、料理の数々からなる姿です。

ハーブの本にはいかにも効果がありそうに書いてありますが、本当にそうでしょうか。ハーブを栽培し、利用するようになって45年以上たちますが、書かれているような効果が即座に発揮されたのは、2例です。経験が浅いと言われればそうかもしれませんが、その2例をご紹介すると:

歯が痛くて、おまけに休日でどうにも我慢ができなくて、栽培していたセージの葉を腫れた歯茎に押し当ててて痛みを我慢したのが、一例です。後の一つはカレーのスパイスの中にクローブをたくさん入れて腸の調子を整えたことがあります。どの例もお勧めできるのものではありませんが、身をもってハーブの薬効を感じ取った例です。

ハーブの効果とは化学薬品のように即効性のあるものではないのです。例えばローマンカモミールのページを開くと、『花を使いその鎮静効果を利用したカミールティー、葉や茎を使い保温、発汗効果を利用した入浴剤、石鹸、シャンプー、リンス。利用すると肌に優しく、リラックス効果や鎮静効果がある。』という文字が目に入ります。本当にそうでしょうか。即効効果はないはずですから、飲んで、或いはハーブの水溶液を浴びてすぐに効果があるはずはないことは少し考えれば理解できることです。しかし、カモミールティーはいろんな場所で目にします。何年もハーブに触れてきた経験から言うと、あれは何回も『眠るときにカモミーレティーを飲む行為』と『眠り』がカモミールティーと結び付けられたせいです。その結果カモミールティーを飲むと自然に眠たくなるのです。カモミールティーに特に眠りの効果があるのではないのです。試しにほかのものを飲んでも同じ効果があるはずです。

つい最近亡くなった方のお話です。このお話をしていいものかどうかは結構迷ったのですが。お話しすることにしました。多分『いいよ』言ってもらえるのではおもったからです。

36年も前のことからお話は始まります。その方はわたしがやっていたお菓子屋の近くに住んでおられて、1か月の内に何度も来られていた方です。当時67歳くらいだったと思います。癌家系の方で、ご本人はそのことを絶えず気にかけておられたものですから健康管理には随分気をかけておられました。

数種類の野菜を入れたスープを毎日飲んでおられました。私もそのレシピを教えていただいて今も飲んでいますが、腸の調子はいいようです。あるとき、膝を酷く腫らしてお見えになりました。医者に『年だから』と言われたとひどく憤慨おられたのですが、お友達に、『仰向きに寝て、脚を挙げる運動をすると膝痛に良い』と聞き、毎日片方の脚を10回ずつ上げる運動をしているとおしゃっておられました。1か月後には膝の腫れは治っていました。

一か月ばかり姿を見せられないときがありました。お友達の方がお見えになって、『xxxさんは入院したよ』というのです。さっそくお見舞いに伺ったのですがお会いすることはできませんでした。『xxxさんももう駄目かもしれないねえ』と耳に入ってきたのはそれから数日してからでした。大腸にこぶし大の腫瘍があったらしいというのです。癌らしいというのです。

『これは!!』と私も思いました。それから2週間ばかりして、xxxさんがひょこっり顔を出されたのです。びっくりしました。笑いながらおっしゃるのです。『開腹すると腸が激しく動いていたとお医者さんが言った』というのです。癌細胞は転移することなく、一部分に限局していたそうです。腸を開くと真っ黒で癌細胞を囲むように押し包んでいたというのです。

何故癌組織が広がらなかったのでしょうか。彼女が教えてくれました。せんぶりを若いころからずーっと飲んでいたそうです。そのせいで癌組織が周りに広がらなかったのではというのです。

せんぶりと言えば苦味成分であるスウェルチアマリンに苦味健胃作用、食欲増進、胃液分泌促進等の効能があることが知られています。しかしこれだけで、いくら長期にわたって服用していたとはいえ抗がん作用が期待できるのでしょうか。

このお話の中にハーブを使う上での大きなヒントが隠されているように思うのです。

 

 

                                      完

 

 


コリアンダーの越冬

2024年06月22日 | コリアンダー

    

12/10 のコリアンダーの状態です。例年9-10月に種を蒔いてコリアンダーの芽を出させ少し大きくなった状態で冬を越し、春に大きく育てる方法を取ってきました。こんなにうまく発芽して大きくなることは今までにありませんでした。12/12の今日には既にご近所二軒にお裾分けをしました。

暑い夏に続く、温かい冬のせいでしょう。

コリアンダーの生育温度は18-25℃ですから来週には再び本来の冬に戻って、このコリアンダーもどうなるでしょうか。

枯れるかも知れませんが、2日前にしっかりと腐葉土でマルチしておきました。このまま越冬してくれれば良いのですが。

 

12/14  妻がご近所の方にコリアンダーを差し上げるために切り込んだ株をみていていい越冬方法(?)を思いつきました。やってみる価値はありそうです。このまま枯らしてしてしまうのは残念ですからねえ。寒い冬は2-3日の内にやって来そうです。早く手を打たないとね。

次の画像は冬に強いレモンバームです。

去年の夏に茂った葉の下に冬用の、肉厚の小さな葉が既に顔を出しています。冬に耐えきれなさそうな軟らかい葉をしたコリアンダーはどうすれば冬を越せるでしょうか。

今日12/24は、マイナス2℃ほどです。道の上にたまった水が凍っていました。温室でもあれば良いのですが、プランターで野ざらしの状態です。次のような方法を試みました。

今日は12/28日です。寒い日が続きました。コリアンダーの様子を見てください。

腐葉土を根元にしっかりとやりました。(50cmx50cmのところに30L-バケツ一杯半- ほどの腐葉土を撒きました)かなり多めに根元が隠れるくらいに被せてあります。コリアンダーの栽培温度である18-25℃を下回る、2-4℃の朝が続きましたが大丈夫だったようです。一旦大きく育ってしまえば耐性があるようです。根を寒さから守ったことが良かったようです。このまま暖かくなる3月まで過ごしてくれたらと願っています。

寒さに極めて弱いレモングラスにも腐葉土をしっかりと被せておきました。

このまま春まで放っておくのかというと、そうもいかない。コリアンダーの生育には "水はけが良いこと、乾燥に弱いこと " の2点があるのです。やっかいなものです。そこで土の中には腐葉土が3-4割仕込んであります。この画像にはないけれど透明のシートが十字にかけてあります。一方向だけだと横から隙間風が入って、葉と土が乾燥してしまいます。晴れた日にはシートを取って水を遣ります。やっかいなやつです。

又、変化がありましたらご報告をさせていただきます。

2/5日になりました。前回から1ヶ月が過ぎて、4-5回コリアンダーの葉を収穫しました。

ミントの葉と(冬ですからミントの葉も勢いがなくなっていますが)ガーリック、ジンジャーと一緒にグラインダーにかけてハーブソースを作りこれで鶏肉を炒め、ココナッツミルクと一緒に煮ると”鶏肉のハーブカレーができあがります。一度お試しになて下さい。美味しいですよ。ミントは取り分けスペアミントが良いようです。意外な組み合わせかと思われるかも知れませんが、相性バッチリです。

さて、コリアンダーですが、意外な方向へと変化を見せています。まずは絵を見て頂きましょうか。

収穫のあとがいくつも見えますが、その横に赤い茎があるでしょう。別の角度からみると、

こういう感じです。これは、この茎は上の方に伸びて花芽を付ける茎です。あと数週間でそれらしい動きが窺えるのではないかと思われます。

晩夏、或いは秋に種を蒔いたものには種が付かないという説がありますが、どうなりますかこれから先が楽しみです。

 

2/20日になりました。このところ暖かい日が続いたので今日は覆いを取りました。花芽を付けるために伸びた茎はどんどんと伸びて蕾を付けていました。

 

蕾が見あたりませんが、実はもう少し右側に蕾があります。蕾は見えなくても花芽が出来るときに生えてくる細かい網目状の葉がしっかりと見えます。今までのコリアンダーの葉とは全く異なる形をしています。全体の様子は次の通りです。

花茎が出てこないのではと心配していた株もしっかりと花茎を出していました。こうなるとコリアンダーの葉は本来のアジではなくなって、少し苦味のある味に変化してきます。それと共に下葉は栄養を果実の方に取られて枯れてきます。果実を希望しないときは花茎を下の方で切ると少しの期間ですが本来のコリアンダーの葉が伸びてきて再びコリアンダーを楽しむことが出来ます。10株位を育てると約1年分の、料理に使うコリアンダーシードと来年用の播種を手にすることが出来ます。

コリアンダーは自然こう配するので、虫の来ないこの季節でもフルーツを実らせてくれると思っています。

3/2日になりました。

もうすぐ花が咲きそうです。背丈は70cmくらいですから、春に播いたコリアンダーのようには大きくはありません。全体にひょろっとして見るからにひ弱な感じです。どれだけの実を付けてくれるでしょうか。もう少し観察を続けたいと思います。

4/15日

9月の末に種を蒔いたコリアンダーが大きくなりました。計ると高さが140cmにもなりました。

感激です。こんなに大きくなろうとは。これではフルーツもたくさんとれそうです。

今の葉は食べてもおいしくないので、新しく2週ほど前に種を蒔きました。うまく育ってくれるかなあ。

3月末に種を蒔いた正規軍です。夏の料理は君たちに任したぞ。期待が膨らみます。

 

5/24日

前回から1ヶ月以上たちました。

コリアンダーがどうなったか御紹介しましょう。

  

これは約2週間前のコリアンダーです。花が真っ白に一面に咲きました。今は、

  

このようにフルーツがしっかりと付いています。草丈は170cm程で通常の約二倍の高さになりました。コリアンダーシードが1年分ほど出来ればと思っていたのですが、できすぎです。約1ヶ月すれば収穫でしょう。しっかりと乾して瓶に入れて保存します。

新たに播いた正規軍の成長は不調です。今あるコリアンダーの花と若い実を料理に使おうと思っています。どの様な料理になったかは次回にお知らせすることにします。

 

6/3日 

鶏もも肉と茄子のハーブスープ  ( Súp thảo mộc với đùi gà và cà tím 「スープ タオ モック ヴォイ ドゥイ ガー ヴァ カー ティム」)

ベトナム料理です。美味しい葉がなくなったので、若い実と花、それに根を使います。材料を上げておきます。少しマニアックかな?

  

左上から、時計回りに;ココナッツミルク、シュリンプペースト、ナンプラー、コリアンダーの実と花、根、スペアミント、アップルミントです。

4人分の分量を挙げておきます。

ココナッツミルク200gとオリーブオイル15mlを鍋に入れて火を入れます。ボイルしてきたところで次のハーブペーストを入れて更に煮ます。

ハーブペースト:

ミント        8g

コリアンダー     32g

タマネギ       1個

ニンニク       1.5片

ショウガ       1.5片

シュリンプペースト  4g

砂糖         7g

水          50ml

ハーブペーストは上の材料をハンドブレンダー又はミキサーでかき混ぜて作ります。

鍋の中に鶏もも肉(一口大)400gを入れて火が通ったところで、なすび(乱切り)300g、じゃがいも(乱切り)200g、水320ml、ナンプラー16mlを入れて更に火を入れます。じゃがいもが煮えたところで出来上がりです。味をみて塩、或いはナンプラーを追加します。ハーブスープなので出来上がりが一番美味しいです。特にコリアンダーの若い果実はその香りが鼻に抜けてたまりません。

  

サラダはトマト、ルッコラ、イタリアンパセリ、レタスを塩、ブラックペッパー、バージンオリーブオイルで和えます。全粒粉パンを添えて『 いただきまーす!!』

  

 

6/22日

  

コリアンダーシードを収穫しました。

コリアンダーシードそのままの状態で乾燥させると弾けて地面に落ちてしまいます。少し青い内に取っても大丈夫です。しっかりと水分が抜けるまで日陰で乾燥します。それから瓶に入れて保存します。乾燥がしっかり出来ていないと黴びてしまいます。ご注意を。

美味しい料理を作ってください。  

 

                                      完

 

 

 

 

 


キッチンエイド 故障と修理

2023年10月24日 | 料理

6QTのキッチンエイドのスタンドミキサーがドウを捏ねている最中に止まってしまいました。バターを入れる寸前でこれから1kgものドウを手でこねるのかと思うと、げんなりしてしまいました。

何とかパンを焼きましたが、ミキサーの修理には少し手こずりました。

おおよその故障箇所と部品の費用は検討が付いていましたのでそれは心配ないのですが・・・・・。ギアの選択に時間がかかりました。そこでこの記事を書きました。

 

https://www.goodmans.net/d/1680/stand-mixer-parts-accessories.htm?p=4

を参考に、馬鹿高いもの、その反対の矢鱈やすいものには手を出さないことが大切です。

まずキッチンエイドのハウジングを開けて、ギアボックスの中のグリスを割り箸を使って掻き出しました。(手順は ”kitchen aid repair"と画像検索をすると沢山の丁寧な映像が出てきます。3つくらいみてから取りかかると始めて直す気がしません。安心して取りかかることが出来ます。)グリスがボックスの中にしっかりと詰まっています。

ギアは注文してから2週間くらいかかりますので、ボックスの中のグリスは丁寧に取り、ギアを掃除します。摩耗したギアは次のような姿になっていて削られた金属片はグリスの中に散らばっています。綺麗に取っておかないと新らしいギアを削ることになります。

        

   

これが摩耗したワームフォロワギアです。平坦であるはずのギアの表面が丸く削られています。これほどとは思っていなかったのでびっくりです。

言い忘れていましたが修理には道具が必要です。+のドライバーに次の二つが要ります。

       

      

           

ノギスにスナップリングプライヤーです。スナップリングプライヤーはこのように先端が閉じた、リングを開くためのものです。(スタンドミキサーにはリングが3つあります)スナップリングプライヤーにはリングを開くためのものと閉じるためのものがありますから気を付けて。(間違えて注文すると返品が効きません。)

ワームフォロワギアはアマゾンから注文するのが得策でしょう。私は次から注文しました。

”ドライブウォームギアベアリングピニオン - 5QT/6QT スタンドミキサー用シャフト付き 9706529 9703445 9703680 W11086780 WP9709231ドライブウォームギアベアリングピニオン - 5QT/6QT スタンドミキサー用シャフト付き 9706529 9703445 9703680 W11086780 WP9709231” このようにアマゾンで入力すると2銘柄出てきます。どちらも(私が注文したものではない方も)中国製でしょう。製品の規格の許容範囲はアメリカ製と同じように甘いですから、手にしたらノギスを使って採寸します。”5QT/6QT スタンドミキサー”と銘打った商品であれば、サイズが合わなければ返品出来るからです。下図に書かれた数字は、摩耗したギアを採寸したのでギアの直径はmmとインチの数字が合っていません。おくられてきたギアをミキサーの中に嵌め込んで滑らかに動くかどうか確かめてください。中央の穴の口径も大切です。ミキサーのシャフトに合わないと使えません。(mmの数字は私のギアを採寸した数字で、インチはキッチンエイドのギアとしてサイト上から取った数字です。)すぐに返品しましょう。この点アマゾンは助かります。

         

注文の際は ”5QT/6QT スタンドミキサー用”と明記された部品を注文することが非常に大切です。この文字がないとサイズが合わなくても返品できません。同じ型番のギアでもキッチンエイドではない異なるメーカーのミキサーに使われている可能性があります。ボッシュやクイジナートにもミキサーはありますから気を付けてください。ノギスは返品の際に必要です。

 

                                  Nice baking !

 

それからギアボックスの中にはグリスをしっかりと詰めてくださいね。削られた金蔵片がグリスの中に溜まり激しい摩耗を防いでくれます。

 

 

 

 


タラゴン

2023年08月01日 | ハーブ

6月からお伝えしてきた「タラゴン」も今回で最終回を迎えることになりました。

ハンガリーのトランシルバニア地方に着地したタラゴンはイングランドに、そしてウィーン会議を契機にフランスに入ったタラゴンはその後めざましい発展を遂げて今日に至っています。ウィーンからはイタリアにも、ドイツにも、その他の地域にも飛び火したはずなのですが、受け入れられる受け皿がなかったのでしょう、今日のような有様です。

ここで、最近のイギリスのタラゴンの様子をお知らせしておきましょう。

2022/Aut. 刊のGreat British FOOD  p83 から引用しました。

       

                           Creamy Chicken & Tarragon Pie

 

市販のパイ生地を使った、いかにもといったレシピです。

 

バター       55g

スライスしたリーク 1本

チキンの胸肉    450g

タラゴンの葉    8枚

イタリアンパセリ  3tbs

エンドウ豆     150g

crème fraîche       250ml

パイ生地      500g

卵黄+塩(グレイズ) 2個

塩、ブラックペッパー -

 

材料をバターでソテーしてパイ生地にくるんで180℃で約30分間焼く。

 

イギリスのレシピは今も昔も変わらないですねえ。前のレシピは、”Matthew Eads ; a former US Marine, self-taught gourmet griller”と紹介されていましたから、タラゴンの使用方法としてはアメリカの方が少し先を行っているようです。フランスのcrème fraîcheを使ったところが少しましになったと言えますが。

 

ここで終わるとあまりにも不親切なので、まとめをしておきましょうか。

1601年のマジャール料理では;

タマネギ、ライム、ビネガー、ブラックペッパー、サフラン、ジンジャー

1620年の料理の科学では; 

セージ、ジュニパーベリー、ビネガー、ブラックペッパー、ジンジャー

1669年のディグビィは;

タラゴン、ブラックベリー、ビネガー、オリーブオイル、レモン、

1672年のハンナウーリィは;

ブラックペッパー、メイス、ナツメグ、ジンジャー、クローブ、ワイン、バター、ベイリーフ、マスタード、砂糖

1698年の料理の手引きでは;

ディル、ベーコン、ビネガー

1723年のジョンノットは;

砂糖、ケイパー、ロンググラス、アンチョビ、オレンジ、レモン、バーベリー

1849年のソワエは;

バター、チャービル、ブラックペッパー、カイエン、ビネガー

1861年のビートンは;

マスタード、カイエン、オリーブオイル、ビネガー

 

をタラゴンと一緒に使っていました。

ここからタラゴンの使い方が見えてきます。貴女はタラゴンをどの様に使いますか?

 

新しい料理は、歴史を溯ることで、その姿を現してくれます。それはまるで遊園地の滑り台のようで、素材にたいする歴史、文化が古いほど、滑り台の階段を上へ上へと導いてくれます。滑り降りる先は、設置された滑り台よりも前の、誰もが着地し得なかった先の地面の上になります。思いつき、閃きで作る料理はその場限りの、寿命の短いものです。

 

                                                                                                                                     完

 


タラゴン

2023年07月16日 | ハーブ

        

Alexis Benoist Soyer(アレクシス ブノワ ソワイエ:  1810 – 1858) )は、フランス北東部に生まれ、パリでシェフとしてキャリアを築きましたが、1830 年の七月革命によって中断され、イギリスに移住し、王族、貴族、地主の厨房で働きました。1840年代にアイルランドのジャガイモ飢饉が発生します。ダブリンで1時間に1,000人の食事ができるスープキッチンを設置し、安価で栄養価の高い食べ物のレシピを公開。パンよりも安い代替品を開発しました。

クリミア戦争中、疾患が蔓延し、食糧が不十分でした。英国政府の要請に応じて、1855年にクリミアで看護先駆者フローレンス ナイチンゲールと協力して兵士たちの状況を改善しました。彼が発明した (ポータブルな灯油ランプを応用した) Soyer's "Magic Stove" は、100年以上も軍隊で使用され続けました。クリミアで病気にかかり、健康を害し、ロンドンへ帰還してから1年余り後、脳卒中で亡くなります。

         

The Modern Housewife or, Menagere 1849から; 

Capon or Poulard à l’Estragon(エストラゴン風シャポンまたはプーラード:エストラゴンを使った茹でた鶏肉料理)

 

多くの創造力豊かで食に対して熱心な人々が、この料理を非常に高く評価し、愛していると聞いています。鳥は茹でるために縛り、胸肉を半分のレモンでこすります。薄いベーコンのスライスを縛り付け、小さなシチューパンの底を覆います。牛肉、仔牛肉、またはラムのトリミング、タマネギ2個、にんじん少々、蕪、セロリ、ローリエ2枚、タイム1枝、シェリー1杯、水2クォートを入れ、塩、胡椒、ナツメグで軽く味付けし、約1時間15分煮込みます。

フタに常に少し火を入れ続けます(フタの上に火種をおいての意)。グレービーの1/3を小さなボウルにこし入れ、漉し布を通して脂肪を取り除き、小さなシチューパンに入れます。色の良い茶色にするために少しグレービーまたは着色料を加えます。数分間煮込みます。約40枚のエストラゴンの葉を洗い、沸騰しているグレービーに入れます。良質なフレンチビネガー大さじ1杯と一緒にキャポンにかけて提供します。グレービーを澄ませることで見た目と味が改善されます。フランスではこのような方法で様々な種類の鶏肉や鶏肉が常に調理されています。ライスと一緒に提供されることもあります。

 

Soyer's Culinary Campaign 1857から;

チャービルとタラゴンのバター

バター2オンス、刻んだチャービル1ts、タラゴン1ts、塩、ブラックペッパー、カイエンを少量、タラゴンビネガー1TBS,又はレモンジュースを1/2個分

 

1907  A GUIDE TO MODERN COOKERYBY  Auguste Escoffier

                      

Auguste Escoffier(1846-1935)。エスコフィエは、味や顧客満足を重視することで、それまでのフランス料理の慣習にあった無駄な部分を削り、現代に近いフランス料理のスタイルの基礎を作り上げました。又、ホテル王セザール・リッツと組んで、世界中の美食家を魅了し、現代フランス料理の基盤を作りました。彼が作った料理は現在のフランス料理店でも提供されています。例えば、オペラ歌手のネリー・メルバに捧げられたデザート「ペーシュ・メルバ」( ピーチ・メルバ )、大作曲家ロッシーニが好んで食べた「トゥルヌード・ロッシーニ」( 牛フィレ肉のロッシーニ風 )などは、耳にしたことがある人は多いのではないかと思います。

彼は、カレームからデュボワへと続くフランス料理の伝統(キュイジーヌ・クラシック:古典料理)を受け継ぎながら、時代の嗜好に合わせて、視覚的豪華さから味覚を重視した、効率的でスピーディーな料理の提供へと転換をはかりました。800ページのLe Guide Culinaireに収録された5000ものレシピは、過去の伝統に根ざしながらも新しい世紀にふさわしい料理として手直しされ、今もこの本が料理人のバイブルとされている理由がここにあります。

 

Le Guide Culinaire(Guide to Modern Cookery)1903著から;英語版は少し内容が異なりますので2つ取り上げておきました。

 

Vénitienne( ヴェネツィア風ソース )

エストラゴンビネガー、刻んだエシャロット2杯、セルフイユ20gを5.5 dlに減らし、布でこして1/2Lの白ワインソースに加えます。その後、ハーブジュースとセルフイユとエストラゴンを1杯ずつ加えて仕上げ、ベール・ヴェール( beurre vert )80gを加えます。このソースは、様々な魚料理に合わせることができます。(フランス版)

 

VENETIAN SAUCE

エシャロット1TBS、セルフイユ1TBS、白ワインとビネガー各1/4パイントを鍋に入れ、混ぜ合わせます。酢を2/3に減らし、白ワインソース1パイントを加えて数分間煮込みます。布でこして、ハーブジュース適量とセルフイユとエストラゴンを各1tsづつ加えて仕上げます。このソースは、様々な魚料理に合わせることができます。(英語版)

TARRAGON BUTTER

生のタラゴン8オンスを洗って、水気を切り乳鉢ですり潰す。バターを1ポンド加え

篩いを通して冷蔵庫で保管する。

            

       Best Compound Butter For Steak (grillseeker.com) から

ステーキの上にのっているのがタラゴンバター。ここでは、無塩バターの中にオリーブオイル、ガーリック、レモンの皮、パセリ、チャイブ、ローズマリー、塩を使っています。何をタラゴンと一緒に使うかは調理人の自由ですが、エスコフィエの言うように、まづ、バターとタラゴンを合わせておきそれを冷凍保存しておきます。その中に何を入れるかは、その時々の主材に応じて決定するのが良いと思います。タラゴンバターを解凍の後、なるべく生の新鮮なハーブと合わせることが大事です。ハーブは香りが命です。とりわけ乾燥すると真っ先に揮発してしまう揮発性の成分を逃さず活かす使い方が肝要です。

 

                                     つづく

 

 


タラゴン

2023年07月15日 | ハーブ

      

 

これが今育てているフレンチタラゴンです。もう少し早くお目にかけたかったのですが、葉に病気が入ったり、植え替えたりで今に至ってしまいました。春の初めに出てくる葉に「先端が3つに分かれた分厚い葉」がみられるようですが、・・・なにせ昨年の夏の終わりに手に入れたフレンチタラゴンですから確言は出来ませんが、・・・丁度、レモンバームの葉と同じように、冬の終わりから春先に出てくる葉は厚く武装した状態で世の中に出てくるのではと、今のところそのように思っています。今は夏の葉が盛んにでているところで、ご覧の通りナヨナヨした葉で覆われています。

 

フランスの外交官で美食家のタレーランのもとで料理人として働いていたカレームは、1814年に始まったウィーン会議での夕食会で出した料理で評判をさらい、彼の名は一躍有名になりました。ウィーン会議が終わったときヨーロッパの地図と上流階級の料理は刷新される事になります。時代の流れに乗り、金と時間が際限なく与えられれば料理人はその才能をのびのびと伸ばすことが出来るという良い例です。このウィーン会議以降、何人の料理人が大きく羽ばたいたことか枚挙にいとまがありません。

 

                                   つづく

 

 


タラゴン

2023年07月05日 | ハーブ

イタリアの料理人、フランスの料理人達のクックブックに、この時代になってもまだタラゴンは出てこないのかという疑問が出てくると思います。

イタリアの料理人プラティナが1474年に出版した料理書『De honesta voluptate et valetudine』、イタリアの料理人スカッピが1570年に出版した『Opera dell’arte del cucinare』、フランスの料理人ラ・ヴァレンヌが1651年に出版した料理書『Le Cuisinier françois』。

 

これらの料理書は有名で知らない者はもぐりだと言われるほどのものですが、残念ながらタラゴンは出てきませんでした。それではと、中世から現代に至るまでの著名なフランス料理人を幾人か選出してみました。

 

ギヨーム・ティレル (Guillaume Tirel) 生年 1310年 没年 1395年

フランソワ・ヴァテール (François Vatel) 生年 1631年 没年 1671年

アントナン・カレーム (Antonin Carême) 生年 1784年 没年 1833年   

オーギュスト・エスコフィエ (Auguste Escoffier) 生年 1846年 没年 1935年

レイモン・カルヴェル (Raymond Calvel) 生年 1913年 没年 2005年

ティエリー・ヴォワザン (Thierry Voisin) 生年 1958年 没年 2018年

ピエール・エルメ (Pierre Hermé) 生年 1961年

ピエール・ガニェール (Pierre Gagnaire) 生年 1950年

ギヨーム・ゴメス (Guillaume Gomez) 生年 1973年

フィリップ・コンティシーニ (Philippe Conticini) 生年 1963年

アラン・サンドランス (Alain Senderens) 生年 1939年 没年 2017年

アラン・シャペル (Alain Chapel) 生年 1937年 没年 1990年

アラン・デュカス (Alain Ducasse) 生年 1956年

トロワグロ兄弟 (Troisgros brothers) 3 September 1928 – 23 September 2020

 

幸か不幸か上から3通目のカレームの料理書の中にタラゴンがありました。イヤ良かった。彼の料理書は今までの、いわゆる著述業者が書いた料理書ではなく、現役の料理人が書いた料理書ですから、その内容はレベルが一つ上です。期待して良いと思います。

 

Beurre  de  Montpellier( モンペリエバター)

新鮮な水で、大量のチャービル、20本のタラゴン、同量のバーネット、少量のチャイブを洗い、塩を入れた煮沸水で茹でます。緑色を保つために、フライパンで茹でます。5〜6分後に取り出し、冷水で冷やします。8個の卵を固く茹でます。(ラビゴット)ハーブから水分を絞り出し、完全に潰します。20匹のきれいに洗ったアンチョビ、2杯のケイパー、6個のゲルキン(キュウリのピクルス)、茹でた卵の黄身、小さなニンニクを加えます。10分以上潰し続け、8オンスの新鮮なバター、塩、「そして少量のすりおろしたナツメグを混ぜます。半パイントの良質なオリーブオイルとその4分の1量のタラゴンビネガーを入れてよく混ぜます。それは滑らかなバターになり、風味が絶妙です:シルク製のふるいで通したスピナッチエッセンスで少し着色し、一度に少しずつ混ぜてバターに淡い緑色を付けます。それが良い風味であるかどうか試してみてください。木製スプーンを使ってふるいを通します。小さなボウルに入れて氷上に置き、固くなるまで待ちます。このバターの調味料は非常に注意が必要ですが、酢の酸味は、油を少し加えることで調整できます。

        

    https://www.keldelice.com/guide/specialites/le-beurre-de-montpellierから

現在のモンペリエバターは、ほうれん草、チャービル、その他のハーブ、ケイパー、ゲルキン、アンチョビ、ニンニク、マスタードなどを使ったバターソースが一般的です。

モルタルでハーブをすりつぶし、刻んだエシャロット、ゲルキン、ケイパー、アンチョビ、ニンニク、固茹で卵の黄身と油、塩とコショウを加えます。混合物がペースト状になったら、泡立て器で柔らかくしたバターと合わせます。最後にすべてが準備ができてからサーブします。このようなソースは特に肉(子羊の脚肉、仔牛のカツレツ)や魚(鯛、スズキ)に添えて使います。

カレームのモンペリエバターの作り方。これは凄いですよね。1817年著の L'art de la cuisine francaise からの引用ですよ。ここで一つ疑問が出てきます。今まで何故タラゴンのレシピが出てこなかったのという疑問です。1600年代にあってもおかしくないですよね。

 

                                  つづく

 

 

 

 

 

 

 

 


タラゴン

2023年06月29日 | ハーブ

      

             MRS. ISABELLA BEETON.

 

1861年のイザベラ ビートン(1836/3/12 – 1865/2/6)著「THE BOOK OF HOUSEHOLD MANAGEMENT」から;

『タラゴンとは、学名Artemisia dracunculusとして知られる植物の葉で、フランスではサラダの風味付けによく使われます。また、タラゴンビネガーと呼ばれるビネガーも作られ、フランス人はマスタードを混ぜる際に使用します。元々はタタール地方から来ており、フランスでは種ができません。』という説明があります。

 

思い込みがあるのかもしれませんが、文章に引き込まれます。彼女の文章には心を惹きつける何かがあるのでしょう。恐らく意識して書いているのでしょう。あの宣伝の行き届かない時代に、1868年までに200万部を売ったということですから並ではありません。

 

Huc, Evariste RégisによるTravels in Tartary, Thibet, and China During the years 1844-5-6. が出版されたのは1852年です。恐らく彼女も読んだでしょう。

50枚の木版画と共に、1844年頃に教皇がモンゴルに使徒座を設立する目的でMM. GabetとHucが司教区の状況と活動のための調査するために選任されたこと。そして彼らがチベットの首都ラサに到着し、定住したのですが、中国の大臣であるケ・シェンが政治的な理由で介入し、彼らを中国に追放したのです。その後、フー氏によってこの本(2巻)がパリで出版されたのです。当時のこの本の評判はどんなだったでしょう。

                    

ビートン夫人が16歳の時に出版されたのです。恐らく、おそらくセンセーショナルな内容として、彼女だけでなく、当時の人達も驚いたことでしょう。あのタタールがタラゴンの故郷だなんて、ビートンもよく言ったものだと思います。原産地は中央アジアからシベリア、北アメリカだそうで、タタールもその中に含まれますから間違いではないのですが。わざわざタタールを持ち出すこともないでしょう。あと一つ。『フランスでは種ができません。』とは。それではイングランドでは種は出来るのかと思わせぶり。

         

Shallots, Mushrooms, Leek, Parsnip, Horse-radish, Carrots, Sea-kale, Cucumber, Sorrel, Tarragon, Celery, Mustard, Cress.(上段右上から左、下段左から右、左最下段がタラゴン)

上の絵がビートン夫人の料理書の中にありました。このように素晴らしい絵が夫人の料理書全体を飾っています。今でも結構いけるレムラードのレシピをここから引用しておきます。

 

レムラード、またはフレンチサラダドレッシング

材料; 卵4個、マスタード大さじ½、塩とカイエンペッパー適量、オリーブオイル大さじ3、タラゴンまたはビネガー大さじ1

方法; 3個の卵を約¼時間しっかり茹で、冷水に入れ、数分間そのままにする。殻を剥き、卵黄を乳鉢に入れて滑らかになるまですり潰す。マスタード、調味料、ビネガーをゆっくりと加え、木製のスプーンの背中でこすり、すべてをよくかき混ぜる。オイルを少しずつ加え、他の材料とよく混ざったら、生卵の黄身を加えてよくかき混ぜます。このソースは凝固してはいけません。これを防ぐ唯一の方法は、少しずつすべてを混ぜることで、かき混ぜることをやめないことです。オイルと酢の量は味覚に応じて増減することができます。多くの人が前者の成分の比率が小さい方を好みます。

 

グリーンレムラードは、普通のビネガーの代わりにタラゴンビネガーを使い、少量のパセリジュース(パセリをすり潰して汁を取り、それを湯煎にかけて生臭さを取り除きます)で着色して作ります。Harvey’s sauce(アンチョビソース)またはチリビネガーが好みで追加される場合があります。

 

 時間;卵を茹でるのに¼時間

平均コスト;7d

 4人または6人用のサラダに十分です

      

         

           Emils Organic Vegan Remoulade, 125 g

今はこのように瓶詰め、チューブ入りのものが多いです。いろんなバリエーションがありますが、これには次のような説明が付いています。(ビートン夫人が書いているように手作りしてもそんなに手間ではないんですがね。)

Made of natural ingredients such as rape seed oil, white wine vinegar, almonds and herbs. Tastes great as a companion to aromatic rice and potato dishes or to fresh salads.

Ingredients:

Rape seed oil* cold pressed, apple juice* (from apple juice concentrate*), almonds*, white wine vinegar*, mustard* (water, mustard seeds*, apple vinegar*, sea salt) , sea salt, tarragon*, marjoram*, chervil*                      * From certified organic farming.

 

                                 つづく

 

 


タラゴン

2023年06月28日 | ハーブ

         

Hannah Woolleyから更に51年後、「ボルトン公爵の料理人であるJohn Nottは、1723年に出版したThe Cook's and Confectioners Dictionary: Or, the Accomplish'd Housewife's Companionに、シャポンとタラゴンを使ったサラダを紹介しています。Digbyのそれと比較すると変化がよくわかります。その他にもフランス風のレシピを紹介しており、海外から持ち込まれたニンジンや新しい品種のアスパラガス、ほうれん草などの野菜、マーマレードやブランマンジェ、クリーム、ビスケット、甘いケーキなどにも言及しています。この料理本には、孔雀のレシピが収録されており、中世をも思わせる内容です。

 

コールドシャポンサラダを作る方法

シャポンまたはローストした若いメスのニワトリを薄く切ります。酢と好みで少量の砂糖を入れます。次に、ケイパーを一握り、少しのロンググラス(?)またはタラゴン、アンチョビ半ダースを一緒にみじん切りにします。これらがみじん切りに、しかし、小さすぎないように切って、サラダに振りかけます。オレンジ、レモン、またはバーベリーで飾り付けて、少しの塩と一緒に提供します。

 

又、「タラゴンを茎から外し、白ワインと酢を同量ずつ入れた容器に入れます。密閉して保存する。」というレシピがあります。これはタラゴンビネガーです

流石のHanna Wooleyもサラダやピクルスにビネガーを使うことはあってもビネガーの中にタラゴンを入れておいてそれを料理に使うことはありませんでした。

 

タラゴンビネガーのレシピはこのあと後続の料理書の中に次から次へと登場します。

 

 

 

エリザベス・ラファルド(1733 – 1781/4/19)は、イギリスの作家、起業家です。ヨークシャーのドンカスターで生まれ、15年間家政婦として働き、最終的にはチェシャーのアーレイ・ホールのウォーバートン男爵家の家政婦となりました。その後、ランカシャーのマンチェスターに移り住み、家政婦を雇用主に紹介する登録事務所を開設。料理学校を運営、そこで食品も販売しました。1769年には料理本「The Experienced English Housekeeper」を出版しました。そこには現代のウェディングケーキとして知られる「Bride Cake」の最初のレシピ(よく乾燥した細かい小麦粉4ポンド、新鮮なバター4ポンド、ローフシュガー2ポンド、メイスとナツメグをそれぞれ1/4オンスずつ細かく挽いてふるいにかけます。小麦粉1ポンドにつき卵8個を入れます/これに使うシュガーアイシングの作り方)が紹介されています。彼女は1781年に突然死亡しましたが死後、彼女の料理本は15回出版されました。ラファルドのレシピはエリザベス・デイビッドやジェーン・グリグソンなど、多くの現代の料理人や食文化作家に称賛されていますが、彼女のレシピは他の著者によって数多く盗作されました。剽窃、引用といえば、 Eliza Actonによる Modern Cookery for Private Families(1845)もイザベラ・ビートンのベストセラー「Mrs Beeton’s Book of Household Management」(1861年)に数多く使われました。

                           

        1769年The Experienced English Housekeeper, Elizabeth Raffald

 

タラゴンビネガーの作り方。タラゴンは花が咲く直前に摘み取り、葉をはぎ取ります。葉1ポンドに対して、強い白ワインビネガーを1ガロン、石製のジャグに入れて2週間発酵させます。その後、フランネルの袋で濾します。ビネガー4ガロンに対して、シードルに溶かしたイシングラス(清澄剤)を半オンス入れてよく混ぜます。それを大きな瓶に入れて1か月間澄ませます。その後、澱を取り除いてパイント瓶に入れて使います。”

(レシピの説明が詳細になりました。この料理書以降1903年のAuguste EscoffierのGuide to Modern Cookeryまで、これ以上素晴らしいレシピは現れていません)

 

 

次は悪い噂のビートン夫人です。

 

                                    つづく

 

 


タラゴン

2023年06月27日 | ハーブ

                                

                            Misztótfalusi Kis Miklós (1650-1702)

1698年M. Tótfalusi K. MiklósによるSzakácsmesterségnek könyvecskéje(料理の手引き;主婦を対象に書かれた料理の手引き書:ハンガリー語で書かれた最も古い料理本の一つで、現在でもハンガリー料理の歴史において重要な位置を占めています。3レシピ御紹介しておきます。

 

ディル

柔らかくてきれいなディルがあるとき、肉を蒸し焼きにして、ディルを肉の横に置き、タラゴンと薄くスライスしたベーコンも少し入れて、酢をかける(好きな人には良い料理です)。牛肉や羊肉をこのようなスープで煮る場合、ベーコンなしでも十分に脂っこくなります。

 

細長く切ったエビ

エビを塩水で茹で、殻を取り除き、ボウルに入れます。タラゴンを細かく刻んで入れます。その後、殻をモルタルでよく潰し、水を入れ、パンのかけらを入れ、ワインと混ぜ合わせて、漉します。少量の酢とレモンの薄切り、タマネギ、レモン汁(どちらもなければなしでも良い)も入れます。このスープを、殻を取り除いたエビにかけ、胡椒、サフラン、ナツメグの花を入れて煮ます。煮えたら盛り付けます。

 

ミックスサラダ

セージの葉、カールミントの葉、プジュプネル(ミント)、ボラージ、パセリの葉、チャービル、タラゴン、クミンの葉、そしてそれに合う他のハーブを用意します。他のサラダと同様に、良いワインビネガーと塩味のオリーブオイルで和え、上にボラージの花を振りかけます。清潔で良いサラダで、好きな人にはお勧めです。お好みで上から砂糖を振りかけても良いです。 

 

                                  つづく

 

 


タラゴン

2023年06月25日 | ハーブ

 

                      

Magyar főur a XVI. században. Thököly Sebestyén czimeres levelének miniaturejéről. Az 1572 október 7-ikén kelt oklevél eredetije az országos levéltárban. (16世紀のハンガリー貴族。 セバスチャン トコリ) 

セバスチャン オブ トコリ閣下のシェフ、Michael of St. Benedictによる1601/8/10著「Magyar étkeknek főzése:ハンガリー(マジャール)※ー料理の作り方」から;

 

鶏肉の辛いソース和え

別の小さな鍋にベーコンを入れ、きれいな水で強く煮る。その後、鶏肉を切り、ベーコンの入ったベーコンのスープに入れる。茹でた後、ベーコンを薄く切る。刻んだタマネギ、タラゴンを丸ごと、2〜3個のライムを入れて一緒に煮る。塩味を確認する。味付けする場合は、まず酢を入れてから、胡椒、サフラン、生姜を加える。

 

※ハンガリー人はアジア系の流れを汲む人種です。数人に一人は生まれたときに蒙古斑を持っています。背も日本人と同じか少し低いように思います。セバスチャン トコリの姿がそのことを如実に物語っています。どう見てもヨーロッパ人の姿ではありません。

1600,1700年代にタラゴンを料理に使うのはハンガリー、イングランドだけです。勿論それ以前にタラゴンを料理書の中にみることはありません。イタリア、スペイン、ポルトガルのイスラムとの接点を持つ国々にもタラゴンの料理は見つかりませんでした。1800年代に入ってやっと2カ国以外の国々にタラゴンが料理書の中に入るようになります。

 

                                   つづく

 


タラゴン

2023年06月23日 | ハーブ

ディグビィから3年後の1672年著のHanna WooleyによるThe Queen-Like Closetから

      

ハンナ・ウーリー(Hannah Woolley、1622 - ca1675)は、家事管理に関するさまざまな本を出版し,この分野で生計を立てた最初の人物です。母親や姉妹から医学や手術の技術を学び、学校の教師と結婚して教育や医療に携わりました。1661年に夫が亡くなってからは、料理、刺繍、手紙の作法、薬の処方、香水の作り方などを扱った本を出版しました。これらの本は非常に人気があり、そのため素人ながらも医師としての評判を得ました。1666年に再婚しましたが、夫は1669年に亡くなります。彼女のレシピは無断で他の本の中に引用され、しかもその本は何度も再版されています。そんな彼女のタラゴンのレシピから;

             

絵は Collard Green and Cornbread Stuffed Beef Tenderloin | It's My Side of Life (itsmysideoflife.com) からお貸ししました(Hannah Woolleyのレシピとは少し異なりますが)

 

カラードビーフ(Collar'd Beef)

良質な牛の腰肉を用意して、井戸水と塩、または硝石(硝酸カリウム)に1日と1晩漬けておく。次に、胡椒、メイス、ナツメグ、生姜、クローブ、タラゴンを少量準備する。スパイスを砕き、タラゴンを細かく刻み、これらを細かく砕いたスエットと混ぜて牛肉の上に振りかける。ぐるりと(肉を巻いてその周りにヒモを)巻いてしっかりと縛り、クラレットワイン(ボルドー産赤ワイン)とバターで、鍋の中で焼く。鍋は密閉しておき、鍋の中にはこの料理に相応しい食材を入れて肉が沈んで焦げないようにする。オーブンには家庭用パンと一緒に入れて焼く。焼けたら取り出して冷まし、食べる前に1晩煙突に吊るしておく(熟成させます)。必要であれば好きなだけ長く吊るしておくことができます。ベイリーフを添えて、マスタードと砂糖でいただきます。


括弧内に注釈を付けておきました。

硝石は発ガン性が心配ですので、水と海塩を使ってスパイスとハーブを使うと良いでしょう。脂を肉に巻いて加熱し、少し煙らせるとハーブ味の赤身肉を使った日持ちのするカラードビーフの出来上がりです。ワインはカベルネ・ソーヴィニヨンを使った少しヘビーなワインが合うと思います。Hannah Woolleyはただ者ではありません。料理以外の著述を見れば一目です。なお“Collar'd Beef” は肉片をくるくると巻いて調理するのでカラードビーフと訳しました。

 

                                     つづく

 


タラゴン

2023年06月22日 | ハーブ

つぎにタラゴンのレシピが現れるのは1669年出版Kenelm Digbyの(実際に書かれたのはこれよりも前) “The Closet of Sir Kenelm Digby Knight Opened” の中です。Kenelm Digby(1603/7/11 – 1665/6/11) は、イングランドの宮廷人であり、外交官、自然哲学者、占星術師です。ロンドンのNewgate Streetに眠る敬虔なキリスト教徒でもありました。時には私掠船(海賊船)の船長となりました。ハーブ、スパイスを使ったMETHEGLIN(蜂蜜酒)に異常な執着示す人物でもありました。

                   

Sir Kenelm Digby (1603-1665) and Lady Venetia Anastasia Stanley (1600-1633) with their sons Kenelm Digby and John Digby (1627-1690) Anthony van Dyckによる家族画です。(彼がただの郷士でないことはこれでわかります) 

 

彼のオレガノを使ったレシピは;

ローストシャポンの冷製サラダ(SALLET OF COLD CAPON ROSTED)

(ロースとしたシャポンを)薄くスライスして冷やし、Sibbolds(不明)、細かく刻んだレタス、ロケット、タラゴンを混ぜ、塩、胡椒、ビネガー、オイル、スライスしたレモンで味を調えます。オレガノを少量入れると味が良くなります。

 

シャポン(シャポンを去勢したニワトリとみなして)熱の1度、冷の1度としておきます。西ヨーロッパでは体に良い、取り分け貴人に相応しい食べ物であるとされていました。

レタス:冷で湿の2度

ロケット   :熱1度、冷1度

タラゴン   :熱2度、乾2度

塩         :熱2度、乾3度

胡椒        :(ブラックペッパーについてはTacuinum sanitatisには掲載がないと思われますが熱4度、乾4度と考えて良いでしょう)

オリーブオイル :熱1度、湿1度

ビネガー     :冷1度、乾2度

レモン      :冷2度、乾3度

オレガノ     :熱3度、乾3度

全体として4つの要素のバランスの取れたレシピになっていると思われます。

 

それでは「料理の科学」に残されたニワトリの料理とはどのようなものでしょう

13番目の雌鶏のサラダ

鶏肉を串に刺します。鶏肉を焼いている間、卵を固く茹で、パセリの葉を加えます。鶏肉が焼けたら、串から外し、スライスし、鍋に入れ、上から酢をかけ、卵をスライスして塩を加え、皿の上に置きます。パセリの葉にも酢をかけてサーブします。

 

雌鶏  :熱2度、湿2度 

卵   :熱、湿

パセリ    :熱2度、乾2度

塩      :熱2度、乾3度

ビネガー   :冷1度、乾2度

 

                                   つづく

 


タラゴン

2023年06月21日 | ハーブ

話が右往左往しますが例のトランシルバニア宮廷の「料理の科学」は非常におもしろい内容です。2例レシピを引用しておきます。

 

サーディンの調理法は次の通りです;

他の魚と同様に、サーディンを洗い、塩を振りかけます。ソースは次のように作ります。魚の塩を洗い流し、鍋に入れ、酢とワインを注ぎ、月桂樹を加えます。 月桂樹はトランシルバニアでは育たないので、トルコやイタリアから誰かに持ってきてもらいます。魚を調理する際には月桂樹を加えます。調理したらスプーンで取り出せるように鍋に入れます。スライスして提供する準備ができたら、煮汁は取り出さずにそのままにしておきます。牛肉や豚肉のように時間がかかりません。固まるのを待ちます。(煮こごりを作ります)

 

九つ目のナマズのグリーンソース和え

ナマズを下ごしらえしておく。ソースを作る。白いパンをワインに入れて、蜂蜜を加えてボイルする。ストレイナーを通す。タマネギ、パセリ、ホースラディッシュの葉、タラゴンを加えてすり潰す。ストレイナーを通してワインの中に入れる。魚についている塩を洗い、ソースの中に入れる。ブラックペッパー、ジンジャー、シナモンを入れる。野菜を入れて煮る。

(この料理書の、或いはこの時代の習いでしょうか。ソースは主材と一緒に煮た、或いはブロイルした結果出来た煮汁をソースとしていたようです。パンは小麦粉の製粉状態が悪くて粒が粗いので、一旦パンにした小麦粉をソースの材料として使っているのです。)

 

体液のバランスを健康維持の基本と定めたのは中世以降もヨーロッパ医学に大きな影響力を持った「サレルノ医学校」で、 『サレルノ健康規則』 の中に「医者は、食べ物として、いかなるものを、いつ、何処で、いかなる分量をで、何回与えるかを示さねばならない」 という文言がありますが、実際には浸透していなかった?のでしょうか。実に不思議です。何故でしょう。(ここで体液学説の説明を入れておきます。現在のヨーロッパ料理を考えるのに非常に重要だと思っているからです。少しお付き合い下さい。)

古代ギリシャ、ローマ時代にヒポクラテス(古代ギリシャ: BC460-370)によって提唱され、ディオスコリデス (古代ローマ帝国:BC40-90) のマテリア・メディカの影響を受け(体液学説に最も寄与したのは紀元前1世紀にギリシャ語で書かれたマテリア・メディカです。約500年後の6世紀にラテン語に翻訳され、9世紀にアラビア語に翻訳されました。)、ガレン (古代ローマ帝国 : 129-200) によってさらに体液医学理論は発展しました。

ところが、ローマ帝国滅亡のあと、体液医学理論は西ヨーロッパを離れ、ビザンチンと北アフリカに移りさらなる発展を遂げることになります。これらの地域でイスラム医学の影響を受けます。イブン・シーナ(アヴィケンナ:ペルシャ:980-1037)は、ガレンの体液医学をアリストテレスの哲学と統合し、アラビア医学にギリシャのヒポクラテスやローマのガレノスなどの医学を加え、さらにインド医学も取り入れて大書『アル・カヌーン・フィ・アル・ティッブ』(医学の正典)(Al-Qanun fi al-Tibb (Canon of Medicine) を完成させます。12世紀にはイタリアと南スペイン(かつてのアル・アンダルス)でラテン語に翻訳され、ヨーロッパ全体に急速に広まりました。

 

       

The Taqwim al-sihha for the son of Saladin (Salah al-Din), al-Malik al-Zahir (d. 1216), king of Aleppo. [British Library Or1347](大英図書館、東洋写本コレクション所蔵。1213年にサラディンの息子のアル=マリク・アル=ザーヒルのためにアラビア語で複製されたTaqwim al-Sihhaのコピー。)

11世紀に東方系キリスト教徒であるイブン・ブトラン(1001-1066)がバグダッドでイスラム医学を学んで280項目からなる体液の特性を表にまとめたのがタクウィーム・アル・シハ (The Taqwīm al-Sihha)であり、これをラテン語に翻訳写本したものが』 タクイヌム・サニタティス (Tacuinum Sanitatis) です。タクイヌム・サニタティスは北イタリアを中心にラテン語に訳されて写本となり、豊富な図版が添えられた「健康全書」となります。ここから体液学説が再び西ヨーロッパへと移入されるのです。

 

(先の綺麗な絵の付いたものがTacuinum Sanitatisで、下の幾何学模様と文字がThe Taqwīm al-Sihhaです。ラテン語訳は誰がしたのかは不明です。)

最初にラテン語に翻訳された時期は1200年中頃だとされています。その証がヴェネツィアのマルチャーナ図書館に所蔵されているラテン語写本No.315にあります。この写本は、「ここにタクイヌムの書物が始まります。科学愛好家である輝かしいマンフレッド王宮廷でアラビア語から翻訳されました」という碑文から始まっています(Biblioteca Nazionale Marciana, Venice, Latin No. 315, Cogliati Arano, 1976, p. 11)。

 

体液学説のその後は、2つの文化圏内で異なった方向に進んでゆきます。

東地中海、南西アジア、北アフリカの文化はすべて、ヒポクラテスとガレンの既存の理論を構築し、さらに発展させ、知識が進歩するにつれて新しい方向性を構築する傾向がありました。

 

一方、キリスト教ヨーロッパの文化は、人の魂の状態に焦点を当てていました。第四ラテラン公会議(1215)の教会法22では、「医師が病人のベッドサイドに呼ばれたとき、彼らはまず患者に司祭「魂の医師」を呼ぶよう勧め、患者の精神的健康が回復した後に、身体的医学の適用 (Tacuinun sanitatisの指示に従った処方) が有益になる。つまり、原因(罪)が除去されると効果(疾患)が消えるとされ、これらの指示に従わなかった医師は破門されることがある。」と述べています。祈り、巡礼、聖遺物によって病状の改善がもたらされると考えていました。

 

                                   つづく

 


タラゴン

2023年06月18日 | ハーブ

ハンガリーの諸侯国の1つであるトランシルバニアの宮廷で1500年後半に料理長によって「料理の科学」という料理書が書かれました。約600のレシピに1603年の宮廷のメニューがあり、その中にはタラゴンの名の付いた料理が4つ、タラゴンを使ったレシピが10記載されています。料理書には1558年にアラブからヨーロッパに入った ”トラガカント(tragacanth)” の記載があり、このことからタラゴンもこの時期には既に移入されていたことが判りました。

(今のところ、タラゴンが最初にヨーロッパ大陸に入ったのはハンガリーのトランシルバニア地方ということになります。余談ですが、58年から僅か4年後にイングランドに入っていたことは瞠目に値することで、如何にイングランドがハーブやスパイスに敏感であったかが判ります。)

この時代はハンガリー王国がオスマン帝国に破れた頃と一致します。(あたらしい文化が移入されたということは、受け入れる側にもその文化を吸収できる様々な能力が備わっていたということで、)この事件はタラゴンがヨーロッパ入る大きな契機になったであろうと思われます。1558年は注目すべき年です。

1529年にオスマン帝国によって第一次ウィーン包囲が起こり、ハンガリーを征服したオスマン帝国のスレイマン1世がハンガリーを直轄地(オスマン帝国領ハンガリー)とし、トランシルバニアを保護領(トランシルバニア公国)としました。一方、ハプスブルク家はハンガリーの北部と西部を支配(王領ハンガリー)しました。これまでにも、この地にタラゴンが入る機会は幾度となくあったと思われますが、ハンガリーが150年近くにわたり支配された事が大きな契機となったことは否定できません。そのことを示すように1600年代になるとタラゴンを使ったレシピがイングランドの料理書の中に増えてきます。(タラゴンだけではないでしょう、おそらくその他のハーブも入って来たと思われます。ハーブだけではないでしょう、料理方法も。食生活の様式も。生活様式も。)

            

取りあえず、1620年著の「料理の科学」からレシピを抜き出してみましょう。ゲラルドの ”the Herball”  から23年後に出た料理書です。

 

                   

Beef and camel meat for sale from the Vienna Tacuinum Sanitatis (folio 74) (Courtesy: Österreichischen Nationalbibliothek, Austria).  これはウィーン写本だと思われますが、ヨーロッパでは必要としないラクダと成牛の図版が描かれています。理由については後に明らかになります。

 

The fifth with beef (5番目の牛肉料理) (仔ウシのレシピがこの料理書にはあるのでこれは本当に牛肉なのでしょう。西ヨーロッパでは成牛は骨髄を料理に使うか、ブロスの材料とするくらいでこのような料理はありません。このレシピがトルコ経由であることが判ります) から;

 

ローストビーフのタラゴン、セージソース和え(ROASTED BEEF WITH TARRAGON AND SAGE SAUCE)

肉を洗い、串に刺して塩を振りかけ、ローストする。よく焼けたら火から外して木で叩いて塩を落とす。鍋にスライス(この時代の牛は荷役のために飼っており肉は食用ではないので固くてスライスしないと食べられない)して入れ、ブロスを残しておき、味がしみるように牛肉の上にかけます。なければ、きれいな水をかけて火にかけ、(イヤな臭いが付かないように)洗い落とす。玉ねぎとセージを加えるが、セージの葉は切らずに半分または3分の1に切ってセージと判るようにしておく(タラゴンの葉が欠けているが料理名からここに入るべき)。ジュニパーベリーを少し加える。多すぎると苦くなります。酢を少し加えるが、多すぎないようにする。サフラン、黒胡椒、生姜を適度に加える。

 

ゲラルドは、タラゴンについて 『タラゴンは熱3、乾3度なので、レタス、スベリヒユ (レタスは冷、湿の2度)など他のハーブと一緒に食べることができる。それらの冷たさを和らげる。』 と述べています。

 

ゲラルドよりも少し後に生まれた、ニコラスカルペパー(1616-1654) もタラゴンについては同様の性質(乾で熱の3度)であると唱えています。ゲラルドはロケットの説明の中で 『ロケットとタラゴンは、性質が同じで、第3度の熱さと乾燥さがあるが、タラゴンは香りが良く、心臓に良いため、ロケットよりも優れている。辛味のある味のハーブの中では、特にタラゴンが優れており、その香りが良く、心臓に良いため、胃や心臓、頭にとても良い。ロケットもそうだ。それらは胃の粘液を切り裂き、食欲を刺激し、消化を助ける。サラダにも良いが、単独ではなく、レタス※やパースレーンなどの冷たいハーブと混ぜて食べるのが良い。そうしないと、肝臓を乱し、頭痛を引き起こす。サラダを作る最善の方法は、熱いハーブと冷たいハーブを混ぜることだ。胃や体の温度に応じて冷やすか温めるかを決定する。ロケットとタラゴンは、年配者や粘液質の人に適している。』 と述べています。これが四元素説を素とした体液学説の基本となる考えです。

 

※ この時代のレタスは恐らくロメインレタスでしょう。中世のレタスは下の絵のような姿をしています。

       

Ms 3054 f.10 Harvesting Lettuces, from 'Tacuinum Sanitatis' (vellum) 絵の下にはレタスの説明があります。(全ての 'Tacuinum Sanitatis' に同様の説明が付与されています)

    性質:冷で湿の2度

良質のもの:大きな葉でレモンイエローの色をしたもの

有用性:不眠症と精液過多を和らげることができます

危険性:性交と視力に悪影響を及ぼす可能性があります

毒性を中和するには:セロリと混ぜることで中和することができます

 
ゲラルドは体液学説を熱心に述べていますが、上の牛肉のレシピにはそのかけらも見あたりません。因みにこの料理に使われた材料を取り上げ、その性質を調べると;

 

『牛肉(熱2,乾2度)これに塩(熱2,乾2度)を振りかけてロースト(熱)を加え、

水(冷4,湿4度)で洗い、以下の材料を使ってソースを作り、

玉ねぎは熱4,湿3度

タラゴンは熱3、乾3度

酢は冷1,乾2度を加える。』 となります。

 

全体の食材のバランスが全く考慮されていません。体液のバランスを考慮する料理は1500年代には既に消えていた?のではとも思われる内容です。古代ローマ帝国からイスラムへと体液学説が引き継がれたのではと思っていたのですがどうしたことでしょう。