Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 209

2021年03月30日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

メソポタミアの楔形文に残された記録には、薔薇が約5,000年前に人間に知られるようになったことが残っています。

            

アッカドの銅製頭像、おそらくサルゴンの子孫マニシュトゥシュ或いはナラム シンのものと考えられています。サルゴンも同じような格好だったのではと思い、引用しました。イラク国立博物館所蔵。 https://www.ancient.eu/Sargon_of_Akkad/ 

 

楔形陶板に刻まれた記録に依れば、サルゴン(Sargon、在位:紀元前2334年頃~ 紀元前2279年頃、古代メソポタミアの王。アッカド帝国を建国。古代オリエント政治史上最も重要な王の一人で、アッカド語表記はシャル キン, Sharru kin )王がティグリス川を渡る国々への軍事作戦中に「バラの苗木(吸枝)」を持っていった記録が残っています。サルゴンはかつてバビロンの近くの古代都市ウルに住んでいたので、彼の旅はおそらく現在のトルコにあるアナトリア南東部でした。

 

古代の文献でバラの証拠を探す際に遭遇した多くの落とし穴の1つは、薔薇とはまったく関係のない植物に「薔薇」という名が付いている事です。例を挙げれば、スパイクモスであるSelaginella lepidophyllaの通称であるRose of Jericho、Anastatica hierochunticaがあります。更に、Rose of Sharonを挙げることが出来ます。

           

テマリカタヒバ(Selaginella lepidophylla、手毬片檜葉( 別名、ジェリコのバラ、Rose of Jericho、 Maryam's flower, flower of St Mary, St. Mary's flower, Mary's flower, white mustard flower , and rose of Jericho.、俗称:復活草 )

  https://www.creema.jp/item/5123242/detail

 

北アフリカ原産、北アメリカ南部~中央アメリカ、イワヒバ科 イワヒバ属  

テマリカタヒバは、(アメリカ合衆国の)ニューメキシコやテキサス、メキシコから中央アメリカの冷涼な高地に自生するシダ植物。乾季にはカラカラに乾燥し、葉は枯れたように茶色くなり、丸まってしまいまが、雨季になり、水分を吸収すると、丸めていた葉を広げ、色も見違えるように緑色に変わります。乾燥した状態で、長期間休眠することができるのです。枯れたように見える状態から、まるで甦るように色鮮やかに変わるので、復活草と呼ばれます。ジェリコとは、旧約聖書に登場する世界最古の都市のことです。   

テマリカタヒバ https://www.wildflower.org/gallery/result.php?id_image=64019                                                                                                                           

 

せいようきんしばい ( 西洋金糸梅、Hypericum calycinum、 Aaron's beard、別名ヒペリカム カリシナム ) 網目状の裏側と多数の黄色い雄しべのためにアーロンのひげと呼ばれます。オトギリソウ科オトギリソウ属の常緑低木、ヨーロッパの南東部、ブルガリアからトルコに分布しています。高さが20~60cmほどの矮性種で、日なたや半日陰でよく育ち、葉は狭卵形で対生し、6~7月ごろ、枝先に鮮やかな黄色い花を咲かせます。                                                                                           

シャロンのバラという一般名称は、世界のさまざまな地域で顕花植物のいくつかの種に使われています。。 それは聖書の表現でもあり、該当する植物の正体は不明で、聖書の学者の間でも議論の分かれるところです。 どちらの場合も、実際のバラを指すものではありませんが、現代言及されている種は、バラ科の一つです。 シャロンのバラ

       
として知られている落葉性の開花低木は、アオイ科に入りバラ科ではありません。                

雅歌(Cantique des Cantiques)ギュスターヴ モロー1893画、倉敷大原美術館蔵

ギュスターヴ モロー(Gustave Moreau, 1826/4/6–18984/18)、フランスの象徴主義の画家、聖書やギリシャ神話に題材をとった幻想的な作風で知られています。

 

雅歌は、過越祭(すぎこし、ヘブライ語: פֶּסַח‎、英語: Passover)の安息日にシナゴーグで読まれます。過越とは、聖書の出エジプト記12章に記述され、エジプトの地で奴隷になっていたイスラエルの民が、モーゼの先導でパレスチナの地に脱出した故事に因みます。イスラエル人は、古代エジプトに避難したヨセフの時代以降の長い期間の間に、奴隷状態となります。神はイスラエル人を救出するため、エジプトに対して十種類の災害をもたらし、当時80歳になっていたモーセを民の指導者に任命して約束の地へと向かわせようとします。神はこれを妨害しようとするファラオに対して災いをもたらします。その十番目の災いは、人間から家畜に至るまで、エジプトの「すべての初子を撃つ」というもので、神は、二本の門柱と、かもいに、子羊の血がついていない家にその災いを臨ませることをモーセに伝えます。(出エジ12:1~14) つまり、過越とは、二本の門柱とかもいに子羊の血のついている家にはその災厄が臨まなかった(過ぎ越された)ことに由来しています。

 

雅歌は八章からなります。その内の第二章をそのまま引用しましょう。雅歌にはいろんな解釈がされていますが、直接本文を読んで、素直に感じ取った方が良いでしょう。http://bible.salterrae.net/kougo/html/songofsongs.html から、

 

雅歌 第二章

第2章

2:1 わたしはシャロンのばら、谷のゆりです。

2:2 おとめたちのうちにわが愛する者のあるのは、いばらの中にゆりの花があるようだ。

2:3 わが愛する者の若人たちの中にあるのは、林の木の中にりんごの木があるようです。わたしは大きな喜びをもって、彼の陰にすわった。彼の与える実はわたしの口に甘かった。
2:4 彼はわたしを酒宴の家に連れて行った。わたしの上にひるがえる彼の旗は愛であった。
2:5 干ぶどうをもって、わたしに力をつけ、りんごをもって、わたしに元気をつけてください。わたしは愛のために病みわずらっているのです。
2:6 どうか、彼の左の手がわたしの頭の下にあり、右の手がわたしを抱いてくれるように。
2:7 エルサレムの娘たちよ、わたしは、かもしかと野の雌じかをさして、あなたがたに誓い、お願いする、愛のおのずから起るときまでは、ことさらに呼び起すことも、さますこともしないように。

2:8 わが愛する者の声が聞える。見よ、彼は山をとび、丘をおどり越えて来る。
2:9 わが愛する者はかもしかのごとく、若い雄じかのようです。見よ、彼はわたしたちの壁のうしろに立ち、窓からのぞき、格子からうかがっている。
2:10 わが愛する者はわたしに語って言う、「わが愛する者よ、わが麗しき者よ、立って、出てきなさい。
2:11 見よ、冬は過ぎ、雨もやんで、すでに去り、
2:12 もろもろの花は地にあらわれ、鳥のさえずる時がきた。山ばとの声がわれわれの地に聞える。
2:13 いちじくの木はその実を結び、ぶどうの木は花咲いて、かんばしいにおいを放つ。わが愛する者よ、わが麗しき者よ、立って、出てきなさい。
2:14 岩の裂け目、がけの隠れ場におるわがはとよ、あなたの顔を見せなさい。あなたの声を聞かせなさい。あなたの声は愛らしく、あなたの顔は美しい。
2:15 われわれのためにきつねを捕えよ、ぶどう園を荒す小ぎつねを捕えよ、われわれのぶどう園は花盛りだから」と。

2:16 わが愛する者はわたしのもの、わたしは彼のもの。彼はゆりの花の中で、その群れを養っている。
2:17 わが愛する者よ、日の涼しくなるまで、影の消えるまで、身をかえして出ていって、険しい山々の上で、かもしかのように、若い雄じかのようになってください。

 

少し驚かれたのではないでしょうか。これの何処が聖書 ? と。この問いは、非常に難題です。私見を述べれば、聖書成立以前の詩が残っていて、キリスト教徒でさえも、この詩の存在を無視、削除できずにやむなく残った前時代の遺物ではと思っています。キリスト教以前に存在していた知見がそのまま存続している例は他にもあります。天に配置された星座はその最たるものでしょう。キリストは十二使徒を用意してそれに代えようとしたのですが、農業作業と固く結びついた星座と置き換えることは適いませんでした。

兎も角、この雅歌を元に描かれたのが、先の絵です。モローの絵ですから、描かれた女性は「サロメ」ではないの ? と思われる方もいらっしゃるかも知れません。実は、私は、サロメだと思っていました。雅歌から感じ取られる女性とは、少し違うのではと思いますが。モロー流と言われればそうかも。しかし、あまりに耽美的で退廃臭が匂います。雅歌の内容は性愛でしょうが、さっぱりとしてねっちこさは感じられません。19世紀末に既成のキリスト教的価値観に懐疑的な芸術至上主義的な立場の一派、デカダン派(退廃派、頽廃派、退廃主義)だ、と片づけたらその通りですが、簡単にはかたづけたくない絵です。

「シャロンのバラ」から始まったお話です。ひとまずこれをかたづけてからモローの絵に移ることにしましょう。手を広げすぎると、何処までお話したのかわからなくなりますから。

 

「シャロンのバラ」という名前は、ユダヤ教の聖書タナハ(Tanakh)に登場します。シャーハシリム( שיר השירים‎ Šīr-hašŠīrīm、シール ハッ=シーリーム、ヘブライ聖書の中の一編。「雅歌」または「雅歌」)2:1の中で、話者(最愛の人)は「私はシャロンの薔薇、谷の薔薇です」と述べています。ヘブライ語のフレーズחבצלתהשרון(ḥăḇatzeleṯhasharon)は、King James Version(欽定訳聖書の編集者(国王の命令によって翻訳された聖書で複数ありますが、欽定訳という場合は、ジェイムズ王訳、(King James VersionあるいはAuthorized Versionとして名高い、1611年刊行の英訳聖書を指します。)によって「シャロンのバラ」と翻訳されました。しかし、以前の翻訳では、それを単に「野の花」と表現していました。

逆に、ヘブライ語のḥăḇatzeleṯは聖書の中で2回出てきます。歌とイザヤ(Isaiah 35:1)の中では、「荒野と孤独な場所は彼らにとって喜ばれるでしょう。砂漠は喜び、バラのように咲く。(乾燥した土地で咲くの意)」と書かれています。欽定訳では「バラ」と訳されていますが、その他の訳では「ユリ」、「ジョンキル」、「クロッカス」とさまざまに表現されています。「シャロンのバラ」という名前は、いくつかの植物にも普通に使われており、すべてレバントの外で生まれ、聖書からの植物ではなかった可能性があります。

旧約聖書の中での“薔薇”は、特にEcclesiasticus(『シラ書』)の24:18、39:17; 50:8、 ソロモンの2:1、エスドラの2:19、イザヤの35:1における文面で、薔薇を説明しているように見えます。 確かに、薔薇はシリア固有のものであるため、これらの名称はローザ属の薔薇を引用している可能性がありますが、執筆された時点に立ち返り思考を重ねた研究はまだ見あたりません。

( 例えば『シラ書』50:8では、『輝く雲の中に虹が光を放つように、春の日に薔薇の花があるように、水辺の縁に百合があるように、夏の時期に甘い乳香が香るように。』という段がありますが、どの種の ”薔薇“ を指しているのか確信の持てる内容ではありません。)

また、イザヤ書では次のような文面が見られます。 

35:1 荒れ野よ、荒れ地よ、喜び躍れ/砂漠よ、喜び、花を咲かせよ/野ばらの花を

 一面に咲かせよ。                             

 

 


ダマスクローズ 208

2021年03月28日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

鏡面異性体のお話をしようと思います。

 

まず、朝日新聞2020/12/4から、

『有機物はもともと、宇宙を飛び交うチリの表面で、炭素や酸素などに高エネルギーの粒子が当たって合成された。初めは一酸化炭素や水など簡単な分子だけだったが、合成を繰り返すうちにアミノ酸など複雑な有機物も出来たとされる  中略

 ところが、地球のような惑星は、大きく成長する過程で惑星全体がマグマに覆われるような極めて高温の時期があった。地球はその後、冷えて海ができ、生命が誕生するのだが、有機物は高温になると壊れるため、生命のもとになった材料は、地球が冷えたあとに改めて小惑星などからもたらされたのではないかという説がある。』

   

2020年12月6日(カプセル着地予定)に向かって進む(?)はやぶさ2http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/current/hayabusa2.html 

 

これまでこのブログでは、IUPAC命名法による右旋性を(+)で左旋性を(-)で表し、立体配置を不斉中心の4個の置換基の命名上の優先順位によりSまたはR(R、S はラテン語の右、左を意味するRectus、Sinister)を用いるRS表示法で表してきました。また、歴史的経緯から、d, l (dextro-rotatory(右旋性)、levo-rotatory(左旋性)も用いました。これらの表記方法は、いずれも化合物の立体構造を明確に表す手段で深い意味合いはありません。

               

ネットをみていたら分子模型がありました。https://wowma.jp/item/353991526 から

        

十字の交差しているところに不斉炭素原子があると見なします。太い楔形は手前に位置することを。波線は後ろにあることを示しています。

https://rikei-jouhou.com/fischer-projection/ から透視式立体構造式

 

分子モデルは勿論、透視式立体構造式で化合物を表すことは非常に手間がかかります。そこで色々と考えた末に編み出されたのが上記の記号を使った表記方法です。表記にはあまり気をせずに次からの文章をお読み下さい。

 

これまで、リナロール、ゲラニオール、ネロールといった光学異性体を説明してきましたが、そこで気になるのが左と右の差だけで香りが異なる点です。他に例を挙げれば、カルボンは片方がミントの香りで、もう片方はキャラウェイの香り、そしてリモネンは、レモンとオレンジです。

加えて、地球上のほとんどは左利きのアミノ酸だけからできあがっていることも驚きです。生物の中で、糖はほとんどの場合右利きで存在していることや、それに、左利きのアミノ酸は、右利きの糖は、どこから来たのだろうという疑問も湧いてきます。

   

猫の手星雲、NGC 6334 さそり座の方角にあり 

欧州南天天文台(European Southern Observatory、ESO)が公開した、「Cat's Paw Nebula(猫の手星雲)」(NGC 6334)の画像(2012年7月9日提供)

 

太陽系からはるか遠くにある分子雲からやってきたのではないかという説が有力です。2013年4月23日に、総合研究大学院大学、国立天文台、東京大学、名古屋大学、京都大学などの研究者を中心とする研究チームは、「猫の手星雲」(NGC 6334)と呼ばれる星、惑星形成領域を赤外線で観測し、22%という高い円偏光を検出することに成功しました。さらに研究チームは、世界で初めて系統的に星、惑星形成領域の円偏光を観測し、同様の円偏光を合計9つの星、惑星形成領域において検出しました。つまり、円偏光は星、惑星形成領域で普遍的であり、この円偏光がアミノ酸に偏りを引き起こし、宇宙におけるアミノ酸の鏡面性を引き起こしたという仮説に繋がります。 http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/frontiers/case05/ 

 

星の寿命が尽きた後の残りくずのような分子雲に私たちの右利き左利きの謎が隠されているのではないかという説があります。その信頼性を高める報告として、オリオンOMC-1にある星で偏光性が確認されたと言われています。つまり、ここでは一方に偏った分子が存在しているというのです。

 

2010年、国立天文台の福江らは、大質量星形成領域周辺※において、赤外線円偏光領域が太陽系の 400倍もの広さで広がっていることを 観測しました。中性子星モデルでは、太陽系が中性子の極方向に位置した場合に限って大量の円偏光を浴びることができるが、今回の結果は、原始太陽系がこのような円偏光領域にどっぷりとつかっていた可能性を示唆するものでした。以上の知見から、次のような生命の起源へのシナリオを描くことができます。『分子雲でアミノ酸(前駆体)などの有機物が生成する。これに星間の円偏光 の作用によりL-アミノ酸の過剰が生じる。これらは太陽系生成時に隕石母天体や彗星に取り込まれ、やがて地球に運び込まれる。原始海洋中で、このエナンチオ過剰は、“Soai反応”(エナンチオ過剰を増幅するような自己触媒反応)により増幅され、ほぼL体のみとなる。』このようにしてできたホモキラルなアミノ酸を用いて地球上に生命が誕生したというのです。

 

総合研究大学院大学のKim Junghaらの研究チームは、たて座方向の約1万6000光年彼方にある大質量星団形成領域「G25.82-0.17」について、ガスの流れや構造に関する研究を行いました。G25.82-0.17では様々な速度で運動するガスから強いメーザー(水などの分子ガスによって増幅されたマイクロ波)が放射されていて、アルマ望遠鏡による高感度な観測データがあり、大質量原始星の周辺環境を詳細に調べるのに適していたのです。

      
アルマ望遠鏡で観測された大質量星団形成領域「G25.82-0.17」。波長1.3mmの一酸化ケイ素からの電波放射で手前に向かって吹き出すガス(青)と奥に遠ざかる方向のガス(赤)が示されています。南北(上下)に加えて、北西(右上)と南東(左下)方向にも淡く伸びるアウトフローが見えます。中心のオレンジ色に輝く場所は大質量原始星「G25.82-W1」です。中心の星間塵からの放射(緑色)には弱い放射のピークがいくつかあり、星団が形成されつつあることがわかります(提供:国立天文台) https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11413_g2582 

 

鏡像異性体の例として、サリドマイドという鎮静、催眠薬が知られています。この薬が合成された当時、服用した妊婦から身体に障がいのある子どもが生まれたという薬害で話題になりました。サリドマイドには、立体化学的にR体とS体の鏡像異性体が存在します。R体は鎮静、催眠作用があり、S体には催奇形性を生じさせる作用があります。サリドマイドが開発された当初はこの2つの鏡像異性体を分離することが難しく、完全に分離されることなく2つが混じった状態で販売されたため、不幸な薬害が起こってしまいました。サリドマイドに限らず医薬品の中には鏡像異性体が存在するものが多く、この事件をきっかけに医学、薬学の分野では鏡像異性体に注意が払われるようになりました。 現在の技術ではサリドマイドの2つの鏡像異性体を分離することは可能です。また、R体またはS体だけを合成することもできます。

 

ところが、R体のみを患者に投与しても生体内でR体の一部がS体に変換されることが最近わかったため、R体とS体の生体内における機能が疑問視されています。だがさらに研究が進むと、生理条件下でサリドマイドはキラル反転を起こし、R体とS体が相互に変換してラセミ化することが報告されました。さらにサリドマイドは様々な代謝を受けることが知られており、特に水の存在下では比較的速やかに加水分解され複数の代謝産物が生成します。このように、キラル反転と様々な代謝が組み合わさって同時に起こることで、サリドマイドの詳細な薬理作用メカニズムの解明は非常に困難なものになっています。

http://asahi-lab.jp/research/thalidomide.html を参考にさせていただきました)

                                                                       

R体とS体のお話は如何でしたでしょうか。

人間の数が増えすぎたのでしょうか。この宇宙に生き物は人間しかいないのではないかと錯覚をしているのかも知れません。今までのお話で、その妄想が吹っ飛んだのであれば、私のお話もお役に立ったということになるのですが。

人間は宇宙の中でバランスを取って存在することで生きていけるのだと思っています。これまでの生き方の視点を変えれば、コロナとの共生方法もわかるはずなのですが。

                      

 

 


ダマスクローズ 207

2021年03月26日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

                                                                                              

                  ダマスコン

ダマスコン( Damascones)は化学式C13H20Oで表されるケトンの一種で、ブルガリアンローズの微量香気成分として発見されました。二重結合の位置や官能基の種類によりα体、β体、γ体、δ体の異性体が知られています。ケトン基の位置の異なるイオノンの異性体ですが、イオノンがスミレの香りを持つのに対しダマスコンは薔薇の香りを持っています。

 

ダマスコンを説明してくれている素敵なサイトを見つけました。ご紹介します。

以下 About Bois de Jasmin より、

 

このサイトは、

『ボワ・ド・ジャスミン Bois de Jasminは、感覚を追求するための入門書です。』から始まります。 

 

Victoria Frolova

『ボワ ド ジャスミンへようこそ! 私は作家、ジャーナリスト、そして専門的な訓練を受けた調香師です。これらのページでは、芸術、文学、歴史を通して感覚の世界を探求しています。 ビクトリア https://boisdejasmin.com/2006/02/fragrance_ingre.html

 

ダマスコン:香水成分

ステンドグラスの窓から差し込む光が、肌の上で鮮やかな赤とオレンジ色に踊り出すと、ブルガリアンローズオイル(ロサダマスケナ)のダマスコンの香が匂い立ちます。 バラ色とフルーティさを内包するダマスコンは、木やタバコのような活気に満ちた力強い香りをも併せ持っています。 ダマスコンのある種類は、青リンゴ、梅の煮込み、熟したイチジクからナッツや木の香りまで、非常に深みがあります。 1970年から1980年の間に分離されたダマスコン(damascones)とダマセノン(damascenons)は、その魅力的な香りと強い香りを考えると、非常に魅力に溢れたものでした。

 

ゲランのナヘマ(Nahema by Guerlain、1979)は、ダマスコンをバラのベール構造の中に組み込んだ最初のフレグランスの1つでした。ダマスコンは、ナヘマがインスピレーションを得たアラビアンナイトの物語から ------, ゴールドジュエリーがお姫様の美しさを高めるように ------- バラの香に託されました。

 

ゲランのナヘマ(Nahema by Guerlain、1979)に関しては。、別ページに説明が添付されていました。以下;一部分を引用しました。

 

ゲラン ナヘマ:香水レビュー 55555

ゲラン ナヘマは、フランスの女優カトリーヌドヌーヴに刺激されたようです。 調香師のジャンポールゲラン(Jean-Paul Guerlain)は、映画「めざめ:Benjamin ou Les mémoires d’un puceau」で彼女を見たとき、ドヌーヴに魅了されたとエル マガジン(Elle Magazine)で言い表しています。 「彼女はバラが散りばめられた金色の檻の中に現れました―彼女は白い絹のドレスを着ていました、そして彼女の髪はしなやかで金色の光輪のように波打っていました—思わず息をのみました。」と。

 

『ダナエ』ティツィアーノ ヴェチェッリオ 第2作 1553-1554 マドリード プラド美術館所蔵      Danae receiving the Golden Rain, Tizian

 

桃の果汁(ネクタル:神々が飲む生命の酒の意を込めた)に浸したバラの花びらは、アルファダマスコンのふくよかな豊かさによって明るくなると同時に暗くもなります。フルーティーで一瞬青臭さをみせるナヘマの薔薇の香は次には良い香りに変化し、独特でいて強い性格を持っています。

悲しいことに、ナヘマはその強さと大胆さが時代を先取りしていたという理由からゲランにとって大きな失策となりました。それでもジャンポールゲランはナヘマが常に革新的で高い創造物であり続けたことは誇りであったと述べています。

ナヘマが1980年代半ばにデビューした場合、その成功はより確実だった可能性があります。確かに、1980年代の最大の成功の1つは、別のダマスコンの過剰使用による創造物、クリスチャンディオールポイズン( Christian Dior Poison , 1985)が世に出たことでした。ダマスコンは、イオノンと関連のある材料です。ダマスコンの合成はイオノンの合成よりも難しく、事実それは価格に反映しています。

 

それらの強力で拡散性のある香りのために、通常非常に低濃度で使用します。しかし、高濃度で使用すると間違いなく毒性が発揮されます。

アルファダマスコンとベー​​タダマスコン(alpha- and beta-damascones)を過剰に入れると、鮮やかなフルーティーさで飾られたクリーミーな月下香(tuberose)の温かい波が、黒いリンゴの形をしたボトルから噴出します。

     

                月下香 Tuberose Flower

アルファダマスコンはフルーティーでフローラルで、独特の樟脳の側面がありますが、ベータダマスコンはフローラルでタバコのような要素があると表現できます。その蜂蜜で煮たプラムの切り口は、毒のあるスパイシーなハートを埋めてくれます。一方、琥珀色のベースに美しい甘い前奏曲を捧げてくれます。しかし、ポイズンはエスプリ ド パルファム(Esprit de Parfum)で最もよく感じることができます。なぜなら、非常に飽きが来るようなオードトワレには、ポイズンを伝説にした表現に欠けているからです。

1980年代のもう1つの伝説、イヴサンローランパリ(Yves Saint Laurent Paris , 1983)は、アルファダマスコンのフルーティーなノートとその美しいグリーンバイオレットを組み合わせています。ローズとバイオレットの組み合わせが濃厚な粉っぽい感覚を生み出したところに、ダマスコンは透明なフルーティーな輝きを組成物に吹き込んでいます。同じ年に、ゲランはレースで縛った月下香の花束にダマスコンを解き放つジャルダン ド バガテル( Jardins de Bagatelle)をリリースしました。その果実の爆発で尾を引くような甘さは、まるで花がベリーのコンポートの上に重ねられているかのようです。

            

            Jardins de Bagatelle 1983 

 

気を失いそうなダマスコンのもう1つの素晴らしい演出方法は、セルジュ ルタンス(Serge Lutens)の芸術監督の下、資生堂のためにジャン イヴ リロイ(Jean-Yves Leroy)が作成したNombre Noir(1981)です。

            

                 Nombre Noir 1981

バラはダマスコンによって抽象化され、暗い宝石の趣を備え、花びらは、コルクや常緑樹の樹皮を連想させる独特の木質の香調で固められています。このバラは甘くて粉っぽい領域に迷い込むことはなく、くすんだままでありながら、日光にさらされているかのように著しく輝きます。同時に、バラ色のダマスコンがモクセイのアプリコットレザーの豊かさに溶け出し、活気に満ちた心を明らかにするために、物憂げに次々と花びらを落とすのです。ダマスコンの成功は、フローラルからウッディ、ローズからクルミまで、幅広い匂いのノートをカバーする多数の類似体と誘導体の合成にあります。非常に興味深く重要な発見は、アルファダマスコンの不純物であるダイナスコーン(Dynascone)でした。 

                                     

                Dynascone ※

 

※【ダナスコン(DYNASCONE®、FIRMENICH 939745)はグリーン、フルーティー、辛味、フローラルな香りを持ち、緑のパイナップルとヒヤシンスの性質を備えた、ガルバナムを彷彿とさせる非常に強力で拡散性のある成分です。】

 

Davidoff Cool Water(1988)は、グリーン、パイナップル、ヒヤシンス、メタリックの側面をもつ独特の嗅覚プロファイルを利用したフレグランスで流行の最先端を切っています。バラ油の成分の中で、ダマスコンは最も重要な芳香誘導体です。しかし、香水に使用されるバラ油から分離された材料はこれらだけではありません。 1961年にローズオキシドがローズオイルで同定され(1957年にゼラニウムのオイルで発見されました)、これは、新しいアロマ素材のフローラルとグリーンの側面を探求する全世代のフレグランスを生み出した発見です。 Paco Rabanne Calandre(1968)は、ローズオキシドの周りに金属の調和を構築し、ローズアブソリュートで効果を柔らかくし、明るくしました。これにより、天然とそれに由来する合成との美しい取り合わせに注目が集まるようになりました。

サンローランリヴゴーシュ(Saint Laurent Rive Gauche , 1971)は、カランドレ(Calandre)の指示に従ってハートアコード(調和)を構築し、バラとジャスミンがアクセントになった金属の涼しさを粉末状のアルデヒドが優しく愛撫する見事な構成になっています。 Paco Rabanne Metal(1979)とGuy Laroche Drakkar Noir(1982)は、ローズオキシド(Rose oxide)のグリーンフローラルとハーブの特徴に依存する他のフレグランスです。

 

ノンブレノワールの木質のバラの美しさが再現できなくなったのは、ダマスコンとダマセノンが増感剤とみなされ、使用量が0.1%以下に制限されているためです。それでも、ダマスコンは引き続き際だつように使用されています。ダマスコンによる男性的な香りの一例として、Donna Karan Be Delicious for Menがあります。

        

           Donna Karan Be Delicious for Men


ここでは、スパイシーな甘さに触れた焼きリンゴを思わせる豪華なフルーティーなノートが、きらめくトップアコードとコケに覆われたベースと対照的です。 Lanvin Arpègeの再編成プロセスにおいて、ジレンマの1つは、バラのアコードの構築でした。ほとんどの女性はバラにダマスコンがアクセントになっていることに慣れていますが、フローラルノートにフルーティーな甘さを与えるため、1927年にはまだダマスコンは発見されていません。したがって、ダマスコンとそのさまざまな類似物は今後も続くと思われます。現代の香水の開発において重要な役割を果たしています。』

 

ビクトリアのサイトにはかなり詳しいパフュームに関する情報が満載です。魅力に満ちたサイトです。

 

 


ダマスクローズ 206

2021年03月24日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

  

ベルガモット https://www.pinterest.ca/pin/334603447315858407/ 

 

またネロリ、ラベンダー、ベルガモット、クラリセージ、コリアンダー(種子)の精油にも比較的多く含有されています。

天然物中のリナロールは (R) 体が過剰であるものが多く、芳樟油は (R)-リナロールの化学純度が高い光学純度を持つので現在でも (R) 体のリナロールの供給源として重要です。ローズウッド、ネロリ、ラベンダー、ベルガモット、クラリセージはいずれも (R) 体を多く含みます。

ローズウッドの精油からのリナロールで現在市場に供給されているものはほぼラセミ体 (ラセミ:racemate とは、立体化学の用語で、キラル化合物の2種類の鏡像異性体(エナンチオマー)が等量存在することにより旋光性を示さなくなった状態の化合物)で、(S) 体を過剰に含むのはコリアンダー、一部のオレンジやジャスミンの精油にみられます。コリアンダーは光学純度が中程度で、オレンジやジャスミンでは含有量が少ないため (S) 体の商業的な供給はほとんどなされていません。

 

(S) 体(左)はオレンジ様の香り、(R) 体(右)はラベンダー様であるとされている

鎮静作用、抗不安作用、血圧降下作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗ウイルス作用

特に鎮静作用に優れており、心を落ち着かせたいときなどに利用されています。

ただ、鎮静作用があるので、集中したいときには向きません。また、血圧降下作用があるので、低血圧の方は、注意が必要です。

http://www2.meijo-u.ac.jp/~tnagata/education/ochemb/2019/ochemb_10_slides.pdf

 

 

安全衛生情報センター https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/60-12-8.html

2013/02/15では、単体で使用した場合ですがリナロールに対して次のような警告が出されています。『生殖細胞変異原性、皮膚感作性、眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性、皮膚腐食性及び刺激性』

                                    

  1. ロジニルアセテート

      

            Rhodinyl Acetate C12H22O2

テルペン-アルコール-アセテート混合物; バラの香りがする無色から黄色の可燃性液体。 鉱油、アルコール、グリセリンに可溶。

 

  1. 酢酸シトロネリル

         

          Citronellyl Acetate C12H22O2   

薔薇,ラベンダーの香りがする。 エタノール,エーテル,クロロホルムに溶け、水,グリセリン,プロピレングリコールには溶けない、シトロネロールに由来する酢酸エステルとモノテルペノイドです。シトロネロールアセテートは、コブミカン(Citrus Hystrix、カフィアライム)から分離されました。

  

カフィアライム (Citrus Hystrix, Kaffir lime, コブミカン)  http://www.orientalherbs.nl/EN/plants/2/CitrusHystrix 

 

  1. ダマセノン

            

ダマセノン( Damascenones)は化学式C13H18Oで表されるケトンの一種。ダマスコンに似た構造を持つ。二重結合の位置や官能基の種類によりα体、β体、γ体の異性体が知られている。ダマスコンやイオノンとともにローズケトンとも呼ばれ、β-ダマセノンはバラやコーヒーの主要な香気成分の一つです。低濃度でも効果があり、香水に使用される重要な芳香化学物質です。ダマスコンとともに二重結合を持っているせいで、体内に取り込まれると容易に排泄されません。蓄積すると中枢神経毒症状を呈しますので繰り返す使用には注意が肝心です。構造的に関連するカロテノイドから酵素を働かせてβ-ダマスコン(β-damascone)およびβ-イオノン(β-ionone)が生成されます。

    

      

ケンタッキーバーボン OLD KENTUCKY RIFLE KENTUCKY STRAIGHT BOURBON WHISKEY BOT 60/70'S 75CL 86 US-PROOF

 

2008年、(E)-β-ダマセノンがケンタッキーバーボンの主要な匂い物質として特定されました。又、世界最大の民間企業であるスイスの民間企業であるFirmenichによる香水事業の調査により、いわゆるローズケトンが発見されました。ローズケトンの重要性により、劇的に新しいタイプの香水、たとえばディオールの「ポイズン」(1985)の作成が可能になりました(「ポイズン」は、この後、調香師ビクトリアが詳しくご紹介します)。ここでは、ダマセノンとα-ダマスコンおよびβ-ダマスコンが非常に高いレベルで使用されています。  

    

               Christian Dior Poison  1985

                             

 

 


ダマスクローズ 205

2021年03月22日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ
  1. ノナデカン C19H40

    

略して 

              

ノナデカン (nonadecane) CH3(CH2)17CH3(略してC19H40)は、炭化水素のうちアルカン(一般式 CnH2n+2 で表される鎖式飽和炭化水素)の一種で炭素数が19の有機化合物です。異性体の数は148284。融点32-34 °C,沸点330℃

 

Muhammad Akram らによる研究;Rosa damascenaの化学成分、実験的および臨床薬理学:文献レビュー、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jphp.13185に、R. x damascenaの花弁に存在する植物化学物質についての記述がありましたのでここに引用しておきます。

『R. damascenaの花弁にはアントシアニン、テルペン、フラボノイド、配糖体、ミルセン、カルボン酸、ケンペロール、ケルセチン、ビタミンC、脂肪油、なめし物質、有機酸が含まれています。 R. x damascenaの精油には、Loghmani-Khouzaniによって95を超えるミクロおよびマクロ成分が発見されました。 ゲラニオール(5.5–18%)、β-シトロネロール(14.5–47.5%)、ノナデカン(10.5–40.5%)が発見された化合物であり、ネロールとケンフェロールがオイルの主成分でした。』

 

別の書物には次の記述もありました。

『R. x damascenaを精査したところ、ヘンネイコサン(heneicosane)、エタノール(0.00–13.43%)、ゲラニオール(3.71%)、シトロネロール(9.91%)、ノナデカン(4.35%)、フェニルエチルアルコール(78.38%)が主成分として明らかになりました。ハイドロソル(Hydrosol:水膠液)は、ネロール( 16.12%)、フェニルエチルアルコール(23.74%)、シトロネロール(29.44%)およびゲラニオール(30.74%)が主な化合物です。』

 

 

5.フェネチルアルコール C8H10O

          

フェネチルアルコール (phenethyl alcohol、別名、2-フェニルエタノール、2-フェニルエチルアルコール、β-フェニルエチルアルコール) 水にはわずかに溶ける (2 mL/100 mL H2O) 一方、エタノールやエーテルとは混和する。天然に広く存在する無色の液体で、バラ、カーネーション、ヒヤシンス、アレッポマツ※、イランイラン、ゼラニウム、ネロリ、キンコウボク など、さまざまな精油に含まれます。日本酒、ビール、ワインなどにも含まれ、香料、保存料などに利用されます。

 

JOURNAL OF THE AMERICAN COLLEGE OF TOXICOLOGY Volume 9, Number 2,1990  Mary Ann Liebert, Inc., Publishersから、フェネチルアルコールの安全性評価に関する最終報告がありましたので引用しておきます。

 

『フェネチルアルコール(PEA)は、化粧品の香料や抗菌防腐剤として使用される芳香族アルコールです。 PEAは哺乳類でフェニル酢酸に代謝されます。 ヒトでは、それは抱合型フェニルアセチルグルタミンとして尿中に排泄されます。

PEAは自然に発生します。 微生物、植物、動物によって生成されます。多くの天然エッセンシャルオイル、食品、香辛料、タバコにエステル化された遊離アルコールとして検出されます。又、未蒸留のアルコール飲料、ビールに検出されています。ワインでは10〜50 mg / Lの濃度で、ウィスキーでは15 mg / Lを超える濃度です。』

 

先にも触れましたが、PEAには香料の他に保存料としての働きがあります。こういった、汎用性が高い化学物質は悪用される可能性が極めて高いです。ある物質では、甘味使用としながら、実際は抗菌目的であったりとか。気づかないうちに多量の化学合成物を身体の中に入れているのが今の現実です。心してください。

   

※ アレッポマツ https://de.123rf.com/photo_78817709_cone-of-an-aleppo-pine-pinus-halepensis-.html

 

以下はアヴァワイナリー(Ava Winery)が扱っている ” #Wine Wednesday” のメッセージですが、フェニールアルコールについて興味を持って読むことが出来ます。引用しておきます。

 

ロマンチックな夜を計画していますか?

      

単純な芳香族分子:フェネチルアルコールを御紹介します。この分子は、夕刻のMVPです。何ダースのバラや1本の赤いバラから、散らばったバラの花びら、振り掛けたバラの香水にいたるまで、フェネチルアルコールはロマンチックな夜の舞台を整える立役者です。

バラやエッセンシャルオイルを使って夏のロマンチックな香りを演出したり、素敵なディナーでワイ​​ンを飲んだり、新しい石鹸やローションを使ってリラックスしたりする場合でも、フェネチルアルコールは花の香りですべてを完璧に香り付けます。

フェネチルアルコールは、甘い香りと風味を作り出すために使われています。バラの香り? あなたの飲み物に入っている薔薇の暗示? あなたを誘拐する花の香り? グラスワインの甘いアフターノート? これらはすべて、天然に存在するフェネチルアルコールのおかげです。

  

フェネチルアルコールは自然界に豊富に存在します。ご想像のとおり、バラやバラ油からブルーチーズ、マッシュルーム、イチゴまで。リンゴ、桃、プラム、アプリコットなどの甘い果物には、芳香族アルコールが含まれています。そして、茶葉は、水に浸すと染み出してくるアルコール分子で満たされています。

 

化粧品会社はその魅力的な香りを生かすために芳香分子の1つとしてフェネチルアルコールを使用しています。ヘアケアやメイクアップ製品からローションや石鹸まで、広く使われています。また、ローズ、カーネーション、オレンジブロッサム、イランイラン、ネロリなどの主要なエッセンシャルオイルにも含まれており、リラクゼーション、活力を生み出すために、集中力を刺激するためにそれはとても魅力的で、タバコ会社はフェネチルアルコールを添加剤として使用ています。匂いだけではありません!もう一度考えてみて下さい。。フェネチルアルコールは、私たちが定期的に消費する無数の飲料、チューインガム、キャンディーにも含まれています。(この箇所は非常に重要です。近い将来、色々な食料品に化学合成された香料が意図的に添加される可能性があります。一つ一つの食品に加えられる量は基準内であっても、無差別に添加されるとその合計量はとんでもない量になります。ワインに、お菓子に、果物に、チーズに、飲み物にと年間で合算すると基準量をはるかに超える量となるのは目に見えています。)

 

安全衛生情報センター https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/60-12-8.html

H23.3.15、政府向けGHS分類ガイダンス(H22.7月版)では、単体で使用した場合のフェネチルアルコールに対して次のような警告が出されています。頭の片隅にとどめておいた方が良いかも知れません。

『飲み込むと有害、皮膚に接触すると有毒、強い眼刺激、生殖能または胎児への悪影響のおそれの疑い、肝臓、腎臓の障害のおそれ、眠気又はめまいのおそれがあります。』

 

  1. リナロール C10H18O

         

         (S)-(+)-Limalool            (R)-(-)-Linalool

リナロール (linalool) は分子式C10H18Oで表されるモノテルペンアルコール ( イソプレンを構成単位とする炭化水素。精油で炭素10個の化合物に与えられた名称。カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体はテルペノイド、terpenoid と呼ばれる ) の1つです。スズラン、ラベンダー、ベルガモット様の芳香をもつため、大量に香料として利用され,他のモノテルペン香料物質の原料となるほか、ビタミンAやビタミンEの合成中間体です。多くの植物の精油成分として見出され、特に含有量が多いのはローズウッド、リナロエ、芳樟の精油で、これらは工業的なリナロールの合成法が確立されるまでリナロールの供給源でした。

 

リナロエウッド(リナローウッド、Bursera delpechiana)|LINALOEWOOD

ローズウッドに似た華やかで優しい香りを持つ樹木系の精油

https://magnolia-aroma.com/aromatherapy-note/linaloewood/ 

 

 


ダマスクローズ 204

2021年03月20日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ
  1. ゲラニオール C10H18O

         

           Geraniol            Nerol

 

      

                      Geraniol              Nerol

ゲラニオールはトランス形(炭素の二重結合に2つずつの異なった基が結合する場合を例に取ると、主鎖(炭素数最多の鎖)となる炭素骨格が同じ側(同じ炭素ではない)につくとシス (cis) 型、反対側につくとトランス (trans) 型の幾何異性体)で,沸点は 230℃です。シス形はネロールと呼ばれ,沸点は 225℃です。いずれも植物精油中に含まれます。( 上も下の化学式も同じものを表しています。赤で印を付けたところは炭素結合が一本なので回転します。赤点の位置で回すと上の図になります )

ゲラニオールは水に不溶,アルコール,エーテルとは混じり合う無色または薄い黄色の液体で、水には溶けないが多くの有機溶媒には溶ける性質があります。薔薇油,ゼラニウム油、シトロネラ油に主成分として含まれ、薔薇に似た芳香を持ち。防蚊の効果があります。

また、ミツバチはニオイ腺で合成したゲラニオールを使って蜜を持っている花とミツバチの巣の入口を標識しているようです(2017/8/30 レモンバーム参照)。精油の香りには鎮静と刺激、両方の効果があり、香りを嗅いでリラックスする場合と、逆の効果が現れる場合があります。比較的安全な精油だとされ、食品業界、化粧品業界で多用されていますが、近年EUによって、非常に強い感作性を有するという評価がされました。ローズゼラニウム油やその成分は、偽物のローズ油やローズ油の増量剤として用いられています。

  

ニオイテンジクアオイ  https://www.ventos.com/ecommerce/product/egypt-geranium-essential-oil/?lang=en 

 

※ ニオイテンジクアオイ( Pelargonium graveolens、 別名 ローズゼラニウム、ペラルゴニウム、poor-man's rose)は、フウロソウ科テンジクアオイ属の常緑性低木。

ヨーロッパの窓を飾っているのはペラルゴニウムです。日本でも売られていますが、夏の暑さ寒さに弱く栽培するのは難しい様です。一般にゼラニウムと呼ぶのは、四季咲きのもので、花や葉、茎を触るとカメムシの様なニオイがします。花色が多く、日本で栽培されているのは大体この種類です。ニオイテンジクアオイは、ゼラニウムの仲間で、春から初夏にかけて咲く一季咲きの多年草で、可憐な花をたくさん咲かせます。ゼラニウムにはない深紅色の花や斑紋、上2枚あるいは5枚すべての花弁の中心に黒や赤色のブロッチ(斑紋)やストライプの模様(条斑)が入る花、ビオラに似た小輪花など、華やかさにあふれています。植物学上ではフウロソウ属(ゼラニウム)から分離したテンジクアオイ属(ペラルゴニウム)を指しますが、園芸上では、「四季咲き性」をゼラニウム、「一季咲き性」をペラルゴニウムとしています。

 

南アフリカ・ケープ地方原産のペラルゴニウム ククラツム(Pelargonium cucullatum)とペラルゴニウム グランディフロルム(P. grandiflorum)を主な親とし、これにほか数種が交雑されて作り出されました。バラを思わせる芳香を持つPelargonium graveolens は、貧乏人のバラ(poor-man's rose)と呼ばれ、香水や香料の原料として昔から栽培されていました。茎と葉に薔薇のような芳香がします。水蒸気蒸留して得られる精油はゼラニウム油と呼ばれ、香料などに利用されます。ここからゲラニオールが発見されました。直鎖、非環式モノテルペン(イソプレンが2個結合した構造をもつ化合物の総称。植物の精油成分にありメントール,リモネン,シトラールなど芳香をもつものが多い)に属するアルコール(炭化水素の水素原子をヒドロキシ基 (-OH) で置き換えた物質の総称)です。

 

ゲラニオールまたはネロールは分子内に2つの二重結合を持っています。このうち1つを水素化するとシトロネロールが得られます。(シトロネロールの別名はジヒドロゲラニオールでした。)分子式はゲラニオール、ネロールのC1018Oに水素が2つ増えて、シトロネロールはC1020Oとなります。二重結合を水素化すると炭素結合が一本になって(不斉炭素原子が生まれ)光学異性体ができます。
             

        

         Geraniol          Citronellol ( Dihydrogeraniol )

シトロネロールには l-体とd-体が存在しますが、おおよそ l-体の方が自然界に多く存在し、香質もl-体の方が d-体(生体由来の糖やアミノ酸のような分子については、光学異性体の表示法であるd-,l-【 d-は dextro-rotatory=右旋性(+)、 l-はlevo-rotatory=左旋性(−) の表記のほうが立体配置をイメージしやすいという理由で,

(+)-シトロネロール、 (-)-シトロネロールとここでは表記しています 】よりもクリアーで明るいシトラス香になります。 

(余談ですがd,l表示と後で出てくるRS表示とは関連がありません。物質の構造、性質を明確に表す手段に過ぎません)

                                    

  1. ネロール C10H18 O

              

                                        Nerol

    

ビターオレンジ(Citrus aurantium var. amara)の花 https://imakescents.wordpress.com/2016/12/29/part-3-orange-blossom

 

ネロールは、レモングラスやホップなどの多くのエッセンシャルオイルに含まれるモノテルペンです。 もともとはネロリ油※から分離されたため、その名前が付けられました。バラのような甘い香りがする無色の液体です。

 

※ ネロリ(ネロリ油、橙花油、Neroli oil)は、ビターオレンジ(Citrus aurantium var. amara)の花から水蒸気蒸留によって得られる精油のことで、ネロリは香水、特にオーデコロンに使用されます。大部分はイタリア、モロッコ、エジプトで生産されます。水蒸気蒸留の副産物としてオレンジフラワーウォーターが得られます。

 

 


ダマスクローズ 203

2021年03月18日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

 

        

             ファネソール

ファルネソール (farnesol) は、直鎖セスキテルペンの一種のテルペノイド系有機化合物です。3個のイソプレン単位からなります。(色分けしていませんがその構造はもうおわかりでしょう) 常温常圧で無色の液体で揮発性です。薔薇やレモングラス、シトロネラの精油に含まれそれらの芳香成分の一つで、香水を作るときに用いられます。最も単純な、従って多くのセスキテルペン(天然には、防衛物質やフェロモン等の情報化学物質として植物や昆虫で見られる)の前駆体で、シトロネラ、ネロリ、シクラメン、レモングラス、ツベローズ(月下香:tuberose)、ローズ、ムスク、バルサム、トルバルサム等に含まれ、甘いフローラル香水の香りを強調するために香水に使用されます。

https://www.mdpi.com/1420-3049/23/11/2827 から。少し専門的になりますが、

 

非環式セスキテルペンアルコールであるファルネソールは、主に自然界のさまざまな植物のエッセンシャルオイルに含まれています。抗ガン作用と抗炎症作用を示し、アレルギー性喘息、神経膠症、浮腫を緩和することが報告されています。多くの腫瘍細胞株において、ファルネソールはさまざまな腫瘍形成タンパク質を調節し、および/または多様なシグナル伝達システムを調節することができます。

また、アポトーシスを誘発し、細胞増殖、血管新生、および細胞生存をダウンレギュレート(細胞が外部刺激に応答して、RNAやタンパク質などの細胞成分の量を減少させるプロセス)する可能性があります。

その抗炎症/抗発癌効果を発揮するために、ファルネソールは、Rasタンパク質および活性化B細胞活性化の核因子カッパ-軽鎖エンハンサーを調節して、シクロオキシゲナーゼ-2(cyclooxygenase-2)、誘導型一酸化窒素シンターゼ、腫瘍壊死因子アルファ、およびインターロイキン-6などのさまざまな炎症性メディエーター(神経構造系)の発現を減らすことができます。

 

ゲラニオールの含有量が少ない場合、ネロールの爽やかさがわずかに柑橘系の香りとして現れます。ゲラニオールの含有量が多い場合、シトロネロール、ゲラニオール、ファルネソール、ネロールの組み合わせは、強く、甘く、フローラルで、新鮮な薔薇の特徴をもたらします。

ダマセノンといくつかの硫黄化合物は、微量成分の中にあり、パラフィンであるステアロプテンはローズオイルの天然成分で、この為ローズオイルは冷蔵すると固化します。                   

                                      

  1. シトロネロール C10H20O

          

      (+)-シトロネロール (左)    (-)-シトロネロール(右)   

 

シトロネロール ( citronellol、又はジヒドロゲラニオール dihydrogeraniol ) は、すべての生物に見られる天然の最大の脂質で、既知の脂質の約60%はこの非環式モノテルペノイドです。左手と、右手のような合わせ構造を持つ2つの有機物質(光学異性体)は、よく似ていますが右手の手袋が左手には入らないように、それぞれの生理活性(生体内化学物質が生体の特定の生理的調節機能に対して作用する性質)が異なります。(無機化学しかやって来なかった私にはこれだけで、不思議な自然の深淵を覗いた思いがして気が動転してしまいます。)

 

先で登場する2. ゲラニロール、3. ネロール, 6. リナロールは同じ分子式C10H20Oですが、異なる構造をしている構造異性体です。しかしいずれもバラ精油の香気を特徴づける成分です。二重結合の先のOH基の付き方、回転方向が違うだけで香気が微妙に異なります。ネロールは華やかさ、新鮮さを感じさせるバラの香気がします。


             

同様にシトロネロールの異性体も微妙に香りが異なります。(+)-シトロネロールはシトロネラソウ (Cymbopogon nardus、別名コウスイガヤは熱帯アジア原産のイネ科オガルカヤ属の多年生植物) に含まれるシトロネラ油の50%を占める異性体です。一方、(−)-シトロネロールはバラ(18〜55%)とペラルゴニウムの精油に含まれています。

     

シトロネラソウ Cymbopogon Nardus  https://www.indiamart.com/proddetail/cymbopogon-nardus-plant-9195668330.html 

 

少し専門的ですが、シトロネロールの合成方法をご紹介しておきます。意外と簡単な方法で合成できるので、おそらく驚かれることでしょう。

 

合成方法

天然資源とは別に、シトロネロールはさまざまな(半)合成法で作り出すことができます。 選択する方法(最も経済的な方法)は、経歴と能力に大きく依存します。 必要な殆どの技術は水素化です。 

 

シトロネロールへの合成手順(立体化学は示されていない)

 

シトロネラール(Citronellal)は、水素化技術を使用することにより、立体化学を保持したままシトロネロール(citronellol)に変換できます。原料として使用されるシトロネラールは、エッセンシャルオイルまたは合成生産に由来する可能性があります。シトロネラ油由来のシトロネラールは(+)-シトロネロールを生み出します。ユーカリ シトリオドラオイルのシトロネラールから始めると、ラセミ体のシトロネロールが得られます。純粋な(+)-シトロネロールは、(-)-メントールの生成の中間体である(+)-シトロネラールからも生成できます。これと同じ技術を使用することにより、純粋な(-)-シトロネロールも得ることができます。

他のさまざまな天然分離株は、ラセミ体のシトロネロールの前駆体として機能します。ゲラニオールを例に取ると、ジャバシトロネラ油(Java citronella oil)から得られたものは、選択的に水素化してシトロネロールを得ることができます。 レネーコバルト(Raney cobalt)を触媒とすると、水素化はゲラニオールの2位の二重結合を選択します。シトラール(ゲラニアールとネラルの両方)を出発物質とすると、適切な触媒系の存在下で選択的に水素化してシトロネロールにすることができます。かなりの量の市販のラセミシトロネロールが、合成ゲラニオールおよび/またはネロールの部分水素化によって作られています。

 

最後の方法は、ピネン(Pinane)からシトロネロールを作り出す方法です。 Cis-Pinaneは、α-ピネンとβ-ピネンの両方を水素化することで簡単に得られます。次にこれを加熱して3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン(3,7-dimethyl-1,6-octadiene)を生成し、これをシトロネロールに変換します。このアルケンをトリイソブチルアルミニウムと反応させた後、酸化するとシトロネロールが生成します。

 

 


ダマスクローズ 202

2021年03月16日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

イソプレンは主としてナラ、ポプラ、ユーカリ、一部のマメ科植物によって生産され、大気中に大量に放出されています。植生によるイソプレンの年間放出量は約5~6億トンで、樹木がイソプレンを放出するのは樹木が非生物的ストレスと闘う仕組みであると考えられています (下図参照)。イソプレンの放出量は温度上昇とともに劇的に増加し、約40°Cで最大になります。それは多種多様な生物によって生産され、非生物的ストレス条件下で植物を保護する役割を果たしていると考えられています。又、アマゾンの熱帯林の写真で、よく樹冠上に靄が広がっていますが、日中にしか放出されないイソプレンが、水蒸気の核を作りその結果霧を生みだし、日よけにしているのかも知れません。 https://link.springer.com/chapter/10.1007/10_2014_303 から、

2005-2016イソプレン排出量  https://emissions.aeronomie.be/index.php/bottom-up/isoprenev2018 から

 

イソプレンは植物の葉緑体内で非メバロン酸経路( non-mevalonate pathway)によってとジメチルアリル二リン酸(DMAPP)が生合成され、イソプレン合成酵素によってイソプレン + 二リン酸が作られます。「水と炭酸ガスだけで作るのだからたいしたものだ。」と感心する一方で、植物が作った化学合成物はあくまでも、作った植物の都合で出来たものであることを忘れてはいけません。香りが良いからといって、むやみに使うことは、生命に関わることになりかねません。植物生成物を極めて高純度で、安価に、大量に取り出すことの出来るのが、今の社会です。しかもお金のためなら何でもやるのが今の社会です。決して脅すわけではないですが、気を付けるにこしたことはありません。

        

                テルペノイド解説図

解説図の上段真ん中のリモネンは2個の、上段右のファルネソールは3個の、下段のビタミンAは4個のイソプレン単位からできています。イソプレンを基本単位とする一群の炭化水素を総称してテルペノイド:Terpenoidといいます。シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、リモネン、ファルネソール、ビタミンAもテルペノイドです。(少し先で出てきます)

 

https://spexcertiprepblog.wordpress.com/2015/03/18/terpenes-in-a-class-of-their-own/ 

 

 


ダマスクローズ 201

2021年03月14日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

薔薇の香りは次のような成分の組み合わせで、香りが変化します。

 

バラの香りの研究 http://www.baraken.jp/learn/component.html では次のように説明しています。引用させていただきました。

 

バラの10ノート(香調)

                 

ダマスク スウィート

いわゆるバラの甘い香り。フェニルエチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロール、ネロールなどの成分の香り。

フルーティー フローラル

果物の香りやいろいろな花の香り花に特徴的な香りで、フェニルエチルアセテート、シトラール、リナロールの成分の香り。

スパイシー

クローブ(丁子)やカーネーションに多く含まれる特徴的なスパイシー様の香り。
オイゲノール、メチルオイゲノールなどの成分。

ハーバル・グリーン

リモネン、ミルセン、オシメンなどモノテルペン炭化水素類がもたらすやや薬効感のあるグリーンな香り。

ウッディ ハニー

カリオフィレン、ムーロレンなどセスキテルペン炭化水素類の木香様の香りとハチミツ様の香りを合わせた香り。

ティー バイオレット

紅茶やスミレの香りに特徴的な拡散性のあるイオノン骨格を持つ成分の香り。

フレッシュ グリーン

ヘキセノールやヘキセニルアセテートの新鮮な青葉を手で摘んだ時の香り。

ティー フェノリック

やや湿ったフェノリック(薬品的)でスパイシーさを持ったティーローズ特有の香り。
水をまいた花屋の前を通った時のような香り印象で、殆どの現代薔薇に含まれる。ジメトキシメチルベンゼン、トリメトキシベンゼンなどの香り。

ミルラ(アニス様)

ハーブのアニス(ウイキョウ)に似た苦味のある甘さに青臭さを伴った香り。イングリッシュローズにあるミルラの香りの正体であり、ほかの成分とのバランス加減で香りの嗜好が別れる。メトキシスチレン、ビニルフェノール、ジメトキシスチレンなどの香り。

ロージー ワックス

比較的揮発しやすい花ロウ由来の成分。
油脂、ワックス様のにおいがあるものの、成分自体に特徴ある香り印象を持たない。
薔薇の香りの柔らかさや保留性に影響している。
ヘキサデセン、ノナデカン、ノナデセンなどの脂肪族炭化水素、脂肪族アルデヒド、脂肪族アルコール。

                                                          

薔薇の精油にはオイゲノール、ギ酸シトロネリル、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、シスローズオキシド、シトロネロール、ダマセノン、ネロール、ノナナール、ノニルアルデヒド、ピネン、ファルネソール、フェニルエチルアルコール、ミルセン、メチルオイゲノール、リナロール、リモネン、ローズオキサイド、α-テルピネオール等が含まれています。もう少し詳しくみていくことにします。

                                                                     

本題に入る前に、精油について次の注意事項をお話しておきます。

“精油は植物が身を守るために、或いは何かを誘引する目的で腺細胞に貯めた物質です。必ずしも人間にとって有益な物質だけとは限りません。使用上はくれぐれも気を付けて下さい。”

 

ローズオイルの基本成分は、シトロネロールとゲラニオールです。ネロールとファルネソールによってさらに香りが高まります。揮発性のファルネソールの含有量が多くなると花の特徴が強くなります。ネロールは、薔薇の特徴だけでなく、爽やかさを高めます。

                                    

ダマスクローズのオイルの成分には、1. シトロネロール、2. ゲラニオール、3. ネロール、4. ノンデカン、5.フェニルエチルアルコール、6. リナルール、7. レデニールアセテイト、8. シトロネニルアセテイト、9. ダナセノンがあると言われています。これらについてお話をしようと思います。https://ja.wikipedia.org/wiki を参照にさせていただきました。

                                                                    

最初に、精油の大部分の基本単位となるイソプレンの説明から始めようと思います。

 

              

  イソプレンの骨格(C5H8)              略図

       

イソプレン(isoprene)は構造式CH2=C(CH3)CH=CH2の、二重結合を2つ持つ炭化水素です。上のように書き表します。普通化学記号は省略して右のように表します。イソプレンの炭素分子には左側 (頭側) から1,2,3,4と番号が付けられています。

リモネンはイソプレンが2つ、サントニンは3つ、ピマル酸は4つのイソプレン単位を含んでいます。(緑色で表しました)

             

               イソプレン

 

          

       

   α-サントニン(駆虫薬)        ピマル酸(松ヤニの精油成分) 

 

 


ダマスクローズ 200

2021年03月12日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

薔薇のお話に戻ります。

Ayten Altintas(1948-)イスタンブール大医学部医学史倫理学部名誉教授作成 https://www.researchgate.net/publication/283600420_Turkish_rose_A_review_of_the_history_ethnobotany_and_modern_uses_of_rose_petals_rose_oil_rose_water_and_other_rose_products/link/5881cef3aca272b7b441830e/download から;薔薇の花からのオイルの抽出方法、オイルの作用機序と作用場所、その確認方法について。

 

ローズウォーターの効用とその確認と方法

エキス/エッセンシャルオイルの種類

             作用

         方法

水性および/またはエタノール抽出物

           催眠薬

ペントバルビタール誘発睡眠時間

水性および/またはエタノール抽出物

           鎮痛剤

ホットプレート、テールフリック、酢酸、およびホルマリンテスト

水性および/またはエタノール抽出物

            鎮咳薬

クエン酸法

水性および/またはエタノール抽出物

       気管支拡張薬

モルモット気管鎖のカルシウムチャネルの阻害

水性および/またはエタノール抽出物

心拍数と収縮性の増強

分離したモルモットの心臓

水性および/またはエタノール抽出物

           抗炎症薬

カラギーナン誘発ラット足浮腫

水性および/またはエタノール抽出物

            下剤

強制経口投与および腹腔内注射による便秘ラット

水性および/またはエタノール抽出物

         抗神経叢

日焼け防止係数(SPF)の決定

水性および/またはエタノール抽出物

         老化防止

成虫のショウジョウバエの死亡率

エタノール抽出物(R.centifolia)

           鎮咳薬

二酸化硫黄ガスによって誘発されたマウスモデル

水性アルコール、エタノール抽出物、エッセンシャルオイル

         酸化防止剤

食細胞活性による遊離基活性の測定

メタノール抽出物

         抗糖尿病薬

α-グルコシダーゼ活性の測定

メタノール抽出物

          抗リパーゼ

ブタ膵臓リパーゼによるトリオレインエマルジョンの濁度の低下

メタノール抽出物から単離されたフラボノイド化合物

             抗HIV

HIV-1MNに感染したC8166ヒトTリンパ芽球様細胞およびHIV-1IIIBに慢性的に感染したH9ヒトT細胞リンパ腫細胞に対する抗HIV効果

エッセンシャルオイルとアブソリュート

            抗菌剤

ディスク、十分拡散、微量希釈法

エッセンシャルオイル

        抗けいれん薬

WistarラットにおけるPTZ(ペンチレンテトラゾール)誘発性発作ラットにおける扁桃体電気キンドリング発作

エッセンシャルオイルとフェニルエチルアルコール

神経保護、記憶力増強

アセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対する阻害71

クロロホルム抽出物

神経保護、認知症の治療

神経突起伸長活動試験

薔薇のつぼみからのシアニジン-3-O-β-グルコシド

         心血管機能

アンジオテンシンI変換酵素阻害

フレッシュフラワージュース

          肝の保護

抗酸化活性試験

R. x damascena抽出物を含むハーブ点眼薬

          眼科疾患

臨床試験

 

私見ですが、「上で示された効用とこれまでに述べてきたR. x damasceneの内容を鑑みると、R. x damasceneの花びらには上皮に働きかける薬効があるのでは。」と思えます。

上皮(皮膚の表皮,口腔,食道,肛門管の重層扁平上皮細胞。腎盂、尿管の粘膜、膀胱の粘膜の移行上皮。小腸内壁を覆う粘膜上皮。血管やリンパ管の単層扁平上皮。胃や腸の粘膜の単層円柱上皮。消化液や汗などを分泌する腺上皮。)は外気にさらされている皮膚だけではなく、口から肛門に至る消化器官内壁、肝細胞や尿細管上皮など分泌や吸収機能を担う実質臓器表面の細胞も含めて上皮と考えます。そうであれば上の表で示された内容に納得がいきます。                    

       

ローズオットー、アター、ルーまたはローズエッセンスとして知られるローズオイルは、R. x damascenaの花びらから抽出したエッセンシャルオイル(精油)※です。ローズオットーは水蒸気蒸留によって抽出され、ローズアブソリュートは溶媒抽出または超臨界二酸化炭素抽出によって得られます。

価格が高く、有機合成の出現にもかかわらず、ローズオイルは今でも香水で最も広く使用されているエッセンシャルオイル※です。ローズエッセンシャルオイルは二重蒸留で作ります。それは何千もの成分からなる複雑な混合物です。分析技術と方法論の開発で組成の解明が次第に知られるようになってきました。

 

※ エッセンシャルオイル(精油)という言葉は、これまでもいくたびか出てきましたが、非常に紛らわしい表現です。ここで整理しておこうと思います。

インドのカナウジで行っていた、水蒸気蒸溜を思い出してください。カナウジでは低温でゆっくりと、4-6時間かけて薔薇の花びらを蒸していましたね。エッセンシャルオイルは、水蒸気といっしょに気化して、水蒸気と一緒に出てきます。水蒸気を冷却すると、エッセンシャルオイルは水の上に浮かんで(水よりも軽い)オイルと水の2層になります。上澄みがエッセンシャルオイルで、下がローズウォーターです。

即ちエッセンシャルオイルは非水溶性で、水よりも比重が低く、揮発性の油成分ということになります。(非水溶性と言っても100%ではありません)オイルの抽出方法にはこだわりません。水に溶けませんが、アルコール、二硫化炭素、石油エーテル、脂肪油などに溶ける親油性です。

 

薔薇の匂いにはどのような化学成分が関与しているのか、調べようと思います。

 

” Specification of Fragrance Ingredients of Bulgarian Rose oil ” にダマスクローズの香りに関して次のような説明があります。

     

ブルガリアローズオイル、ローズウォーター https://tokuhain.arukikata.co.jp/sofia/2009/06/post_27.html

 

『ブルガリアローズオイルの主要成分は含有量が最大55~65%にも及ぶ3 種のテルペンアルコール(テルペン:terpene とはイソプレン※を構成単位とする炭化水素。これにアルコール基が付いたのがテルペンアルコール)で、このアルコール類が「バラ様の香り」を決定づける芳香成分となっています。 なかでも、ブルガリアローズオイルの 1/3 を占めるシトロネロールは、抗アルカリ化、抗酸化、抗熱作用のある非常に安定した化合物で、この特性はオイル全体の安定性と共に、品質や香りの変化を伴わずに長期保存、使用の可能性をある程度決定づける非常に重要な要素となっています。主要成分を除いた構成成分の内、15~17%は各々の含有量が1~3%の様々な化合物からなり、さらに残りの構成成分は、その多くが 0.1% 程度など、1% 未満の微量成分で占められています。ブルガリアローズオイルにおけるフェニルエチルアルコールの含有量は、通常およそ2%となっており、それを基準に別の抽出方法や溶剤抽出法などにより得られた他のローズオイルと区別することができます。例えば、ロシアタイプのローズオイルのフェニルエチルアルコール含有量は70%以上、別のタイプのローズアブソリュートは55~60% 以上あり、こうした化合物の芳香はバラ様ではあるが、低含有量のブルガリアローズオイルの方が透明感があり、心地よく香ります。 ブルガリアローズオイルの構成成分中のオイゲノールとメチルオイゲノールの存在は、かすかな “ぴりっとした辛み” と “オリエンタル” なノートを与え、ベースとなるローズの花束の香りをより際立たせています。セスキテルペンアルコールのファルネソールは穏やかで、心地よい、リンデンやスズラン及びローズの花々のようなフローラルノートを持ち、ローズの香りを引き立てています。オイルの香りの特色に関わる重要なものはそれだけではありません。エステルとアルデヒド、ゲラニル酢酸、シトロネリル酢酸及びその他を主とするエステル類は、ローズの香りのベースとなる、フルーティーさやフローラルさなど、多彩なニュアンスを与えています。さらに、含有比率が非常に小さい微量成分であっても、私たちが香りを感知する事の出来る重要な成分です。中でもβ- ダマセノンやβ-イオノンは、香りへの貢献度が非常に高くなっています。 精油成分を含んだブルガリアローズの花弁の中で合成され、水蒸気蒸留法で抽出される多彩で豊かな化合物。その複雑な構成が生み出すノート(香調)、ニュアンス、陰影の全てにおける極めて豊かな香りの幅、それがブルガリアローズオイルのあの完全なる芳香を創出しているのです。』

 

 


ハーブ達

2021年03月11日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

暖かくなってきました。土の中からハーブ達が芽を出し始めると、嬉しくなってしまいます。小さな場所で育てているので、全て鉢の中ですがここにも春がやって来てくれました。珍しくもないと思われるかも知れませんが、少しみてやってください。

 

ミントの新芽です。いつも元気ですが、春先は勢いが違います。ミントの旺盛さにはうんざりすることもありますが、春先の新芽は別の思いがします。

 

セイジの新芽です。いつもきれいな紫色の花をみせてくれます。花の根元には甘い密がたっぷり。夏になるとチュチュッと吸って甘さを確認します。

 

タイムの新芽です。新しい新芽を支えている茎は、まるで血液が脈打っているような赤さです。

 

ビオラ。ハーブではないけれど、種がこぼれて、冬の終わりにそこら中から拾い集めて一つの鉢に植え込みます。私の一番好きな花です。

 

コリアンダー。右側に茶色くなっているのは、去年の春に植えた古い枝。下の新芽は、去年の夏の終わりに播いたコリアンダーの新芽。そろそろ食べ頃です。刻んだ葉と茎をむき身のエビといっしょに一晩寝かせてエビカレーでも作りましょうか。

 

これは何の花か、わかりますか? マスタードの花です。菜の花とは似てはいても全く異なる匂いです。少し首をかしげたくなるような違和感のある香りです。もうすぐ種が出来ます。新しい種をワインビネガーの中に入れていっしょにすり潰すと香りの良い、ポークチョップに合うねっとりしたマスタードが出来ます。

 

大葉の新芽がもう出てきました。このまますくすくと育ってくれると良いのですが。

去年は何故か不作でした。頑張れ!! 大葉の葉も良いけれど、若い種を冷や奴の上にのせて食べるのも、プチプチとした歯触りと良い香りが口の中に広がって旨いなあ。

 

薔薇の新芽が今年もむくむくと出てきました。もう何回も繰り返しみている景色なのですが、目の当たりに本当の新芽を見て、毎年ほっとします。今年も頑張れ!!

 

ここまで付き合って見て頂いて有り難うございました!!

この薔薇の枝に花が咲いたところをご覧に入れる頃には、今まで読んでいただいた「ダマスクローズをさがして」ともお別れになります。あと2ヶ月くらい先になりますでしょうか。

 

 


ダマスクローズ 199

2021年03月10日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

      

罹患していることを示すために頭を包んだトルコの女性。 コンスタンティノープルおよびトルコ全土で使用されている衣服の肖像画から、ドイツ考古学研究所、プレート188

 

女性がイスタンブール大学の医学部に最初に入学した1922年まで、女性の医師が学校、病院、宮殿の学校などの機関で教育を受けたことを示す文書はありません。宮殿で雇用されているイスラム教徒の女性医師の訓練と職業的地位を説明するのは本当に難しいことで、殆どの女性は見習いという方法で訓練されたと言っても間違いないでしょう。技術は通常、母から娘へと伝えられたと思われます。

 

ラファエラ ルイス(Raphaela Lewis)は、無知な人々と教育を受けた人々の両方が、男性よりも才能のある女性開業医を選んだと述べています。イスラム教徒の女性が男性のように医学教育を受けることは不可能でしたが、才能があり手作業で熟練した女性の中には、現場での実践を通じて短時間で効率を上げた人もいました。そのような女性が男性医師による訓練を受ける機会があれば、病人を操作するためのスキルさえ習得したようです。

    

サリハ ハトゥン( Kupeli Saliha Hatun ) は彼女の夫Deniz Bin Gaziから手術を学び,

夫の死後1620年に開業し、世界で初めて患者と医師の間での手術同意書に署名した女性医師でもあります。http://www.edirnetv.com/mobil/haber/2731/cerrahe-saliha-hatun-anlatiliyor.html

 

1622年に遡るいくつかの司法文書の中に、サリハ ハトゥン ( Saliha Hatun )と呼ばれる女性外科医と、彼女が手術した21人の男性患者、腫瘍の1人、ヘルニアの他の患者に関するものが残っていました。しかし、女性医師の存在は助産行為、戦時を除き1800年以前では特例的な事例だといえます。

Shahnamah Firdaws(Book of Kings of Firdaws)からのRustamの誕生、

トルコイスラム美術博物館図書館蔵、1945年、fol. 67a。

 

治療を目的としない医療行為は、オスマントルコの開業医の職業倫理に反すると見なされていました。しかし、すべての病気の治療は自然界にも見られ、自然には治癒力があるという概念がハーブ療法につながり、薬物療法の重要性を高めることになりました。古典的なオスマン医学では、医学的治療は不均衡な気質の治療とそれに対する薬物の投与が基本でした。経験を通じて得られた新しい知識は、既知の治療を変え、患者の治療により良い結果を産みました。それでも、成功した薬物組成と治療方法は、治療上の優位性が得られたが故に、それらは通常秘密として受け継がれました。これらの秘密は、主に父親から息子へ、または主人から見習いへと移り、いくつかは徐々に忘れられていったのです。トルコの医療事情をお話しするのはこれくらいにしておきましょうか。

オスマン帝国の医学はこの後、進歩のない時間を費やすことになります。種痘、王立医科大学によるクロロホルムを使った手術は1847-8年に、パスツールの狂犬病ワクチンは1887年初頭にトルコの内科で作成され、レントゲンは発見された2年遅れの1897年にX線装置を使用することになります。1800年も後半に入ってやっとヨーロッパの後を追うことになります。何故このようなことになったのか。原因は何でしょうか。『君子は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ』はドイツのビスマルクの言葉ですが、そうありたいものです。

(トルコのハーブを含め、ハーブについては次の機会に、おそらく今年の6月頃になりますが、お話する機会をもちたいと考えています。)

                             

              調薬師:tortoiser women.

 

 


ダマスクローズ 198

2021年03月08日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

17世紀半ばのトプカピ宮殿にある2つの古文書には、主治医のCemalzade Mehmed Efendiが、Scutariに住む国から古い宮殿「“Saray-i Atik」に,

フェルニヤズ カルファ ( Ferniyaz Kalfa )、ラレザール カルファ ( Lalezar Kalfa )、ナゼニン カルファ ( Nazenin Kalfa ) という3人の女性患者を癒すために「hekime kadin」と呼ばれる有名な女性医師を招待したことに関する記述があります。ヘキメカディン( Hekime Kadin、女性医師の意 ) とヘキム( hekim)は、それぞれ女性医師と男性医師を意味します。

“ヘキメカディン”は古くはギリシャにまで遡るお話があり、興味深い内容なのでここでご紹介しておきます。

https://baytekinbalkan.com/blog/detay/agnodice-ilk-kadin-hekim から、

 

最初の女性医師( İlk Kadın Hekim)アグノディス(Agnodice、紀元前300年生まれ)

       

国家を家父長制で制度化していた古代ギリシャでは、女性は医学を実践したり医学を勉強したりすることを禁じられていました。

この禁止に強く反対し、彼の人生の最大の理想である医師であったアグノディス(Agnodice、紀元前300年生まれ)は、父親の支援を受けて髪を切り、少年としてアレクサンドリア医科大学に入学し、そこで彼はヘロフィロス(Herophilos)の学生となります。

医学教育を受けていた彼女がアテネの街を歩いていると、陣痛中の女性の叫び声を聞き、臨月の、助けを求める女性に駆け寄るが、アグノディスを男性だと思っている女性は、触れてほしくない素振りを見せます。アグノディスは上着を開いて女性であることを見せ、女性の出産を助けます。時が経つにつれて女性の間で広まったこの話から、すべての女性がアグノディスを頼りにするところとなり、非常に人気のある医者になりました。

他の男性医師はこの状況に嫉妬し、アグノディスがジゴロであり、女性患者をたらし込む野心で誘惑していると非難します。彼らはまた、女性がアグノディスを見るために病気で横たわっていたと主張したのです。これらの容疑で法廷に持ち込まれたアグノディスは、人民法院の前でアテネの著名な男性によって有罪判決を受け、死刑を宣告されました。彼女の命を救うために、アグノディスは本当の性別を明らかにします。

彼女は女性でありながら医学教育を受け、医師として働いていたために死刑判決を受けました。しかし、すべての女性、特に判決を下した裁判官の妻は立ち上がって夫に彼らが敵かどうか尋ね、女性達を癒したアグノディスは殺されるべきではなく、アグノディスが死んだらすべての女性が一緒に死ぬと申し述べます。裁判官は群衆とその妻の圧力に耐えることができず、アグノディスの有罪判決をやめ、この日から、女性は「女性の世話をする」という条件で医師として働くことが許可されたのです。

   

イタリアのオスティア(Ostia)で発掘、大英博物館収蔵

女性医師、助産婦が後産の処置をしています。

 

18世紀後半、スウェーデン大使代理のドーソン ( d’Ohsson ) は、知識は少ないが経験豊富な女性医師「ヘキメカディン」について、「トルコの伝統と習慣について」の本の中で「必要なときにはハーレムにも呼ばれていた」と述べています。女性医師は助産も実践していました。助産師は通常出産のみを担当し、女性医師は助産も行っていました。医療行為は、今日のように専門分野のさまざまな分野で厳密に区別されていなかったようです。

 

 


ダマスクローズ 197

2021年03月06日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

医療機関での女性の外来治療は、1839年以来医学部の診療所で行われてきました。 1843年にハセキ スルタン病院では女性患者の入院が一般的になり始め、貧しい、家のない、身内のない、障害のある女性は病院で治療されるようになりました。即ち、オスマン帝国の宮殿の内外での女性医師に多様性がみられるようになったのです。その証拠となるべき事例を取り上げようと思います。

       

お腹をくるんでいる女性医師  (Paris, Bibliothèque Nationale, Département des Estampes, Od. 26-26a

 

助産師は「エベ:ebe」や「カビレ:kabile」と呼ばれ、主な仕事は出産を手伝うことだったので、主に助産師とは少し違う女性医師の概念を定義しようと思います。

セレフェディン サボンジュール(Şerafeddin Sabuncuoğlu, 1385-1468、中世オスマン帝国の外科医 )のCerrahiyetü'l Haniyeと呼ばれるhttps://www.tarihikadim.com/sabuncuoglu-serafeddin-ve-cerrahiyetul-haniyye/)15世紀のトルコの手術の模様を描いたミニチュア絵画にあるように、女性患者の手術に関与した女性医師は、女性医師を意味する「tabibe」、一方、男性医師は「tabib」と呼ばれました。

tabibeと名付けられた女性医師が、両性具有者、鎖肛、痔核と疣贅、女性の外陰部にできる赤い膿疱の治療などの婦人科手術を行っているとサボンジュールの論文に書かれており、カビレと呼ばれる助産師は、子宮内で発生する発疹の穿孔の治療、自然な方法で出産されていない場合の胎児の治療、鎖肛の治療、および死んだ胎児の摘出を施術していると言及しています。胎児を抽出するために必要な器具の形態に関する章は助産師が執筆しています。

   

助産師の助けを借りて出産する女性。Kitabal-Cerrahiyet al-Haniye(Royal Book of Surgery)Sherefeddin Sabuncuoglu 1465. 著から (真ん中が、妊婦です。平然とした趣でこちらを向いている姿は何ともイスラムぽい)

http://isamveri.org/pdfsbv/D01658/1996-1997_2-3/1996-1997_2-3_SARIN.pdf

 

オスマン帝国の宮殿に残るいくつかの文書は、女性医師に関する信頼性のある情報を提供してくれます。 1450年に建てられたアドリアノープル(Adrianople)の宮殿と、バイジッド(Bayezid)の古い宮殿とトプカピ宮殿(Topkapi palace)の両方に、ハーレム内に大きな病院があり、ハーレムの患者のための風呂があったことを私たちは知っています。おそらく17世紀初頭にトプカピ宮殿のハーレムに建てられたCariyeler Hastanesi(側室病院)と呼ばれる病院は、ハーレム内の住民、即ち、そのほとんどは芸術や給仕の分野で教育を受けたメイドとその愛人達でした。

  

 アドリアノープル宮殿https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Adrianople_The_Sultan%27s_palace_at_Eski_Serai_-_Peytier_Eug%C3%A8ne_-_1828-1836.jpg

                       

Cariyeler Hastanesi(側室病院)https://www.360tr.com/harem-dairesi-cariyeler-tasligi-panorama-sanal-tur_deb0e7de0_tr.html 

 

宮殿での治療が(ハーレムの)スルタンの女性​​または子供を癒すことができなかったときは、法廷の外の治療師が宮殿に呼ばれました。

 

 


ダマスクローズ 196

2021年03月04日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

準備された処方箋の多くは、病気の予防として春に服用されました。たとえば、17世紀のエヴリヤ チェレビ ( Evliya Çelebi, 1611/3/25 – 1682年, オスマン帝国時代の大旅行家 ) の旅行記にあるように、大きな陶器の壺にローズウォーターを用意して販売したアドリアーノプル(Adrianople、現在はエディルネ:Edirne、オスマン帝国時代にはバルカン征服の前進拠点であるソフィアやベオグラードに繋がる幹線道路の通り道で、政治的、経済的、軍事的重要地)の女性がいました。ジプシーの女性たちは、畑から香りのよい花や薬草を集め、ペーストを作っていました。

 

アブドゥルアジズ ベイ(Abdülaziz Bey、(1850-1918))のメモには、薬草や動物から伝統医薬を作った女性のさまざまなグループがあったことを示しています。イスラム社会における女性医師 ? の存在というのは、ちょっと信じられないことなのですが。

考えられることは、助産婦でしょうか。自分の妻が赤ん坊を産むときに、男の医師の助けを受けることを嫌うという理由で助産婦の存在は十分に考えられることです。横道に逸れたついでに助産婦について少し調べることにしました。

彼女らは薬を作ることで、tortoiser womenという意味のtosbagaci kadinとして知られていました。

 

イスラム文明の歴史の中で、多くの病院は、スルタンの妻、娘、母親によって設立されたようです。 これらの病院では、すべての医療従事者が男性でした。 オスマン帝国時代、女性患者は19世紀まで自宅または開業医の住居で治療を受けていました。 このことは、オスマン帝国の宮殿の内外では、医療を行っている女性医師の数と診療科の多かったことを証明しています。

有名なÇehar Makale(1431著)※の著者であるニザーミー アルジ (Nizami Aruzi) ※による少女の病気の脈拍検査と診断。 Türk Islam Eserleri Museum蔵、#1954. 彼は詩人なのですが、このように医師まがいのことをしています。

 

※ Cehâr Makâleはニザーミー アルジ セメルカンディ(Nizamī-i Arūzī-i Samarqandī, 生没年不詳、西暦1110年から1161年にかけて活躍した詩人)によって書かれたチェハール (Çehar クルド語) 記事です。ペルシャ文学の最も重要な作品の1つで、書記、預言者、医師など、統治者に必要な4人の職業に言及しています。Mecma'u'n-Nevadir(通名Çehar Makale)という作品は、4つの部分で構成されています。

 

マニサ(Manisa)のハフサ スルタン病院(Hafsa Sultan 、1539年に設立)、ハセキ スルタン病院(Haseki Sultan 、1550年に設立)、イスタンブールのヌールバヌ スルタン病院(Nurbanu Sultan、1582年に設立)など、ダルアルシファ(dar-al-shifa:癒しの家/健康の家)と呼ばれる有名な病院のいくつかは、スルタンの妻または母親が設立されました。Darüşşifasはアッバース朝の時代に発展を始め、大セルジューク帝国の間に重要性を増しました。この伝統は、アナトリアとオスマン帝国のセルジューク帝国の間も続きました。 1400年から1621年の間に、オスマン帝国で8つのdarüşşifasが作られました。darüşşifasの建設者は、建設費に加えて、年間費用に見合うだけの多くの資産と収入を寄付し、患者に無料で継続的なサービスを提供できるようにしました。この時代、裕福な家庭の患者は自宅で治療を受けました。 Darüşşifasは、ホームレス、貧しい旅行者、商人のためのものでした。さらに、精神障害を患い、自宅で治療することができなかった患者は、darüşşifasで治療されました。付け加えるならば、オスマン帝国の人口を考慮すると、darüşşifasが公衆の健康を考慮して建てられたのではないことは明らかです。むしろ彼らは、慈善の考えが前面に出てきて、彼らの恩人の名前を未来に伝えるために建てられました。オスマン帝国のdarüşşifasが都市の人々の多くのニーズを提供した複合施設のサービスユニットの1つであったみるべきです。。一般的に、モスクがオスマン帝国の複合体の中心で、その周りには、社会福祉施設、マドラサ、図書館、イマレット(炊き出し)、学校、風呂、旅館、噴水、屋根付きバザール、病院、印刷所などの教育文化施設がありました。

 

女性は、治療の内容に応じて、自宅または自宅のいずれかで、女性医師、助産師、または治療者による治療を受けることを好みました。医療機関で女性を治療させる場合、治療場所を考慮しないことは、患者に対する家族の無関心を示すことになり、医療機関を選択することは女性の保護を考えてのことであり、決して無関心でないことを示すためでもありました。

  

Haseki Sultan Hospital, Istanbul, built 1550, general view from the open courtyard, 2011. https://www.researchgate.net/figure/Haseki-Sultan-Hospital-Istanbul-built-1550-general-view-from-the-open-courtyard-2011_fig4_298654355 

      

Nurbanu Sultan hospital https://istanbultarihi.ist/476-istanbul-darussifas-hospitals-in-the-classical-period  

 

たとえば、1673年の司法記録では、コンヤ病院でファチマ(Fatima)と呼ばれる精神異常の女性を治療のために入院させようとしたとき、息子のオメル(Ömer)は、自宅で母親の世話をして治療すると言って反対しました。裁判官(カディ、kadi)は息子に代わって決定しましたが、女性の親戚は家族で世話をすることをことのほか希望していました。