Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

バジル 

2021年11月30日 | ハーブ

                       9 バジル

 

            スイートバジル       ‎2021/5/‎16‎

 

バジルの生まれたばかりの、ふっくらとした葉を見ると、嬉しくなってきます。寒い冬を抜けて春を迎えたうれしさと、このバジルで何を作ろうかと先に光りが見える気がするからです。バジルにはたくさんの品種がありますが、今回はスイートバジルを取り上げました。丸みを帯びた柔らかそうな葉が特徴です。春先になるとたくさんのバジルの苗を見かけます。このブログを読んでいる方も育てておられるかも知れません。

 

寒くなりかけた時に、部屋の中に取り込んでやると2月頃まで葉を茂らせてくれます。

バジルの生の、葉の手に入らない3, 4, 5月には、代わりに私はオレガノを使っています。かつてはバジルの葉をオリーブオイルを使って塩漬けにしたり、葉にオイルを塗って冷凍保存したりと苦心していましたが、ふくよかな香りを保つことが難しくてこのところ代用のオレガノで我慢しています。この事項を書くことで良い保存方法が見つかり、皆様に御紹介出来ればいいなと思っています。さて、バジルのお話を始めましょう。

 

   一般名称          学名           原産                  

  スイートバジル    Ocimum basillicum L.       熱帯アジア        

       

                       Ocimum basillicum L. (スイートバジル) 2021/7/16

スイートバジルは手に入れやすく、育てやすいハーブです。春から夏に、水切れ、肥料切れを起こさなければカンカン照りの太陽に向かって大きく葉を伸ばしてくれます。芳香あふれるハーブは夏の暑さに負けない料理を提供してくれます。

 

バジルという名前の由来は不明です。 唯、ジョン パーキンソン (イギリスの薬剤師、ハーバリスト, 1567-1650) の言によれば、「その香りは王に相応しく、非常に高貴である。しかも、王室で豪華な軟膏または薬として使われており、ギリシャの王バシレウス ( Basileus) の名に由来する。」との説を挙げています。 後述する、プリニウスの言葉とも符合するのですが、あの「バシリスク:basilisk」の名を縮めてバジルの名が生まれたという説もあります。植物とサソリを結びつけた、恐らくプリニウス以前の古い言い伝えから生まれたのでしょう。

占星術師カルペッパーは、「優しく扱うと心地よい匂いがするが、傷つけるとサソリを産む。また、サソリはバジルが植わっている鉢や器の下によくいることから、 バジルの小枝が鍋の下に残された場合、それはやがてサソリに変わる。」と煽ります。迷信はやがて、「バジルの匂いを嗅ぐだけで脳の中にサソリが入り込む。」という内容に変化するのですが、これまでも人の心の中に深く入り込みます。心の迷いはいつの世も、常に深くマイナスの方向に潜行するのが習いです。

 

「つまらん!」と言いながら、次の絵を見てください。この絵は、

               

ウリッセ アルドロヴァンディ(Ulisse Aldrovandi、1552/9/11 –1605/5/4, イタリアの博物学者)"ヘビとドラゴンの歴史;Serpentum et draconum historia", 1640 から引用したものです。顔はオンドリで体は蛇です。王冠を戴いているところが、悲しいというか、ばかげているというか。どうやら本気で描いていたようで、冗談ではなさそうです。バシリスクもここまで想像を膨らませて描かれれば本望でしょう。妄想もここまでくれば本物に成長するのです。カルペッパー24歳の時の出版本ですから、当時のこのような考えに取り囲まれていた彼の頭は、チョウツガイが外れていたのも当然といえば当然です。

 

プリニウスの言葉を信奉していた事に加え、新大陸から流入する新事実にプリニウスの説を無理矢理合わせようとしたことがこのような怪物を生み出したようです。(トウガラシの時にも同じような事が起きました)事実を事実として見詰める科学の目が誕生し始めた頃の初期の産物です。

     

 

 

熱帯アジア原産、別名メボウキ(目箒)は、江戸時代、漢方として入ってきたバジルの種を水に浸し、乳白色のゼリー状の粘膜に包まれたものを目に入れて目に入ったゴミを掃除したことに由来します。粘着性があってゴミはよく取れるようです。茎は4稜形で、直立して、よく分枝します。植物全体に高い香りがあり、葉は先が尖った卵形〜長卵形で、光沢があり、内側や外側に反り返ります。葉柄があり、浅く粗い鋸歯があり、対生しています。7~10月頃、茎頂に穂状花序を作り、白い唇形の花を咲かせます。果実は4分果になります。耐寒性が弱いため、日本では一年草扱いです。強健で肥沃な土、日当たり、排水のよい場所でよく生育します。

 

ディオスコリデスがバジルに関し『2-171. OKIMON』で述べています。

『Ocimumは一般に知られたハーブです。たくさん食べると、視力が鈍くなり、腹が柔らかくなり、鼓腸が動き、尿が出て、乳の出が良くなります。 消化しにくいです。ポレンタの粉、ロザセウム(rosaceum)、酢と混ぜて使うと炎症や有毒な魚やサソリの毒を和らげます。目の痛みにはキアンワイン(Chian;エーゲ海のヒオス島産ワイン)を単独で、或いは一緒に使います。バジルの汁は目の薄暗さを取り除き、目の余分な水分を乾燥させます。 種を飲み物に入れて飲むと、うつ病、頻繁な痛みを伴う排尿、鼓腸に効きます。嗅ぐとかなりくしゃみを引き起こします、そして葉にも同じ効果があります。くしゃみが続く間は目を閉じなければなりません。一部の者はそれを避けてしません。』

 

プリニウスからの引用はここではしばしば行ってきました。プリニウスはディオスコリデスよりも20年ばかり後で生まれたのですが、バジルに関してはその内容をさほど参考にしていません。プリニウスの言い回し、特有の大げさな表現がここでは目につきます。真偽についてはコメントするまでもありませんが、その内容は、後のヨーロッパの人達に大きな影響を及ぼしました。「バカバカしい」と捨て置けばそれまでですが、あらゆる場面で見聞きしますので・・・・有名な誤った、しかし、見捨てられない事柄なので全文を引用しておきます。(中でもサソリとバジルのお話しは特に有名?です。バジルの葉の鮮やかな緑がこの時代は悪魔を象徴する色であるところから、サソリを結びつけたのだろうと思われますが。後のヨーロッパ文化に大きな影響を与えました。)

『クリシッポス(Chrysippus of Soli, ca.280–ca.BC207)は古代ギリシアの哲学者)は、オシムニ(Ocimuni : バジル)は狂気、嗜眠、肝臓のトラブルを引き起こす。胃、尿、視力に有害であると厳しく説いた。だからこそ、ヤギはそれに触れることもしない。男もそれを避けるべきであると付け加えました。』

   

その後、ヤギはそれを食べるし、人の心はそれによって影響を受けることはない。そしてワインと少量のビネガーに入れたものは陸のサソリの刺し傷と海の毒を治すといったオシマムの強力な擁護者が現れます。

経験から、失神には酢に入れたオシマムの臭いを嗅がせると良い、また、嗜眠、そして炎症を冷やす事がわかりました。頭痛には、ローズオイル、マートルオイル、ビネガーと一緒に塗布剤として使える。“目やに”にはワインを使う。

胃に有益である、酢を摂るとげっぷが出て鼓腸を鎮める、外用して腸の緩みを止める、利尿剤であるため、黄疸と水腫の両方に良いと言われています。コレラの下痢ですら止まる。したがって、フィリスティオン(Philistion、BC427-BC347 )は、疝痛の訴えや激しい下痢にも、オシマムを処方しました。プリストニクス(Plistonicus、古代ギリシャの医師、ca.BC400-ca.BC300)の処方に反対する者は、しぶり、吐血、重い心気症に対してバジルをワインに入れて処方しました。

乳房に塗布すると、乳の出がよくなります。特にガチョウの脂と併用すると、赤ちゃんの耳に非常に有益です。鼻孔に砕いた種を吸い込ませるとくしゃみを促進し、塗布剤として使うと頭からの粘液の流れを促します。酢の中に入れて食物として取ると、それは子宮を浄化します。cobbler's blacking(黒い靴墨 ?)と混ぜたものは、疣を取り除きます。媚薬であるため、時には馬やロバにも投与します。』

   

 

 主な有効成分  エストラゴール リナロール  シオネール  オイゲノール   

                                       

バジルの匂いの主成分であるエストラゴール、シネロール、オイゲノールは水には溶けませんが、エタノール、エーテルには溶けやすい性質を持っています。有機溶媒にも溶け込む性質があります。ワインビネガーには酢酸(有機溶媒)が3-5%含まれていますからこの中にバジルを漬すと酢酸の中に溶け出します。匂いの主成分は脂溶性ですからオリーブオイルの中にバジルを入れるのも勿論いいのですが、口の中に入れたときにより香り立つのはどちらなのか。言うまでもないことです。苦味を持つサポニンは抗酸化作用をもち、老化予防や血圧やコレステロール値を下げる効果があります。

   

 

 栽培          種子を3月下旬~4月上旬に種蒔き          

『バジルを蒔く適期は、パレスの祭りの日(4/21)であると言われている。そして秋にも。冬に蒔くときは酢で種を湿らせるように勧める者もいる。』とプリニウスは説いています。(「バジルの種を酢で湿らせる」という考えは、これ以降に出版された書物で見つける事が出来ませんでした。真偽の程はわかりません)

 

バジルの種の発芽には20℃以上の温度が必要です。種まきは4月下旬から5月の遅霜がない頃に蒔きます。バジルの種は光発芽性なので覆土はせずに十分に水を与えます。暑いのが大好きなハーブなので5月以降に、保水力の高い有機質に富んだ土に定植します。草丈が20cm程度まで生長したら地面から2~3節目を切ると脇芽が出て大きく育ちます。花の開く前にも1/2-2/3を切り戻すと収量が増えます。夏に葉が黄色くなるのは肥料切れです。

 

                                  2017/8/17

 

  キッチンカウンターから      バジルの風味を活かす                        

 

ビネガーが入っていたボトルを取っておいて、バジルビネガーが出来上がった時点で、漉してボトルの中に戻すとそのまま冷蔵庫に保管できて便利です。出来たビネガーはビネグレットソースに使うと他の材料を簡単に追加ができて味の変化がつけやすく、重宝します。

これなら、バジルの無いときにでも気楽にバジルの風味が楽しめます。冬から初夏にかけて活躍してくれるでしょう。バジルの香り成分が、全てビネガーの中に溶け込んでします。口の中に入れると適度に蒸散して香りを出してくれそうです。