Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 62

2020年05月30日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

           

                    ローズウォーター

           食用 ローズウォーター Premium Flower Rose Water 240 ml

https://www.amazon.co.jp/ ローズウォーター-Premium-Flower-Rose-Water/dp/B07H738HMR から 

製品と絵はアマゾンから引用させていただきました。

『ローズは香りの歴史の中で一番欠かせない香りの一つです。クレオパトラや聖母マリアをはじめとして、歴史上のあらゆる女性を魅了してきました。ローズは芳香を楽しむことはもちろん、宗教的にも、美容や医療としても幅広く使用されてきました。 ローズ センティフォリアの主な生産国はチュニジアとトルコです。 ばらの花を水蒸気蒸留した100%天然のフラワーウォーター(フローラルウォーター・芳香蒸留水)です。 チュニジアに代々伝わる低温水蒸気蒸留法(32℃)で、職人の手によって丁寧に抽出された100%ナチュラル、ハンドメイドウォーター。低温で蒸留することにより、 香り成分の特徴がよく引き立つフラワーウォーターを抽出することが可能。 野生のバラのフレッシュな花びら100%を使用して作られておりますので、天然100%のフラワーウォーター。 精油や人工香料の添加による香り付けなどは一切していません。 また合成化学物質を含む防腐剤や添加物は一切使用していません。 1Lを蒸留するには5時間を要し、また40Kgの花びらを必要とします 【使用方法】 クスクスにまぶしてほのかなローズの香りを楽しむ。 マカロンやケーキ(アーモンド粉の焼き菓子)にしみこませる等。飲み物(コーヒーやお茶、清涼飲料水の香り付け、カクテルの材料として)等。ドレッシングの風味付けに数滴加えて。はちみつに混ぜて、ローズフレーバーはちみつに。家庭療法として25ml程を飲用する。(味が強すぎる場合は、コップ1杯の水に混ぜても)』

         

ダマスク ローズウォーター 500ml ブルガリアローズジャパンhttps://www.amazon.co.jp/

から引用させていただきました。

『商品紹介;全身のボディーケアやヘアケアにもお使いいただけます。ダマスクローズのやさしい香り。
原材料・成分;ダマスクローズ水・ダマスクローズオイル

使用方法;化粧水として洗顔後に。 紫外線をあびてほてったお肌に。パサついた髪、ブロー前にひと吹き。 お部屋にシュッとひと吹きして良い香り。汗のニオイが気になるときに。 洋服やハンカチなどのアイロンがけに。』

 

[136] ROSE PIE, ROSE CUSTARD OR PUDDING PATINA DE ROSIS

『花壇から新鮮な薔薇を摘み取り、葉を取り、花びらから白いところを取り除き、モルタルの中に入れる。ブロスを入れてすり潰す。ブロスを一杯入れて水切りで漉す。仔ウシの脳みそを4つ、皮と神経繊維を取り除いて用意する。8/24オンスのブラックペッパーを砕いて汁で湿らせ脳みそに擦りつける。その上に卵を8個、ワインを1グラス、レーズンワインを1グラス、少量のオイルを塗る。平鍋に脂を塗り、熱い灰の上又は湯にかけてその中に入れる。火が通ったら湯煎にかけて挽いたペッパーを振り掛けて提供する。』

 

中世ヨーロッパとローマ帝国とでは薔薇の使用目的が全く異なります。国の成り立ちが異なるわけですから当然なのですが、どちらの国も同じヨーロッパ大地の上に建っているわけですから、つい同等にみてしまいます。

   

※1ローズワックス ザ・プロダクト ヘアワックス ダマスクローズ 42g

https://www.amazon.co.jp/ザ・プロダクト-product-ヘアワックス-ダマスクローズ-42g/dp/B013DPEC6Q 

製品と絵はアマゾンから引用させていただきました。

『ヘアスタイリングはもちろん、髪・肌・リップ・ネイルなど全身に潤いを与え保湿ケアできるマルチなアイテム。デリケートな赤ちゃん肌の方にも。ダマスクローズの芳醇で甘美な香り。コンパクトなサイズで持ち運びにも便利。外出先でもこれ一つでヘアスタイリングから、あらゆるケアに活躍するマルチバーム。

原材料・成分:シア脂、ミツロウ、トコフェロール、ダマスクバラ花油、アロエベラ液汁   

        

   ※2ローズオイル ローズオイル;製品と絵はアマゾンから引用させていただきました。

ローズ ド マラケシュ ジェル ド アルガン - ローズ 15g( アルガンオイル 70%配合 保湿バーム) 

『材料・成分;アルガニアスピノサ核油、ミツロウ、ステアリン酸グリセリル、トコフェロール、香料、ゼラニウム油、ダマスクバラ花油

使用方法;適量を手のひらに伸ばし、ヘアスタイリングワックスとして、ハンドクリームとして、肘・膝・かかとの保湿としてお使いください。リップバームとしてもお使いいただけます。』

 

 


ダマスクローズ 61

2020年05月28日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

古代ローマで使われた薔薇製品は、シシリーのローズワックス※1、ローズオイル※2、ローズワイン※3が殆どで、生の薔薇はR. canina の花びらに限られています。

アピキウスの中には生の薔薇の花を使ったレシピが例外的にありますが、そのほとんどは薔薇の香りを生かした加工品です。アピキウスから2例引用しておきます。  

     

※3ローズワイン https://www.gettyimages.co.jp/detail/写真/rose-wine-alfresco-ロイヤリティフリーイメージ/157619922

 

ROSE WINE [1] ROSATUM

『ローズワインを作るには、薔薇の花びら、下の方の白い部分は取り除き、亜麻袋に入れてワインの中に7日間浸す。古い袋を取り出し、新しい花びらの入った袋を入れて7日間漬す。7日経つと古い袋を取り出し新しい花びらの入った袋を入れる。7日後にもう一度古い袋を取り出し新しい花びらの入った袋を入れる。ワインを漉し器で漉す。提供する前に蜂蜜を加え、味を調える。露の付いていないきれいな花びらだけを使う事に気を配る。』

[1] 『下剤として、薔薇のワインとバイオレットの花びらのワインを混ぜたものはよく効いた。』 と JOSEPH DOMMERS VEHLING 訳によるアピキウスには注意書きがありますが、これは花びらに含まれるソルビトールの作用によるものです。

現在ローズワインを作るには2種類の方法があります。一つは上のようにワインの中に薔薇の花びらを入れる方法。二つ目は薔薇の花びら自身をアルコール発酵させる方法です。

 

 


ダマスクローズ 60

2020年05月26日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

         

”The English Huswife Gervase Markham 著 1615. ” ではローズウォーターをマジパン、ソース、タルトのフィリングに、ゼリー、スパイスケーキ、オレンジマーマレードを作る際に使用。特にマジパン、ペア、リンゴ、プラム、チェリー、バーベリーで作るジェノア※にはダマスクローズで作ったローズウォーターを使うと述べています。

※ジェノア(Genoa)

                        

       ジェノアの型 https://www.historicfood.com/Quinces%20Recipe.htm

この木型は、上のサイトの説明によるとマジパンやジンジャーブレッドの成形だけでなく、1600年頃に流行ったマルメロ菓子であるクィダニー(quiddany)※1, コトニアック(cotoniack)※2, ジェノア(Genoa)※3のペーストに装飾模様をつけるためにも利用されていたようです。少し横道にそれますが、クィダニー、コトニアック、ジェノアについて触れておきます。

 

※1クィダニー(quiddany)

マルメロで作るキディニア( Quidinia)

Sir Hugh Platt Delights for Ladies (London: 1600) から

28.  マルメロを8個用意して種を取り1クォートの水に入れて、1パイントになるまで煮ます。そこに1/4パイントのローズウォーター1/4パイント、砂糖1ポンドを入れ濃い色になるまで煮ます。一滴取って皿の底に垂らし、それが固まったら水盤に入れたゼリーバッグの中に流し入れます。水盤を火にかけて熱します。スプーンで箱の中に必要量を入れて冷まします。冷めたらカバーをします。型の模様を付けるには、箱の大きさに合った型を用意してそれをローズウォーターで濡らして流し込みます。冷めたら型を取って箱の中に入れます。型を水で濡らすと、ゼリーが剥がれます。

 

※2コトニアック(cotoniack)

  

※ cotoniack  https://stapico.ru/photos/2239950040894085755/info/B8V5rHGHRp7

次の説明は上のサイトからの引用です。

『Quince marmalade(カリンで作ったマーマレード)はポルトガル語のマルメラーダ(marmelada のことで、marmela とは quince の意 ) です。ロシア語の marmalade がもとになっています。カタロニア語では codonyat、カスティリアーノでは embrillo です。古英語ではジェノアペースト、ジェノアマスティック( 厚めのマルメロピューレを平たくプレート状に伸ばしたもの )の名があります。16世紀にジェノバからイギリスに入ったと思われます。英語名の quiddanyまたは cotoniack( 透明のマーマレードそのもの )は、明らかにイタリアの cotognata そのものです。イタリアのシチリアでは、このマーマレードは少なくとも14世紀から知られています。

そして、マルメロのお菓子が東洋の初期に登場したという事実に疑いの余地はありません。イタリアのマルメロマーマレードまたはクロアチアの cotnyata は小さいがアレルギーの心配のない果物から作られた理想的なデザートでした。

コトニアータ(Cotoniata)はクロアチアの伝統的なデザートです。クロアチアではカリンに砂糖とレモン(ジュースと皮)を加え、ダンジャ(dunja)と呼んでいます。既製の cotyonata は数か月間は容易に保管できますが、クロアチアの主婦は月桂樹の葉を入れてガラス瓶に保管しています。』

 

それではジェノアはどのように作るのでしょう。Delights for Ladies から。

※3ジェノア(Genoa)

  1. マルメロのジェノアの作り方
    マルメロを用意して皮を剥き、スライスする。土器のポットの中に入れてオーブンで焼く。1ポンド取り出して濾し、砂糖を1/2ポンド入れてモルタルの中で潰す。ペースト状になったら型で押し3-4回パンを焼いた後に入れて、(低温で)乾燥させる。すっかり乾燥して固くなったら箱の中に入れておく。一年間は保存がきく。      

  

 イタリア、シチリアのアンティーク Sicilian Antique Forms for Cotognata

  

   https://theheirloomchronicles.blogspot.com/2014/04/quince-paste-antique-forms-for-cotognata.html                                                

マルメロのソースに砂糖を適量入れて濃いペースト状になるまで煮詰めます。

スペインでは membrillo といいました。ギリシャ、ローマ、アラブには昔からあったものです。ポルトガルでは marmelada ( マルメロのペースト、マルメロのジャム、マルメロのチーズ  ) と呼ばれ、14世紀になると、マーマレードを特別の型に流し入れて近隣諸国に輸出していました。17世紀のイングランドでは、現在のビターオレンジを使ったマーマレードの先駆けともいえるマルメロのペーストを使った quiddany や cotoniack がありました。イングランドで使われていた ”Cotoniack” はカタロニア由来、“Genoa” はジェノバ由来の名前であることが理解いただけたと思います。”quiddany”  は勿論 quince からきています。

マルメロに含まれる大量のペクチンを利用して砂糖で煮固めたお菓子は、アラブ文化の賜です。今日、似たものにペクチンを使ったパートドフリュイ( Pâte de fruits )があります。

ペクチン【ポリサッカライド ( デンプン ) の一種で1825年フランスのHenri Braconnot( アンリ・ブラコノー、1780/5/29 – 1855/1/15 )が初めて抽出したものです。】はメチオキシール ( methoxyl : -OCH3 )の数によって二つに分類されます。沢山のメチオキシールがついたペクチン (High-methoxyl pectin ) は低いpH のもとで沢山の砂糖 ( 約55 % ) を溶かした状態でゲル化します。これを利用して果物のジュースを固めたものがパートドフリュイです。
絵右上から左回りにレモン、ブルーベリー、オレンジのパートドフリュイです。表面にはアラレ糖をまぶしておきました。                                

 

                                   

 

 

 

 


ダマスクローズ 59

2020年05月24日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

タキュイナムサニタティスに描かれたガラスの瓶に関連するのお話をしようと思います。あれはローズウォーターを作るための容器でした。ヨーロッパでは1350年頃からローズウォーターを使った料理が料理書の上に登場し始めます。

イングランドでは1550年の“A Proper newe Booke of Cokerye、Matthew Parker, Archbishop of Canterbury, and Margaret Parker his wife.著.” 頃からですが、ドイツは1450年、イタリア、フランスは1300年代の料理書の中に登場します。十字軍の遠征による影響、その後のタキュイナムサニタティスのヨーロッパ各地への拡散速度を考えると各国の料理書への登場年代に納得ができます。下に十字軍の遠征地とその年代を引用しておきました。

   

https://sekainorekisi.com/download/ 十字軍の遠征路とラテン帝国地図/ 

これが1096年から始まる十字軍遠征路です。この地図とペルシャの地方政権乱立期の地図とを比較すると、十字軍遠征とその影響を受けた地域と程度がどれほどのものであったかを知ることができます。

   
                 ペルシャの地方政権乱立期

1096年の第一回十字軍遠征時,1055年にアッバス朝からセルジュク朝に、1118年にはイラク・セルジュク朝が建ち、アッバス朝はその庇護下に入ります。目まぐるしい変遷を遂げるのですが、

  

         ローマ帝国の最大領土 https://sekainorekisi.com/glossary/ 

振りかえってローマ帝国の領土と比較すると。ローマ帝国は476年に東西に分裂し、480年、オドアケルにより西ローマ帝国は滅亡し、1453年オスマン帝国により東ローマ帝国が滅亡します。 1922年 に滅亡するまでオスマン帝国はヨーロッパ諸国が東方へ向かう出口を塞いでいたとみることができます。

      
               オスマン帝国の最大領土(1683年)

 

           


ダマスクローズ 58

2020年05月22日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

やっと咲きました。

 

 

この枝が冬から注目してきた枝です。七輪花が付きました。細い枝なので隣の枝の方が花が多くついています。あと3-4日で、花が散る前に枝の根元から切り落とします。名残惜しいなあ。

 

全体はこんな感じです。朝、下を通ると匂ってきます。一年間毎日面倒を見てきた苦労が吹き飛ぶ瞬間です。

 

 

 

  


ダマスクローズ 57

2020年05月22日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

※4シルクロード Achaemenid Persian Empire at its greatest extent, showing the Royal Road.

王の道( Persian Royal Road)はアケメネス朝(BC550 - BC330)にペルシャ帝国の大王ダレイオス1世によって、紀元前5世紀に建造された古代の公道。王都スーサからサルディスに至る(地図中央の茶色の線で示された)道路。交通と通信を容易にするために建設しました。道には宿駅が設けられ、守備隊が置かれていました。

スーサからサルディスまでの 2,699 kmを7日間で旅することができ、歴史家ヘロドトスは、「この公道を利用したペルシャの旅行以上に速い旅は、世界のなかでも他にはない」と記しています。

 

この頃には既にダマスクローズはこの道を通ってローマに入っていたというのです。

  

Central Asia during Roman times, with the first Silk Road

東西にシルクロードが走り、それと直角に交差して南から北に延びてアラル海に注ぎ込んでいるのがアムダリヤ川です。(地図左の、縦に伸びる細い線がそれです)

 

The Silk Road in the 1st century 1世紀頃は海路でローマに入っていたようです。この地図では書かれていませんが、アレキサンドリアを南に(地図上にEthiopiaと書かれているところ)、ナイル川を下って南に、ナイルの低地を船で東へ進路を取りインド洋に出るコースもありました。古来から運河を引く計画が何度も出ては立ち消えになった地域です。

             

  ※5 ダデス峡谷 https://amanaimages.com/info/infoRM.aspx?SearchKey=20062039786 

これら2枚の絵を見ていると、プレニウスがNaturalis Historia の中で『薔薇は湿地よりも乾燥地にあるほうが香り高く、肥えた土地でなくても、粘土質であっても、灌漑されていない土壌でも育ち、瓦礫の荒れた土壌にも好んで生長します。』と述べていたのを思い出します。

                     

※6イスラム国 http://www.jlifeus.com/e-pedia/09.ZZgrass/02.Eurasia/text/01.persia.htm  

700年にはすでにウマイヤ朝がイベリヤ半島の大部分、シシリー、コルシカ、サルディニア島、イタリア半島南部、モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、アラビア半島全域、トルコ西部、アルメニア、アゼルバイジャン、イランの全域を、トルクメニスタンとウズベキスタン、アフガニスタン、パキスタンの一部を領土としています。首都はダマスカスです。

 

 


ダマスクローズ 56

2020年05月20日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

    

                 ※2 ロサ ルゴサ;R. rugose 

絵と文章をWikiから引用させていただきました。

ロサ ルゴサ(R. rugose、ハマナス、玫瑰)は、落葉低木。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料、花はお茶などに、果実はローズヒップとして食用に。東アジアの温帯から冷帯にかけて分布し、日本では北海道に多く、太平洋側は茨城県、日本海側は鳥取県を南限として主に海岸の砂地に自生します。現在では浜に自生するものは少なく、園芸用に品種改良されています。

1 –1.5メートルm の落葉低木で、幹は叢生して茎は枝分かれし、短い軟毛とまっすぐな刺が密生する。葉は奇数羽状複葉で、小葉は通常3対、5枚から9枚つき、葉柄には半ば合着した大きな托葉がある。葉身は楕円形、葉脈に沿って網状に凹みがつき、裏面に凸出しており、葉縁に鋸歯がある。

花期は5 - 8月頃、枝先に1 -3個ほど紅色の5弁花を咲かせ、芳香がある。8 - 10月に結実する。果実(偽果)は扁球形、径は2 – 3 cm で黄赤色、通常は無毛でまれに小さな刺があり、弱い甘みと酸味がある。芳香は乏しい。

花は精油を含み、主な成分はゲラニオールで、その他シトロネロール、ノニルアルデヒド、シトラール、リナロール、フェニルエチルアルコールなどで、これらの精油は、延髄中枢を刺激して血流を促し、血管拡張などの作用があるといわれています。

果実はビタミンC、カロテン、ピロガロール、タンニンを豊富に含んでいます。

花を陰干ししたものは生薬、玫瑰(まいかい)と言い、漢方では6 - 8月に採取して天日乾燥した花蕾は玫瑰花(まいかいか・メイグイファ)と呼ばれます。八重咲きの種の花蕾もハマナスと成分が同じで、同様に取り扱われています。玫瑰花には、鎮静効果、血の流れを良くする作用があり、ストレスによる胃痛や下痢、月経不順に熱湯を注いでお茶にします。民間療法では、矯味、矯臭、抗炎症薬として月経不順、リウマチ、打撲にお茶として服用。完熟前の橙黄色の果実を35度の焼酎に漬け、暑気あたり、低血圧、不眠症、滋養保険、疲労回復、冷え症などに就寝前に盃1杯程度を飲用します。アイヌの間では腎臓の薬として、むくみの解消に根や実を煎じて飲んでいました。

 

R. rugose、R. Fedschenkoana はキンナモメア節(Cinnamomeae) に分類されています。東ヨーロッパから東アジアに至る広い範囲に分布しています。

  

   

             ※3 ロサ フェドチェンコアナ;R. Fedschenkoana 

絵と文章をWikiから引用させていただきました。

中央アジアと中国北西部のアラタウ、天山、パミールアライ山麓が原産地の原種ばら。白の一重咲き。葉は灰緑色で小型。わずかな芳香があります。秋に橙赤色の剛毛が生える細長い実をつけます。落葉性で低木を形成します。枝は多くのとげで覆われ、羽状の葉は淡い灰色がかった緑色で、7〜9枚の葉があり、花は白色、幅は最大5 cmで、夏の数か月間枝の先端に単独または小さな房で生えます。小さな洋ナシ形の剛毛のオレンジと赤の果実がつきます。最近のDNAの研究で、R。fedtschenkoanaがダマスクの親の1つであることが発見されました(他の種はR. moschataとR. gallicaです)。これは、R. fedtschenkoanaが数少ない返り咲きワイルドローズの1つであり、一部のダマスク(秋のダマスク)の繰り返し開花の性質を説明しています。

 

 


ダマスクローズ 55

2020年05月18日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

赤い花がより赤く、白い花がピンクっぽく。その個体に特異な形質が表現されるポイントが遺伝子のどの場所に起因するのか判っている場合、もしくは特異な形質が表現されている個体を比較して原因となっている遺伝子上の場所を探る場合、2つの方法があります。一つは特定のDNA部位を増やして遺伝子の機能を調べる方法です。二つめは特定の遺伝子配列を読む方法です。

一つ目の方法にPolymerase Chain Reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)があります。この方法は今話題のPCR検査法と電気泳動法を組み合わせた方法です。

調べたいDNA部位を抽出し、そこにプライマー(標的DNA領域に相補的なおおよそ20塩基対かそれ以下の長さの短いヌクレオチドの一本鎖DNA。自動合成装置によって自動的に合成できる。) DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)、材料となるヌクレオチドを入れます。

二重らせん構造になっているDNAに90°の熱を加えて熱変成をさせて1本の鎖にします。次に55〜60度に冷やすと、1本鎖のDNAにプライマーが結合します。(相補性を利用しているわけです)

すると、そこを起点としてポリマラーゼの働きで材料となるヌクレオチドに相補性が発揮されて並べられ、1本鎖と対になるDNAが合成されていきます。これを1回おこなうと1本だったDNAが2本に、2回繰り返すと2本だったDNAが4本に、3回繰り返すと4本が8本にという具合に増えて、n回繰り返すと2n 乗個になります。結合させるプライマーをあらかじめ設計することによって必要な部位の、特定箇所のDNA断片だけを作り出せることになります。これがPCR法です。下の絵を見ながらもう一度読むとよくわかります。

ポリメラーゼは火山活動の盛んな原始地球環境(高温,嫌気的,無機的)でも生育できる超好熱菌から得た酵素で耐熱性にすぐれ90℃の熱にも活性を失いません。

 

     

PCR法は、試薬を混交したDNA溶液の温度を上げて下げる、という一連の熱サイクルによって動作します。このDNAサンプルの加熱と冷却の繰り返しサイクルの中で、二本鎖DNAの乖離、プライマーの結合、酵素反応によるDNA合成、という3つの反応が進み、最終的に特定領域のDNA断片が大量に複製されます。

 

アガロース(寒天)やポリアクリルアミドゲルはたんぱく質を分離するのに適当な孔をもつ網目構造になっています。この性質を利用します。上で作ったDNA断片をゲルの中に入れ電気を流します。泳動距離は分子量の大きいものほど流れにくいことを利用します。(PCRによりDNAを増幅し目的の遺伝子を確認するため、制限酵素処理を行った後、電気泳動を実施します。)。電気泳動でその出現パターンを比較して(対象植物が)同じ種であるか否かを識別します。

 

二つ目はDNAシークエンシング (DNA sequencing) です。DNAを構成するヌクレオチドの結合順序(塩基配列)を見るために蛍光標識法を用います。蛍光標識すると、4種類の塩基に対応したそれぞれの波長が異なる蛍光色素で標識することができます。またX線フィルムの代わりに撮像素子を使うことでより迅速・簡便に利用できます。

『R. ×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのか』と言う疑問に答えてくれるヒントのひとつがR. moschataや、R. fedschenkoanaの生息地です。

2017年に表された学術誌;“The Silk Road Hybrids” Robert E. Mattock MSc.。https://purehost.bath.ac.uk/ws/portalfiles/portal/187911419/The_Silk_Road_Hybrids.pdf

に次のような一文があります。要約の部分をご紹介します。

(著作権上、ここから先に引用する絵、図表等はわたしが独自に描いた、撮った、あるいは別の場所から引用したものを掲載することになります。)

 

要約

『 二期咲き(返り咲き)の遺伝子を移入したのは、中央アジアに分布していたR. chinensis ※1とR. rugose※2、それにウズベキスタンに広く分布するR. fedschenkoana※3だけであると思われてきました。

これに代わって、このレポートでは、紀元約3500年前から始まった文化交流の結果、R. ×damascenaに二期咲きの遺伝子が入り、ダマスクローズという園芸上の名前を持った薔薇が、はるか中央アジアのアムダリヤ川流域からローマに、BC300年までに入っていた事実を明らかにしています。

この論文は、DNA分析を2,000例の薔薇におこなった結果、ダマスクローズの親がR.gallica, R. moschata, R.fedchenkoanaであることを突き止めたlwata らの研究を追認する内容になっています。ダマスクローズの親達を地図上にプロットすると互いに重なっていることが最近見直されました。重なりは3つの親間の自然交配種だけではなく、アムダリヤ川流域内に位置しているR.×damascenaの発祥地ともダブっていることを示していました。

古代ローマ人のColumella, Dioscorides, Pliny, Theophrastus, Virgill らがダマスクローズの花びらを使ったローズウォーターの生産地点、日付、プロセスを書き残しています。ダマスクローズとローズウォーターの間には文化の連携があります。中央アジアからペルシャを通ってトルコ、中東からローマへとつづくローズウォーターの生産地を地図上に描くとシルクロードとの関係が証明できます。

2015年、古代ローマ時代のシルクロード※4沿いに位置する野外で、類似の気候をした、乾燥地、厳しい気候、暑い場所を選んで調査が行われ、モロッコのダデス峡谷※5で薔薇の繁殖、栽培を試みることになりました。その結果ローズウォーターは少なくとも4000年以上の間、中央アジア、ペルシャ、中東、地中海地域で宗教儀式に使われていたことを反映する結果を得ることができました。驚くべきことに、ダマスクローズと関連した宗教上の拡がりを持つものはイスラム教が広がる700年※6までは一切その姿を見出すことができませんでした。それよりも古代ローマ人が書き残していたローズウォーターの医用、衛生、消毒、香りとしての利用が広く行き渡っていました。ローズウォーターの薬効性の研究とそれを使っての慢性疾病に対する、治療方は広い範囲で、ローマにあった時と同じように中央アジアに受け継がれていました。

結論を言えば、人間の健康、香りに対する欲求がR.×damasceneに二期咲きの特性を持たせるとともに、BC3500年に中央アジアからBC300年のローマへと生育範囲を広げました。この文化交流にもかかわらず、18世紀までダマスクローズが園芸種として西方に拡散したという証拠がほとんどありませんが、以来、ダマスクローズは二期咲の、大きな花びらをした、香りのよい特性をもって今日の園芸家に愛されています。』

 

  1. ×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのかは議論の尽きないところです。あのイギリスの園芸家Peter Bealesにしても結論の出せない問題であったと思われます。自著CLASSIC ROSESの中で『ダマスクローズはガリカ節と緊密な関係があるとは思うが、他の薔薇との関係を調べれば調べるほど判らなくなる。薔薇の一飼育家としては他の人の言うことに従うか、従おうとするしかない。』と述べています。

Iwataらの論文の内容についても“The Silk Road Hybrids”では触れていますので、これに沿ってお話を続けようと思います。R. ×damascenaはR. chinensis、R. rugose、R. fedschenkoanaとの交雑種であるとする説があります。一方で、R. rugoseの代わりにR. moschata を押す説があります。これにどんな説明で臨もうとするのか、Mattock, Robertが本文内で明らかにしようというのです。

       

            ※1 ロサ キネンシス;Rosa chinensis

絵はhttps://www.gardensonline.com.au/gardenshed/plantfinder/show_3188.aspx から、文章をWikiから引用させていただきました。

ロサ キネンシス(Rosa chinensis, 月季、和名. コウシンバラ、庚申薔薇)貴州省、湖北省、四川省が原産地。高さ1-2mの四季咲きの常緑低木。葉は羽状に3-5枚、長さ2.5-6cm・幅1-3cmの小葉が開く。直径1-2cm の赤い実ができる。中国で栽培され品種改良が加えられた(野生種は一重咲き)。多くの品種改良に重要な品種で、花と実は、生理不順、甲状腺の腫れに効能があるとされ、中国漢方薬として使用される。

                               

 

 


ダマスクローズ 54

2020年05月16日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

※4RAPD ( Randomly amplified polymorphic DNA ; 無作為増幅多型DNA)

PCR (Polymerase Chain Reation) 法と電気泳動法を組み合わせた、遺伝子分析法です。

薔薇のように挿し芽や株分け、自家受粉で繁殖する植物は、他の個体との自然交配の機会が極めて少ないので品種内のDNA塩基配列がほぼ一定で変化しがたい条件がそろっています。DNA分析で種を判断するには好都合の条件が整っているといえます。DNA塩基配列を分析することで植物の表現型(品種内の個体間では相同ですが、品種間では相違がある領域)を検出することが可能になります。

 

その種にとって特異な塩基配列(多型)を示す部位(ローカス)を鋳型(テンプレート)にして、これと相補的な配列を持つDNA断片(プライマー)を増幅させるPCR法では試料と異なるサンプルが混入した場合、プライマーの結合に差が生じランダムプライマーで増幅されるDNA断片のサイズ、数が異なることがあります。アガロースやポリアクリルアミドゲルを使った電気泳動でこの欠点を補うのがRAPD法です。識別性の高いプライマーを使用することが重要になってきます。

 

アガロースやポリアクリルアミドゲルはたんぱく質を分離するのに適当な孔をもつ網目構造になっています。これを利用して分子の大きさに応じて荷電しているDNA核酸分子をゲル内に注入して電気を流します。泳動距離は分子量の大きいものほど流れにくいことを利用します。(PCRによりDNAを増幅し目的の遺伝子を確認するため、制限酵素処理を行った後、電気泳動を実施します。)。電気泳動法でその出現パターンを比較して対象植物が同じ種であるか否かを識別します。

 

※5 DNAの内部転写スペーサーをシーケンシングする

Internal Transcribed Spacer (内部転写領域)は、分類や同定の際利用する領域のことです。短い一本鎖のDNA(プライマー)を使ってPCRで増幅し“内部転写領域”の塩基配列を決定、比較して種を同定することです。

                                    

上の文章は内容が判っている方が読むと、成る程その通りなのですが、始めて読む方にはなかなか取り付きにくい内容かもしれません。幾つかのサイトをつなぎ合わせてできるだけわかりやすくを心がけて作った解説ですが、解説文としてのは賛同は得られ無いかもしれません。

もう少し頭の中を整理しないといけないと思い、ネットを見ていると「家庭教師のトライ:https://www.youtube.com/watch?v=ZVpNtN9f4K0 」で高校生向けの講義をしていました。すごいですねえ。最近はほんとうに難しいことを習っているのですね。もうびっくり!!「これは基礎からやり直さないと。」と心底思いました。

 

そこで次のサイトからもう少しわかりやすい説明を引用させていただきました。(一部分書き足しています)http://www.jfmda.gr.jp/devicekikaku/topix/09/page_02.html

 

DNA分析に関する事柄はこれからのお話を進める上で大切なところなのでしっかりと頭の中に整理しておこうと思います。若い方で必要ない方はスキップしてください。( )の中は飛ばして読んでも大丈夫です。

 

下図は、ヌクレオチドの構造です。

          

                           ヌクレオチド

      https://lifescience-study.com/1-structure-and-properties-of-dna-and-rna/ 

DNA(デオキシリボ核酸 Deoxyribonucleic acid)は、ヌクレオチドの重合体で遺伝子情報を担う物質で、細胞内の核の染色体の中にあります。

ヌクレオチドは、デオキシリボースにリン酸と塩基が付いた構造をしています。塩基にはアデニン(A)、グ アニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の 4 つの種類があり、 A と T、 G とCがそれぞれ水素結合した相補的結合(AにはTが、GにはCが必ず付くという結合)をしており、二重らせん構造を取ってDNAを作ります。

            

           デオキシリボース https://idenwatch.com/seikagaku6-1/ 

 

(五角形の形をしたのが炭素が5つつながったデオキシリボースという糖。

炭素には右側から右回りに1’ から5’ までの番号が付いていて、1’ 番目に塩基が、5’ 番目にリン酸が付いてDNAの基本構成単位であるヌクレオチドが形成されます。)

https://lifescience-study.com/1-structure-and-properties-of-dna-and-rna/

4種類の塩基とリン酸の付いたヌクレオチドが連結して、ヌクレオチドの鎖が形成されます。デオキシリボースの5’位の炭素と3’位の炭素の間をリン酸基がつないで鎖状になります。

(このリン酸を介した結合をリン酸ジエステル結合:ホスホジエステル結合といい、下の図のように、糖とリン酸が交互に連結してポリヌクレオチド鎖の骨格を作っています。塩基は、この糖—リン酸骨格から突き出す形でデオキシリボースとつながっています。)

http://nsgene-lab.jp/dna_structure/basic_structure/ 

(ここで重要なのは、ポリヌクレオチド鎖には方向性があるということで、ポリヌクレオチド鎖が形成されたとき、リン酸基の付いたオキシリボースの5’ 位の炭素が向いている側を5’ 末端、OH基の付いたデオキシリボースの3’ 位の炭素が向いている側を3’ 末端といいます。)

 

遺伝子はDNAが複製されることによって次世代へと受け継がれていますが、どうやって複製するのでしょう。DNAは二重らせん構造となっており、そのらせん(2本鎖)がほどかれ、1本の鎖になったところに相補的な鎖が新たに作られることで複製されます。それができるのは、おさらいになりますが、DNAを構成する核酸にはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基が配列されており、AはTと、GはCとしか結合できない。ほどかれたDNAのAの塩基にはT、Cの塩基にはGがくっつくことで、相補的なDNAが合成されるからです。

 

ここまで押さえておくと後のお話がスムーズに進みます。

 

 


ダマスクローズ 53

2020年05月14日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

”ダマスクローズをさがして” は第二幕目に入ります。今までにもましてダマスクローズに肉薄しようと考えています。ご期待ください。

 

2000年にダマスクローズ(R. ×damascene)のDNAを分析し、そこにRosa gallica, R. moschata、R. fedtschenkoana の三つの遺伝子(Triparental origin of Damask roses)が移入していることをIwataらがGene: X Volume 259, Issues 1–2, 23 December 2000, Pages 53-59.で発表しました。その大筋が次のサイトにありましたのでご紹介しておきます。HikaruIwataaTsuneoKatobSusumuOhnoc (一部分補足してあります) 

 

概要

『ダマスクローズは、オールドローズの1グループであり、1800年代におけるヨーロッパのバラの改良に重要な役割を果たしました。ダマスクローズの起源を明らかにするために、4つの品種を最古のダマスク品種として選択し、分子レベルでダマスク品種とその推定祖先との関係を調べました。RAPD ( Randomly amplified polymorphic DNA ; 無作為増幅多型DNA;ダマスク品種をランダムに増幅した多型DNA ) 分析※4で、それらが共通の祖先から成り立つことを示す同一プロフィールを備えていることを証明しました。薔薇は性的生殖で増えることは決してなく、薔薇の繁殖は種子を経由せずに根、茎でふえるいわゆる栄養繁殖です。

リボソームDNAの内部転写スペーサーをシーケンシング※5することにより、Rosa moschata※1、R. gallica※2、R. fedschenkoana※3の3つのRosa種が4つの最も古いダマスクローズの形成に関与した親種と確認しました。また、psbA-trnHスペーサーシーケンスから判断して、最も古い4つのダマスク品種すべてが、R. moschataのみに由来する葉緑体を持っていることもわかりました。三つの親の特徴は、4つの最古のダマスク品種のいくつかの形態学的特徴である、果物のような形、葉の色、「苔」の特性などを説明しています。』 

 

R.×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのかは議論の尽きないところです。あのイギリスの園芸家Peter Bealesにしても結論の出せない問題であったと思われます。自著CLASSIC ROSESの中で『ダマスクローズはガリカ節と緊密な関係があるとは思うが、他の薔薇との関係を調べれば調べるほど判らなくなる。薔薇の一飼育家としては他の人の言うことに従うか、従おうとするしかない。』と述べています。これからそれを解き明かしていきましょう。

 

その前に、『概要』の中に出てきた4つの薔薇を先にご紹介しておきましょう。以前のブログに出てきた薔薇もありますが、まとめてここに並べておきました。

             

               ※1R. moschata(別名Musk rose)

                          

                   ※3 R. fedschenkoana

     

  1. Fedschenkoanaはインディカ節に属します。上の地図の黄色い部分で、カシミールから東南アジアに至る地域に分布しています。

      

          ※2 R. gallica(別名 R. rubra, French Rose)

       

               R. ×damascena  

CLASSIC ROSESによれば、『R. ×centifolia は R.gallica, R.canina, R. moschata その他の雑種であり、R. damascena も一役買っている。』と述べています。表に現れた表現型(他の植物と区別できる特性)だけで種を特定することは本当に難しいことですし、DNA分析も今ほど詳細な結果が得られるのものではなかったのです。 次回はPCR検査について少し触れることになります。

 

 


ダマスクローズ 52

2020年05月08日 | ダマスクローズをさがして — Ⅰ

次にご紹介する銅版画は、最初見たときは、衝撃でした。

   

   

 Basilius Besler※、 Rosa damascena flore pleno ( from Hortus Eystettensis ) ca. 1640

※ バシリウス・ベスラー( Basilius Besler , 1561-1629、ドイツの薬剤師、植物学者、植物画家)はドイツ, アイヒシュテット ( Eichstätt ) の司教で植物愛好家の, ヨハン・コンラート( Johann Konrad von Gemmingen )が造った庭園の植物を描き、『アイヒシュテット庭園植物誌, Hortus Eystettensis 』の中で銅版画の詳細な植物誌を出版したことで知られています。

 

真ん中の花がダマスクローズです。Rosa Damascena floreと書かれています。いろいろなことを考えさせる絵です。双方に同じ銅板を使ったようです。「何故こんなことが??」 と、この絵を見ていると、今まで経験してきた色々な事柄が頭の中をぐるぐると回ります。古代から中世に書かれてきた植物学、小説、料理書、絵画。その中で現れたダマスクローズらしき「薔薇の花」。あれは矢張りダマスクローズそのものだったようですが、頭の中が整理していないようです。

 

これまでブログで取り上げてきた薔薇に関する内容ではもはや説明ができなくなってきました。中世、及びそれよりも前の記録からダマスクローズをさがすことに限界がきたようです。もう少し詳しくお話しすると、ダマスクローズをヨーロッパ世界の中から眺めてもこれ以上の情報は期待できないのではという思いです。

これまで得られた知識をまとめると、ダマスクローズはおそらくギリシャ以東の地域で生まれ、ヨーロッパに。それとは別に西の方向へも運ばれたようです。西の方角にはペルシャが、インドが、中国が、ヨーロッパよりもはるかに文明の高い国々がひかえています。不思議な力を秘めた薔薇の花がこれらの国々に注目されなかったとは考えられません。最後にお見せしたイスラム発の医学書;タキュイナムサニタティスには、ダマスクローズと一緒にローズウォーターを作るグラスの容れものが描かれています。ヨーロッパ以東の国々で今も宗教行事に、化粧品、医薬品、飲食物に使われています。このあたりに次につながるヒントがありそうです。大きな広い視野で眺めなければ全体像が把握できないようです。

 

次回からは、21世紀の視点から、東方に目を向けた“ダマスクローズさがし”を試みようと思います。どのような ”ダマスクローズ” が見えてくるのか、楽しみにしていてください。(先にさんざん申し上げていた学名ですが、これから先は立体で書かせていただこうと思っています。)  

 

      


ダマスクローズ 51

2020年05月06日 | ダマスクローズをさがして — Ⅰ

ダマスクローズはタキュイナムサニタティスの”薔薇“としての題材だけではなく、その他のところ

でも顔を出します。   

       

Women taking roses to make rose water with its petals. 14th century. Folio 93r.  1300年頃に描かれたAqua rosata ( 薔薇水 )。

 

                

        Vienna, ONB, sn.2644, folio 55 verso.から ウィーン出版。“春”が題材です。

赤い薔薇の花と、白い薔薇の花、その上には鳥が。「薔薇物語」の中の一場面かと思えるような絵です。

      

この絵も同じTacuinum Sanitatis( 健康全書Wien,er.nov.2044 um1390 )からの引用ですが、題材はGaudia (喜び) となっています。恋人との逢瀬の場を描いたのでしょうか、後ろにはダマスクローズが咲き誇っています。「薔薇物語」の時と同じように上の方には鳥が描かれています。空を飛ぶ「鳥」は、天、すなわち神の身近に住み、カスミを食べて生きている尊い存在なのです。ウィーンが出版元です。

 

 


ダマスクローズ 50

2020年05月04日 | ダマスクローズをさがして — Ⅰ

1300年代に戻ってそこに描かれたダマスクローズをご紹介しましょう。

               

       .Tacuinum Sanitatis ※1  Roxe / Roses 1370–90  MS 1041 f64r. of the Liège University 

リエージュのタキュイナムサニタティスは珍しいと思い保管状態は少し悪いですが、引用させていただきました。絵の下部に書かれている内容も他の地域とは少し異なりますのでご紹介しておきます。

薔薇;性質;寒の一度、乾の三度。新鮮な時が一番香りがよい。効果;感情の高ぶり。樟脳を一緒に摂ると効果がある。

       

              Vienna, Austrian National Library, Cod. ser. nov. 2644. ca.1390

ウィーンで出版された薔薇の絵です。ルーアン、パリとヨーロッパ各地で出版されましたが、ウィーンのものが一番出来がいいようです。     

 

絵の下には;

『ダマスクローズは、寒の1度、乾の3度の性質を持ち、Suri※2と Persia産が最高品です。性質は秋の乾いた少し寒い時期に相当します。脳炎に効果がありますが、ある人には無気力、胸を締め付けられる感じを起させます。あるいは臭覚をなくさせます。春の気質を持った高い身分の若い貴族に相応しいものです。』とあります。ダマスクローズは料理だけでなく貴人の精神的不安を和らげる目的にも使われていたようです。

(貴人には薬となるがそれ以外の者が摂ると毒になるという、身分制度確立の手段としても使われていたようです。健康全書の基となった四元素説についての説明は別の機会に譲ることにします。)

 

※1 Tacuinum Sanitatis(健康全書、健康と幸福について書かれた中世の養生訓。)

アラブ人のIbn Butlân (イブン・ブトラーン; ca.1001 - 1066、イラクのネストリウス派キリスト教徒の医者)が、バグダッドで学んだ医学をまとめた書物 (Taqwim al‑sihha ) をもとにした写本です。アラビア語の写本と、図版のないラテン語に翻訳された写本が確認されています。少なくとも1266年にまで遡ることができますが、誰が翻訳したのか不明です。ヒポクラテスの流れを汲むイスラム医学と中世ヨーロッパのミニアチュールが融合してできたのが「健康全書」です。

 

※2 Suri (下記の文面、写真は後述のアドレスから引用させていただきました。)

Suri(サーリー)はイラン北部、カスピ海南岸に位置する都市です。ペルシャ語の“赤い”、“赤い薔薇”の意味を持ちます。赤い色のダマスクローズ、ローザダマスセナを指し、イランではゴル・エ・モハマディ(Gol-e-Mohammadi)と呼ばれています。流通名はRosa damascena Mill(RDM)です。この花はイランが起源で、そこでは単に“薔薇”と呼ばれていたようです。イランがイスラム世界の一部となった後、アラブの侵略者達が薔薇に関心を寄せ、シリア ( in Persian: Suri-eh ) のダマスカスにある庭園に持ち帰ったと推測されています。その後ヨーロッパ人がそれをローザダマスセナ、サーリーと呼びました。健康全書の説明文の中にその名が残されています。

      

             Suri, Persian Rose AKA Gol-e-Mohammadi firstly originated in Iran           

https://iranian.com/2006/04/21/suri-the-persian-rose/ 

https://twitter.com/mustseeiran/status/467690827675090944 

 

ダマスクローズとダマスクローズの収穫、加工が紹介されています。  

 

 


ダマスクローズ 49

2020年05月02日 | ダマスクローズをさがして — Ⅰ

1445年以降は優れた印刷技術と木版画によって植物誌が盛んに出版されます。ダマスクローズはどのように描かれているのでしょうか。ジェラードとパーキンソンの植物誌には次のような絵が描かれています。

                     

1 Damask Rose. 2 Great Province Rose. 3 Franckford Rose. 4 Dwarfe Red Rose. 5 Hungrian Rose 6 Great Double Yellow Rose.

左はジョン・パーキンソンがParadisi in Sole, ( Pardisus Terrestris 1692) の中で描いたダマスクローズ、右はジェラードがGerard’s Herball (1597) の中で描いたダマスクローズです。白い花が見当たりませんが、ジェラードはダマスクローズを“棘のある枝に白い薔薇のような姿をしており香りのよい淡赤色の花を付ける。料理と薬用に適している。”と述べています。

同時代の植物学者ニコラス・カルペッパーアはコムプリートハーバル ( Complete Herbal ;1653 ) の中で “ダマスクローズは白い薔薇の花としては背が高くもなく、大きくもないが、赤い薔薇としては背が高く、大きく、茎には棘がある。葉にはたくさんの毛が生えている。花はプロヴァンスローズほど八重ではない。色は淡赤色でよい香りがする。フランス原産で庭に普通に見られる種であり、花は6-7月に咲く。” と述べています。

  

                   Red Rose                     Dog Rose                         Damask Rose

上はカルペッパーが描かせたダマスクローズです。1500-1600年代にはダマスクローズは濃いピンク色の花に描かれています。白と赤い花をつけたダマスクローズは1500年以降の植物誌の中には存在しないようです。